きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.4.28 富士・芝桜 |
2008.5.21(水)
特に予定のない日。終日いただいた本を読んで過ごしました。
○個人誌『風都市』18号 |
2008春 岡山県倉敷市 瀬崎祐氏発行 非売品 |
<目次>
忘備録SIDEA・迂回…瀬崎 祐
夜の木々…石部 明
忘備録SIDEB・秘匿…瀬崎 祐
□寄稿者 石部 明
「バックストローク」発行人 「MANO」会員 ふあうすと川柳社同人
□写真・装丁 磯村宇根瀬
忘備録 SIDE B・秘匿/瀬崎 祐
どうしても隠さなければならないことがある だから 私はあえぎ
ながらここまで登ってきた ものごとを隠すためには人々の声から
離れなければならない ここからは遙か下にきらきらと光る川面ば
かりが見える 石だらけの山道の両端は雑草に被われている あた
りに人影がないことを確認してから 雑草に埋まるようにのびてい
るコードの束をさがしだす いくつかの色に塗り分けられたコード
のあるものを切断して 伝達されようとしているものを止めなけれ
ばならない 切断器にコードを挟み 力を入れるとカチッと音がす
る このときに遠くの街で動かなくなったものがあるはずだ しか
し
切断されたコードの断面を見ているうちに
残さなければな
らないコードまで切断してしまったことに気づく 遠い街で私の大
切な人までが困ってはいないだろうか いそいでコードを結んで
みるが こんなことでよいのだろうか 背後をウサミさんが通りか
かり どうしたんですかと明るい声で尋ねてくる ウサミさんの愛
称はウサちゃんだが どちらかと言えば尖っている部分が多い 気
分がのると片肌を脱いで踊り始めるときがある 恋人は遠くにいる
のでたまにしか会えないらしい 私が こんなわけでと 説明しな
がらコードを持ち上げようとすると どろっとしたものが付いてく
る 腐り始めた小動物の死骸が溶けはじめているのだった なぜ臭
気がしないのだろうといぶかしく思っていると ウサミさんが ほ
ら これで大丈夫ですよ と紙粘土でトンネルをつくり 切れたコ
ードをその中へ隠す そんなことでいいんだろうかと 私は心配し
てみせるのだが 実は 見えないところではコードが繋がったこと
を知っているのだった
忘備録 SIDE A、SIDE
Bとおもしろいタイトルの作品ですが、ここでは後者を紹介してみました。まず、「ものごとを隠すためには人々の声から/離れなければならない」というフレーズに惹かれました。考えてみれば人々の声に近いところ≠ナ「秘匿」はやらないわけですけど、そんな当たり前のことを改めて教えてくれるのも詩の魅力だと思います。
最後の「紙粘土でトンネルをつくり 切れたコ/ードをその中へ隠す そんなことでいいんだろうかと 私は心配し/てみせるのだが」というところでは、「ウサミさん」の稚拙さに思わず笑ってしまいましたが、実は「見えないところではコードが繋がっ」ていることはよくあることで、私たちは他人がやった見えない作業の結果で生きているようなものだと気付かされました。だから稚拙さを笑えないのです。今はそういう世の中なんだと知らされた作品です。
○詩誌『山形詩人』61号 |
2008.5.20 山形県西村山郡河北町 高橋英司氏編集・木村迪夫氏発行 500円 |
<目次>
詩●つき/平塚志信 2
詩●涙痕/佐野カオリ 4
詩●百七段/高橋英司 8
詩●吹く春が/木村迪夫 10
詩●これでは詩人が居ないことになる、この土地には/大場義宏 14
評論●超出論あるいは春という幻 吉野弘詩集『感傷旅行』論/万里小路譲 16
詩●さわる・春の夢に/近江正人 22
詩●遠い都/山田よう 26
詩●母語・方言による詩らしきもの8 最上川/島村圭二 28
詩●初期詩篇4 ジョルジュへの手紙/高啓 31
詩●小詩集 いろはにほへと/菊地隆三 34
論考●(承前)詩人としての真壁仁論デッサンの一試み−『日本の湿った風土について』のあたりで−/大場義宏 40
後記 47
百七段/高橋英司
兼好法師はふと小耳にはさんだ
女たちが雑談に興じていて
どこそこの店のパスタが絶品だとか
課長の服装がどうだとか
あれこれ言い立てている
堀川課長はファッションセンスがよいだけでなく
時々気のきいたことを言う
九条君は姉妹に恵まれていたので
女心がわかるらしく如才ない
山階さんはシャイな性格なので
新入りの女性社員との会話でも緊張している
兼好法師は考えた
男は女にもててなんぼのもの
当意即妙の言葉を用意しなければならない
見てくれにも気を使わなければならない
ぶすっとしていてはいけない
髪の毛にふけを溜め
よれよれの背広とネクタイではいけない
