きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.4.28 富士・芝桜




2008.5.6(火)


 世間は振替休日ですが、私は特に予定のない日。終日いただいた本を拝読して過ごしました。



進一男氏詩集『指の別れ』
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2008.5.1 宮崎県宮崎市 本多企画刊 非売品

<目次>
夢の中で 10     指の別れ 14     この世 18
小さなこと 22    優しい国 24     五月の突風 28
脳 30        瞬間 32       奇妙な時間 36
非在 38       生きていた薔薇 40  空(そら) 42
すべてのもの 46   私は何をするか 48  病棟の日々 52
作品年譜 61
あとがき 65



 指の別れ

はてさて お前は何処へ行ってしまったのか
風の便りでは あの時のままの姿で
静かに存在しているということなのだが
残された俺は ひたすら
お前のことを思って生きているようなのだ

俺たちが別れねばならなかったことを
はてさて どのように考えたらいいのか
そこに何らかの意味を読み取るべきか
唯そのようになっただけのことさ
単純にそのように受け取ったらいいのか
去るものは去り 残るものは残る
しかし残ったものは それでは
どのように生きたらいいのであろうか

お前は俺を恨んでいるのではないだろうね
何とお前に済まないことをと
俺は俺で物凄く後悔しているのだ
今となってはどうしようもないこととしても
ひたすらお前の在りようを願う外はない
俺は俺でどのように生きねばならないか
などと言ったところで はてさて
何といい気な とお前に言われるだけのことであろう

今までは二人一緒に突っ張ってきたわけだが
今となっては 小さな俺だけでは
そういうわけにもいきそうにはない
余り動きもとれない俺を見下しもせず
現に外の者たちの世話になっているのだが
何にしたって 正直言って今の俺は
ペン一つ普通に持てないでいるのだから

はてさて 何にしたところで やはり
これからは皆と一緒にやっていかなくてはなるまい
弱気になったわけでは決してないが
今はそのように考えている
それがお前のためにも 俺のためにも
為すべき術なのだろうと考える
俺は小さくなった親指を見る
はてさて 別れたお前は今 本当に
静かに存在しているであろうか

 おもしろいタイトルだなと思いましたが、あとがきを読むととんでもないことが起きていたのが分かります。親指の癌で第一関節を残して切断したのでした。有棘細胞癌と診断されたそうで指先の骨まで進行していたものの、他には転移していなかったことは不幸中の幸いかもしれません。しかし、最終連の「俺は小さくなった親指を見る」というフレーズに著者の無念を見る思いがします。それにも関わらず「はてさて 別れたお前は今 本当に/静かに存在しているであろうか」と冷静に問うところは詩人としての強さを感じます。それを素直に受け止めることができた詩集です。



詩誌『火皿』115号
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2008.4.30 広島市安佐南区
福谷昭二氏方・火皿詩話会発行 500円

<目次>
■ 詩作品
・花野から…上田由美子 2         ・それでもやはり…北村 均 4
・友の死の前日…大山真善美 6       ・校庭で−ふるさと・W−…御庄博実 8
・あの大空の彼方に…松井博文 10      ・セレモニー…沢見礼子 12
・風…川本洋子 14             ・水…川本洋子 15
・さらさらの砂浜で…福島美香 16      ・基地の街にて…長津功三良 18
・古寺炎上-立ったまま焼かれて-…福谷昭二 20 ・冥王星 君へ…松本賀久子 22
・旅…大原勝人 24             ・雪のきらきら…ロバート・フロスト 大山真善美訳 25
・選ばれた男…津田てるお 26
■ 書評
・新しい反戦詩の誕生−上田由美子詩集『白い闇』−…福谷昭二 28
・上田由美子詩集『白い闇』寸感…御庄博実 30
■ 火皿五○周年記念詩話会で提起された意見…31
■ 火皿関連行事…34
■ 編集後記…35
■表紙画−「寂光」作者=神尾達夫



 冥王星 君へ/松本賀久子

子供の頃 習った
太陽系の惑星は 太陽に 近い順から
水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星
そして最後が冥王星
覚え方は すいきんちかもくどってんかいめい
冥王星は 太陽系の終わりの惑星
私は 冥王星に
冥土 もあるのではないかと思い
心秘かに 畏怖していた

その 冥王星が
少し前に 惑星の地位を追われて
「小惑星」に分類 されてしまった
まるで人間のリストラだ
あー、冥王星君
今度ね 小惑星という部署を作る事になったんだ
君ね 室長として行ってくれないか
頼むよ

人間のリストラと同じに
冥王星は「いやです」と言う事も出来ず
ましてや
「会社を辞めよう、転職しよう」と考える事も出来ずに
(何しろカミサマの作られた「宇宙」という会社なので)
言われるままに そのまま
ワカリマシタ と従った

