きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.4.25 柿田川




2008.6.23(月)


 午後から渋谷に出向いて、ある詩誌の講師を務めてきました。先月に引き続いての2回目で、連続2回までがこの詩誌の決まりだそうです。今回は、先月託された会員作品の批評が私の役割です。5人分、6編の作品についてそれぞれA4版1枚にまとめましたので、それを配布しながら批評させていただきました。こんなに丁寧に批評してくれたのは初めて、と言ってくださいましたので、中身はともかく、まあ、なんとか義務は果たせたかなと思っています。
 いちおう今回で私の役目は終わりましたけど、とても気持のいい人たちばかりで、何かの機会があればまたお会いしたいなと感じています。拙い講師でしたが、ひきたててくださって感謝しています。ありがとうございました!

 それが終わって、天神町の日本詩人クラブ事務所に向かいました。一昨日やり残した7月例会・研究会の案内状発送の続きです。一昨日できなかった900人分の宛名シールは、昨日拙宅で作り終って、それを貼り付けました。一人でも2時間もあれば終わるだろうと踏んでいましけど、結局15時半から18時までの2時間半でした。貼り終わって、隣の宅急便センターに持ち込んでオシマイ。一日中効率良く仕事ができたなぁ、と自己満足。毎日が今日みたいだといいんですけどね。



北沢栄氏・紫圭子氏
『ナショナル・セキュリティ』
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2008.6.30 東京都新宿区 思潮社刊 2200円+税

<目次>
National Security 9  T 10        U 20
 V 34        W 44        X 52
 Y 58
エシュロン 65    悪魔と天使 73    浦島、または…… 81
装幀=思潮社装幀室



 T

 *

きみ きみ
きみって
どうしてそんな重苦しい出で立ちで
自分を縛りつけてるの?
堅苦しいったらないよ
まるで鎧
このホワイトハウスの前に集う人びとを苦しめているのは
きみが揚げる いつものプラカード
National Security
国家の安全保障だ
きみのいつもの言い草さ
Fucking!
なんとかしないと
この呪縛で
彼も彼女もガンジガラメ
安全のために 我慢?
お陰で
全世界もすっかりおかしくなる
                   北沢 栄 2006.6.1

 *

おかしくなったら
キュッと
ゆるみっぱなしの靴紐を締めなおす
ついでに頭のネジも巻きなおす
呪縛の中身はあなたの魔物
天日で干して干物にすれば
あなたはまるごと食べられる
ゆるみっぱなしの靴紐をキュッと締めると辺りは森だ
ひろがる初夏の散歩道
ひるがえる木々の葉
鱒釣りのウォールデン潮
干物になって食べられたあなたの中身
プラカードの空洞へ
(こんどは何を揚げるの)
ふいに空間が泡立つ
こちらに向かって
ヘンリー・D・ソローが歩いてくる
                   紫 圭子 6.2

 フリー・ジャーナリストの北沢栄氏と詩人・紫圭子氏による共著詩集です。2000年から2006年までの作品が載っていますが、おそらくメールでやり取りをして作品化したのではないかと思います。連詩集と考えてもよいでしょう。ここでは冒頭のかけあい≠紹介してみました。「ホワイトハウス」をからめた「
National Security」を「ヘンリー・D・ソロー」へむすびつけていくあたりが面白いと思います。違う個性の二人がひとつの作品として作り上げていく、今までとは一味違った詩集と云えましょう。



月刊詩誌『柵』259号
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2008.6.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 最後の詩壇文士との別れ 筧槇二氏追悼…中村不二夫 74
沖縄文学ノート(9) 基地…森 徳治 78
流動する今日の世界の中で日本の詩とは(43) イタリアからの平和の詩2 思い出…水崎野里子 82
風見鶏 増田幸太郎 杜みち子 深谷孝夫 志崎 鈍 渡辺正也 86
現代情況論ノート(26) 白人の時代は終わった…石原 武 88

詩作品□
松田 悦子 春に咲く 1          中原 道夫 ちっとんべー 6
江良亜来子 夕立 8            小城江壮智 祖霊 10
織田美沙子 約束 12            北野 明治 経験 他 14
月谷小夜子 流木 16            南  邦和 キチジローの海 18
柳原 省三 看病について 20        北村 愛子 弁当をつめる 22
平野 秀哉 仏 誕生 24          名古きよえ 古巣の回りは夏 26
進  一男 時と共に 28          肌勢とみ子 一週間 30
忍城 春宣 郭公 32            小沢 千恵 夏みかん 34
山崎  森 二〇〇八年のトルソオ 36    川端 律子 トランペットフラワー 38
佐藤 勝太 笑いの考現学 40        門林 岩雄 梅の咲く丘 他 42
水崎野里子 ヒロシマ連歌2 44       山口 格郎 付けが回ってくる 46
西森美智子 そいつにオレンジを 48     鈴木 一成 古本屋にて 50
秋本カズ子 乗り換え駅 52         宇井  一 卒業 54
安森ソノ子 公演前は 56          八幡 堅造 悪からず 58
今泉 協子 顔 60             三木 英治 墨雪華麗 62
前田 孝一 そめいよしのざくら 64     野老比左子 走れ 地球人 66
若狭 雅裕 鬼百合 68           山南 律子 霧の中 70
徐 柄 鎮 マチゥピチゥの夜は更けてゆく 72

