きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.5.3 前橋文学館 |
2008.7.1(火)
その1
昨日に引き続いて『文芸作品に描かれた西さがみ』の執筆。なんとか仕上がって、編集長宅に届けたのが午前0時。やっぱりコソコソと郵便受けに投函してきました。これで西さがみ文芸愛好会の当面の宿題は終わったわけですが、実はもう一つ大きな仕事が待っています。
日本詩人クラブでは昨年秋からこの春まで月1回の「詩の学校」を6回持ちました。毎回講師が変わって、英米詩はもちろんラテン・アメリカ、中国、韓国などの現代詩の現状を講義してもらうという画期的な勉強会だったのですが、終わったらその講義録を作ろうじゃないかという話になっていました。私は総務・スタッフとして毎回出席していましたけど、本作りは自分の仕事ではないと思ってましたから、ふーん、いいねぇ、と聞いていました。ところが予算の関係で、私が案内状などの印刷をお願いしている印刷所に頼めないかとなったのです。で、見積りを取ってみると、これが安い! 都内の3割引ぐらいの値段でした。さっそくそこにお願いすることになったのですが…。
その印刷所には毎回私が版下を作って印刷だけをお願いしています。今回もそれを踏襲しようということになって…。要は私が版下を作るということです(^^; 印刷の一番基本を引き受けてしまいましたから、これは片足どころか首までドップリと浸かったということ。総頁数80頁ほど、原稿はすべて電子化されているとは言いながら、やはり本は本です。ちょっと気合いを入れないとなあ、という1日でした。
○石内秀典氏詩集『背中』 |
2008.6.22 京都市上京区 UNIO刊・星雲社発売 2000円+税 |
<目次>
T
吹雪く夜――父のこと 10 蛍――母のこと 12
背中 14 娘のヌードそして母の・・・ 16
父の出征 18 授乳 20
父を運ぶ――認識票 22 雉子 24
残光 26 行進する木 28
柿の木のある道 31 あなたはいつも樹になっておしまいになる=@34
U
早春――蛇 42 止まる時間あるいは棒 44
距離 46 杭を打つ 49
雪の声 52 湯立祭 55
夏 逝く 58 納めの日 60
峠にて 63
V
キリンの首 68 水の空 70
興福寺 北円堂にて 73 旗 76
装備なし 78 入社試験模擬面接官 82
「スクールガード」――子供見守隊 84 壁 88
細い道 90 めじるしはあるか 93
W
昼寝 98 イノセント 100
産着の洗濯 102
やって来るものに 104
てのひら 108
石内秀典詩集『背中』の世界 薬師川虹一 113
あとがき 116
背中
ときに
静かに立てかけられた張板の様な
背中に出会うことがあった
吹雪く日
火鉢を前に
黙って座る父
しんとした背中の向こうに横たわる
父の
膨大な時間の集積
その時間を解きほぐす糸口に向き合う前に
私はすでに
父の歳にせまろうとしている
従軍し大陸で戦った父は
ただ
南京に近い農家の庭先で
藁山を銃剣で突いて
隠されたいもを探し出したという ほか
人に向けて発砲したことを
一度も言わなかった
背中は
黙していた
父よ
4冊目の詩集のようです。詩誌『RAVINE』で拝読した作品が多く収録されていて、「早春――蛇」、「峠にて」、「入社試験模擬面接官」などが記憶に残っていました。そのうち「峠にて」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、そちにもご鑑賞いただければと思います。
ここではタイトルポエムの「背中」を紹介してみました。親父の背中≠ニいうものは息子にとって一種独特の感覚に捉われるものですが、この詩は非常に素直に見ているように思います。父上はすでに亡くなっているようですから、ある程度の距離が取れているのかもしれません。私の父もそうですが、「従軍し大陸で戦った父」の語らない思いが伝わってくる作品です。
○詩とエッセイ『ガーネット』55号 |
2008.7.1 神戸市北区 空とぶキリン社・高階杞一氏発行 500円 |
<目次>
詩
池田順子 詩集 4
嵯峨恵子 ギラついて/あふれる/マリアの名のもとに 7
廿楽順治 未象/爆母/父顕 18
神尾和寿 世界一周旅行/とかい郵便局/みつびし銀行/たかすクリニック 24
