きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.5.3 前橋文学館




2008.7.1(火)


  その2



詩誌『青芽』548号
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2008.7.5 北海道旭川市
青い芽文学社・富田正一氏発行 700円

<目次>
作品
文梨 政幸 冬の詩集 4          佐藤  武 コブシ/福寿草 6
浅田  隆 語る化石 7          森内  伝 母の背に 8
芦口 順一 燃焼の真髄 9         沓澤 章俊 一週間の黙示録 10
宮沢  一 買いそろえる/制御不能 11   村上 抒子 天空の散歩道 12
菅原みえ子 煙はコオコさんから 13     本田 初美 春の雨 14
四釜 正子 軋み 15            堂端 英子 願い 16
吉村  瞳 血縁 17
◇詩見・時言・私見
文梨 政幸 「詩見・私見」 18        本田 初美 田中正造と足尾鉱毒事件 18
村田 耕作 視点を変えると 19       浅田  隆 理想は現実の一歩 21
佐藤 勝信 老いと旅立ち 22        能條 伸樹 ゆっくり歩く 23
佐々木利夫 コレクション 24        佐藤 潤子 全然 大丈夫 24
沓澤 章俊 旭川文学資料友の会のこと 25  小森 幸子 八方美人 26
荻野 久子 なりわい 27          千秋  薫 不安と休息の9日間 28
佐藤  武 詩集「夕焼けの家」出版を祝して29 岩渕 芳晴 詩集「夕焼けの家」に寄す 30
富田 正一 劣等意識 30
作品
荻野 久子 鐘/二十日大根 31       横田 洋子 底辺のつぶやき 32
小森 幸子 生きる 33           現  天夫 迷走亡国劇場 他 34
倉橋  収 春凍・薄墨いろの静謐に 他 37  北野 史郎 闇の中から 38
能條 伸樹 紺碧 39            小林  実 傾斜について/涼しい戦ぎ 40
岩渕 芳晴 死期予見 41          中筋 義晃 九条の光波。 42
オカダシゲル 夢幻 43            村田 耕作 流氷の街/熊の住む山 他 44
富田 正一 白い大地に立つ 46
◇萩原貢詩集「梨の家」感評 倉橋 収 52
◇連載 青芽群像再見 第八回 冬城展生 53  青芽60年こぼれ話(五) 富田正一 58
告知 20・28・61・69            青芽プロムナード 48
寄贈新刊詩集紹介 50            寄贈誌深謝 51
目でみるメモワール 62           編集後記 70
表紙題字 富田いづみ  表紙画 文梨政幸  扉・写真 富田正一



 冬の詩集/文梨政幸

  屋根

屋根の下には 生きものだけではない
生きていくための 食物も道具もあった
屋根は それらを 守るように
雨や風 光をさえぎるのだった

屋根は柱 壁に支えられながら
時には 窓 扉からの 合図を受け
移り気の早い 癇癪もちの
季節に耐えるのだった

屋根は 屋根の下で
何があって 何が行われているのか
知らなかった いつも
生きものが育っていると思っていた

だから 屋根は
屋根の下では 柱 壁 屋根の
修理の相談に
明け暮れていると思っていた

しかし 屋根の下では
人間が君臨し とりわけ
弱い生きものを
支配していた

鶏には 卵を生ませ
あるいは それを 焼き鳥にさえした
馬 牛を育てても
労働を強いるだけでない 乳 肉ともした

屋根に まもられながら
わがまま になっていて
どこかに 不自由を発見し
人間どうしで 争いを始めようとしている

 今号の巻頭作品です。「冬の詩集」という総題のもとに「屋根」「急がなくても」の2編が収められていますが、ここでは「屋根」を紹介してみました。この作品は北海道の地で書かれたということがひとつのポイントだろうと思います。関東に住んでいるとあまり感じることはありませんが、「移り気の早い 癇癪もちの/季節」が訪れる降雪地帯での屋根は、温暖な地より重要な意味を持っています。その「屋根の下では 柱 壁 屋根の/修理の相談に/明け暮れていると思っていた」のですが、実は「人間が君臨し とりわけ/弱い生きものを/支配していた」というのが実情だった、という作品です。これは1軒の家の話ばかりではなく、国家という視点でも読めると思いました。



隔月刊詩誌
『サロン・デ・ポエート』274号
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2008.6.25 名古屋市名東区
中部詩人サロン編集・伊藤康子氏発行 300円

<目次>
作品
A先生の話…阿部竪磐…4          密やかな…小林 聖…5
私だけの季節の中に…横井光枝…6      温泉の宿で…足立すみ子…7
つくもなす…野老比左子…8         北冥へ(二)…みくちけんすけ…9
モディリアーニ展
(市美術館にて)…高橋芳美…10 「母の日」…荒井幸子…11
目眩しそうな…伊藤康子…12         自然という時間…及川 純…13
エンドレスフィルム…浜野よしはる…14    紫陽花忌−2008…黒神真司…15
散文
第10回現代詩朗読会レポート…阿部堅磐…16  詩集「そぞろ心」を読む…阿部竪磐…17
現代詩鑑賞「薄暮の道」より…阿部竪磐…18  詩集「終わりのない夏」を読む…阿部竪磐…20
同人閑話…諸家…21             詩話会レポート…23
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記     表紙・目次カット…高橋芳美



