きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.5.3 前橋文学館




2008.7.6(日)


 午前中、神奈川県大井町のそうわ会館という処で、中屋敷ふくしの会主催のチャリティ朗読会があるというので行ってみました。今年は作家・伊馬春部の生誕100年だそうで、その記念と銘打った朗読会でした。朗読は春部の次女・いま匣子(くしげこ)さん。ギターの弾き語りもあって、こちらは地元の瀬戸克信さんという若い人でした。

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 匣子さんとは秦野市の紙芝居喫茶「アリキアの街」でお会いして以来、親しくさせてもらっています。その関係で伊馬春部(1908〜1984)を知ったのですが、戦後直後のユーモア作家・放送作家として活躍した人です。NHKラジオ連続ドラマの「向う三軒両隣」のライターだと言えば知っている人も多いかもしれませんね。
 朗読は春部作のコケコッコ百貨店・いたずら三ちゃんより「七夕の巻」、「日曜日のタマゴ」。坪内逍遥編集教科書より「領主の新衣」、小田原の民話より「竜宮女房」、金子みすヾの詩「私と小鳥と鈴と」など。合間にギターの弾き語りがあって、参加者全員の合唱があったりして、なかなか楽しいものでした。

 で、フッと思いついたのが、日本ペンクラブの電子文藝館に春部の作品を載せたらどうだろう、ということでした。会員ではなかったかもしれませんが、招待席に迎えられる作家だと思います。その旨をさっそく匣子さんにお話ししたら喜んでくれましたので、近い将来実現するでしょう。
 そんな思わぬ収穫もあって、会場は拙宅からクルマで15分ほどという近さで、午前中という短い時間で堪能できたことをうれしく思っています。東京も横浜も、いずれのイベントももちろん大事ですが、改めて地元の良さを認識しました。



アンソロジー『中四国詩集』3集
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2008.6.30 山口県山口市
秋山康氏方事務局・スヤマユージ氏発行 1500円+税

