きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.4.25 柿田川




2008.6.6(金)


 四季派学会東京事務局・影山恒男事務局長より、2008年度夏季大会の案内をいただきましたのでお知らせします。村山は都合が悪くて参加できませんが、ご興味のある方は 
cfj84000@par.odn.ne.jp へお問い合わせください。



    
四季派学会 2008年度 夏季大会

日 時 2008年6月21日(土) 午後12時30分より受付 
                  午後1時より
会 場 大妻女子大学 A棟 336教室
    〒102-8357 東京都千代田区三番町12
     ・JR中央線(各駅停車)市ヶ谷駅下車徒歩10分
     ・地下鉄新宿線・有楽町線・南北線市ヶ谷駅下車(A3出口)徒歩10分
     ・地下鉄東西線九段下下車(2番出口)徒歩12分
     ・地下鉄半蔵門線半蔵門駅下車(5番出口)徒歩5分

 (司会・進行) 栗原飛宇馬 五本木千穂
開会の挨拶  大妻女子大学短期大学部 渡部満彦

[ 研究発表 ] 
 その後の立原道造  東京大学大学院修士課程 名木橋忠大
   (休 憩)
[ シンポジウム ]
 鈴木亨(1918〜2006)の詩作と研究
   司会    芸術文化教育研究所理事 影山恒男
   パネリスト     元玉川大学教授 川田靖子
   パネリスト      大谷大学教授 國中 治

閉会の挨拶  四季派学会会長 杉山平一


☆ 大会終了後、本館地下ホールにて懇親会を開きます。
☆ 当日午前11時より、理事会をA棟356教室にて開きます。

問い合わせ先 
cfj84000@par.odn.ne.jp  影山恒男




『四季派学会会報』平成20年春号
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2008.5.1 京都市北区 四季派学会関西事務局発行 非売品

<目次>
時代の風物と詩/杉山平一 1        中原中也の生誕百年/長沼光彦 2
「闘う」面がまえ/服部光中 2       「山の樹」の頃/春木節子 3
詩人と「知られざる神」への思い/富田裕 4 郷愁との距離――三好達治の足跡を訪ねて/山本愛子 5
【関西事務局での二年間を終えて】
四季派学会に思うこと/石橋紀俊 6     四季派学会運営委員を終えて/渡邊浩史 6
四季派学会の思い出/竹島千寿 7
【関西事務局活動報告】 8         
四季派学会二〇〇八年度夏季大会 10



 時代の風物と詩/杉山平一

 この春、読売新聞の「編集手帖」が私の「桜」という詩を取上げて下さった。
 この詩は60数年前、「四季」の津村信夫さんが朝日新聞に送ってくれたものだった。それが陽の目を見たのが、なつかしくもあるが、おどろきだった。
 というのはこの詩のむすびは
  みんながこゝろに握つている桃色の三等切符を
  神様はしずかにお切りになる
  ごらん はらはらと花びらが散る
 となっている。
 この三等切符を編集氏は三等列車という言葉を使ってうまく解説して下さっていた。
 私のおそれていたのは桃色の三等切符というのは今の人にわかるだろうか、ということだった。
 つまり昔の国鉄の切符は一等が白、二等がブルー、三等が桃色だった。その上改札で切符は挟みでパチンパチンと切られる。その端の切り落とされた桜色の小片が花びらのように散るというイメージであった。車輌の窓の下には一等は白、二等はブルー、三等は赤の色の帯が描かれていた。そんなことを知らない若者に意味が分らないから、現代からは捨てられる詩だと思っていた。
 というのも、その頃書いた「黒板」という作品で、「自分は眼を閉ぢる まっ黒のその黒板を前にして」 云々というフレーズがあるが、時代がすゝんで黒板の色がブルーになってしまい、しよんぼりしてしまっていた。また「ストーブ」という詩では、こゝろの憂鬱を、黒い石炭を一杯つめ込んでくすんでいる状態にたとえて、「けれども燃えるぞ 今に声あげて燃えるぞ」と、意気がった作品だが石炭ストーブ(だるまストーブ)なんて知らない若者だらけの時代になって取のこされた思いだった。
 そんな思いでいたところ、桜の切符も、いまに通じるのを知ってホッとしてきた。
 以前、「四季」の会で、私が「ハーレーダビットソン」という名を口にしたところ、若い人がエーッと驚きの声をあげた。老人がそんな乗りものゝ名を知る筈がないと思っていたらしい。そこで私は、子供のころ、自転車のくるまにボール紙をはさんで、ブルブル音をさせてオートバイを気どって遊んだことを話したりした。米兵からチョコレートをもらって感激した子供らは日本には、そんなハイカラなものはないと思っていたのだろう。高村光太郎の大正時代の詩にはコーラが出てくるし、宮沢賢治の詩には、たしかステッドラーのエンピツが出ていたような気もする。つまり「丸善」という洋書店がどんどんハイカラのものを輸入してくれていたのである。
 つまり時代が移り変っていても、人間というもの、そのこゝろを描いていると、時代をこえて通用するものである。
 さきごろ私の処女詩集「夜学生」を縮刷して再版したが、その小型本を袖珍版と名づけたが、何のことゝきく人があった。紬で涙をぬらすという袖、つまりポケット版という明治大正時代の言葉だと説明したが、床しい感じがした。ポケットという言葉も間もなく消えることだろうが、心を描いている限り詩は消えないのである。

