きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.4.25 柿田川




2008.6.13(金)


  その2



詩誌『じゅ・げ・む』19号
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2008.6.10 横浜市港南区    600円
田村くみこ氏連絡先・かながわ詩人の会発行

<目次>
つまみ食い…林
(リン)文博(ウェンボー) 4     葉書…富家珠磨代 7
収納…宗田とも子 10            モーツァルトのいたずら…田村くみこ 12
煮豆…宗田とも子 15            メヌエット−亡き友・古沢柊一へ−…林
(リン)文博(ウェンボー) 16
夕暮れ時…富家珠磨代 18          帰郷…田村くみこ 20
弐都物語…林
(リン)文博(ウェンボー) 23
【同人雑記】…26
<田村くみこ/宗田とも子/富家珠磨代/林
(リン)文博(ウェンボー)>
全国受贈詩誌・詩集
題字 上野裕子



 煮豆/宗田とも子

スサノオのミコトの怒りに触れて息絶えたオオゲツヒメの身体から
稲 麦 小豆 大豆 が生えてきた

物語が映る水に一晩漬けて 豆を煮る
紫花豆 白花豆 うぐいす豆 目配せ豆
大鍋に レモン味 愛想笑い 空涙 を大さじ一杯 豆を煮る
火を落としてからが味の浸潤

苦味 嫌味がたどり着く前に
融和した私が溶け出して
あなたの背骨を指でたどる
振り向くあなたの足元で私は穀物となる

 「煮豆」をやったことはないのですが、「大鍋に レモン味 愛想笑い 空涙 を大さじ一杯 豆を煮る」というフレーズは判るように思います。「煮る」ということは感情も投入することではらわたが煮えくり返る≠ニいう言葉にもそれが現れているのでしょう。「火を落としてからが味の浸潤」ということも経験的に知っていることですが、化学的には分子運動の沈静化で固着することだと思います。詩としては最終連が第1連に上手く回帰させたと云えましょう。短い詩ですが、「煮豆」のように味のある作品だと思いました。



護憲詩誌『いのちの籠』9号
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2008.6.15 神奈川県鎌倉市   350円
羽生氏方・戦争と平和を考える詩の会発行

<目次>
【詩】
ひまな時には…パデル アル アッチャウィー(佐川亜紀訳) 2
楢林の彼方での蜂起…フイリップ・ジャコテ(後藤信幸訳) 4
麦踏み…渡辺みえこ 5           別れの会話…日高 滋 6
ダンス…掘内みちこ 8           二十一世紀の枕詞…佐相憲一 9
プライベート…掘場清子 10         闘うかぼちゃ…李 美子 12
森/ポタリジャンサ…崔 龍源 13      桜の花びら舞うけれど…横田英子 14
富士街道と富士町…山岡和範 15       松籟…中原澄子 16
飼育…草倉哲夫 17             南の島は…山野なつみ 18
タンポポ 基地村の女性たち…日高のぼる 19  攻められたら と言うが…寺田公明 20
石蕗の丘にて/花びら…池田久子 22     アホな火の先に…麦 朝夫 23
組織的ヒットラー…築山多門 24       あし の ひとくき(平仮名の詩)…おだじろう 25
舞鶴港…柳生じゅん子 26          花の力…水川まき 27
いのちの法…中 正敏 33          大きな仕事−ガブリエラ・ガーマングを偲んで…石川逸子 34
スイスの民家…門田照子 36         日の丸の旗…成瀬峰子 37
一○三六人の若者たちへ…坂田トヨ子 38   命の鈴…くにさだきみ 39
叔父さん…瀬野とし 40           南南東の風…奥津さちよ 41
ホイアンのランタン祭り…絹川早苗 42    嵯峨野を歩く…ゆきなかすみお 43
毀される時代…うめだけんさく 44      浦じまい…島崎文緒 45
自由…伊藤眞司 46             生か死か…池田錬二 47
コンスタブル・カントリー…三井庄二 48   カラス…吉光 悠 50
猿まわしの猿と、猿まわし…大河原巌 51   ワタシの奥に…芝 憲子 52
人間の学校 その132…井元務彦 53      修飾語…岡たすく 54
国からの贈物…比尼空也 55
【エッセイ】
ふるくならない詩「絶対的矛盾」…若松丈太郎28 日本国憲法を読む(第8回)…伊藤芳博 29
あとがき…57
会員名簿/『いのちの籠』第9号の会のお知らせ…表紙裏



 国からの贈物/比尼空也

濃霧に覆われた 広大な空地に
待機する 後期高齢者の大集団
前方に、巨大な演台と 日の丸
後方に、積荷を待つ 貨物列車
……………
台上では、軍服を着た骸骨が
しゃがれた声で演説している

「諸君!後期高齢者諸君!
 諸君は既に、充分に国に貢献した
 今や、安らかに眠る秋
(とき)である
 国は 諸君の貢献に報いる為に
 恩賜の宝物を贈る、それは
 諸君の鞄の中に入っている」

鞄?恩賜の宝物……?
肩から下がる雑のうの中に
乾パンが一袋と、一個の手榴弾
……………
演説は続く――

「世上周知の如く、明治の御代以来
 我国の国是は〈富国・強兵〉である
 今や軍費の調達が急務である
 国民の福利に回す国費は無い!
 ……………
 諸君!後期高齢者諸君!
 今や、諸君は 愛国心を発揮する
 最後の好機に 恵まれたのである」

何を言ってるんだ、この骸骨は……
後期高齢者の愛国心だと?