兼好法師はうんざりしながらも
無粋と陰口を叩かれようが
ずぼらで気兼ねなく暮らせる身上を
ばくぜんと夢想した
迷いの元は遠ざけるに限る
タイトルの「百七段」は「兼好法師」の『徒然草』から来ていると思います。内容もズバリ「百七段」の現代版と言ってよいでしょう。「堀川課長」は堀川内大臣、「九条君」は九条太政大臣、「山階さん」は山階左大臣と採ってよいと思います。もちろん「新入りの女性社員」は新任の女官でしょう。
『徒然草』をまじめに勉強したわけではありませんから自信はないんですが、「百七段」はおそらくここに書かれた通りなのでしょうね。最終連の「迷いの元は遠ざけるに限る」は、女性に関しては赤面ばかりの私にキツイ言葉でした。でも、楽しんで拝読した作品です。
○季刊詩誌『詩と創造』63号 |
2008.5.20 東京都東村山市 書肆青樹社・丸地守氏発行 750円 |
<目次>
巻頭言 詩と情況−(承前)現代詩と道化 石原 武 4
詩篇
世界の畳みかた 嶋岡 晨 6 アンバリッド駅のベンチで 原子 修 8
変幻自在 清水 茂 11 幻花 比留間一成 14
音の寓話 岡崎康一 16 瞬かぬレーニン 弘津 亨 19
歌声/黒眼鏡 山本沖子 22 地霊頌(ゲニウス・ロキしょう) id 凍る 内海康也 24
ブランコ 長瀬一夫 26 納屋と、朝あらわれた乞食のことなど 宇佐美孝二 28
第四間氷期 こたきこなみ 31 浅い春 小柳玲子 34
テーブルの上の根付の国 相沢正一郎 36 ]さんの死に水 古賀博文 39
黄金の橋 中村不二夫 42 未来という名の女の子 苗村吉昭 44
よろきの浜点描 黒羽英二 47 石かぼちゃ 万亀佳子 50
春のことごと 岡山晴彦 52 それらはこちらに向かって 清水弘子 54
短詩抄 丸地 守 57
エッセイ
むだまら詩論 嶋岡 晨 60 感想的エセー「海の風景−海やまのあいだ」X 岡本勝人 66
吃立する精神 シェイマス・ヒーニーの詩(14) 水崎野里子 75
プロムナード 笑撃 こたきこなみ 78 空気を読む 黒羽英二 79
美術館の椅子 金刀比羅宮書院の美展を訪ねて 牧田久未 80
現代詩時評 詩魂を慰め、癒しや励ましを与える詩群 古賀博文 84
海外の詩
プッサンの三つの画面 イヴ・ボヌフォワ 清水茂訳 90
現代アイルランドの詩 イーヴァン・ボーランド 水崎野里子訳 94
詩集『きみはそれを信じないだろう』(二〇〇〇)より ペドロ・シモセ 細野豊訳 96
白いヌード/夜の雨/朝顔の声が咲く オ・ナムグ(呉南球) 韓成禮訳 100
ちょっとどいてくださいませんか/ある惑星の朝他 コ・ヒョンヨル(高炯烈)
蜘蛛/水の枕他 パク・ソンウ(朴城佑)
新鋭推薦作品 「詩と創造」2007新鋭推薦作品 108
終の旅 K・注然/加齢の音域 松木定雄/車窓 葛原りょう
研究会作品 112
ねえ神さま 司由衣/雪の日 尾崎淑久/その うた 宮尾壽里子/梱包 金屋敷文代/椅子 寒川靖子/ざくろ 山田篤朗/潮盈珠 橘しのぶ/ままかり 室井大和/風の声 吉永正/池のほとり 池上耶素子/民話 高橋玖未子/燃える水 伊藤静/いちごミサ 佐藤史子/半ゴロシ 仁田昭子/ 母と行く道に挿まれて 鮮一孝/火の直線 一瀉千里/渚 松本ミチ子/茸狩り 豊福みどり
選・評 丸地 守・山田隆昭
全国同人詩誌評 評 こたきこなみ 132
書肆青樹社の本
書評 こたきこなみ
石かぼちゃ/万亀佳子
踏み切りのそばに住んでいた
かんかん かんかん かんかん
いつも不機嫌な父とおどおどした母
言葉を覚えない妹がいて
家の中にはいつも遮断機がおりていた
線路脇の空き地にかぼちゃを育てていた
かぼちゃのつるは夜の間に
枕木のあたりまで延びていく
死にに行く父の足に巻きついて
明日食べる実を轢かれないために
かぼちゃのつるを返さなければなない
始発列車の通る前に
半分死んだ母がぶら下がって
重いつるを
引っ張ってくるのが私の仕事だった
石のように硬い踏み切りかぼちゃに
かんかん かんかん かんかん
ひがな一日鳴っている開かずの踏み切り
レールを跨いで
妹だけが私に馴染んでいた
(詩誌「折々の」13より)
「踏み切りのそばに住んでいた」家族。「いつも不機嫌な父とおどおどした母/言葉を覚えない妹がいて/家の中にはいつも遮断機がおりていた」という境遇の中で、「妹だけが私に馴染んでいた」という最終連のフレーズに救われた思いのする作品です。昭和30年代には「線路脇の空き地にかぼちゃを育てていた」家族があったことを思い出しています。時代はとくに記されていませんが、私の小学生の頃の風景を見ているような作品だと思いました。
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