 A先生の話/阿部竪磐

それは私が大学二年生の時のことだった
フランス語を教えて下さっていた
高名な詩人A先生に 授業後私は
薄っペらな私の孔版詩集を貰ってもらった

先生 この前の私の詩集 どうでした
私は次の週の授業後 先生に尋ねた
後半の方に比較的良い詩がありました
先生はそうおっしゃった後 ある話をなされた

――ある盗癖のある男の子がいて、物を盗む
度に先生に叱られていました そしてその男
の子はこんな詩を書きました 〈ぼくはぼく
の家の柿の実をとって食べた〉という詩を

先生はその詩についてこうおっしゃいました
――自分は確かに盗癖があるが、この柿の木
は自分の家の柿の木だから 自分が取って食
べていいんだという主張が詩になっている

わずかな時間でのわずかな話
A先生から伺った忘れられない話
私が詩に憧憬
(あこが)れ始めていた
今から四十年前の想い出である

 〈ぼくはぼくの家の柿の実をとって食べた〉という言葉の喩は何か、と考えると、かなり難しくなります。「薄っペらな私の孔版詩集」との関連で考えると、詩は自分の庭の柿を自分で盗って食べるようなもの、となりますけど、果たしてどうか…。詩は己の精神を盗むもの、と展開して考えれば詩的≠ネのかもしれません。「盗癖」に捕らわれているかもしれませんので、それから離れると、他人の畑は耕せない、詩は自分の畑を耕すことしかできないし、また、それ以上のことをしてはならない、と拡大解釈できるでしょう。「A先生の話」に思わず考えさせられた作品です。



詩とエッセイ『沙漠』251号
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2008.6.13 福岡県行橋市
沙漠詩人集団事務局・麻生久氏発行 300円

<目次>
         ■詩
柳生じゅん子 3 蜃気楼の記憶       藤川裕子 4 「別れ」
  坪井勝男 5 音のつぶて        福田良子 6 母子草
  麻生 久 7 夢は無人工場       宍戸節子 8 ちょっと違うだけで(15)コンニャク
 おだじろう 9 梅雨のお屋敷の住人    原田咲子 10 ここ
  山田照子 11 桜            平田真寿 12 波待ち
  柴田康弘 13 潮騒           坂本梧朗 14 利潤と管理
  秋田文子 14 万両           光井玄吉 15 第三の人生
  風間美樹 16 桜の花びら        河上 鴨 16 被爆桜
  中原歓子 17 演歌           河野正彦 18 カテーテル挿入
 千々和久幸 19 予行演習
         ■書評
  麻生 久 20 福岡県詩集2006年版/寸評(8)
         ■エッセイ
  河野正彦 22 (1)風が吹けば桶屋が儲かる?
       24 (2)タリバンの愚拳が教えたもの
       26 二五〇号の訂正
       27 沙漠二五〇号までの掲載者氏名



 予行演習/千々和久幸

お通夜と告別式に呼ぶ者のリスト
火葬場まで行ってくれる者のリスト
葬儀が終ってから連絡する者のリスト
弔辞は二人に予約ずみだ

墓地は海の見える丘に買ってある
先に行って住み心地を確かめておく
戒名は無くともいいが
世間体もあろうから松竹梅の梅でいい
香典返しは海苔かお茶だね

日記には嘘八百を書き連ねたが
この嘘に価値があったのは生きている間だけ
塩でも撒いて焼いてくれ
遺稿集など無駄だからやめておけ
偲ぶ会もどうでもいいが関知はしない

遺影は
甥っ子の結婚式の時のものがあるだろう
いまさら年齢をとやかく言う者はいまい
両隣の人物をちょん切って使ってくれ
散髪は歩ける内に行っておくが
お灸は火葬の予行演習みたいでいやだな

死に装束にオリジナリティもなかろう
読経は本人には聞えないから長くやれ
その日が大地震だったり
大幅な円高だったりすることもある
シートベルトはしっかり締めておけ

消耗するね
インクが薄いよ
生きる練習にはもう飽き飽きした
なんてことだ
万事が終ってしまえば辻褄が合う
ねえ そうだろうとも

 この「予行演習」は、還暦を迎えようとしている私も身につまされます。まだまだ「弔辞」を「予約」したり「遺影」や「死に装束」のことまで考えてはいませんが、いずれは時間の問題、この詩のように泰然としていたいものです。第5連の「シートベルト」には意表を突かれました。最終連の「インクが薄い」も「生きる練習にはもう飽き飽きした」も、おもしろい表現で魅了されます。あと何年かしたら、この詩を見習って「予行演習」しておきたいなと思いました。



   
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