きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.3.12 湯河原町・幕山公園




2008.4.24(木)


 午後から竹橋の毎日新聞社に行ってきました。いま問題になっている映画『靖国』の試写会です。27日に毎日新聞社と日本ペンクラブ共催で、毎日ホールを使って80名ほどの試写会が行われるそうです。それに先駆けての日本ペンクラブ向けのものでした。5階の会議室で20名ほどが集まった今日の試写会は、理事と言論表現委員会対象だったそうですが、定員に余裕があるとのことで、それ以外の委員会の副委員長まで拡大されました。いずれ観ておきたいと思っていましたので、昨夕の突然の募集に応募したものです。

 2時間たっぷり観た印象は、どこが問題なの?というものでした。ドキュメンタリーですから、淡々と事実だけが述べられています。フィクションは一切ないと言えるでしょう。靖国に賛成の人も反対の人も出てきて、それをカメラは淡々と追うというもの。話題の刀工は自分の意見はほとんど喋らず、黙々と靖国刀を造っているだけという印象でした。あの映画なら右翼からも左翼からも文句が出ないでしょう。何が問題になるのかさっぱり判りませんでした。

 個人的な意見ですが、おそらく今回の問題がなければ『靖国』は興行的には失敗したのではないかなと思います。何がなんでも観たいという映画ではなく、私は気にもしていなかったでしょう。それが某国会議員のお陰で注目されたわけですから、監督は逆にお礼を言うべきかもしれませんね。事前検閲の問題は、それは大きな問題として残りますが、興行的にはそういうことでしょう。東京は5月3日から一般公開されますので、まあ、よかったら観ておいたら、という程度のお薦めです。

 映画を観る前に、できれば靖国神社と遊就館は見ておいた方が良いと思います。ネットで調べるだけでも良いでしょう。基礎的な知識を持って観た方が分かりやすいですし、映画とは関係なく靖国神社の置かれている立場を理解しておく必要があると思っています。さらに明治維新から現在までの日本の近・現代史を頭に入れておくと、それなりに見応えがあるように思います。



会報『「詩人の輪」通信』22号
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2008.4.25 東京都豊島区
九条の会・詩人の輪事務局発行 非売品

<目次>
輝け9条! 詩人のつどい・板橋 実行委員長開会のあいさつ 大河原巌
よびかけ人からのメッセージ 中 正敏 安藤元雄 浅井 薫 佐相憲一
分野別9条の会からのメッセージ 9条の会・医療者の会
詩人の輪賛同参加者1000名達成
詩 たっぺの子/赤木比佐江         脱皮/田中眞由美
  青い空/鈴切幸子            ニートの勧め/平野秀哉
  この手に9条を/きたまこと       警戒せよ・教育/日下新介
賛同参加者・第16次分(08年3月11日現在1003名)
小田実の遺した言葉/多田純一



 教育/日下新介

子どものころ
ぼくのまわりは戦争だった
教室の壁は
陸軍記念日のポスターであったり
作文の時間は戦地への慰問文であったり
進学の願書は
少年兵
・・一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ・・・と

あれから六〇年を生き延びた
ぼくの
「9条」に託した希望に
またしても
改心したはずの
「愛国心」という道化師が
仮面をかなぐり捨てて
襲いかかってくる

 「子どものころ」戦争を体験した人の、「ぼくのまわりは戦争だった」という言葉が重い作品です。「進学の願書は/少年兵」と書かざるを得なかった時代を知っている人だからこそ「『9条』に託した希望」という言葉も出てくるのでしょう。そういう先輩の言葉に耳をそばだてながら「『愛国心』という道化師が/仮面をかなぐり捨てて/襲いかかってくる」のを注意深く排除しなければいけないのだなと思った作品です。



詩誌『礁』6号
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2008.4.30 埼玉県富士見市
礁詩社・穂高夕子氏発行 非売品

