きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.3.12 湯河原町・幕山公園




2008.4.25(金)


 地元のぶらりたずね歩き「木ごころの会」主催の〈旨いもの&湧水〉の小旅行に参加させてもらいました。JR御殿場線の最寄り駅・松田から沼津・三島を経て静岡県清水町にある、日本百名川・柿田川公園(柿田川湧水群)を訪ねるというものです。総勢13名、うち男性は主宰者のSさんと私だけという恵まれた(^^; 環境でした。

 JR松田発9時58分の御殿場線で一路沼津へ。途中、山北駅・谷峨駅で乗車の人も加えて11時ちょっと過ぎに沼津到着。東海道線上り列車に乗り替えて隣駅の三島に着いたのは11時半ごろ。それからタクシーに分乗して〈元祖うなよし〉という鰻料理店で昼食となりました。これが前半〈旨いもの〉の部で、銘打つだけあって旨い鰻でした。男二人だけが注文したビールはA社品。以前ならケッと思って呑まなかった銘柄ですが、最近は呑むようにしています。退職した職場で担当していた製品はK社向けでしたが、先日、後輩の情報でA社も導入してくれたことを知り、態度を改めたのです。もう会社とは関係なくなったのですが、やはり自分が手掛けた製品を使ってくれるようになったメーカーさんには敬意を表しないとね(^^; これで日本のビールメーカーの最大手2社が採用してくれましたので、シェアーは8割ほどでしょうか。調子に乗って呑み過ぎないようにしないといけません。
 ここで全員の自己紹介。半数ほどの人はすでに顔馴染みでしたから、すぐに打ち解けて会話が弾みました。

 昼食後は歩いて30分ほどの柿田川公園へ。私は3度目ぐらいですが、相変わらず良いところです。第1湧水地でナショナルトラスト運動をしているおじさんも相変わらず元気に説明してくれていました。

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 4月とは思えないほどの陽射しで、森林浴を楽しみながらの散策。予定の1時間はアッという間に過ぎてしまいました。あと1時間は欲しかったほどです。私は勇んでマクロレンズまで持参しましたけど、花はほとんど無く、こちらは残念ながら諦めて公園内の目ぼしい処だけを撮りました。写真はその一部で、強い陽射しがお判りいただけると思います。それにしても水はさすがに綺麗です。

 14時25分のバスに乗って三島駅へ。15時の御殿場線で帰ってきて、帰宅は17時前。日中の一番良い時間を使っても簡単に往復できてしまいました。いつもはクルマで行くことしか考えていませんでしたが、電車でも余裕で行けることは意外でしたね。これは事前に下見してくれた幹事さんのスケジュール立ての成果でしょう。気配りの効いた幹事さんには本当に頭が下がります。ありがとうございました。次回も楽しみにしていますよ!



高橋馨氏詩的作品集『残月記余禄』
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2008.5.9 千葉県茂原市 草原舎刊  1500円+税

<目次>
詩的作品
†残月記
コーヒーはブラックで 8          夢二の女 10
倦怠素 12                 松の実 13
衆人環視の中で 15             メフィストの古時計 18
熱烈の時代 20               真間川ママ――朗読用に 23
アダージョ――シナリオ風に 25       中華夢酔亭 27
中華無粋楼 28               鏡を見る男の自画像 30
アンチョビ 31               ゾイエン・ブロージュ美術館を訪ねて 34
残月記 37
†野ざらし峠
雪、わが恋 40               駅前ドトールの三階から 43
迷い犬を捜す 46              夜の渚で 48
早春 51                  真間川で怪魚を見る 54
ロシアン・ルーレット 57          ただいま――演劇台本風に 59
円空 63                  贋山月記 66
別れる理由 72               へび苺 75
告知 77                  チキー人形は修理中 80
野ざらし峠 82               ほら吹きハシゴノリの冒険――童話風に 85
†噴水の少女
昼花火 94                 黒猫のバスケット――演劇台本風に 96
フィンガー・トラップ――演劇台本風に 100  未必の故意――演劇台本風に 102
悪党に同情は禁物――演劇台本風に 105    たかが百円、されど百円――演劇台本風に 109
静物 112                  カレイドスコープ 113
白菊幻想 115                海という題で 116
飼い犬 119                 蟻の末路 121
初恋 122                  出家とその弟子 124
抹殺された記憶 127             あさがお 128
レイン・スティック 130           虫の音 131
雪合戦 134                 永久運動について 136
偶像 138                  ヒューマン・クラヴィール 140
風の吹き矢 142               スコーピョン・デス・ロック 145
今宵、マティーニはいかが 148        風の吹く日 152
噴水の少女 155
エッセイ 詩か、エクリチュールか 158
後書き 180                 表紙絵*秋田英男



