きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.3.12 湯河原町・幕山公園 |
2008.4.1(火)
今日は晴れましたが、それでもやっぱり終日読書。
4月12日に行われる日本詩人クラブ3賞贈呈式の出欠葉書が戻り始めて、本日現在の出席予定者は85名。なんとか100名を超してほしいものだなと思っています。
○詩誌『交野が原』64号 |
2008.5.1
大阪府交野市 金堀則夫氏発行 非売品 |
<目次>
《詩》
新世界/高階杞一 1 二月/新井豊美 4
屋上から/平林敏彦 6 木を見る物語 U/田中国男 8
未済/渡辺めぐみ 10 植樹記/北原千代 12
樹木人−空の遺蹟/溝口 章 14 一人分/曽根ヨシ 16
妖怪のように/青木はるみ 18 見られるもの/島田陽子 19
太陽/一色真理 20 自然光/岩佐なを 22
笑む/北岡淳子 24 侵入してくる日/小長谷清実 26
戸/杉本真維子 28 わたしはいま、何ページ目にいるんだろう/相沢正一郎 30
貝塚/佐川亜紀 32 土/金堀則夫 34
白い月の輪熊/藤田晴央 36 虎落笛/望月昶孝 38
湯治場の話/瀬崎 祐 40 詩二編 歩道橋で 嘘をつく子ども/松岡政則 42
祈ぐまなこの そんな朝に/原田道子 44 湖/川上明日夫 46
琥珀祭/海埜今日子 48 ひとっこひとり/森 哲哉 50
財産贈与/宮内憲夫 51 お酒の呑み方/大橋政人 52
2008年1月27日 〆切/片岡直子 54 秀一郎さんのこと/美濃千鶴 56
もうひとつの 命/田中眞由美 58 ブリキの時代/望月苑巳 60
世界がもう一つ/岡島弘子 62 メール婚/古賀博文 64
菊蛙/新井高子 66
《評論・エッセイ》
■小池昌代の「詩小説」小論/山田兼士 68 ■シチリアの春と夏の図像学−新井豊美の『シチリア幻想行』から−/岡本勝人 70
■八木重吉……不安なる外景/寺田 操 76 ◇極私的詩界紀行1/冨上芳秀 102
《郷土エッセイ》
◇「郷土かるた」に想いを馳せて/栃本陽子104 ◇かるたウォーク『たわらを歩く(3)』/金堀則夫 106
《書評》
杉本真維子詩集『袖口の動物』思潮社/高見弘也 80
溝口 章詩集『流転/独一』土曜美術社出版販売/武士俣勝司 82
岡本勝人詩集『都市の詩学』思潮社/中本道代 84
川上明日夫詩集『雨師』思潮社/紫 圭子 86
中塚鞠子詩集『約束の地』思潮社/彦坂美喜子 88
三井喬子詩集『紅の小箱』思潮社/中塚鞠子 90
杉谷昭人詩集『霊山』鉱脈社/亀澤克憲 92
中原道夫詩集『人指し指』土曜美術社出版販売/硲 杏子 94
寺田美由記詩集『CONTACT 関係』思潮社/苗村吉昭 96
木澤 豊詩集『幻歌』草原詩社/平居 謙 98
中村不二夫詩集『コラール』土曜美術社出版販売/樫村 高 100
編集後記 108
《表紙デザイン・大薮直美》
土/金堀則夫
畝ができた
細い鉄の棒を突きさすと
固い地層にあたる 力をふりしぼっで
そこを突きぬかねば
わたしの位置が定まらない
定まらないので
ぐらつく棒の先を 両手で握る
額を当てて 繋がるのか
棒を握ったまま
わたしは まわりはじめた
目を瞑ってまわれ まわれ ぐるぐるまわれ
わたしは
どこかへ飛んでいく
鉄の棒とともに
それは大空か 山の頂か それとも
地層にひきこまれていくのか
どんどんまわれ
耕してきた畝の土は
親父たちの土で
稲がたっていた
稲のそこは
深い計り知れない粘土層
炉が わたしとつながっていく
まわれ まわれ 土が深まるように
わたしの棒は 鍬をつくる釜土 ヒの魂が
無音に響く
隕石は
確かに落ちたのだ
それは 確かなのだ
わたしは
そこへ飛んできた 飛んできて
手を離す鉄の棒から 走らねばならない
次のものへ わたしの子孫へ・・・
子はどこにいる
ふらつきながら 眩む 足取り
乱した畝を立て直し 種も蒔かず
鉄の棒を突きさし
わたしは土となる
「親父たちの土」を譲り受けて「畝ができた」ものの、「わたしは/どこかへ飛んでいく/鉄の棒とともに」。土地は確かなもののように思われていますが、ここでは受け継いだものを「次のものへ わたしの子孫へ・・・」へ受け渡す対象として捉えているようです。そして受け継ぎ、受け渡したあと「わたしは土となる」。「隕石は/確かに落ちたのだ/それは 確かなのだ」というフレーズは、その土地の特徴を謂っているように思います。作者の居住する地は星田と言うようですが、隕石落下と関係があるのかもしれません。土地に関する珍しくもおもしろい作品だと感じました。
