きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.4.25 柿田川




2008.6.30(月)


 地元の西さがみ文芸愛好会でこの秋に出版する『文芸作品に描かれた西さがみ』は、文字通り小田原地方を描いた作品を抄出して解説するもので、この地を訪れた文学好きの皆さまや文学散歩などに供しようというものです。私も何編か担当させてもらっていますが、該当本の入手・読破、該当部分の抽出に加え、あらすじや解説を書かなければいけませんから、楽しいながらもなかなか厄介です。今日はその締切日で、2本を編集長宅に届けなければなりません。そのうちの1本が昨夜し上がり、早いうちにと思って届けました。それが深夜1時半。編集長はもちろんお休みになっているでしょうから、声も掛けずに原稿はポストにぽとり。なんか空き巣狙いみたいでしたね(^^;
 もう1本は完全な締め切り遅れですが、どうにか明日中にし上げて届けたいと思っています。なんとか締め切りを守りたかったのですが、申し訳ない、ゴメンナサイ!



遠藤一夫氏詩集『ガンタラ橋』
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2008.7.8 東京都板橋区 コールサック社刊
2000円+税

<目次>
第一章 プリムラの鉢
プリムラの鉢 10   癌入院 11      小康 13
始末書 14      舟 17        抜け毛 20
北口 通用口 22   冬至 24       うた 五月に 26
山茶花 通信 28   舞茸 30       いわし雲 32
立春 前夜 35    神無月 37      それぞれの秋 38
座る 40       宅配便 43      風 46
雲 48        物心 50
第二章 阿武隈川
阿武隈川 54     ガンタラ橋 55    日のあゆみ 58
山河 61       田村のはる 64    帰郷 66
川唄 精霊流し 68  湖水伝説 71     磐梯山 73
安達太良山 76    寒い話 79      百日紅の樹の下には 82
柵 86        滝の桜 88      みどりヶ丘 点睛 91
山河(U) 93     古里 96       だるまさんの唄 98
連れ合い 101     初雪 103       仮眠抄 105
飛べない鳥 109    旅の終りに 112    風花 114
余熱          Kに 117       サチに 119
あとがき 124



 ガンタラ橋

日照
(ヒデリ)田 雨(アメ)
ガンタラ橋を渡って小学校に通った。
(シモ)田 中(ナカ)田 上(ジョウ)田 古学校跡は中間点。
(オギ)の久保(クボ)から上行合(カミユキアイ)まで
ガンタラ橋を渡る為に右廻をし
道草を食った。

小川
(コガワ)の田中屋敷に級友が住み
手代木
(テシロギ)の遠藤君とも気が合った。
大善寺
(ダイゼンジ)のお稲荷様の老藤(フジ)は半ば枯れ
谷田
(ヤタ)川の川面に西陽が映り
帰宅のおそいぼくを叱る家族が居た。

春、れんげ田の中に疲れたぼくがいて
前と後にランドセルを背負った君がいて
汗かきながら空腹だった時の空の青さを
ずっと忘れずにいるあなたのそばで
時たまにいつ死んでも良さそうな
空の青さをお腹の底にたたみこみ
生きて来たはずの君の上まぶたも垂れ気味で
遣らずの雨が猫背をぬらし
〈恐かったよね〉ガンタラ橋を渡るのは
古番線を張り ゆらゆらゆれる吊橋から
落ちないようにぼくたちは必死に足許を
確かめながら〈小さな息をしてきたよね〉。

ガンタラ橋を渡って一日が終り
ガンタラ橋は増水のたび流された。

 14年ぶりの第2詩集です。著者は福島県郡山市の生まれで、現在もお住まいですが、10代後半から20代初めには大阪で暮らし、大阪文学学校の詩コースに通って小野十三郎らの薫陶を受けた、という経歴を持っています。ここではタイトルポエムの「ガンタラ橋」を紹介してみましたが、この橋は「古番線を張り ゆらゆらゆれる吊橋」だったようです。〈恐かったよね〉、〈小さな息をしてきたよね〉というフレーズに小学生の頃の「ぼくたち」が生き生きと描かれています。第1連、第2連の地名も奏功している作品だと思いました。