世界文学の詩的悦楽−デイレッタント的随想(25)…小川聖子 90
  正統派デイレッタントを模索して 木村巽斎のエピソードから
『戦後詩誌の系譜』落穂拾い(1) 約三千の詩誌を収録、年内に取りまとめ完了…志賀英夫 96
コクトオ覚書234 コクトオの詩想(断章/風聞)14…三木英治 94
昭和の光と影 佐藤勝太詩集『夕陽の光茫』…左子真由美 104
東日本・三冊の詩集 田中健太郎『深海探索艇』 小笠原茂介『青池幻想』 松下のりを『忙中閑』…中原道失 106
西日本・三冊の詩集 上杉輝子『光と影』 岸本嘉名男『早春の詩風』 井上庚・井上泰治詩画集『おおきに』…佐藤勝太 110
受贈図書 116 受贈詩誌 113 柵通信 114 身辺雑記 117
表紙絵 野口晋/扉絵 申錫弼/カット 中島由夫・申錫弼・野口晋



 キチジローの海/南 邦和

丘の上の教会から見おろす
西海の海の色は ダークブルー
唄オラショの旋律でめくれる波頭
 参ろうや 参ろうや
 パライソ寺に 参ろうや
 パライソ寺とは申すれど
 広い寺とは申すれど‥‥

長崎から北へ 西彼杵
(にしそのぎ)半島を行く
遠藤周作が「沈黙」を書いた海だ
角力灘に面した村々には
隠れキリシタンの気配が潜む

猫の額ほどの土地と小さな竈を囲んで
貧しい信徒たちが生きて来た村
海は いまも裏切りの色を孕んでいる

転び伴天連<Nリストヴァン・フェレイラの
背信の鐘を静めた海
潜入パードレ セバスチャン・ロドリゴの
望郷の思いを帆走させた海
狡猾な目つきのキチジローが
世俗の打算を胸に徘徊した山道や浜辺
くびれた海道に〈殉教〉の物語はつづく

ぼくらの日常にも
フェレイラやキチジローは生きている
いたるところで差し出される踏み絵≠
怒りも悔恨もなく踏みながら
生きつづけるこの背徳の日々
キチジローの海は ぼくらの海
悪しき時代の海

 遠藤周作の「沈黙」を読んだのはずいぶん昔で、登場人物の名前などは忘れてしまっていますが、第4連の名前には覚えがあります。すさまじい小説でしたけど、作者はそれを「隠れキリシタン」だけの話ではなく、現代の「いたるところで差し出される踏み絵=vとみなしている点が見事だと思います。「怒りも悔恨もなく踏みながら/生きつづけるこの背徳の日々」、まさに「悪しき時代の海」を告発した作品だと云えましょう。
 なお第4連2行目の「背信の鐘を静めた海」は背信の鐘を沈めた海=Aあるいは背信の鐘を鎮めた海≠ゥもしれませんが、ママとしてあります。ご了承ください。



文芸誌『兆』138号
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2008.6.10 高知県高知市
兆同人・林嗣夫氏発行 非売品

<目次>
道照上人(落穂伝・5)…石川逸子 1
来た 来た…石川逸子 12          旅…山本泰生 14
桑…増田耕三 16              ぐじをくる…小松弘愛 18
そうじ…大ア千明 21            畑で(ほか)…林 嗣夫 24
ふるさとの山河−後記にかえて…林 嗣夫 28
<表紙題字> 小野美和



 来た 来た/石川逸子

来た
来た 来た
チンコンカンと書留で
死への督促状
後期高齢者医療証が

日の光にすかしてみると
あぶり出てくる文字
「汝 本来なれば 即刻 深山に運びて
谷底に突き落とし カラスに食わせる年齢なれども
格別のお慈悲をもって 現在地にとどめ置き
医療費等補助おこなうもの也
芳恩を謝し 一刻も早く黄泉の国へ向うべく
用意相整えるよう申し渡すもの也」

ハハアッ と平伏
横を向いてペロリと舌を出す
なかなかに食えない じじばば ではあるのだ

と 木々をゆらす 歌あり
(いくつになろうと 心は乙女 ホイホイ
 白髪になろうと 心は少年 ホイホイ)

歌に連れて 一陣の突風吹き抜け
終ってみれば
アリャリャ 後期高齢者の文字が
光輝高嶺者に変わっていた

 「後期高齢者医療証」とは「死への督促状」で、国からしてみれば「格別のお慈悲をもって 現在地にとどめ置き/医療費等補助おこなうもの」だという本質を見事に看破した作品だと思います。そういう待遇に対する怒りをナマの言葉で書くのではなく、文学的にも高めた詩と云えましょう。「なかなかに食えない じじばば」を演出し、「後期高齢者の文字が/光輝高嶺者に変わっていた」と結ぶ最終連には勉強させられました。社会批判を作品化する上でも参考にしたい作品です。



   
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