 コーヒーはブラックで

 狭い店内は、夕暮れの街中と比べると真っ暗に
感じたほどで、客席のテーブルに琥珀色のスタン
ドがいくつか灯っていた。
 その一つに座る。シュガーボックスと灰皿、そ
の中に黒猫の図案が描かれたマッチ箱が置かれて
いた。目が慣れてきて見るともなく見る。客は誰
もいない。カウンターの向こうにウエイトレスら
しい人影が一つ。
 買ったばかりの古本を、広げていいものか。だ
いたい、ここに座っていてかまわないのか。店員
に飲み物を注文してから座るのだろうか。看板に
はコーヒーとあったが、それは名ばかりでいかが
わしいバーなのではないか。
 高志が高校への通学路にその小さな喫茶店を見
つけたのは、いつの頃か記憶にない。前を通る
と、なにしろ、いい匂いが漂ってくる。ポンコツ
屋と呼ばれる自動車解体業者が軒を連ねている通
りが電車道にぶつかる角にあった。道路に面した
側全体が蔦に覆われていて、木製のドアの部分だ
けが四角く切り取られているという感じ。そのド
アの脇に〈純喫茶「黒猫」コーヒー50円〉という
地味な看板が出ている。油じみた職工や軽トラッ
ク、買い物の主婦が行き交う下町の埃っぽい道筋
には場違いの店であった。
 やっと、ウエイトレスがやってきた。スウェー
ターに、銀色の細いベルト、タイトスカート、ハ
イヒール、すべて黒。濡れたような赤い口紅を形
のいい唇にくっきり、そればかりが印象に残っ
た。
 コーヒーが眼の前に置かれる。 その皿のコー
ヒーカップの陰に隠れるように瀬戸の白い小さな
カップが置いてある。
 高志は、コーヒーを一息に飲んだ。砂糖が入っ
ておらず苦いばかりだ。胃が痛くなるような不快
感――。 紙袋から本を出して、頁をめくる。ラ
ディゲの『肉体の悪魔』の文庫本。脇にあった瀬
戸のカップの小さな取っ手をつまみ、口をつぼめ
て、それも一気に飲んだ。
 牛乳みたいなとろりとした味が舌に残った。
 店は、高志が、会社に入社した頃にはすでにな
く、蔦は取り払われ、ポンコツ屋の事務所のよう
なものになっていた。
 今では確かめようもないのだが、あのウエイト
レスは、最終学年で同じクラスだった内野綾子で
はなかったかという疑問――。下町では放課後に
家業を手伝うのは珍しくない。内野もあまりクラ
スに溶け込めないタイプ。どこか大人っぽくあっ
たが、友達もなくいつも昼休みなど、一人ぽつん
と窓際で校庭を眺めていた。その彼女に答案用紙
を配ったとき、目が合い、くすっと笑ったように
感じたときがあった。カウンターの奥でウエイト
レスの視線が笑ったように見えた表情とどこか似
ていた。