○詩誌『二行詩』24号 |
2008.3.25 埼玉県所沢市 伊藤雄一郎氏連絡先 非売品 |
<目次>
乾きの街/布谷 裕 哲学する二行詩(1)/伊藤雄一郎
哲学する二行詩(2)/伊藤雄一郎
稼ぎ/木秋尾
立入るべからず 他/小島ノブヨシ 春五景/植木肖太郎
春 他/小林妙子 訪れ/渡辺 洋
病歴/佐藤暁美 門馬さん 他/根本昌幸
「木陰」集/吉田健治・濱條智里・永野健二
先人の二行詩を訪ねて/伊藤雄一郎
お便りコーナー
あとがき
小林妙子
春
花屋さんの店先
鉢花が「名前」をつけて匂っている
響
信号が青に変わって
横断歩道(ゼブラゾーン)を行く靴靴靴
静
花に飾られて立ち上がる花瓶
その中の動かない水
席
人と人の間で眠る
砂糖壷にささった匙のように
葉
覚悟のできたものから落ちていく
落ちて大地を教えている
二行詩は屹立さが生命であると、ようやく分かってきたように思うのですが、紹介した作品は全てに屹立さが備わっていると感じます。「春」の「『名前』をつけて匂っている」「鉢花」、「響」の「靴靴靴」、「静」の「動かない水」、そして「席」の「砂糖壷にささった匙のよう」な眠り、さらには「葉」の「落ちて大地を教えている」姿には、いずれも具体的なイメージが浮かんできます。その上で言葉が新鮮に立ち向かってくると言えるでしょう。二行詩の良さの典型のような作品群だと思いました。
○詩歌文藝誌『ガニメデ』42號 |
2008.4.1 東京都練馬区 銅林社発行 2000円+税 |
<目次>
巻頭翻訳 夢における行動指針 ヴィタリイ・カリピージ たなかあきみつ訳 4
小句集 第二回 手がひらく 鴇田智哉 詠下し一〇〇句 15
翻訳連載詩 バガテル ジョン・ギルグッドヘ イーディス・シイットウェル 藤本真理子訳 28
エッセイT 法橋 登 戦陣訓とハーグ条約 32
エッセイU 小笠原鳥類 動物、博物誌、詩――安水稔和の、隠れているが確実に存在する動物 36
句作品T 高岡修 透死図法 46
詩作品T
小林弘明 旅の絵 52 森 和枝 依代 55
浜江順子 盲目の木 58 鈴木 孝 単細胞が蠢く街がある 61
海埜今日子 よあけのばんの木 64 吉野令子 ふゆのーと 深く生きるために 67
松本一哉 ほていあおい(東南アジア記3) 70 久保寺亨 「白状/断片」V 75
丸山勝久 亡国 養豚場 風景 80 進 一男 かつて光があった 85
くらもちさぶろう ちず その ほか 90 飽浦 敏 アンガマ 103
山田隆昭 くゎいだん 108
里中智沙 道網 〜かげろふ日記より 115
山路豊子 祈り 126
相良蒼生夫 斜光陰翳 137
短歌作品
鳴海 宥 θ 144
林 和清 夜を見る人 147
沼谷香澄 もののななどは 152
川田茂 水 156
森井マスミ 『河内十人斬り/告白』――Imayo
Kumeuta Re-Mix 161
田中浩一 百物語(其の一) 170 和泉てる子 「ひと夜の雪」 174
小塩卓哉 台湾紀行 180
歌壇時評 小塩卓哉 国民の詩器 184
詩壇時評 片野晃司 「ひとりひとりの世界」の中心で、以下省略 192
詩作品U
藤本真理子 おやすみ――故中島みちるさんへ 199
佐伯多美子 睡眠の軌跡 204
野村喜和夫 ルリ大街道 213
篠崎勝己 声の向かうところに 私たちは在ろうとするのだろうか 220
平塚景堂 ホテル・インペリアル 223 渡辺めぐみ 白を 白を 白を 228
平野光子 恐怖 他一篇 233 小笠原鳥類 鹿(彫刻) 240
片野晃司 供犠 244
山本美代子 二月 248
中原宏子 草上の家棺 250
川井豊子 連詩 眠る女5 254
岡本勝人 わたしは詩をかいていた 260
望月遊馬 「河原で育児」他二篇 266
梢るり子 「つぶやき」他三篇 272 吉田博哉 壁男 他一篇 284
松下のりを 執着 288
紫 圭子 舟うた 290
原田勇男 生きるための場所 298
山岸哲夫 帰郷 その他四編 307
仲嶺眞武 四行連詩「大いなる目」316 中神英子 月光 330
句作品U 武田 肇 非天 Asura 338
編輯後記 348
斜光陰翳/相良蒼生夫
電光はあからさまに
建物の内面に大硝子と飾りの幕 絵画など
空間にひとの好奇と期待の
スクリーンを設(しつら)え 何がしか
秒を刻む隙間につぎのひとコマ
未明に差す明りを連続させている
