きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.3.12 湯河原町・幕山公園 |
2008.4.20(日)
午後から神田で詩友の朗読会があったのですが、申し訳ない、サボらせてもらいました。その代わり、終日家に居て、いただいた本を拝読しました。HPもなかなか軌道に乗りませんが、がんばりまーす!
○佐々木洋一氏詩集『キムラ』 |
1998.11.10 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
逆さ地蔵 6 かもじ坑伝説 10 キムラ 14
タムラ 16 国松 20 乙松 24
水球 28 狐の匂い 52 豆の愛 54
ずんどうを愛する 58 稲だらけの地平 42 カラス 46
青空 50 空 52 蝶るい 54
ほたるるい 56 首から上 58 首から下 60
黒い点 62 丸い石 64 葛道 66
長い胴体の馬 70 小学校学芸会風景 72 旅館いづみ荘界隈 76
土人 80 あっペ とっペ 84
あとがき 88
空
空は一日に何度着替えをするだろう
空が着替えをするたび見守る人々は一喜一憂し
祈り 罵倒し 哀願し 感謝し 恐れ
空の一員であることに何の不思議も覚えず
もぐらの不義理を罵り
みみずのうつ性を叱咤し
空が
空が絶頂のままであるように
空が澄み切った青さのままであるように
ひたすら祈らずにはおれなかった日
人々は地中深くシェルターを作り
空のあまりの青さに脅える
空は一日に何度着替えをするだろう
空が赤金色に染め上げられた裲襠(うちかけ)を着た時
見守る人々は結婚式に似た高揚の中
このまま地球が燃え尽きるのではないかと疑念を抱いた
その時から
空は人々の猜疑の眼差しに黒い涙を流しはじめた
詩集タイトルにもなっている「キムラ」とは、木、樹、気、生のムラといった意味の創語だとあとがきにありました。ここでは「空」を紹介してみましたが、天気の移り変わりを「着替え」としたところに斬新さを感じます。夕焼けや朝焼けを「赤金色に染め上げられた裲襠」としたところも見事だと思います。
第一義的にはその喩を味わうことでよいと思いますが、私にはもうひとつ奥に潜む喩を感じてなりません。「空」とはヒトそのものではないかと思うのです。空の「着替え」はヒトの変わりやすさを謂っているのかもしれません。おそらく二重構造になっているのでしょう。そんな読み方もしてみました。
○季刊・詩とエッセイ『焔』78号 |
2008.4.15
横浜市西区 福田正夫詩の会発行 1000円 |
<目次>
詩
金米糖/考えずにはいられない…黒田佳子 4
昼…古田康二 7 故郷/春を奪ったのはだれだ…工藤 茂 8
果実/友だちになった…地 隆 10 真っ青な空…福田美鈴 12
恋ぶみ…許 育誠 15 なんとかせよ…平出鏡子 16
舌の上に苔むす我らが約束の地…古田豊治 18 ブランコにゆれて…上林忠夫 20
彗星…阿部忠俊 21 握手…小長谷源治 22
春霞…伊東二美江 23 桟敷席の女性(ひと)/夕顔の花/水仙の花…濱本久子 24
百舌の速贄…保坂登志子 26 北海道滝川市での会合に…布野栄一27
正月元旦/警鐘…錦 連 28 感謝/夢の話/対話の秋…金子秀夫 30
ふたたびこころよ…瀬戸口宣司 33 地獄に堕ちる…植木肖太郎 34
ネパール…新井翠翹 36 詩人熱…亀川省吾 38
携帯電話をもつ若人よ…山崎豊彦 39 福田正夫の詩・嵐の森…阿部忠俊 42
小特集 黒田佳子詩集
傷ついた小鳥に…森 常治 44
<書評> 黒田佳子詩集『夜の鳥たち』について…小関一彰 46
<書信> 山岸 嵩 鈴木 斌 小松弘愛 綾目広治 乾 宏 古田康二
<散文>