<目次>
詩作品
記憶の街/佐藤 尚 2           ちいさな一歩を/佐藤 尚 4
夢の中へ/近村沙耶 6
俳句 大正子/川端 実 10
エッセイ
日本国憲法に/川端 実 10         平家物語の世界(1)/川端 実 12
金子みすゞの詩を読む(6)/穂高夕子 18   ネズミの婿とり/秦健一郎 22
こぼれてにほふ花桜かな(2)/中谷 周 26
詩作品
白い島/穂高夕子 32            花のままで/穂高夕子 34
編集後記…36
表紙デザイン 佐藤 尚



 記憶の街/佐藤 尚

道はただひたすらに
白く延びていて
果てることを知らない車の列が
それぞれを主張することもなく続いている
無機質の箱のなか
それぞれに違った異世界をかもしだし
後尾灯を赤くにじませ
通の先へ先へと消えてゆく

重い空気のよどみのなかで
息苦しい呼吸を少しずつ弱め
生命の炎を小さくしてゆく
それぞれの孤独

それぞれの記憶のなかで
思い出の冬は


雪しかない
降りつもるささやきしか聞こえない

雪よりも白い息をはきだしながら
すこしずつ言葉を失ってゆく
こころのなかを吹きすぎてゆく風
つめたい

記憶のひだにかかる小さな空
ふりあおげば
梢についたちいさなつぼみ
香りとも言えないほどのものを
せいいっぱい風に乗せている

 今号の巻頭作品です。過去の、ある時期の「記憶の街」の風景でしょうか。「無機質の箱のなか」の「それぞれに違った異世界」のように「それぞれの孤独」があると読み取りました。そして「すこしずつ言葉を失ってゆく」私たちなのかもしれません。最終連の「香りとも言えないほどのものを/せいいっぱい風に乗せている」「ちいさなつぼみ」は「それぞれの記憶のなか」のものなのでしょうが、それもまた矮小な私たちの存在のように思えた作品です。



総合文芸誌『中央文學』475号
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2008.4.25 東京都品川区
日本中央文学会・鳥居章氏発行 400円

<目次>
◆特集◆ 寺田量子アンソロジーU/2
雨の顔/2・サラリーマンライフ/3・まひる/4・小さな雀/5・嵐の前/6・<時>を盗む/7・眼のカーテン/8・ニュースから/9・森の手紙/10・秋を探しにゆくときは/11・再見/12・朝まだき/13・ティータイム/14・木靴/15・私だけのギャラリー/16・花の谷/17・雨の音/18・燃える夏/19・花の家/20・真夜中の電話/21・めまい/22・旧正月/23・夢の中/24
◆詩作品◆ カバン/田島三男/25
      石ころ/佐々木義勝/27
      吐息/朽木 寛/29
◆小説◆ ひなまつり/柳沢京子/31
●編集後記● 38
●表紙写真●スペイン/バルセロナ市・聖家族教会●



 サラリーマンライフ/寺田量子

忙しくなる
とんねるの中で 停電を予感しながら
目をつぶって通りぬけるのを待つ
しごとに轢き殺されないように

風船の空気をぬき
人間を平凡な容れものにするサラリー
が敷くレールの上を
安全運転して 定年が来たら下りる
こわいのは下りたはずのレールが
からだの中をまだ走っていること
サラリーと引きかえに切り売りした人間性を
もらわなくなっても返してもらえるかどうか…

月給袋をパスポートにして
そのパスポートを山羊に食べさせ
もう帰らないで済む旅に出たいと思いながら
月給日の間を 尺取虫のようにつないでいる

 昨年8月に亡くなった寺田量子さんのアンソロジーUから紹介してみました。「しごとに轢き殺されないように」というフレーズは、直接的な言葉であるが故に重みを感じます。「サラリーと引きかえに切り売りした人間性を/もらわなくなっても返してもらえるかどうか…」というフレーズも、退職した私には、やはり重いですね。最終連の「月給日の間を 尺取虫のようにつないでいる」というのは、給料日毎にひと月を考えていた習性を謂っているわけで、退職して2年も経つのにその習性が消えない私を言い当ててられているようです。改めて寺田さんの詩を拝読すると、その視線の鋭さに敬服しています。



   
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