 四十年以上昔の話だ。純喫茶も深夜喫茶も美人
喫茶もキャバレーでさえも死語となった時代であ
る。ポンコツ屋はいまでもあるのだろうか、森下
町は 都営地下鉄の森下駅に その名をとどめてい
る。
 胃に良くないと思いつつ、高志は今でもコー
ヒーにはシュガーもミルクも入れない。
              (二〇〇七・七)

 『光芒』『漉林』『鰐組』などに掲載された作品をまとめたもののようですが、詩集≠ニは銘打たず「
詩的作品集」となっているところに著者の矜恃を見る思いです。しかし拝読して、この作品群は全て詩であると私は感じました。また、著者はエッセイ「詩か、エクリチュールか」の「結語」の冒頭で次のように述べています。
 <友人と詩について語ったり、批評するとき、いつもとまどいをおぼえ、かれらもまた私の作品にいらだちを隠そうとしないのを、長年、いぶかしく思ってきた。それがここにきて、ようやく霧が晴れつつあるのを感じている。
 結論から言ってしまえば、かれらが目ざしているのはポエジーであり、私が求めているのは詩的なものである。端的には〈言葉〉と〈行為〉との相違である。>
 私ではうまく説明できないもどかしさがありますが、〈行為〉とは、例えば詩的生活のようなものかなと解釈しています。

 ここでは巻頭の「コーヒーはブラックで」を紹介してみました。まさに詩的生活≠サのもものような作品だと思います。〈純喫茶「黒猫」コーヒー50円〉の店と「スウェーターに、銀色の細いベルト、タイトスカート、ハイヒール、すべて黒」というウエイトレスと「最終学年で同じクラスだった内野綾子」との重なり、「今でもコーヒーにはシュガーもミルクも入れない」「高志」の存在そのものが「詩的なもの」と読み取りました。
 本詩集中の
「倦怠素」「鏡を見る男の自画像」「飼い犬」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて高橋馨詩の世界をお楽しみください。



平野敏氏詩集『月
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2008.5.1 埼玉県入間市 梗興社刊
3000円

<目次>
序 叫び 1
橋物語 老後の巻 3            橋物語 精霊の巻 7
橋物語 光明の巻 11            橋物語 奇蹟の巻 15
いのちの跫音 虚実の顔の段 19       いのちの跫音 自己責任の段 23
詩想 宿縁の章 25             詩想 幟旗の章 31
言葉の道 33                仕事する言葉 37
今日の矢印 43               まぼろし憂鬼寂鬼 47
風聞 53                  てんてき 59
消息 死者の詩話 63            消息 旅人の詩話 67
月祷 69                  ]地帯 71
場所 73                  風祭り 75
駅裏 77                  道の駅 79
雨の力学 83                点リ 85
残酷な今日 87               鬼灯 91
私道 95                  旅の行方 99
朝の床屋から 103              ひと息 105
アルバム幻想 107              古代蓮 111
詩魂 113                  予兆 117
かよいみち 123               秋風さぶらふ 127
地球の大騒動 131              回転 137
滑降 143                  魅力的な未来へ 147
子供力 151                 点前 157
合点 159                  春風幽霊 163
跋 焦点 165
表紙カバー 仏の森(京都・蓮華王院三十三間堂の千体千手観音立像)



 序 叫び

わたしの血のなかを泳ぐ魚
不安であり言葉であり意味であり
その他もろもろの病癖をもたらす苦しみのたねがあり
人生が終わらなければ
開放されない
それこそ奴隷の近代化はいまだになく
ネガティブなある佇まいにいまも震えている
それが人間を支えているのだと
聞こえはよい
寄せ鍋を囲めば仲良くなり
世界の危機も一時は救われる
わたしもしずやかにおさまる
熱爛がはらわたを流れれば
すべてのものが消毒されたような気分になり
天敵も愛情もいっしょくたになり
折りしも咲いている庭の花八手のようにめでたくなる
大の字に寝て世別れのまねもしたくなる
叫びはここからはじまる
血のなかを泳いでいたものがどこへいったか
地の果てへわたしにかわって探訪にいったか
声もしない沈黙の星座へ幸福を捜しにいったか
口を丸め耳を塞いだわたしのさけびの仲間たち
全天夕焼け雲をみつめながら絶叫する
全的な血を見て立ちすくむ
生という炎
(ほむら)の幻像に
わたしの魚も泳いでいる

