きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.4.25 柿田川 |
2008.6.28(土)
青森市在住の日本詩人クラブ会友が、地元で「自作詩を朗読する会」というものをやってきたそうで、第6回は東京でやるからお前も来い、と呼ばれて御茶ノ水に行ってきました。場所はなんと「御茶ノ水クリスチャンセンター」という、キリスト教徒関係のビルでした。教会ではなく、教徒専用のイベントホールのようでした。そんな処に私のような非信徒の悪党が入っていいものかどうか迷いましたけど、妹・義弟家族の関係で教会にも出入りしていますし、まぁ、いいかあ。
15人ほどが集まった小さな会で、朗読は牧師さんも含めて8人。作品はクリスチャンらしく誠実な詩が多くて、現代詩≠ノどっぷりと毒されている私にはとても新鮮に映りました。1時間の朗読が終わったあとは30分ほどのお話し会になり、そこでお前も何か話せと言われましたので、そんな拙い感想を述べさせていただきました。皆さんの作品1篇1篇について述べる時間はありませんでしたから、牧師さんの「健忘症」という作品を中心にお話しさせていただきましたが、これは「忘れたことだけは/こんなに しっかり/覚えている」という最終連で締められた佳品です。いわゆる現代詩≠ニは関わりのないところで、書くべき人はしっかり書いているんですね。
午後3時に始まった会は4時半に終了。厚かましく居残るのも失礼だと思って最初に会場を後にしましたが、もう少しお話ししていたかったなというのが正直なところです。でもね、お酒を呑んで騒ぐような人たちではないでしょうから、やっぱり私がいるのは場違いかなとも思っています。いずれにしろ、珍しく敬虔な気持になった朗読会でした。お呼びいただき感謝しています。ありがとうございました!
○詩と評論『日本未来派』217号 |
2008.6.15 東京都練馬区 日本未来派・西岡光秋氏発行 800円+税 |
<目次>
<眼> 朔太郎と「防火用水」/井上嘉明 表紙2
<特集> 言葉と声
言葉と声−音声芸術としての朗読/星 善博 26
言葉−声にならない声にする/杉野穎二 30
言葉と声/柳田光紀 34
詩
落花いよいよしげく/石原 武 2 わたしぶね/くらもちさぶろう 3
ひみつ/綾部清隆 4 春の一日/鈴木敏幸 6
人の生/天彦五男 7 誤解させる天才/千葉 龍 8
結晶U/森 れい 9 からっぽ/堀江泰壽 10
蹴/平野秀哉 11 死人/杉野穎二 12
眼という穴/野上悦生 14 群団の島/水島美津江 15
薤露行/川村慶子 16 帰っておいでと/岩井美佐子 17
ハープを弾く娘/福田美鈴 18 過去/瀬戸口宣司 20
人の象/小山和郎 21 冗談にしては悪い夢/金敷善由 22
空箸/壷阪輝代 23 大地へのオマージュ−エミリー・ウングワレー展に寄せて/西田彩子 24
醜悪な存在/植木肖太郎 25
<海外詩> メキシコ アンバル・パスト わたしたちが床につく前に/細野 豊訳 38
<書簡往来> ぼくも欠陥人間−酒と煙草と女性を愛した長田恒雄先生へ/中村直子 40
<詩との出会い> いつも傍らに詩集があった/建入登美 42
詩
鎮魂曲=(菫(すみれ))/木津川昭夫 44 一九四五年〜敗戦直後、陽炎/内山登美子 46
脱出について/井上嘉明 47 宿泊する旅人/安岐英夫 48
指を抱えて/小倉勢以 49 踊る/松山妙子 50
時間/小野田 潮 51 鳥取砂丘/角谷昌子 52
まだ見ぬ婦人(ひと)/磯貝景美江 53 真夜中の音/星 善博 54
女の条件/今村佳枝 55 植物極/南川隆雄 56
月とダンス/中村直子 58 白の旋律/森 ちふく 59
砂の微熱/水野ひかる 60 衛星カロン/太田昌孝 61
薤露考/藤森重紀 62 あなたにとってぼくは/細野 豊 63
時鐘は鳴らず/山田 直 64 訛の情話/川島 完 65
<ボワ・ド・ジョワ> 世界の文学の潮流と今回の受賞−第8回日本詩人クラブ詩界賞/細野 豊 66
詩
村の花見/まき の のぶ 67
和音の断片/青柳和枝 68 国境/高部勝衞 70
急ぐこともあるまい/後山光行 72 本能のままの愛猫チャロに魅せられて/島崎雅夫 73
換羽のときに/建入登美 74 馥郁/林 柚椎 75
真夜中の存在/若林克典 76 二人で一人前/宮崎八代子 77