高階杞一 雨と子犬/湯船の底から 32
阿瀧 康 ホテルと魚と猫と犬の形 38
大橋政人 蔵出しネコ詩集 46
シリーズ〈今、わたしの関心事〉NO.55 最果タヒ/斉藤 倫/瀬崎 祐/たかとう匡子 28
1編の詩から(26) 大手拓次…嵯峨恵子 30
詩集から NO.53 高階杞一 54
●詩片●受贈図書一覧
ガーネット・タイム 58
星に住む人びと 池田順子 理由 廿楽順治
給食を食べていた 神尾和寿 詩集の題名あれこれ 嵯峨恵子
松永伍一さんが死んだ 大橋政人 冬から春へ 阿瀧 康
優雅なる死体 高階杞一
同人著書リスト 67 あとがき 68
詩集/池田順子 Ikeda junko
インクの匂いのする
詩集の
扉を開けると
すうっ と伸びている
一本の廊下
無数の扉を持ち
ぼんやり立つわたしに
言葉の階段が頭上から降りてきて
お入り と言う
わたしは靴を脱いで
お辞儀すると
具体的な悲しみが在る庭へと
案内された
たとえば
水溜まりのある夏の庭に
雨上がりの雲が映るとしよう
泣いた空を
すっかり写しとりたい庭の水溜まりを
今度はいったい
何が
写しとる というのだろう
ね
こよこよと
枝か 何かが
どこかで鳴いて
その度に水溜まりのなかの空が
さざめいている
ゆれるだけゆれて
映すだけ
見つめていると
胸がいっぱいになる
溢れ出るのは
わたしの視界の裏側から
文字も
ほんのり
かすんで
泣いた空も
夏の庭の水溜まりも
こよこよ も
すっぽり収めるために
閉じられる
わたしの
からだ
今号から同人となった池田さんの詩を紹介してみました。「詩集」を詩にした作品というものに初めて出会ったように思います。第1連の「無数の扉を持ち」から第2の「具体的な悲しみが在る庭」への視線が好ましく映ります。最終連の「すっぽり収めるために/閉じられる」詩集と、「わたしの/からだ」のダブルイメージも佳いと思います。この作品の「詩集」とは、自分のものか他人のものかは分かりませんけど、その双方と採った方がよいのかもしれません。斬新な作品だと思いました。
○詩とエッセイ『想像』121号 |
2008.7.1 神奈川県鎌倉市 羽生氏方・想像発行所 100円 |
<目次>
ごくらくとんぼ…1
東北桜紀行−旅日記抄(4)…井上通泰 2 国民学校とわたし…羽生康二 4
死刑廃止を求める…羽生槙子 6 広島県・野山の植物の写真はがき(3) 撮影者 菅 泰正 9
詩・「光の明るさ」ほか…羽生槙子 10 花・野菜日記08年5月…15
光の明るさ/羽生槙子
バナナに似た 甘い香りの花の木 カラタネオガタマ
その木の下で
おつゆに入れる三つ葉を摘んでいると
花と三つ葉の織りなす香りが
ふと 悲しみに感じられる
その悲しみに理由はない
人が悲しみに左右されて生きるのが
残酷に感じられる
春の光の明るさの中で
紹介した作品の中では直接触れられていませんが、拝読して、羽生槙子さんがお書きになった「死刑廃止を求める」というエッセイとの関連を感じました。そのエッセイは、この4月に執行された4人の死刑囚についてのもので、中の一人と羽生さんは文通していたそうです。留置所内で出している冊子に羽生さんが詩を送るようになって、事務局をしていたその死刑囚との文通が始まったとのことですが、3審で死刑が確定してからは外部との連絡はとれなくなったとのこと。その後の死刑執行、お別れ会で初めて死刑囚の顔を見たという衝撃的なものでした。
そこからこの詩は書かれているように思われます。「その悲しみに理由はない」がヒトは「悲しみに左右されて生きる」もの、というフレーズに人間の根源的な悲しみ、そして「残酷」を思わずにいられません。
羽生さんは死刑廃止論者ですが、私も賛同しています。私の理由はいたって簡単で、国民を守る義務がある国家が、罪人とはいえ国民を殺す権利があるのか、というだけです。もっとも、現在の国家権力は国民を守る≠ニいう意識はなく、一部の資本家や官僚といった国民≠フ利益のためだけに働いているのですから、それ以外の国民は税金徴収対象者にしか過ぎなく、そこから外れた者を殺すことなど何とも思っていないのでしょう。国家が真に公僕とならない限り、死刑廃止も遠い夢かもしれません。
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