きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.3.12 湯河原町・幕山公園




2008.4.2(水)


 夕方から日比谷・松本楼に行ってきました。高村光太郎談話会が主催する第52回連翹忌への参加です。日本ペンクラブ電子文藝館に高村光太郎作品を掲載しようということになっていまして、今のところ私が担当するようですので、いろいろ調査しています。調査のポイントはただ一点、あれほどの芸術家が何故やすやすと戦争讃美に傾いたかへの興味です。現代の世相と重ね合わせて高村光太郎詩を紹介できればなと思っています。

 まだまだ調査不足ですが、それなりに判ってきたこともあります。そんなところへ連翹忌の誘いがありましたから、勇んで出席したという次第です。私の興味を満足させるような講演でもあるのかと期待したのですが、残念ながらそれはありませんでした。もう52回もやっていますから、すでにそんなところは済んでいるのかもしれません。しかし、光太郎研究の第一人者・北川太一氏を紹介され、最近の光太郎研究に触れた挨拶を拝聴することができました。書物ではなく、生身の研究者と出会えた意味は大きいと思います。

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 松本楼の2階を貸し切って、70人ほどが参加して満席でした。会はアトラクションと関係者の挨拶という構成で、写真は光太郎の「十和田湖畔の裸像に与ふ」「亡き人へ」「もしも智恵子が」を歌うモンデン・モモさんとギターの藤井秀亮さん。スピーカーがあまり良くなく、ちょっともったいなかったなと思いました。

 そんなわけで、期待外れの面もありましたけど、前出・北川先生のほかに草野心平記念文学館の学芸員を紹介してもらえたことも収穫でした。心平文学館は一度は行きたいと思っていて、まだ訪問できていない処です。これで弾みがつきました。なるべく早めに訪れたいと思っています。そんな収穫を得、すべて光太郎、光太郎、光太郎と、光太郎オンパレードを最後まで楽しみました。談話会の皆さん、ありがとうございました。



二人誌『すぴんくす』5号
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2008.3.20 東京都板橋区 海埜今日子氏発行
250円

<目次>
寄稿 判明なるもの 小林弘明…2
せぼねきこう/みずのね、 海埜今日子…6
マイナス1の思考 佐伯多美子…12
Bastet's Room



 マイナス1の思考/佐伯多美子

いま 在る位置
を、思考する。
限りなくしろい空白
足元は しろい闇でぬけおちている
ぼんやりとした しろい影がおちる
在る輪郭がぼやけ
ぼやけた塊が 在る。

ぼやけた塊は
動かない。で、在る。
ある 重さをもって

重量を計ると
その ぼやけた塊は
-1g

マイナスをもつその重量は
確かに重さをもち
在る。
しろい空中に 在る。

マイナスをもつ ぼやけた塊は
立っている。
崩れおちもせず 立っている。
足元は しろい闇にぬけおちてはいるが
確かに立っている。

空中は
凄い勢いで回っている。
渦を巻いて
マッハ1の速度のまま回っている。

すでに実体は見え、ない。
無い。
だが、
在る。
だが、
無い。
だが、
…。

マイナスに位置する実体は
背骨にながれつづける冷水の感覚。

感覚を体現する と いう
やはり、
在る。
やはり、
無い。
…。

空中が回りつづけながらも
-1gの
ぼやけた塊は 位置として
動かないで
そこに、在る。

 「-1g」という「マイナスをもつその重量は」、「在る」のか「無い」のか。物理的にはどうなのか判りませんが、おもしろい発想だと思います。数学的にマイナスは確立した考え方ですけど、物理的な「-1g」は絶対値では説明が難しいのではないでしょうか。相対的なマイナスは当然あります。しかし、ここでは絶対値としての「-1g」を提示していると捉えるべきでしょう。科学者にはちょっと無理な、詩人ならではの発想だと思いました。



詩誌『カラ』7号
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2008.3.1 東京都国立市 松原牧子氏発行 400円

<目次>
 I WERE A BELL/鷹山いずみ      メール/石関善治郎
Astrochicken/鳴海 宥          (余白のための)白いことば/佐伯多美子
影/松原牧子                環状列島奈辺国〈プリンキパル・ホリデイ〉/外山功雄
題字・絵 支倉隆子



 影/松原牧子

  1

何に乗ってきたのか、もうわからない。電車だったような気もす
るが、こんなところまで線路があるものだろうか。とにかく、止
まった。降りると駅があった。白砂。駅の天井はなく、白い紗、
薄く透ける布、屋根のかわりにひらめいている。いや、駅、とい
えるかどうか。田舎の、日に三本しか来ないバス停のような。そ
して一面の白砂、砂利。太陽。反射する光。まぶしくて、まぶし
くて。白い紗、薄い布を頭、顔に巻きつける。歩く?どこへ。駅
を過ぎて少しくぼんで、道のような、そこを歩けといわんばかり
に。胸が苦しいこの真夏の真昼のまっしろな砂漠。歩き出すのは
いやだ、歩き出すのはいやだ。遠く、地平線に向かう影。人がい
る。歩いている。あそこまで。

  2

気がつくと目の前にくろい影 塊 迫って
避けたつもりが真っ向からぶつかった
いや ぶつかった らしい
記憶がない
何でも来い
真正面から行くんだあ
空に向かって宣言し
ブルトーザー
になったつもりが
あっけなく潰れた
ない記億の中では
大丈夫です
とか、気丈に言ったらしいが
まったく、大丈夫ではなかった
もうすぐ咲く 桜の木のそばだった

 白昼夢と言うにはリアルな作品だと思います。「くろい影」は何を意味するのか気になるところですが、とりあえず潜在意識として考えてみました。日頃は控えめに過ごしているつもりでも「記憶がない」状態では、「何でも来い/真正面から行くんだあ」と言ってしまうところが潜在意識なのかなと思います。私などは酔うといつもそういう状態になりますけどね(^^; ここでは「影」に怯えているように見えないところもおもしろいと感じました。



個人詩誌PoToRi9号
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2008.3.31 和歌山県岩出市
ランニング社・武西良和氏発行 300円

<目次>
表紙のデザイン・特集について 1
詩作品
汗 2        滝 3        氷 4
ペットボトル 5   千手川 6      雨 7
露 8        氷2 9       水たまり 9
雨の記憶 10     牛乳 11       夕暮れの川 12
ポトリの本棚 13
ポトリ・エッセイ 14
受贈詩集・詩誌等 15



 

ゆったりと
流れていた透明が

の所に来て
白い
悲鳴を上げる

それは悲しさではなく
驚きの色
白い悲鳴はしばらくは悲鳴のまま
大きな石の間に
落ちていく悲鳴は
次第に
冷静さを取り戻す

悲鳴はいつまでも
那智の
原始の森に
木霊している

悲鳴は
次々と落ちてくる悲鳴に押されて
上に上れない
悲鳴は悲鳴を
どんどん落としていく
滝壺のなかへ

 特集「水」の中の作品です。滝が落ちる瞬間を「白い/悲鳴を上げる」と表現したのは見事だと思います。しかも「それは悲しさではなく/驚きの色」としたところも秀逸ですね。一度だけ見たことのある「那智」の滝の壮大さ想い出しています。最終連の「悲鳴は悲鳴を/どんどん落としていく/滝壺のなかへ」というフレーズも見事に決まりました。特集「水」の中では一番の作品だと思いました。




   
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