台風の目の中で/前川賢治 78 腹を切る/石井藤雄 79
花と小鳥たちのうた/柳田光紀 80 麻痺/平方秀夫 81
ドングリ/山内宥厳 82 カフェで/藤田 博 83
寛容/菊地礼子 84 時間の音/五喜田正巳 85
古い入学/井上敬二 86 ブーメラン/伊集院昭子 87
携帯電話/中原道夫 88 仮面道場/西岡光秋 89
森
新聞を読まない勇気/千葉 龍 90 「伝承」について思うこと/綾部清隆 91
峠三吉と抒情/中原道夫 92 高見順詩集『死の淵より』のこと/瀬戸口宣司 93
ふるさと/伊集院昭子 94 微力ながら応援したい/青柳和枝 95
郵便受け/若林克典 96 旅について/岩井美佐子 97
父のメダル/西田彩子 97 私のインドネシア(W)/今村佳枝 98
足利と尊氏/菊地礼子 99
「日本未来派」創刊六十周年記念祝賀会の記/柳田光紀 101
「日本未来派」創刊六十周年記念祝賀会について/磯貝景美江 102
<参加者名簿> 103
<追悼> 戸田正敏 <作品> 穴のやうに暗い潮騒をゆらめきのうちに 略年譜 106
戸田さんと八海文庫/山田 直 108 「よくおいでなすった」/石原 武 110
魚沼の詩人/山内宥厳 111
弔辞/西岡光秋 112
<追悼> 吉久隆久 <作品> 砂の嘴
略年譜 114
主人との生活を振り返って/吉久康子 116
一冊の詩集を胸に/壷阪輝代 117
<追悼> 坂本明子 <作品> 耳閑吟
略年譜 118
坂本明子さんを悼む/なんば・みちこ 120 郷土の詩の女神・坂本明子先生/上林真理 121
最後の旅/壷阪輝代 122
弔辞/西岡光秋 123
<追悼> 南川周三 <作品> 雨の鎌倉
略年譜 124
追悼・大きな愛の詩人/内山登美子 127
天性の詩人・南川周三/鈴木理子 128
酒と梅干/植木肖太郎 129
弔辞/西岡光秋 130
<詩書瞥見>…倉持三郎・西岡光秋 113・105
書評
壷阪輝代エッセイ集『詩神につつまれる時』/西田義篤 131
藤田博詩集『マリー』/古屋久昭 132
『ロルカと二七年世代の詩人たち』アルトゥロ・ラモネダ編著 鼓直・細野豊編訳/中井ひさ子 133
短信往来137・105 投稿作品 安岐英夫・小倉勢以134 投稿時応募規定113 編集後記139
表紙・カット 河原宏治
女の条件/今村佳枝
ぬかみそを漬け
味噌漬けも奈良漬けもつけ
毎年梅干も作り
そういった物を嗜好し
炊きたてのごはんを二膳
ペロリとたいらげる女
無造作に結んだゴムを取ると
美味そうに艶やかな黒髪が
肩から背中から
たっぷりとすべり落ちる
パンを焼き
ピザもナンも焼いて
手作りのパスタも作る
そういった物を嗜好し
巧みな手さばきで
ナイフとフォークを使う女
白いレースの帽子をとると
ふわふわの綿毛のような金色の髪が
小悪魔な瞳にかかり
いたずらな風に揺れる
身勝手な女の昼さがり
どちらの女も普通のおんな
なんの主張もないけれど
子供の育て方は知っている
男の妙に伏し目な訳も知っている
第1連は母親の時代、第2連は現在の作者の時代で「どちらの女も普通のおんな」として描かれていますが、最終連の「男の妙に伏し目な訳も知っている」というフレーズには、思わずヒヤリとさせられます。女の人は「なんの主張もないけれど/子供の育て方は知っている」とだけ見ていたのではダメなんですね。その伏線が「無造作に結んだゴムを取ると」と、「白いレースの帽子をとると」にあると思いました。怖い詩です。
○詩誌『コウホネ』23号 |
2008.6.30 栃木県宇都宮市 コウホネの会・高田太郎氏発行 非売品 |
<目次>
作品
黒煙/相馬梅子…2 春・散乱/石岡チイ…4
ムツさん/片股喜陽…14 森の刻/星野由美子…16
永日/高田太郎…20
エッセイ
父の日記/石岡チイ…6 能天気の私/相馬梅子…7
小さな庭から/星野由美子…9 青春の思い出/小林信子…11
私の詩的体験(3)/高田太郎…12
連載 私の一冊一誌
『傷痍軍人詩集』(寺田弘編)/高田太郎…18
話の屑籠 同人住所録 後記 表紙 平松洋子
春・散乱/石岡チイ
工場の隅で 私はテレビの基板にハンダ付
けをしていた。薄い煙はナズナの花のように
揺れて 部品の足に小さい羽虫を留めてしま
った。基板はそのままラインの上を流れ テ
レビに組立てられた。検査を擦り抜けたテレ