幻惑は不安を癒して
不連続な日常の動揺を抑えている
直射の光はレントゲンの無遠慮さで
肋を写し 大切にしまっていた臓器の片隅の
少しばかり わだかまる傷(いた)み
空洞にひびく心音のむなしさと
廃(すた)れた意識に付いたインクの染みまで
透視して 全く腐臭さえなくした乾きだ
脳野の果てに来てなお 光を求めるひとに
死を遠ざけすぎた思索の悲痛が聞える
林立するビル群 集まる熱量の鋭い切片は
大硝子にしたたる太陽の光の
慈しみを裂き 壊れた粒子が流れ落ちる
灼熱のこの頃 光は愛おしさの全てを焼く企み
森林火災 砂漠化 真水の涸渇と
種の絶滅へ極北の絶叫 氷塊に縋(すが)る命が溶ける
陸棲のものが望郷の海を見る 油膜の厚さに
暗く黙して 杭を打つ者に貝殻だらけの波が寄る
刹那の光にひとの永続を託して
それが煌々と輝き 終末期の物語を
焚きすてる業火であろうために
化石生物の火を 原子の火を熾(おこ)し
都市伝説を刻む形象図絵のつながりに
宇宙は火星移住という戦略家の船でいっぱいだ
夜空を剥がれ堕ちた海星(ひとで)に海坊主の哀れを知る
ひと情動の生き物が干され 乾物産が商(あきな)う
海鳴りに おぼろなもの達の呻きが混り
浜風は生死の狭間を振るわせ ひょう ひゅう
声が象(かたち)を創るまえ ひとの思念にゆらめき
透けたぬるぬるの液滴が 海月(くらげ)のさまで
漂う波間に陽は容赦なく降り いつしか魚は
海神(わたつみ)の示す魚座へ 同色の青を頼り泳ぎ入る
鰭が翼に進化する希い 真面目な魚のおかしさ
海に杭を重ね神域に都市の不朽を拝むひとの一途さ
垂直に光は降り 隠れどころのない都市では
言葉は乾き 黒曜石の切先でひとを襲う
鉱物片を含む風を吸い 吐き出す発声は
ガラス面をすべり はね返り自らを刺し
血の光沢をうす笑うかなしさ ひとを撃つ
酷薄な言葉の兇弾に汚れた心は 窓に付いた染み
昨日 流しすぎたメール 愛という告白の文字は
今日は古びた言葉の岩盤 幾層も愛のしかばね
側溝に溜まる使い捨てた言葉は
ふくよかな語彙(い)も潤(うるお)いの響きも失くして
パソコンが打ち出す大量の文字 字面(づら)の悪さ
情報過多 書きなぐりの紙の堆(うずたか)い処分
ひとの浅く軽い思考が燃える この熱射
熱体の膨らみに狂喜し その行方を明日と呼ぶ
顧(かえり)みず通りすぎ廃棄したもの 性急な日々に
木下闇 谷間 露地 蠢く虫らを何処へ忘れた
日光に背伸びする建物は高さを競い
運河は暗渠に流れて 何が悪いか囚われの水は
雨水も集めて 行先は消されている
電光の下に 危なかしい湿りは追放され
乾いた音の日常に 鈍(にび)色を尋ねるすべもない
ドライアイ 砂に埋まる視野に逃げ水の虚(うつ)ろ
深紫のころ ひとのこころに住まう情念の
おとろし お化けらはどこに隠れた
水沢では河童が 山里では狐狸か 堤燈(ちょうちん)お化けも
座敷童子(わらし) 一ツ目小僧 釜や臼(うす)まで化けて
ものの哀れを知るひとの優しさ
物 道具にいのちを与え 八百万もの神がいた
ゆらめく薄明り 障子にうつる影のいのち
豊かな心象は入道 女人 童子へ移ろう刻の愛しさ
ピラミッドに差す陽は三角錐の
斜面を滑り 内面の段々に沁み
玄室の骸を透し 深遠まで
魂の造化 万華に織りなす極光
影と翳の重なるかすかな象に 未生のいのち
祈りは北に輝く星の陰翳に のぞみはその炎(ほむら)の意(こころ)に
夜空の深くに わだかまる墨色の実体を
胸に溜め未だ形なく さ迷うかたちに
星達の好む星団の位置 その意味を聞きたい
瞬く星の曲折した斜めの明り その思い
新星は起伏に富む 陰翳を伴い現れた
天体を馳け抜ける化生 実在とはそのようなもの
まさに斜めに差す光によって陰影を与えられた世界を表出させた作品だと思います。その斜光は「レントゲンの無遠慮さで/肋を写し 大切にしまっていた臓器の片隅の/少しばかり わだかまる傷み」を曝け出し、「森林火災 砂漠化 真水の涸渇と/種の絶滅へ極北の絶叫 氷塊に縋る命」までも溶かしてしまいます。そして「ひとの浅く軽い思考」を燃やし、「魂の造化 万華に織りなす極光」となっています。この作品は最終的に「新星は起伏に富む 陰翳を伴い現れ」、「天体を馳け抜ける化生 実在とはそのようなもの」と締めていますが、この宇宙的な視野には驚かされます。壮大なスケールで、しかも深遠な作品だと思いました。
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