きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.4.25 柿田川




2008.6.13(金)


  その1

 明日は大阪で日本詩人クラブの関西大会が開かれます。その準備をして、それ以外はいただいた本を読んで過ごしました。



個人詩誌『魚信旗』48号
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2008.6.15 埼玉県入間市 平野敏氏発行
非売品

<目次>
見取図 1      刹那の花 4     執念 6
遊ぶ 7       地震 8       後書きエッセー 10



 遊ぶ

なるべく遠くを見ようと思う
さらなる遠くを見る
望遠鏡なしの遠景
よく語られる理想や想像の遠大な夢も
優に及ばない遥かな望郷
一億年先のことかもしれないし
一マイクロメートル先の表情
(かお)かもしれない
遠くへ行きたいという願いをこめて
人類の非望を遂げるためにも
神の領域をしたためるためにも
嘘のような幻影かもしれない
それでもなるべく遠くを見よう
背伸びして見るのではなく
身を縮めて怖れながら見るのでもなく
われ生
()れし
限りなく水脈の続くところ
いのちのかたちをしながら
自分が変わっていくその行く末の遠景を
進化といえるなら
喜びの声を殺して
まだまだ咲ける花だと
自分を元気付けるほかない
大きな星よりも地味に咲くことも
小さい菌よりも暗く輝くことも
可能な見地
(けんち)
なるべく遠くに遊ぼうと思う
戻らない子供になって

 「遠くへ行きたいという願い」は何なのかなと思います。書かれているように「理想や想像の遠大な夢」なのかもしれません。この作品では、「遠く」とは距離に限らず「一億年先のこと」という時間的なこと、「自分が変わっていくその行く末」という精神的なことにまで拡大していて、さらに「進化」まで含めたことは見事だと思います。最終部の「なるべく遠くに遊ぼうと思う/戻らない子供になって」というフレーズも佳いですね。「遊ぶ」ことの大事さを考えさせられた作品です。



『千葉県詩人クラブ会報』202号
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2008.6.15 千葉市稲毛区 根本明氏編集・斎藤正敏氏発行
非売品

<目次>
平成二十年度総会を開催 1         スピーチと朗読 2
東日本ゼミナール in 千葉 3        新会員紹介 4
岡田優子詩集『陽が昇れば』 4       山佐木進詩集『絵馬』 5
庄司進詩集『やせ我慢』 6         高橋馨詩的作品集『残月記余禄』 7
会員活動・受贈御礼・編集後記 8



 平教師/庄司 進

春は嫌いだった
新聞発表の人事は
仲間が皆えらくなった

三十年経って
やっと春が好きになった
平教師 何不自由することか
そう思えるようになって

夕暮れに
怪しく浮き上がる白木蓮
沈丁花の香り
たおやかな風
何か起こりそうな気配がして
春はいい

三十年経って
やっと

 紹介した詩は「新詩集から」というコーナーの庄司進氏詩集『やせ我慢』からとして載せられていました。「嫌いだった」「春」が「三十年経って/やっと春が好きになった」というものですが、「平教師 何不自由することか/そう思えるようになって」フッ切れたものがあったのでしょうね。「えらくな」ることより「夕暮れに/怪しく浮き上がる白木蓮/沈丁花の香り/たおやかな風/何か起こりそうな気配」を感じられることの方が大事なのではないかと、この詩は教えてくれているように思います。



詩誌『花』42号
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2008.5.20 東京都中野区
菊田守氏方・花社発行 700円

<目次>
評論
「平凡陳腐な」日常の生活と詩人であるということ−「平常底」をめぐる一考察/佐久間隆史 24
私の好きな詩人(5)ウィーンの詩人エリカ・ミテラーについて/鈴木 俊 46
私の好きな詩人(6)考察・会田綱雄/秋元 炯 50

白湯/坂東寿子 6             辻/山田隆昭 7
入学/沢村俊輔 8             ひぐらしと録音盤−北一輝の墓前にて/田村雅之 9
浦賀 走水
(はしりみず)/宮崎 亨 10      光の束/湯村倭文子 11
どうじょ(どうぞ)ほか一編/吉田隶平 12  はるちゃん/塚田秀美 13
落ちない葉/佐々木登美子 14        愁時/青木美保子 15
春待つ心/馬場正人 16           ヘソとべそ/鈴木 俊 17
ねこやなぎ/呉 美代 18          戸隠/佐久間隆史 19
天気になあれ/鈴切幸子 20         手/川上美智 21
母たちの哀歌(一) 白日の道/篠崎道子 22  電話/原田暎子 30
鳥の餌場に/都築紀子 31          ヒアシンス/水木 澪 32
花縛り/神山暁美 33            舞う桜/甲斐知寿子 34
川音/小笠原 勇 35            心または心
(しん)をうつ/石井藤雄 36
笑いと悲傷/菅沼一夫 38          不見桜/和田文雄 39
サワラケットの骸風/高田太郎 40      甲斐語のゆめ/中村吾郎 41
カラス門/山田賢二 42           石榴−死者と生者と−/平野光子 44
日の後姿を/酒井佳子 54          流水/飯島正治 55
天来 地来/鷹取美保子 56         耳の春/清水弘子 58
竹薮にひと群れの鯉/峯尾博子 60      砂洲の町/北野一子 61
百目鬼
(どうめき)退治後談/秋元 炯 62     酒気帯びの蟹縦歩きして/狩野敏也 64
江戸の夕映え/天路悠一郎 66        鳥の時間にあわせて/林 壌 68
ある離別/柏木義雄 70           紛失 あるいは 喪失/丸山勝久 72
舟の行方/宮沢 肇 74           地面の来歴/菊田 守 76
エッセイ
木の花 木の実(三)/篠崎道子 80      詩の川の辺り(3)日陰の灯り−杉克彦/菊田 守 81
落穂拾い(8)/高田太郎 82
書評 鋭い感性が描く抒情の世界 峯尾博子詩集『エイダに七時』/星 善博 78
報告 「花」平成二十年一月同人会報告/宮崎 亨 83
掲示板 84
編集後記 85



 白湯/坂東寿子

白湯
(さゆ)を好むようになった
坂道を降りながら
引き算をしている
緑茶のみどり色を引き
コーヒーの茶いろを引き
引き算のあとの透明な白湯の
味のない味わい
一日の迷いや痛めた心を
余白に休ませると
心はやわらかい夢の灯りをともす
今宵も白湯をのむ

 今号の巻頭詩です。「坂道を降りながら/引き算をし」た結果の、「透明な白湯の/味のない味わい」。この心境は、私にはまだ無理でしょうが、いずれ判る日が来るように思います。「一日の迷いや痛めた心を/余白に休ませる」というフレーズも佳いですね。ここには諦めなどは感じられず、むしろ悟りに近いものが伝わってきます。巻頭詩らしい佳品だと思いました。



   
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