きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
080428.JPG
2008.4.28 富士・芝桜




2008.5.30(金)


 午後から湯河原町の「グリーンステージ」に行って、西さがみ文芸愛好会会員・櫻井千恵さんの朗読の会に参加してきました。今回は櫻井さんの前に、同じ西さがみ文芸愛好会のM女史の朗読がありました。これまで何人かで朗読の練習をしてきたそうで、今回はそのお披露目です。渡辺一枝さん(椎名誠夫人)のエッセイから3分ほど。初回ですから緊張もあったでしょうが、まったくそれを感じさせず、声もよく通って堂々としたものでした。これからも順番に短い朗読をやるそうですから、参加する楽しみがまたひとつ増えました。

080530.JPG

 今日の櫻井さんの朗読は、藤沢周平の「秘密」から。リーフレットの言葉を借りれば<由蔵は衰えた頭の中で、おぼろな記憶をまさぐっている。あの秘密を共有した呉れたのは誰だったのかと…。人はその一生に、隠し事のひとつや二つは持っているのでしょうか。>となります。手代のころの由蔵は、まめに働いたのが主人に認められ、外回りの仕事を任せられるようになりました。そんなある日、得意先の旗本屋敷に品物を届けた帰りに、足軽に誘われ、賭け事に引き込まれてしまいました…。おなじみ藤沢周平の世界が淡々と述べられて、いつの間にか自分が主人公に…。今日も楽しませていただきました、ありがとうございました。



詩誌『方』136号
hou 136.JPG
2008.4.30 仙台市若林区
今入惇氏方・「方」の会発行 500円

<目次>
時評 三人の女人…笹子善美江…表紙裏

いち・にい・さん/仮腹…佐々木洋一…2   気配…柏木勇一…4
七草…大沼安希子…6            つちのえね…笹子喜美江…8
小鳥の実…梢るり子…10           絆…大手礼二郎…12
日だまり…木村圭子…14           八十路にて…高澤喜一…16
美しき米寿の母…日野 修…18        「なんとなく馴染んでいたら」…北松淳子…20
雪/「日記」…高木 肇…22          花より紅く…砂東英美子…24
アダージョ…神尾敏之…26          雲よ/白い地図…今入 惇…28
エッセー
日中現代詩人朗読会2007 in 仙台…大手礼二郎…30
島崎藤村との出逢い…木村圭子…31      思い出すままに…今入 惇…32
随筆二題…大沼安希子…33
あとがき…34                住所録…裏表紙



 いち・にい・さん/佐々木洋一

いち にい さん
愛されない

よん ご ろく
少し愛され

しち はち きゅう
愛されて

じゅう
虐げられる

風は序列を運ばない

ゆめは差別を行わない

ひとは
ひととひとが交わった時から

序列が生まれ

物語を語りはじめた時から差別が生まれ

じゅういち じゅうに じゅうさん
生かされず

じゅうよん じゅうご じゅうろく
生き地獄

じゅうしち じゅうはち じゅうく
知らんぷり

にじゅう
殺される

後を風が縦横無尽に吹きぬけ

あとからゆめまぼろしが駆けぬける

ひゃく
百鬼夜行の死後の闇

 今号の巻頭詩です。数え歌として書かれていますが、「ひとは/ひととひとが交わった時から//序列が生まれ//物語を語りはじめた時から差別が生まれ」というフレーズは怖い視点だと思います。「ひと」の持つ「序列」や「差別」は宿業なのかもしれません。
 作品としては最終連の「ひゃく」がよく効いています。「百鬼夜行の死後の闇」は、実は現世から続いているのかなとも思った作品です。



詩誌『驅動』54号
kudo 54.JPG
2008.5.31 東京都大田区
驅動社・飯島幸子氏発行 450円

<目次>
三好達治の回想 「日本現代詩人会」創立「準備会」の記録/長島三芳 16
書評 忍城春宣詩集『須走界隈春の風』 忍城春宣の原郷 須走/星 肇 22
現代詩と「笑い」(九)/周田幹雄 28