倉田良成氏詩集
『神話のための練習曲集』
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2008.7.7 横浜市鶴見区 私家版 1500円

<目次>
撞球もどき 4    曲馬団 7      マジック 10
骨牌 14       taxi 19       actor 22
弔辞 25       曼茶羅 28      絵巻 32
雅楽 35       落とし噺 38     文楽 40
洛中洛外図 44    謡曲 48       説経語り 52
雨乞い神社縁起 55  神話り 60      王統紀 63
戦記 67       航海記 72      迷羊記 77
ラジオ 80      臨海電車 83     宴会 86
ウイスキー 89    parfait 91      葡萄酒 94
アリア 97      ワルツ 100      ガトー・バスク 103
石庭 106       秋の歩行 109
あとがき 112



 落とし噺

 ヲゝい、呼んでいるのが聞こえぬか/コリャ宗匠どちらま
で/多々良の浜、松浦(まつら)の海とは言わないが/ズイと足を延ば
して、てっかいが峰まで見て来やしたか/なるほど気持ちよ
い。うまく褒めれば一杯買わんでもない/それじゃア、お持
ちの道具でも褒めますかい/やってごらんな/さすれば、躙
り口から入って右に掛かるは羲之と道風の貼り交ぜ、花入れ
はありゃ常滑の古いところか、香炉は新掘り出しもんの宋官
窯の月白(げつばく)帯びで、茶筅は利休自刃のおりの切り出しづくりと
きたものだ/嘘八百おおきに褒めた/あそこの見世で一杯管
を巻かせておくんなせい/もひとつ言ったら柳樽でも諸白(もろはく)
も/では親鸞御上人のすなわち往生す、の意味を聞いておく
んなせい/じゃあその祖師西来意は/ソリャちっと違うが。
解いてみせましょう。往生は、お砂でも八助でも、スナハチ
みんな往生なんだから/お前が往生していな。後生のために
教えておくが、そんな往生をしろうるりと云うんだ/宗匠、
聞いたことがござんせん、何ですか、そのシロは/わたしも
初めて口にしたが、しろうるりなんてえものがもしあったと
したら、さだめしお前の云った往生みたいなのを指すんだろ
/そりゃまるで、かの宗祇様が問われて解いたという《ちゃ
んきのもんき》の謎でげしょう/センセイ何と解いた/富士
の雪と解いた/こころは?/はて、《なんとしても解けぬ》。
宗匠と熊五郎、昼酒の微醺のうちに礼
(いや)をして別れる。
          *謎のたぐいは『醒睡笑』『徒然革』等による。

 この詩集の副題は「
phenomena」となっていまして、それを含めて「あとがき」では次のようにこの詩集の性格を語っています。

<本書を
phenomena(現象集)と副題したのは、別にリルケの『形象詩集』の向こうを張ったわけではない。先年の詩集『夕空』のあとがきにも書いたが、現実を現象と捉え、その事実とも幻とも言いうるものを或る高みのうちに観ずる、ということをやってみたかっただけだ。
 最初のほうは試行である。実際に小さく切った紙に色の名を記し、撞球の球に見立て、あるいは本当にトランプのカードを使っておこなった「ゲーム」の報告だったりする。次の部分は憑依である。ここでは主に日本の古典世界から色んな材料を借りた。あたかも絵のように、芸能のように、神おろしのように様々な表現に憑いて、いわば私を異材にし、私の口を通して定型的表現を「語らせ」た。最後は追跡である。地図を辿るように記憶のなかの街や場所、また物語そのものをひとつのトポスと考え、その裡に自分をはなってさまよわせたときに遭遇した、いわば色んな筋、たてもの、標識、曲がり角など、できるだけ正確に追跡記述した。たとえば作品「石庭」などは、戦前に描かれた竜安寺石庭の岩の配置図を基にして成ったものだったりする。試行、憑依、追跡記述のいずれにしても、自分というものの度合いをほとんど零にまでもってゆかないと実現できない、という意味では、大いに重なる部分があるだろう。これらが「神話」という広大なパズルの一ピースたり得れば幸いである。>

