きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.3.12 湯河原町・幕山公園




2008.4.5(土)


 午後から新宿・天神町の日本詩人クラブ事務所で作品研究会が開かれました。オンラインではなく、実際に原稿を読み合っての、いわばオフライン研究会です。提出された作品は8編ですが、2編の作者は来なかったので、残り6編を集中的にやりました。一人30分近くを使って、じっくりと…。かなり踏み込んだ議論ができたと思います。講師は私を含めて3人。講師の解釈の違いも出て、その面でもおもしろかったです。

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 参加者は14人。懇親会には10人も参加してくれて、こちらも研究会以上に盛り上がりました。オンラインは海外居住者や遠隔地の人も参加できるというメリットがありますが、狭い事務所で膝突き合わせて議論するのも、やはり良いものです。何より、そのあと呑めるというのが私を虜にしています(^^;



月刊詩誌『歴程』549号
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2008.3.31 静岡県熱海市
歴程社・新藤涼子氏発行  500円

<目次>

invisible line・過ぎゆく春雨/是永 駿 2
矢/池井昌樹 5
五厘沢/安水稔和 6
ディア・ハンター/伊武トーマ 8
くり返されるオレンジという出来事(空)/詩と写真 芦田みゆき 12
言葉と皺と/日高てる 14
エッセイ 日本の反逆思想/酒井蜜男 17
後記
絵 岩佐なを



 過ぎゆく春雨/是永 駿

雨が過ぎゆくのは
一幅の絵の中の
温雅なたたずまいの山間
(やまあい)
山林を潤す細い雨の
もやう山間にこざっぱりとした四阿
(あずまや)
雨は山上から裾野へと
林を濡らして降り下り
小川にかかる小さな橋を
霧雨の中にとじこめ
絵を前にして佇む
観る者の肩を濡らして
通り過ぎる
雨に誘われて四阿の中へ歩み入り
霧雨を透かして遠き日を思いやる
人知れず
かすかに手を振って別れのしるしとした
あのしなやかな指はありやなしや
哀しみを潤す
あの微笑は
(ほほえみ)ありやなしや

 「一幅の絵の中」に同化するという詩ですが、実際にその絵を観ているような錯覚に捉われるほど、描写力に優れた作品だと思います。そして後半では「人知れず/かすかに手を振って別れのしるしとした」と、ただの鑑賞ではなく生身の人間の世界へと、絵を逆に同化させているように思います。絵の鑑賞という面でもおもしろい作品だと感じました。



文芸誌『ノア』15号
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2008.4.30 千葉県山武郡大網白里町
ノア出版・伊藤ふみ氏発行 500円

<目次>

幽界の街…筧 槇二 2           広っぱ…右近 稜 3
流星を見た…よしかわつねこ 4       魂 喰らい…よしかわつねこ 5
秋の午後…北村愛子 6           川の向こう…小倉勢以 7
手相…大沢直江 8             わたしの名前呼んで…田中眞由美 9
月と田んぼ…伊藤ふみ 10
エッセイ 外来文化の中で…馬場ゆき緒 12  創作 泣き女・萩江…川村慶子 14
エッセイ ごまかして人生…保坂登志子 16  童話 のねずみグッズ いのちの空へ…光丘真理 18
エッセイ
散歩チャンネル…高島清子 25        人形の中に見えるもの…遊佐礼子 26
大国・アメリか…菅野眞砂 29
紀行文 私のアブロード(スワネージ2)…森 ケイ 30
短歌 夢のタンゴ…細川としこ 35
童話 森のシャツ屋…伊藤ふみ 36      エッセイ 「ベルローザ」…青木久生 39
編集後記 40



 月と田んぼ/伊藤ふみ

ホタルを飛ばせなくなった田んぼは
ちょっとさみしそうに
ちょっと情けなさそうに
ちょっと申し訳なさそうに
タニシやドジョウを棲まわせ
小魚を泳がせ
帳尻あわせをしてみせる