気の毒な冥王星
転職して「契約正社員」になってしまっていた
「正社員」に 契約 なんていう
ダッシュの付く身になっていた私は 涙ぐんだ
半年毎の 契約更新
絶対上がらない賃金 貰えない退職金
いつでも会社がイラナク なれば
捨てられてしまうという 立場
それでも 四十を過ぎてからの転職では
ワカリマシタ と言って
従うしか なかった

太陽系の中
「冥土」のある星 冥王星
君は 少なくとも私にとっては
今でもレッキとした惑星だよ
大声で叫んでやろう
太陽系の惑星は すいきんちかもくどってんかい
(そして)、めい
すいきんちかもくどってんかいめい だぞ


 「少し前に 惑星の地位を追われて/『小惑星』に分類 されてしまった」「冥王星」の作品ですが、「人間のリストラと同じ」だとしたところが秀逸です。「『正社員』に 契約 なんていう/ダッシュの付く身になっていた私」と重ね合わせて、現代の日本の問題点も浮き彫りにしています。最終連で「君は 少なくとも私にとっては/今でもレッキとした惑星だよ」と断言するところに、強い憤りを読み取ることができた作品です。



詩と評論『PF』35号
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2008.4.30 静岡県菊川市
ピーエフ編集部・溝口章氏発行 500円

<目次>
溝口 章  無のコスモロジー序説(十一)…2
溝口 章  聖考 壱七 今 跡なき世界の扉がひらく…6
武士俣勝司 ふるさと−鎮魂−…22
嶋田 峰子 ある春の日に…25
相沢 史郎 『一遍聖檜』と詩集『流転/独一』と−…27
編集後記…31



 聖考 壱七 今 跡なき世界の扉がひらく/溝口 章

  ――記憶ノ中ノ日記(一九四五年)

八月七日 従兄戦死ノ公報
出航間モナクノ輸送船爆沈ニ依ルト
同日 豊川海軍工廠ヘノ空爆
女子挺身隊員及ビ小学生二千四百余名爆死
ソノ事ハ伝ワラズ焼ケ焦ゲタ樹ノ枝ニ生首卜脚部ガ
吊下ルノヲ見タト
逃ゲ戻ッテ来タ少年工ノ伝聞ノミ
一日遅レノ 八月九日 ナガサキニ新型爆弾
ソ連軍国境ヲ越エテ侵攻中卜
掩蓋壕上ノ小サナ南瓜
コレヲ最期卜雑炊ニ入レル
葉卜蔓ノミガ後ニ残ッタ
十四日深夜
知人ノ将校来宅シ父卜密談
(コノ時父ハ敗戦ヲ知ッタ)
翌十五日正午
玉音放送
雑音ノ中ノ不思議ナ声
「堪エ難キヲ堪エ」玉砕セヨト聞コエタガ
終ッテ父ハ敗ケタト呟キ
集マッタ近所ノ大人達ハ 黙ッテ立チ去ッタ
私ハ突嗟ニ山中ヘノ逃亡ヲ思ッタ
ソレカラ思考ハ真昼の輝キノ中デ欠落スル
気ガツクト
日ヲ浴ビテ 空ヲ仰イデイタ
誰モ死ヲ怖レテ逃ゲルコトハナカッタ ソレハ国ガ亡ンダカラダッタ
コレマデ味ワッタコトノナイ不可解ナ愉悦ニ襲ワレタ
私ハソレヲ「永遠」ト称ンダ
シカシ本当ハ束ノ間ダッタ
「文化国家」「平和国家」「デモクラシー国家」矢継早ヤニ「国家」ガ復活シタ
ソレニツレテ 私ノ「永遠」ハ遠離リ
姿ヲ消シタ

 紹介したのは、NHK教育テレビ「こころの時間」でも採り上げられた詩集『流転/独一』の続編とも言うべき長編叙事詩の一部分です。「聖考 壱七 今 跡なき世界の扉がひらく」は、一遍上人の入滅後を描いていますが、作者の幼年時代も綯い交ぜになった構成になっていて、700年余を隔てた二人に共通するものが浮かび上がってきます。
 ここでは幼年時代の回想部分を紹介してみましたが、「国ガ亡ンダカラ」「コレマデ味ワッタコトノナイ不可解ナ愉悦ニ襲ワレタ」というフレーズに、国家とは何かと考えさせられます。おそらく一遍上人の遊行ともつながるものでしょう。最後の「私ノ『永遠』ハ遠離リ/姿ヲ消シタ」重みも感じさせる作品です。



   
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