ビから 散乱する春の映像は流れ始めた。
「おぶってあげよう」と云う。石切場の底
から春蝉の声が上ってきて 梅の花が散りか
かり この景色を忘れないでおこう。車の後
部座席に投げ出してあった投薬袋から すべ
り出ていた錠剤のシート。私よりはるかに若
い頃から 雪の匂いがした。私の生きてきた
時間の中で 死期の近付いている人はいつも
雪の匂いがしていた。目の前にあった耳朶を
唇にはさんで ここで息を止めようと思った
のに 瞼を固く閉じると火花のような光りの
刺が瞼に刺さり 私は白煙を上げていた。
昨夜 私と私の影を別人のように浮かびあ
がらせた満月が すっかり色を抜いて 葉の
ない欅の牢の中で溶ける寸前でいる。
==東山魁夷の〈道〉を あなたも怖いと
思いましたか==
私はこの白い道を行くことに決めている。
一両きりの車両が 行ったり来たりする線
路の土手には 菜の花が満開 養蜂家が旅に
出る日
正直なところ、読者としてはイメージが散漫になるのですが、「春・散乱」というタイトルから、それはそれで良いのだと思っています。第1連前半の「テレビから」映し出される「散乱する春の映像」、後半の「私よりはるかに若い頃から 雪の匂いがし」ていた「死期の近付いている人」、第2連の「白い道を行くことに決めている」「私」と、散漫の中にも統一された死のイメージを感じ取ることができます。最後の「養蜂家が旅に出る日」は特に良く、ここに作品が収斂されていると思いました。
○詩誌『Messier』31号 |
2008.6.30 兵庫県西宮市 香山雅代氏発行 非売品 |
<目次>
追悼 大西宏典大兄 24
内藤恵子 藤倉孚子 松尾直美 香山雅代
風に靡く草/大西宏典 2
夜の影…藤倉孚子 4 オリオン…藤倉孚子 6
皮膜…香山雅代 8 摘星樓:無口な闇夜/語りかけるひかり…香山雅代 10
マドリガル…内藤恵子 12 春がきた…松尾直美 15
風船は手から離れて…竹田朔歩 17 救急車…大堀タミノ 22
星間磁場
『海からの贈物』と現代の私…竹田朔歩…27 <夢窓>ミメーシス 1.能『隅田川』と教会劇『カーリュウ・リヴァー』…香山雅代 28俳句と詩…内藤恵子 30
風に靡く草(風信録・X)/大西宏典
風が追ってくる
はるか…西門(さいもん)へ向け 坂道を上りながら考えた
カミーユ・コローに『風』という題名の作品があった
強い風に靡(なび)く
樹木と 草原を主題としたノルマンディ地方の風景で
鉛色がかった緑と ブルーの微妙な色調が……
いまも荒涼と 草木をなぎ倒して 吹く
コローの賦(ふ)する風諭(ふうゆ)か? 風籟(ふうらい)か
そこ『モルトフォンテーヌの思い出』では
追憶の オーボエが緩やかに流れ
異なった風土クープロンでは 歪(いびつ)な樹幹をもつ槐樹(えんじゅ)も描いた
風にそよぐ樹々
蠢(うごめ)く楡(にれ)・榛(はしばみ)は からまり揺らぎながら銀灰色の空に消える
下草の ミチシバ(ハナビコメガヤ属)や
風草(かぜくさ)(スズメガヤ属)も
知らない土地では風知草(ふうちそう)であり 蕁麻(いらぐさ)でなくとも孤独であった
そんな物語の はじまる朝
妖精たちは水辺で戯れ 沈む音楽となって晩秋をよびこむ
あの草原いちめん 生い茂っていた草は…
風に靡く草 風聞草(かぜききぐさ)(萩(おぎ)の風)であり 季語は秋
思い懲(こ)る あの頃……天真爛漫(てんしんらんまん)・無知も顕(あらわ)に歌っていた
甦ってくる 厭(いと)わしい記憶のなか
「草も木も 靡(なび)き伏しけん大御代の…… と
無心に靡きざま 諂(へつら)いの詩句とも知らね……
声高(こわだか)に 空根(そらね)虚(むな)しく
風力の極みは
風を語り 風を読むことだという
いまひとたびの
風光る
ころともなれば 樹々の下草類も郡芳(ぐんぼう)として甦るだろう
('07・10刊「表情」16号所収)
今号は、この1月に79歳で亡くなった大西宏典氏の追悼号となっていました。紹介した作品は西宮芸術文化協会発行の文芸誌『表情』第17号に投稿されたもののようですが、時期から考えると、おそらく絶筆に近い詩ではないかと思います。硬質な叙情を感じさせる詩で、西洋・日本という区別なく自由な発想が見てとれます。ご冥福をお祈りいたします。
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