きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.4.28 富士・芝桜




2008.5.24(土)


 外出の予定がない日。終日、書斎に籠もって高村光太郎関係の本を読んだり、いただいた詩書を拝読していました。



宇宿一成氏詩集『春の挨拶』
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1998.3.21 鹿児島県鹿児島市
文化ジャーナル鹿児島社刊 1500円+税

<目次>
彼方へ 6           猫病み 10
 スプーン 14          症候群 18
  青空を畏れる 22        音楽 24
   彩光 26            祝婚 28
    石語 32            悲しみの名前 34
     憩いのメタファー 38      致死量、死に至る 40
      火の意志 46          逃げ水を追って48
ロールシャッハ・テスト 52   さびしい男 58
 孤りで狐を 62         黙祷 66
  出島商館跡 70         黒い奴 72
   誕生の陰画 74         春の挨拶 80
    冬封じ 86           少しだけ裏返して 88
     上野原 92           *あとがき 98



 彼方へ

どの径を択ぶも花野
そう呟いて少女が
コスモスの群れに混じる
大げさに手をふる姿に見覚えがある
十八歳の唇の硬さも
一輪を手折って
握りしめた形のまま風になって
彼方から押し寄せてくる

あなたが迎えたいと願った三十歳を
既にぼくは思い出にもち
嫌だねと笑っていた草野球の
みっともないユニフォームにまみれている

ポップ・フライを追って
太った遊撃手が後退する
ハーフ・ウェイから
帰塁しようと振り返ると
視線の届くグランドの隅の
ニセアカシアの根もとに
痩せた猫が横たわっている

秋の風は花びらの形になって
彼方へ
幽かな呼気を運んでゆく

 10年前に出版された第1詩集です。あとがきには「爪を切らずにいると爪の成長速度は鈍くなる。詩集出版はぼくの詩にとって爪切りに相当する作業であろう」と書かれていました。おもしろい視点で思わず納得してしまいました。
 ここでは巻頭詩を紹介してみましたが、まだ「唇の硬」い「十八歳」の「少女」が「どの径を択ぶも花野」と「呟」き、「三十歳」を「迎えたいと願った」ことに、この少女の確かな存在を感じます。「太った遊撃手」の「ポップ・フライを追」う姿と「痩せた猫」の「横たわっている」姿、この動と静、大小の対比もおもしろいと思いました。




宇宿一成氏詩集『燃える船』
かごしま詩文庫1
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2008.5.15 鹿児島県鹿児島市 ジャプラン刊
1238円+税

<目次>
なみ 8       昨日のニュース 14  帰途 18
風の日の子供 22   秒の砂を 26     大きな肩にのって 30
あなたの未来に 34  暗い海を 40     千年 46
伝承 48       故郷 50       生活 54
赤い川 58      泡の老人 60     恋人 62
雪の一日 66     扉のむこう 68    若い看護婦の肖像 70
光華園まで 76    海辺の猫 82     半島の時間 86
なびけ、山に繋がって 90          蟹 94
あらたまる 98    収支報告 102
あとがき 104



 暗い海を

陸繋砂洲の半ばが波に没していて
その砂の道の先端に立っていると
水が砂を犯すさまが
とても静かで

今ここまでの海
と目印に決めた漂流壜など
いつの間にか
違うところへ運ばれていて

やがて靴がじゅく受苦と音を立てるまで
つま先から海が
体内に侵入するまで
そう思って立っていると

朽ちた帆船が現れ
ぼくはその竜骨となって
暗い海をわたっている

この海は
十万年前に山全体を破砕した
阿多火山のカルデラの一部

その爆発規模は
ヴェスヴィオをはるかにしのぎ
サントリーニ島に匹敵する
この巨大火山の爆発周期は
十万年ほどと考えられているので
暗い海の底では今も
フツフツと
珪長質のマグマが
溜まっているのだろう

