きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
080312.JPG
2008.3.12 湯河原町・幕山公園




2008.4.23(水)


 特に予定のない日。終日いただいた本を拝読していました。



月刊詩誌『柵』257号
saku 257.JPG
2008.4.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 第八回日本詩人クラブ詩界賞論 藤井貞和『言葉と戦争』…中村不二夫 74
沖縄文学ノート(6) 歌人たち…森 徳治 78
流動する今日の世界の中で日本の詩とは(41)…水崎野里子 82
 御庄博実氏の「核と人間は共存出来ない」 ヒロシマ再訪
風見鶏 真田かずこ 岩谷まり 仲代宗生 鈴木正樹 高階杞一 86
現代情況論ノート(24) キノコ雲と椰揄…石原 武 88
詩作品□
南  邦和 深夜放送 4          肌勢とみ子 ある日 6
柳原 省三 夜光虫 8           松田 悦子 サネブトナツメ 10
平野 秀哉 バトル U 12         名古きよえ あこがれ 14
忍城 春宣 富士原生林 16         月谷小夜子 しんと‥‥ 18
進  一男 機を織る 20          小沢 千恵 五月の光 22
中原 道夫 隣り合わせ 24         川端 律子 祈り 26
佐藤 勝太 六十三年目のヒロシマ 28    水崎野里子 ヒロシマの折り鶴 30
小城江壮智 ツブの日々 32         山崎  森 Y氏の状況は 34
北村 愛子 えっちらさ おっちらさ 36   織田美沙子 ただじっと水槽の底に 39
山口 格郎 れっきとした「先生」 42    門林 岩雄 冬の夜 社の森 他 44
江良亜来子 鴉 46             北野 明治 春の午後 他 48
安森ソノ子 雪の降る日に 50        鈴木 一成 深夜目覚めて 52
秋本カズ子 甦るとき 54          八幡 堅造 もったいない 56
西森美智子 月明かり 58          宇井  一 大きな動物園 60
今泉 協子 空を拭く 62          若狭 雅裕 夏が来る 64
三木 英治 スペイン噴水のある午後 66   野毛比左手 明日を叩く 68
前田 孝一 宙に浮く土地柄 70       徐 柄 鎮 金井山城讃歌 72

世界文学の詩的悦楽−デイレッタント的随想(23) 茂吉の歌に寄せて−死を歌い生を描出する異才…小川聖子 90
世界の裏窓から−カリブ篇(9) カリブの座標軸…谷口ちかえ 94
コクトオ覚書232 コクトオの詩想(断章/風聞)(12)…三木英治 98
小沢千恵詩集『ちりん』 平和への願い 生きる歓びの讃歌…荒船健次 100
東日本・三冊の詩集 内藤喜美子『落葉のとき』 笠井忠文『寒い春』 上田万紀子『蝶は森の奥に棲む』…中原道夫 102
西日本・三冊の詩集 芦田はるみ『雲ひとつ見つけた』 多和田京子『鮮度のいい日常』 曽我部照美『記憶の砂粒』…佐藤勝太 106
受贈図書 112  受贈詩誌 109  柵通信 110  身辺雑記 113
表紙絵 中島由夫/扉絵 申錫弼/カット 野口晋・申錫弼・中島由夫



 深夜放送/南 邦和

誰かに
叩き起こされてでもいるように
午前三時に 必ず目覚める
トランジスターラジオに手を伸ばして
〈にっぽんの歌・こころの歌〉を聴くのが
ぼくの 真夜中の日課だ

ときに
「しののめ節」や「オッペケペ節」
三浦環の歌う「蝶々夫人」や
小唄勝太郎の唄う「島の娘」
田谷力三 東海林太郎 デイック・ミネ
みんな いまは亡き歌い手ばかり

その歌の背後に揺れているのは
デジャ・ビュの風景
冬の駅頭での出征兵士の見送り
灯火管制の秋の夜の家族団欒
夏の引揚船での塩汁とにぎりめし
少年期の春山の戦争ごっこ

ぼくを叩き起こしているのは
あの人たち 父や母やいまは亡き‥‥
今夜も 岡晴夫の「啼くな小鳩よ」や
市丸姐さんの「天竜下れば」を聴いている
寝息を立てている妻の傍らで
霊界との秘密の交信を愉しむように

 今号の巻頭作品です。出てくる歌手や唄は、私が辛うじて覚えている程度ですから、今の若い人には見当もつかないでしょうね。戦前から戦後にかけての唄で、1955年頃まではラジオで流れていたようです。私は5〜6歳で聞いていたと思います。それが今「〈にっぽんの歌・こころの歌〉」で聞けるようになったのですね。一度聞いてみようかと思います。
 作品は最終連の「寝息を立てている妻の傍らで/霊界との秘密の交信を愉しむように」というフレーズがよく効いていると思いました。