戦時の思い出…許 育誠 53 能登秀夫さんのこと…金子秀夫 54
<書評>『試惑』を読んで…黒田佳子 57
<エッセイ>
「愛の嵐」…亀川省吾 61 鉄道怪談…錦 連 62
<連載>
吉田一穂さんのこと3…福田美鈴 68
<同人の窓> 消え去る「手袋」…濱本久子 70
<報告> 石垣りん文学室(仮称)について…小長谷源治 72
<詩集紹介> 金子秀夫 74
川上明日夫/田川紀久雄/早矢仕典子/富田和夫/脇川郁也/毛利真佐樹/うめだけんさく/成田豊人/保高一夫/酒井 力/山口敦子/藤田 博/新井知次
<編集後記>
表紙 福田達夫/目次カット 湯沢悦木
昼/古田康二
長い曇った日々が続き
久方振りの青空に
きょう 私は裏の山道をひとりうつむいて登って行く
定めがたい襖悩に
照り映える青葉眩しく
さても寝苦しい煩悶をふりきれぬ雲よ
気温は上昇し
のぼせる頭に
目はとびちる火花を見
いかに時間と空間に隔離した
はげしい孤独の悲哀を感じることか
汗の噴出す顔を
ハンカチでふいて
大きな声で叫んでみよう
このうっとうしく瀰漫した
昼の太陽(ひ)の眠りを
さましてやれ
そして暑い!≠ニ言いたくなる詩ですね。「大きな声で叫んでみよう」は、多分そういうことだろうと思います。「長い曇った日々が続き/久方振りの青空」は嬉しいものですが、「気温は上昇し/のぼせる頭に/目はとびちる火花を見」なければならないのもまた、自然の摂理。まあ、人間の力ではどうにもならないということでしょうか。最後の「昼の太陽の眠りを/さましてやれ」というフレーズをおもしろく感じた作品です。
○詩誌『環』128号 |
2008.4.30 名古屋市守山区 若山紀子氏方・「環」の会発行 500円 |
<目次>
若山紀子/る 2
神谷鮎美/カミ 4 高梨由利江/寒い夜ほど暖かい闇に手がとどく 6
菱田ゑつ子/小庭にて 8 さとうますみ/雪の日 10
加藤栄子/雨音 12 安井さとし/亡き父のこと 14
<かふえてらす> 17
神谷鮎美 安井さとし 菱田ゑつ子 加藤栄子 さとうますみ
<あとがき> 若山紀子 22
表紙絵 上杉孝行
寒い夜ほど
暖かい闇に手がとどく/高梨由利江
えみこ いる?
かかってきた夜中の電話は
四年前に亡くなった義母を呼ぶ
その姉の声だった
肩のあたりを
冷たい手がふれたように
血流がギクシャクする
見えるようで見えない
格子のむこうから覗いている
伯母の記憶は 格子柄にとぎれとぎれ
そんな伯母に言えない
電話の相手がいなくなって
もう四年もたっているなんて
八十八才になる伯母に言えない
闇の道は涯もなく 遠い
その奥から静かな息がもれてくる
義母の暖かいいたわりの声は
生きて残っているものにとどく
こんな寒い夜だから
元気にしてますか?≠ニ
伯母は その言葉に答えたかったのだ
えみこ いる?
元気にしているよ
五つ違いの姉妹が
お互いを気遣い声をかけあったのだ
肩のまわりの空気を一気に凍らせて
寒い夜を際立たせたのは
握った受話器に熱い血が流れ わたしの胸までとどいたから
「四年前に亡くなった義母を呼ぶ/その姉の声」には驚いたでしょうね。その驚きを「肩のあたりを/冷たい手がふれたように/血流がギクシャクする」と表現したところは見事です。電話は「伯母の記憶は 格子柄にとぎれとぎれ」になったからこそのものだったわけですが、「わたし」は「義母の暖かいいたわりの声は/生きて残っているものにとど」いたのだ、「五つ違いの姉妹が/お互いを気遣い声をかけあったのだ」と解釈します。この感覚には敬服しました。親族の親密な関係を表出させている詩ですが、それと同時に「わたし」のお人柄も見える作品だと思いました。
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