美術館の留守/長島三芳 2         義経伝説異聞/池端一江 4
視力/飯島幸子 6             猟師/忍城春宣 8
砲音
(つつおと)/忍城春宣 10         騒然たる老後/星 肇 12
爪切/星 肇 13              俺/星 肇 14
文通/周田幹雄 35             寝相/周田幹雄 35
見栄っぱりは文化である/中込英次 38    
バンコク通信 王様の誕生日/石川文絵 40
バンコク通信 結婚式/石川文絵 42      猫かわいがり/小山田弘子 44
野の花/小山田弘子 45           丸いものと 四角/金井光子 46
断片・十五歳の試練そして決断(三)/飯坂慶一 48
断片・小学校時代の恩師(二)/飯坂慶一 50  危うさ/内藤喜美子 52
同人住所・氏名 54
寄贈詩集・詩誌 54
編集後記                  表紙絵 伊藤邦英



 文通/周田幹雄

 後期高齢の上、雀の涙ほどの年金で、
 連れ合いにも先立たれ、ひとり暮らしなので、
 今後、年賀、時候の挨拶、詩集、詩誌の御礼など一切失礼したい。
というあなたからのお葉書、拝見いたしました。
私もあなたと全く同じ境遇ですので、
あなたのご意見に、全面的に賛意を表します。
今後、あなたとは親しくお付き合いができそうです。
あなたからのお便りを鶴首いたしております。

 今後「一切失礼したい」という文面の葉書に対して、「全面的に賛意を表します」から「あなたとは親しくお付き合い」したい、「あなたからのお便りを鶴首」して待っています、というユーモアあふれる作品です。しかし、この「今後、年賀、時候の挨拶、詩集、詩誌の御礼など一切失礼したい」という気持ちは、「雀の涙ほどの年金」さえまだ貰えていない私にはよく判りますね。現役時代とはまったく違うのです。
 まあ、個人的なことはさて措いて、それでも「今後、あなたとは親しくお付き合いができそうです」というフレーズにこの作品の眼目があると思います。ただのユーモアではないものを感じます。詩人同士のつながりは、実はそうやって出来ていくのだということも教えられる作品です。



個人詩誌if19号
if 19.JPG
2008.5.31 広島県呉市   非売品
ちょびっと倶楽部出版・大澤都氏発行

<目次>
夢を書くひと 木川陽子(三) 紫陽花/木川陽子 1
おばちゃんのいるところ 5
お祈り 8
豆電球 11
ちょびつれづれ 14
ifつれづれ



 豆電球

夜中にトイレに行きたくなるかな、と思って蛍
光灯の豆電球をつけたまま寝た。
布団の中でわたしは上を向いている。部屋の景
色が見える。家具やたくさんの本たちが橙色に
染まっている。
それだけだ。何かが起こるわけではない。
でも……
これは夢だ! 夢で現実と同じ部屋が見えるん
だ。
以前 四人のおばあさんが 押入の中でにやにや
笑っているのを見たことがある。水害で人骨が
床下に流れ込んでいるのかもしれないと悩んだ。

夢は怖い物。
目覚めなくてはならない。
絶対に。
目は閉じているのに見えるなんておかしい。
目を開ける。橙色に染まった部屋が見える。ん?
わたしはまだ眠っているではないか。
えいっえいっ。
わたしは夢の層を一つずつ上がるしかなかった。
本当の現実を見つけるしかなかった。
これを書いている今は夢の層の一つなのか?
現実なのか?
夢と現実の違いがわたしにはわからない。

呼吸が浅くなっていく。目を覚ますのをあきら
めたら死ぬのかなあ。死はこうやって来るのだ
ろうか。それなら怖くない。
ても今はまだ死ねない。だから目を覚ますのに
必死になるのだ。

 「蛍光灯の豆電球」と「夢」を組み合わせたおもしろい作品だと思います。「これは夢だ!」という思いは、たしかに夢を見ながら何度も経験していますね。夢を見ている自分を夢の中で観察するというのもおもしろいものですけど、ここでは「夢は怖い物」とし、「目は閉じているのに見えるなんておかしい」としているところに個性を感じます。いずれにしろこの作品はタイトルの「豆電球」によって成功していると思いました。



   
前の頁  次の頁

   back(5月の部屋へ戻る)

   
home