きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.4.28 富士・芝桜




2008.5.12(月)


 その2



個人詩誌『砦』創刊号
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2008.5.15 沖縄県南城市
橋渉二氏発行 非売品

<目次>
グロリア参部作/橋渉二
 バベル 2  グロリア 8  クルス 16
あとがき 21



 バベル

城は嫌いだ
大阪城も高知城も白鷺城も
オキナワの復元された首里城も嫌いだ
その城には人間の汚れた真っ赤な血が塗られている
オレは若いとき日本中をさ迷い歩いた
山々を 海辺を 川岸を 断崖を 砂山を
いけにえを求める草むらの海の上を
さ迷い歩く丸木船だったオレは小さな箱船だった
都会に寄港するとき ついでに城を見てやったが
城は晒し首のように醜い 城なんて嫌いだ嫌いだ
ああ城のまわりにいるどんな人間の目も傷だらけだった
世を支配する悪霊の圧倒的な凄腕の暗黒に叩かれた目だ
オレは号泣した 都会の埃と塵芥にまみれた若いオレは
公衆便所の個室に隠れて号泣する便器の上の豚だった
そして今あまり若くはないオレには家を建てる金はない
いまだにアパート暮し 家を建てる金などないのだ
家を建てる金は インドへ スペインへ モロッコへ
フランスへ イスラエルへと渡る路銀となって消えた
もし旅などしなければ小さな城ぐらい造っていたのかも
いや「もしも」なんていうケチくさい考えはやめよう
「おお季節よ、おお城よ、無疵な心があるものか?」
とうたった奴がいるが 泣かせるぜ その切ない思い
奴の『地獄の一季節』は悲しくて嫌いだ もう読むまい
『地獄の一季節』は奴にとって城なのかもしれぬ
奴はそこに籠城してみずからを呪ったのかもしれぬ
だから悲しいのだ 城とはもともと悲しいものなのだ
人間の手によって造られた物がすべてむなしいように
どんなに立派で美しくみえる城でさえ
天地の造り主より賜ったコスモスの カランコエの
インパチェンスの花ほど 美しくはない
この世の城という城はすべて醜い すべて愚かだ
城は嫌いだ 城なんてすべて嫌いだ嫌いだ
ずての城が崩壊するときがやがて来るだろう
あのバベルの塔のように呪われるときが
だがオレは呪いはしない オレはそのときを待っている
密かに泣きながら また祈りながら祈りながら

 新しい個人詩誌の創刊号ですが、あとがきでは「個人詩誌を創刊した、という気負いのようなものはない。(中略) このあと、二号、三号を続けるかどうかも考えていない。」と、至って冷めた口調です。いま流行のパソコンによる出力ではなく、すべて手書き、表紙は手作り版画の貼り付け、中に添えられている絵はカラーコピー、またはモノクロコピーという冊子です。おそらく100部も作っていないのではないかと想像されますし、相当な負担だろうと思います。しかし、現在の日本では貴重品と云えますから、ぜひ今後も続けてほしいものです。ちなみに誌名は詩編九・10「虐げられている人に/主が砦の塔になってくださるように/苦難の時の砦の塔となってくださるように」から採られているようです。

 ここでは巻頭の「バベル」を紹介してみましたが、もちろん原本は手書きですからスキャナーのOCRでは読み取れず、私の手入力です。力勁い手書き文字に比べると数段落ちますけど、「城は嫌いだ」という真意は読み取ってもらえると思います。「人間の手によって造られた物がすべてむなしいように/どんなに立派で美しくみえる城でさえ」、「城とはもともと悲しいものなのだ」というフレーズは、人間の文明の危うさを謂っているように思いました。



詩誌『木偶』73号
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2008.5.10 東京都小金井市
増田幸太郎氏編集・木偶の会発行 500円

<目次>
サクラさく/天内友加里 1         白い部屋/野澤睦子 3
地球/荒船健次 5             ポエトリー・リーディングでいつも感じること/中上哲夫 7
夢語り/川端 進 10            蒿里考/藤森重紀 13
桜よ あなたは/落合成吉 15        父/土倉ヒロ子 17
みあれ/広瀬 弓 19            Dos Hombres 二人の男/田中健太郎 21
今も踊るリル/沢本岸雄 23         僕は恥ずかしくない/乾 夏生 25
賭ける/仁科 理 29            その声は四月の空にありました/増田幸太郎 31
受贈誌一覧 34