詩誌『極光』9号
kyokko 9.JPG
2008.4.15 北海道小樽市  1000円
原子修氏方・極光の会 花井秀勝氏発行

<目次>
詩  空
(から)の枝の揺藍/パヴィ ジガス 橋本征子訳 2
   夜の鎮魂/若宮明彦 3
   退却の出口/バヨード フホムチル 4
   薄明/岩木誠一郎 8
詩論 「厳密な意味での『現代詩』への原点回帰」第一部 序説――私にとって鮎川信夫という仮説/こしばきこう 10
詩  晩鐘2/高橋秀明 14
   赤い鳩/光城健悦 16
詩論 『農民概論綱要』に関する
Short Note/若宮明彦 20
海外の詩 才能溢れる英国次代世代詩人 前ケンブリッジ大学
     トリニティー・カレッジ・ポエット ジェイコブ ポリー/熊谷ユリヤ 22
詩  八月の父の行方/斉藤征義 25
   木の話/鷲谷峰雄 28
   高殿/渡会やよひ 30
   鳩らしい人/竹津健太郎 33
詩論 北海道詩の可能性について(2) −更科源蔵におけるマゾヒズムの原理−/高橋秀明 35
詩  空き地/野村良雄 48
   メタモルフオーゼ/谷崎最澄 50
   愛しい人へ/坂本孝一 54
   路上/田中聖海 56
詩論 〈現代詩〉宣言のための草稿(二) −<言葉の精密な意味での現代詩>は<永久芸術運動>である−/原子 修 58
詩  母/石井眞弓 62
   肌着と微笑みとまなざしと/原子 修 64



 肌着と微笑みとまなざしと/原子 修

質のいい憲法とは
生まれたての緑児
(みどりご)のすはだかを
琥珀いろの曙光でつつむ
やわらかいフランネルの肌着のようなもの

 けっして
 銃弾の冷たい感触で
 無垢の魂をおびやかしたりはしない

(ひん)のいい憲法とは
恥じらう少女の頬に
うす薔薇いろの花を咲かせる
香ぐわしい微笑のようなもの

 けっして
 火薬のきな臭い匂いで
 無辜のいのちを燻
(いぶ)したりはしない

(あたい)のある憲法とは
凛凛
(りり)しい若者のまなざしを
一人も飢えて死んだりはしない世界の創造へと
遠くいざなう霊峰のようなもの

 けっして
 手に手に銃を握らせ
 殺しあいの地獄へと追いたてたりはしない

 憲法とは「肌着と微笑みとまなざし」のようなものでなければならないとする、見識の高い作品だと思います。「質のいい憲法」、「品のいい憲法」、「価のある憲法」とは、もちろん日本国憲法と採ってよいでしょう。その反対の憲法には何があるかというと、「銃弾の冷たい感触」、「火薬のきな臭い匂い」、「手に手に銃を握らせ/殺しあいの地獄へと追いたて」るものと、戦争を前提にした条項が溢れます。日本国憲法第9条を真正面から擁護した作品だと思いました。



詩誌『金木犀』3号
kinmokusei 3.JPG
2008.4.20 さいたま市浦和区
広瀬千秋氏方・「金木犀」発行所 400円

<目次>
現つ・蛙を食べる…広瀬千秋 2       家路・父の蔵書・逍遥…森川柳子 4
猫と私と・いつものように・冬…三田正子 6 ベランダの雨・<コスモスふれ合いロード>を行く‥設楽敏子 8
花あかり・バレリーナ…中村友子 10     鶏たちの詩・ヒデちゃん・豊作…佐々木道代 12
椿・郵便ポスト…川上美智 14        ぼたん苑・天晴れ…小笠原勇 16
化粧・花…坂東寿子 18           腎臓一つ・兵器・声…伊藤一郎 20
はる…菊田 守 22
「金木犀」住所録…23            表紙…伊藤一郎



 
うつ
 現つ/広瀬干秋

顔に白い布がかけられ
水の流れる音がする
誰にも挨拶をしないで来てしまった
「みんな長い間ありがとう」
とうとう死んでしまったわたし

真すぐに道がつゞいている
春の陽ざしがまばゆく溢れ
桃 もくれん れんぎょうが咲いている
この世界では白い花しか咲かないと思っていたのに

この道を行けば
先に逝った人たちに会えるかも知れない
早く会いたい と足を早めた途たん
ガタッと椅子が動き
(うつ)つにかえる
「シャンプー終りました」と美容師さんの声
水の流れる音はもう聞こえない

 拙HPでは初めて紹介する詩誌の巻頭作品です。「顔に白い布がかけられ/水の流れる音がする」というのですから、てっきり臨死体験か、死後の世界を想定してのことと思いましたけど、美容院でのシャンプーでした。男性の床屋さんでは頭を洗面台に突き出して、顔を下にして洗髪してもらうのですが、美容院では顔を上に向けるようです。その違いで第1連は騙された≠ニいうことですね。しかし死後の世界を前提としながらも明るい色調の作品だと思いました。



   
前の頁  次の頁

   back(4月の部屋へ戻る)

   
home