 ということで、かなり実験的な詩集であり、タイトルの「
神話のための練習曲集」の意味も「『神話』という広大なパズルの一ピースたり得れば」という思いであることが分かります。ここでは「日本の古典世界から」のものであろう「落とし噺」を紹介してみましたが、新しい詩作への試みとして評価できると思います。上述の「石庭」などの作品は、今までとは一味違ったもので、お薦めの詩集です。



季刊詩誌『竜骨』69号
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2008.6.25 さいたま市桜区
竜骨の会・高橋次夫氏他発行 600円

<目次>
<作品>
石畳/上田由美子 4            昔話になったのか/長津功三良 6
虚心/今川 洋 8             飢餓の時代/友枝 力 10
一枚の板チョコ/河越潤子 12        目安箱/高野保治 14
守宮
(やもり)/木暮克彦 16           青への想い/島崎文緒 18
緋のはた/対馬正子 20           能面/内藤喜美子 22
怒りに満ちて船は出る/松崎 粲 24     カクレンボウ/森 清 26
頂戴物/松本建彦 28            長瀞点描/高橋次夫 30
追悼 西藤 昭さん
但馬の詩人 西藤さん/森 清 40      高圧線/西藤 昭 40
特集 内藤書美子詩集『落葉のとき』
内藤喜美子詩集『落葉のとき』を読む/小城江壮智 31
春をまつ、『落葉のとき』/原田道子 34
羅針儀
水中花/上田由美子 42           かかって来たよ 我が家にも/島崎文緒 43
本所・深川、隅田川(二)/高野保治 44
書窓
島朝夫詩集『供物』/木暮克彦 48      羽生康二『昭和詩史の試み』/高橋次夫 49
海嘯 齢(よわい)/高橋次夫 1
編集後記 50                題字 野島祥亭



 飢餓の時代/友枝 力

子どもの頃
こんどの戦争に負けると
日本はこんな風になるぞ
と一枚のポンチ絵を見せられたことがある
それは第一次世界大戦に敗れたドイツで
フロックコートを着た紳士が
飢えた野良犬のように
路上のゴミ箱をあさっている姿だった

それから間もなく
飢餓は日本の現実となった
子どもたちはいつも腹をすかし
やせこけて
青黒い顔をして
大半が栄養失調と宣告された
ぼくがそんな状態を敗戦国の宿命として
受け入れることができたのは
あの深刻なポンチ絵を見ていたからだろう

ぼくの世代はあの頃をよく覚えているので
その後の「飽食の時代」ということばに惑わされなかった
ぼくらの骨にはくっきりと飢餓線が刻印されていた

本当の「飢餓の時代」がもう直ぐやって来る予感がする
世界人口は増加し食糧供給は停滞している
元凶はバイオ燃料と呼ばれる怪物だ
そいつは機械文明の申し子で
人間に代わってあらゆる穀物を食い尽くすだろう

ぼくにはあの悪夢がよみがえってくるのだが
いっぽう
今のうちにうまい物をたらふく食っておこうと
身勝手な考えも頭をかすめる

 戦争中や敗戦直後の詩は多く書かれていて、ほかの書物やTVなどからもそれなりに知っているつもりだったのですが、この作品の「一枚のポンチ絵」は初めて知りました。まだまだ知らないこと、埋もれていることがたくさんあるのだなと改めて思います。
 「飢餓の時代」の「元凶はバイオ燃料と呼ばれる怪物だ」という指摘には賛同しています。Co
2を減らそうということで始まった技術なのですが、いつの間にか金儲けの手段になってしまいました。資本主義の本質的なイヤらしさを見る思いです。最終連の2行は佳いですね。ヘンに聖人ヅラしないで本音で語るところに好感を覚えました。



   
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