孤船
ひとりであること

来るべき破局的噴火は
カルデラ内火山のひとつ
池田湖カルデラから始まる可能性が高いと
シンポジウムで大学の先生が話していた

いつか火柱の噴き上げが
この海を干上がらせ
夜空を焦がすのだろう
くず折れた噴煙柱は
全方位に火砕流を流し
半径百キロの溶岩台地を作るだろう

そのとき私は
この海域こそが
燃える船であったと知るだろう

夜の
カルデラの底の
私をみつめる
千の目
干の星

 こちらは10年後の第2詩集です。こちらのあとがきもおもしろいので先に紹介します。
 <かごしま詩文庫の話をうかがったとたんに、じっとしていられなくなり、この数年に書いたものの中から気に入ったものを選んでみました。選ぶほど多作ではないのですが、自作を選ぶという作業は、身の丈にあった服を選ぶようで心地よいものでした。>
 なかなかの名文だと思いますね。

 さて、作品ですが、タイトルポエムはありません。あとがきでは、ダチョウが乗っている船が海に浮かんだまま燃えているという夢を見たので、それを詩集のタイトルとしたとあります。それもありましょうが、私は紹介した「暗い海を」の終わりから2連目のフレーズから採ったのではないかと思っています。いずれにしろ不吉なイメージですが、それを越えるものを感じさせるのもこの詩集の魅力です。「じゅく受苦と音を立てるまで/つま先から海が/体内に侵入」しても、「孤船/ひとりであること」の強さと言い換えてもよいでしょう。「海域」が「燃える船」となるという壮大なイメージとともに忘れられない作品です。



詩誌『詩創』11号
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2008.5.31 鹿児島県指宿市
鹿児島詩人会議・宇宿一成氏編集
茂山忠茂氏発行 350円

<目次>
詩作品
定位置‥桐木平十詩子 2
「九条」そのせめぎ合い‥岩元昭雄 4     生‥妹背たかし 11
音‥妹背たかし 12             「忘れていく」‥植田文隆 13
約束‥植田文隆 14             馬言葉‥松元三千男 16
掌‥宇宿一成 18              みずむし‥宇宿一成 20
パパイア‥茂山忠茂 22           そんな国‥茂山忠茂 25
少年の日の恋‥野村昭也 28         痕跡‥野村昭也 31
事実を伝えるニュースが‥野村昭也 32    人間は維でも自分の中に地中海を持っている‥野村昭也 33
さみだれ‥野村昭也 35           インスタント人間‥野村昭也 36
小詩集 神の方へ(三)‥徳重敏寛 37
ここから‥38                いつも通り‥39
改めて気付く‥40              永遠の命に‥42
ここを措いて‥43              御聖体 その一‥45
御聖体 その二‥46             今朝はいささか‥47
御聖体の許から‥49
「詩人会議」五月号より転載
うずまき‥妹背たかし 51
「詩人会議」六月号より転載
大地の証言‥茂山忠茂 52          くりかえされる永遠の中で‥宇宿一成 53
ふりむくと‥野村昭也 57          境界線‥植田文隆 58

おたよりから‥59              後記‥63
受贈詩誌・詩集‥64



 生/妹背たかし

ガンを病むようになった私は
一年先を考えないようにしている
今年一年を
しっかり生きられたらそれでいい

ちんまりした書斎には
一年分の蓄えが積み重ねられ
飾り立てられ
あとは
破り捨てられ、焼き捨てられる

それでいて
一年分の蓄えは
過去を呼び起こし
未来を呼び寄せ
私を確かに生かそうとしている
               (08・3・24)

 「ガンを病むようになった私」の「一年先を考えないようにしている」という第1連は厳粛な思いにさせられます。そして「一年分の蓄えは/過去を呼び起こし/未来を呼び寄せ」るというフレーズに、人間の「一年分」の力強さを感じました。さらに「私を確かに生かそうとしている」のは「積み重ねられ/飾り立てられ」た「一年分の蓄え」であるところに、詩人としての矜持をも感じることができた作品です。



   
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