 巻頭作品を紹介してみました。第1行目の「わたしの血のなかを泳ぐ魚」というフレーズから面白い詩だと思います。「血のなかを泳いでいたものがどこへいったか」というのはその魚にことですが、「わたしにかわって」「地の果てへ」、「声もしない沈黙の星座へ幸福を捜しに」というところに思考の柔軟さを見る思いです。そして最後は「生という炎の幻像に/わたしの魚も泳いでいる」と、きれいにまとめた作品と云えましょう。
 本詩集中の
「橋物語 老後の巻」「いのちの跫音 自己責任の段」「消息 旅人の詩話」「ひと息」「春風幽霊」「跋 焦点」はすでに拙HPで紹介しています。「消息 旅人の詩話」の原題は消息 第五の詩話≠ナ、一部改訂されていますが、合わせて平野敏詩の世界をご鑑賞いただければと思います。



詩誌『揺蘭』2008.初夏号
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2008.初夏 さいたま市大宮区
西野りーあ氏連絡先 350円

<目次>
加護ユリ
カはカラスのカ・・・01           暗黒・・・02
玩具・・・04                箱・・・06
水の子
carol・・・09
日嘉まり子
墓をさまようアリス・・・10         三人の魔女・・・14
ギャザリング・・・19            水縄旅館の地下墓地に棲むケルべロス・・・23
横山克衛
通信販売のお知らせ・・・26         片隅の花(文・横山克衛/扉絵・橘 鵜月)・・・27
日本の未来と美女軍団・・・32        不幸は突然やってくる・・・35
ランタアン(
Lantern)・・・38       童話の最後の一ページ・・・39
詩集評『帰郷』(村山精二著 土曜美術社出版販売)・・・41
展覧会評『直野宣子展 HAKO V』 闇の中、密やかに恋する鯉二匹・・・42
横山『揺蘭』情報局から・・・43
山田かろん 山田非日記・・・45
橘 鵜月 書評『奴隷の詩学』(TH No.27)・・・55
西野りーあ
芽吹く屍の五月・・・56           ひとさらい・・・57
猫少年を拾う・・・58            ゆりの姉・・・60
山梔子の闇・・・61             精霊界−炎龍の抄・・・62
鳩宮楼城 物話する魔・・・64
後書き/編集後記・・・69
表紙【めまいの宮居・花睡】         裏表紙【めまいの宮居・昼刻】
コラージュ/西野りーあ



 ランタアン(
Lantern)/横山克衛

夕暮れである
私は窓際の卓で、黄色の紙に
詩とも物語ともつかぬものを書いている
必要もないのに、何故か、そんなものを書いている
まるで、紙の中にこそ
本当の世界があると、信じているかのように……
これさえできれば、何もいらない、と思いながら……
と、
外の石畳に足音がする
こちらに、近づいてくる

ランタアンを持った、死に神?

紙の上では、物語ははじまったばかりなのに……
それでも、私は死を覚悟する
が、足音は、次第に遠ざかっていくのであった

一日のうち、一度は
死が通り過ぎていく

 「一日のうち、一度は/死」を考えるという人は、特に詩人には多いように思います。「まるで、紙の中にこそ/本当の世界があると、信じている」のも詩人の特性なのかもしれません。その意味でもこの作品はまさに詩人らしい詩と言えるでしょう。意外に書かれていない詩人の内面を吐露した作品と読み取りました。
 本号では作者により拙詩集『帰郷』のご講評をいただきました。御礼申し上げます。



   
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