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 前出「四季派学会2008年度夏季大会」の案内状に添えられていた会報です。四季派学会会長・杉山平一さんの巻頭言(で良いと思いますが)を紹介してみました。「桜」という詩、佳いですね。それに続いて後半に出てくる「つまり時代が移り変っていても、人間というもの、そのこゝろを描いていると、時代をこえて通用するものである」という言葉も肝に銘じておく必要がありそうです。勉強させていただきました。



隔月刊詩誌『叢生』156号
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2008.6.1 大阪府豊中市
島田陽子氏方・叢生詩社発行 400円

<目次>

三月の雪/八ッ口生子 1          やくそく/山本 衞 2
死んで花実が/由良恵介 3         朝を破る活字/吉川朔子 4
順番/竜崎富次郎 5            追慕/秋野光子 6
苺/江口 節 7              あそこ/姨嶋とし子 8
檪湯/木下幸三 9             バスから人間が落ちてきた/佐山 啓 10
存在/島田陽子 11             藍の魔性/下村和子 12
字/曽我部昭美 13             斜面・疎開地 他/原 和子 14
電話/藤谷恵一郎 16            天然仕立て/福岡公子 17
こうして突くんや/麦 朝夫 18       へんかとけんげの間は菊トリオ/毛利真佐樹 19

本の時間 20     小径 21
編集後記 22     同人住所録・例会案内 23
表紙・題字 前原孝治  絵 森本良成



 死んで花実が/由良恵介

「死んで花実が咲くものか……
 ヘルパーさん楽しい人生送っとるか
 でもな 長生きすると残酷に感じる
 この国に福祉はあるんかいなと
 疑ごうてしまう……」
口もとのつばきを拭ぐおうともせず語る
鹿児島生まれを自認するおじさんがいた
昨年の暮れ亡くなったと知らされる
生前 何度花を咲かせたのか
色あせた人生
それでも求めようとする原色

奥さんを亡くしてから
生き方を変えたという
「朝方 近くを歩いているんや
 友だちもできたしな……」
不自由な足で
生きる楽しみを見つけたらしい
花と缶ビールを土産に遊びに行った事がある
好物のマグロを頬張りながら
豪快に笑う姿を忘れない

主のいない家の前
手を合わせる私のうしろから
「身内のかたですか
 いいおかたでしたのに……」
気品のあるおばあさん
この人だろうか
散歩で知り合った友だちとは……
……いや花とは……

 死んだ私のおふくろもよく言っていました、「死んで花実が咲くものか」。久しぶりになつかしい言葉に出会いました。
 まあ、そんな個人的なことは措いて、最終連が佳いですね。「この人だろうか/散歩で知り合った友だちとは……」に続く「……いや花とは……」がよく効いていると思います。第1連の「この国に福祉はあるんかいなと/疑ごうてしまう……」は、「鹿児島生まれを自認するおじさん」に限らず、現在の年配者の実感でしょうね。そのことも考えさせられた作品です。



詩誌『烈風圏』第二期14号
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2008.5.15 栃木県下都賀郡藤岡町
本郷武夫氏方・烈風圏の会発行 非売品

<目次> 表紙写真「赤城山」 新井克幸
原爆詩集を読む 金子一癖斎 1       三月三十一日 小久保吉雄 4
赤い糸 菊地礼子 6            反逆 坂本久子 8
シルクロード 砂漠の桃源郷 高澤朝子 10  道 都留さちこ 14
ぼくはマネキンに恋をする 柳沢幸雄 16
エッセイ メダカの学校は釜の中 深津朝雄 21
雲よ たのしずえ 22
渚 松本ミチ子 24             天王山−冬そして春− 山形照美 27
水の相 瀧 葉子 32            野火/やがて遠い距離のものから/風の夜 本郷武夫 34
赤いマグカップ 白沢英子 38
死んだ耳 金敷善由 41           余笹川その後/たっくんのしんかんせん 三本木昇 44
臼(六) ジャンボンまわり 深津朝雄 48
あとがき/奥付 裏表紙



 やがて遠い距離のものから/本郷武夫

やがて
遠い距離のものから姿が消えて
水平線を見詰める人も
この場所から消えるのだ

日の光が東の方角から
物の形を描き出してくるように
脱色は左の方角から始まって
渚に立つ白い足もともつつまれる

安らかに眠っている者たちよ
形は記憶されることで死に
眠る者は眠っているものたちに
見られることなく記憶されることも無い

絵の具を食べ続けている地平の人は
日の光を追いかけ
脱色してゆく体に色を塗る
影の中に光を探し光の中に霞んで行く

 太陽の運行とヒトの死をからませた佳品だと思います。第2連の「日の光が東の方角から/物の形を描き出してくるように」というフレーズは、日の出の情景を「物の形」でとらえていて、これはおもしろい視点と云えましょう。続く「脱色は左の方角から始まって」は、正確にはとらえ切れませんが、陽の光が強くなるに従って、朝陽の与える陰影が「脱色」されていくということかもしれません。あるいは陽が沈んで色が無くなっていくことでしょうか。第3連の「形は記憶されることで死に」というフレーズはこれだけで1篇の詩になっていると思います。最終連の「絵の具を食べ続けている地平の人」とは夕陽に照らされている人のことでしょう。魅力的な詩語にあふれた作品だと思いました。



   
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