「諸君の生活費、医療費、年金、貯金等
 一切合切を 国に差し出して貰いたい
 それこそ、諸君が 今、為し得る
 唯一の 愛国心の発露である
 ……………
 後方に待機する貨物列車が
 諸君の乗車を待っている
 列車はアウシュヴィッツ……あ、いや、……
 靖らぎの宮に 諸君を導くであろう
 ……………
 乾パンは 途上の食糧にして貰いたい
 手榴弾の用途は 既に諸君の知る所である
 では、最後に、諸君全員の冥福を祈る!」

霧の中に日の丸がはためき
陰陰減減と君が代の曲は流れる

 ちょっと直接的すぎるかもしれませんが、「後期高齢者」医療制度の本質を見事に言い当てていると思います。国の本音は「今や軍費の調達が急務であ」り、「国民の福利に回す国費は無い!」のでしょうね。戦時中のように「諸君の生活費、医療費、年金、貯金等/一切合切を 国に差し出して貰いたい」と思っているのは確かです。消費税を3%から5%に上げる際の触れ込みは、国民の福祉のため、でした。しかし実際には大企業の税率引き下げにそのほとんどが使われてしまいましたね。本当に福祉のためだったら、後期高齢者医療制度なんてものが出てくるはずはなかったのです。その意味では国民の前にはからずも本音を曝け出してしまった制度と云えるでしょう。作品の最終連、「霧の中に日の丸がはためき/陰陰減減と君が代の曲は流れる」が、誇張でも何でもなく感じられる今日この頃です。



総合文芸誌『葦』29号
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2008.6.25 三重県度会郡玉城町
村井一朗氏発行 非売品

<目次>
□詩
ふりむけば/辻田武美…2          遅れ咲きのサザンカよ/池田みち…5
官能/武藤ゆかり…6            カラスとワタシ/岡田千香代…8
つわり/篠田みゆき…24           ノン・リセット/松沢 桃…26
声/村井一朗…30
――高校生四人集――
花/岡本千裕…12              溶けて/林 志保…14
黒板/清水紀衣…16             心の色/小川沙織…18
□短歌(遺作)父母/東 季彦…22
□エッセイ
峠の向こうへの手紙(11)/中田重顕…10    詩人の恋(35)「ヘルマン・ヘッセ」/清水 信…20



 ノン・リセット/松沢 桃

太陽のひかりを浴びることもなく
土のにおいにつつまれることもなく
髪をなでる春の風にふれることもなく
雨にぬれる木々のみどりをめでることもなく
めざめの小鳥のさえずりをたのしむこともなく

ひとり
ゲーム脳のやみにとじこもる たちつくす うずくまる

家族の顔がみえず
友のさそう明るい声がきこえず
世間のニュースがとどかず

耳はふさがれ 眼はなにも視ず 唇はかわいている
まずしい ひからびた かたくなな くらい
風景よ

いつからか

想像力は養われることなく 未発達
瞬時に反応するロボットアーム
「死」は リセットボタンで「生」をとりもどす
血のながれない 傷みのない 仮想現実
興奮だけが肥大しつづける

明日のない「現在
(いま)」のみをただよう漂流者たち

しずかに 確実に増殖する みえないアメーバ

白日におのれの姿をさらす そのときは
走る凶器 となる
感情も理性も コントロールのきかないモンスター

あなたのとなりで成長するのは そんないきものかもしれない
為体のしれない闇をかかえた狂気が侵蝕する 日常
ほら 翳がわらいかけている

愛をなくした 愛をしらない 愛をきりさく 愛がふるえている
さしのべる手は いつも遅い

 「ひとり/ゲーム脳のやみにとじこもる」人間の「明日のない『現在』のみをただよう漂流」状態を謂っている作品です。それが全ての原因とは思いませんが、「走る凶器 とな」り、「感情も理性も コントロールのきかないモンスター」が増えていることは事実でしょう。そうなったのは、最終連で「さしのべる手は いつも遅い」からだと指摘していて、これは重要なことのように思います。
 タイトルは「ノン・リセット」で、「『死』は リセットボタンで『生』をとりもどす」ことへの反語と採れます。リセットせずに現実を見据える詩人の姿を見ることができました。



   
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