畦道は賑やかなお囃子
雑草も花でよそおい
はびこって蔓延って
風に吹かれ雨に打たれ
陽に攻められ刈られ
死んだふりして
アカンベェーをする

早苗は水を手に踊り出す
水面
(みなも)は空や風景を取り込んで
どうだ どうだ と今年の作品を展示
どうぞ見てやって下さい
この一瞬を映画のように撮っているのですから

蛙のお経は長かった
たくさんのゲェコが生まれ 死んだから
秋の田のマジシャンは
ポッケに手をつっこんで鳴き虫を披露
すかんぴーの月がみてる

虫の音楽会のチケットを買ったススキ
痩せても枯れても なお粋な美しさ
今宵は月とランデブー

銀色に研がれた月は ますます尖り
小さな孤独をふくらます
田んぼは身をちぢめ
白い息を吐きながら氷の窓ガラスを磨く

田の端で 蕗の薹が爪先立った
ああ と月と田んぼが時計をみた

 田んぼの1年、とでも呼びたくなる作品です。田んぼが「帳尻あわせをしてみせ」たり、畦道が「アカンベェーを」したり、擬人化がおもしろい作品です。「水を手に踊り出す」早苗、「蛙のお経」、「すかんぴーの月」、「身をちぢめ」る田んぼなども佳いですね。最終連の「月と田んぼが時計をみた」という詩語はちょっと意味が採れないところですが、1年間の時計を見た、という意味でしょうか。それはそれとしても子どもたちに聞かせたい作品だと思いました。



詩誌『よこはま野火』54号
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2008.4.10 横浜市保土ヶ谷区  500円
森下久枝氏方・よこはま野火の会発行

<目次>
川を/馬場晴世 4             小さな時計店で/疋田 澄 6
新しい年の朝に/進藤いつ子 8       雪割草/菅野眞砂 10
風景/はんだゆきこ 12           夢の中で/加藤弘子 14
東寺の塔/宮内すま子 16          命/浜田昌子 18
窓/松岡孝治 20              冬枯れの庭に/阪井弘子 22
エビアン/唐澤瑞穂 24           桜花散る日/真島泰子 26
鎮守の森で/森下久枝 28
 * *
詩集評「お雛さまへ」(進藤いつ子) 木村 和 30
   「いなくなったライオン」(馬場時世) 絹川早苗 31
よこはま野火の会近況 編集後記 32
表紙画 若山 憲



 小さな時計店で/疋田 澄

通りすがりに入った時計店では
こぢんまりとした店いっぱいに時計が置かれ
見上げる壁には型の違った柱時計が
並んで時を刻んでいる
「電池を替えてください」
白髪の店主が腰を上げて私を見た

電池を替えた日付けを腕時計に刻んで店主が
 言う
「これからは私が面倒をみますよ」
(あるじ)の回りに置かれた古い手巻きの時計 止ま
 ったままの置時計 動きそうにもない古ぼけ
ただが大切にされたらしい目覚まし時計等
その一つ一つに念を入れてこれから修理をす
 るのだろう
人々が眠っている真夜中の
最も震動の少ない時間に
「その方が狂いがありません
それで店を開けるのが午後になるのですよ」
壊れた時計をいとおしむように見て
彼は言葉を切った

 「これからは私が面倒をみますよ」と言う「白髪の店主」の言葉には、客を獲得したいという思いもあるのでしょうが、それだけではないものを感じます。「主の回りに置かれた古い手巻きの時計 止ま/ったままの置時計 動きそうにもない古ぼけ/ただが大切にされたらしい目覚まし時計等」という「私」の観察がそう感じさせるのですが、それ以上に「人々が眠っている真夜中の/最も震動の少ない時間に」修理をする、「その方が狂いがありません」という言葉に店主の誠実さが現れていると思います。クルマの振動が最も少ない真夜中は、精密な仕事をするには最適な時間帯ですけど、それを実行に移すのは並大抵ではないでしょう。そこが作品から見えますから、客を獲得したいだけではない技術者の良心を感じさせるのだと思います。清々しい作品に出会いました。



   
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