 サクラさく/天内友加里

目の前は絵葉書か
真っ青な空に
満開のサクラ

ハローワークに向かって
就職難民が集まって来る
何処に春が来たのでしょうね
寒いですね

パソコンの画面では
給料や職種を選ばなければ
六千件職が有ることになっているが

スキルが無い 免許が無い 資格が無い
若さが無い 元気が無い 何も無い
貴方は駄目です
各会社名が連呼する

パソコンに目を覚ませと
顔をたたかれた
就職難民がハローワークの前でうずくまる
頭の中ではパソコンの中の給料が渦巻く
税金と家賃引いたら三万円残るかな

もうすぐ顔を殴りつけられて
サクラの花が落ちる

 2006年に初めて失業という状態を経験した私には身につまされる作品でした。定年退職扱いでしたから「ハローワーク」に行っても、ある面では気楽だったにも関わらず、「パソコンの画面」の「給料」には驚かされました。まさに「税金と家賃引いたら三万円残るかな」という金額が目白押しだったのです。今までの自分の、甘い境遇を「顔を殴りつけられ」た思いで見た記憶が蘇ります。
 この作品は「目の前」の「絵葉書」のような風景と「何処に春が来たのでしょうね/寒いですね」と言う「就職難民」を対比させた秀作ですが、「スキルが無い 免許が無い 資格が無い/若さが無い 元気が無い 何も無い」という圧倒的多数の人たちをうたって、国の無策を告発したものになっていると思います。「満開のサクラ」が「落ちる」のは自然の法則ですけど、人間の世にそれがあってはならないと感じさせられた作品です。



詩誌『詩区 かつしか』105号
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2008.5.20 東京都葛飾区 池澤秀和氏連絡先 非売品

<目次>
小川 哲史 トキばあちゃんの唄/菖蒲二番花 小林 徳明 育む/画竜点睛
しま・ようこ キロクZ           みゆき杏子 五霞(十五)−春−
工藤 憲治 世にも残酷な物語/女      内藤セツコ じえーろ
石川 逸子 さくら さらさら        池澤 秀和 たなごころ
堀越 睦子 カラスに告ぐ          青山 晴江 野に近く
森村 孝吉 歌               まつだひでお 人間107 後期老人の死/人間106 ケロイド(5)



 野に近く/青山晴江

もう少し背が高ければ
もっと空に近づけるのに
私は地に近く
川の流れに近い

もう少し高かったら
より広く見渡せるのに
私は野に近く
大きな木を見上げてばかりだ

 そんなある日
 ある所で集まりがあって
 人と人との間の吊橋が
 きしきしと軋みはじめ
 風がざわざわと吹き荒れた

その晩
しょんぼり沈んでいると
チリンとかすかな音がした
遠く置き忘れてきた
小さな鈴だ

高い木のてっぺんからは
たぶん見えない
下草に揺れる
小さな
ちいさな鈴だった

 「もう少し背が高ければ」、もう少し鼻が高ければとは誰もが思うことでしょう。その反対として「私は地に近く/川の流れに近い」としたところは見事な表現だと思います。「私は野に近く/大きな木を見上げてばかりだ」というフレーズも佳いですね。
 場面は変わって、「ある日/ ある所で集まりがあって」、たぶん嫌な思いをしたのでしょう。しかし「その晩」「小さな鈴」を発見します。「高い木のてっぺんからは/たぶん見えな」くて、「野に近」い「私」だったから発見できたのだ、ということで終わりますけど…。
 ここで気をつけなければいけないのは、「小さな鈴」は新たに発見したものではない、ということです。鈴は以前から持っていて、いつの間にか「遠く置き忘れてきた」だった、と解釈すべきでしょう。なぜ「遠く置き忘れてきた」かは、「人と人との間の吊橋が/きしきしと軋みはじめ/風がざわざわと吹き荒れた」場所に身をおいていたからで、そのことを発見したのが「小さな/ちいさな鈴」の喩のように思います。構造としてもよく出来た作品だと思いました。



   
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