<目次>
序…スヤマ ユージ
高 田 千 尋・波切村にて…15       竹 内 千恵子・月見/待つ/未完成…16
高 垣 憲 正・夏の果て…18        武 田 弘 子・秋の金魚――岡部隆介氏を偲ぶ…19
田 尻 文 子・病室…20          橘   しのぶ・猫…21
田 中 郁 子・わたしの知らないわたし…22 田 中 澄 子・食卓…23
田 村 のり子・壁掛/行列…・24      月野々 鳥 呼・蚯蚓…25
津 田 てるお・ゴキちゃん/時の渚(なぎさ)/お別れワルツ…26
壷 阪 輝 代・迷い箸…29         中 尾 一 郎・星降る夜に言葉と出会う/約束の場所…30
中 桐 美和子・椅子/待っているから…31  中 田 文 子・花束を/バンフ国立公園で…33
長 津 功三良・判決…35          なんば・みちこ・鈴の音…37
野 上 悦 生・休日農民/雨に顔を向け…38 波 田 康 彦・春待つ/お土産/寒木瓜/水仙花…40
橋 本 果 枝・借景…42          浜 田 良 胤・遺言/空っぽの部屋/墓石…43
原   鈴 子・春の雨は…45        日 笠 芙美子・初秋…46
平 岡 けいこ・夜明けまで/REM…47   扶 川   茂・「やむを得ない」あるいは「しょうがない」…49
福 田   明・冬日…50          福 谷 昭 二・古墓と白い植物…51
福 田 操 恵・おかあさん病室…52     藤 川 元 昭・火事…53
藤 原 由紀子・帰って来た…54       星 野 歌 子・あっちゃん…55
堀 川 豐 平・白いこうしん…57      前 原 英 隆・死人の崖…58
増 成 順 子・抱く…60          松 田   勇・ササユリ/ふたり…61
松 田 研 之・冬日散策…62        松 本   勲・庭にでて…63
麻 耶 浩 助・禍根…64          丸 山 全 友・一つ屋根の下/情(じょう)…65
御 庄 博 実・花の香り ふるさとV…66  皆 木 信 昭・みまわり…67
宮 田 小夜子・春の雨…69         未 来 沙 海・雪花…70
目 次 ゆきこ・笑い…71          森 崎 昭 生・渚にて/除く…72
森 田   薫・鳥の形而上学/夜と谺…73  森 本 弘 子・流れ…74
柳 原 省 三・人生で一番辛かったこと/くらげ…75
山 下 静 男・出べそ…77         山 田 朝 子・ディゴの赤い花…78
山 田 輝久子・理想的生活/お絵かき…79  山 本   衞・撒水…81
山 本 沙稚子・ピリカラチョリソー…82   悠 紀 あきこ・守宮
(やもり)…83
横 田 龍 一・幻…84           吉 田 隶 平・冬の日に…85
吉 田 博 子・まんさくの木/空…86    渡 部 兼 直・はな…88
赤 山   勇・植える…89         秋 吉   康・昼の星…91
荒 木 忠 男・棒のようなもの…92     井 奥 行 彦・つつじのお宮…93
井久保 伊登子・その時…94         井久保   勤・夕陽…95
伊 豆 泰 子・愚痴
(ぐち)…96        一 瀉 千 里・待ちくたびれた鬼…97
伊 藤 孝 子・老人
(おいびと)…98       伊 藤 眞理子・長い黙祷−丸山眞男について…99
井 上 嘉 明・偽名…101          今 井 文 世・桜をめぐる時間…102
上 田 由美子・分身…103          柄 元   秋・同類…104
大 島   元・神経伝達物質…106      大 波 一 郎・左側の頬…107
大 原 勝 人・瀬戸の渦潮…108       岡   隆 夫・アリ
ゴの行列…110
沖 長 ルミ子・不二理髪店/児童公園は昼休み…111
小 野 静 枝・やまんば…113        片 岡 文 雄・クマゼミのデッサン…114
川 内 久 栄・立冬日和/ばら灯り…115   かわかみよしこ・一瞬…116
川 越 文 子・園丁
(えんてい)は静かに歩く…117 川 野 圭 子・爛漫の桜を求めて…118
川 辺   真・セイフク…119        苅 田 日出美・からくり…120
貴 志 美耶子・早春…121          北 村   均・山間の駅…122
木 村 恭 子・水道管…123         木 村 禮三郎・ラッキョウ畑の中の空き家…124
くにさだ きみ・ヘソの位置…125       黒 田 え み・メタセコイアの証言…126
小 島 寿美子・後ずさりに帰る…127     小 舞 真 理・クジラと出会った…128
小 松 弘 愛・ひがはいる…129       小 丸 由紀子・まぁるいかたち…131
合 田   曠・鏡…132           五 藤 美智子・めくるめいているお米の 昔と現在
(いま)と…133
斎 藤 恵 子・白くま/ひるね…135     境     節・朝…137
坂 本 法 子・雪上の足跡…138       坂 本 満智子・彼岸/蕗のとう…139
坂 本   稔・弥生某日−桜ノ下ニ寝転ンデ−/水ノ伝説…140
寒 川 靖 子・人形の海…141        重 光 はるみ・ここは…142
柴 田 洋 明・サクラ…143         清 水 道 子・春の雪…144
白 河 左江子・ドクダミ屋敷…145      杉 田 ソノ子・帰り道−坂本明子先生に−…146
杉 本 知 政・落葉の向こうへ…148     洲 浜 昌 三・娘たちの「捲き上げ節」−石見銀山考−…149
スヤマ ユージ・ツチノ ナカ…150      瀬 崎   祐・窓都市…151
妹 尾 倫 良・消えゆく影…152       蒼   わたる・自然のたくみ…153
中四国詩人会・経過報告…秋吉 康 156
あとがき…蒼 わたる 158          表紙・武内寛「新しい風・構造」



 食卓/田中澄子

とろ箱の中の 水揚げされたばかりの
小鯵たち
一瞬の抵抗を身に閉じこめたまま
硬くなっている
生きているようだね といいながら
出刃包丁を鰓のあいだから滑りこませる
ぐぎっ ぐぎっ と 頭を落としていく
一つ 二つ 三つ まだまだある
まな板は 鯵の顔でいっぱいになる
いっぱいの眼がならんでいる
熱心に信心をすすめる友人の顔が浮かぶ
あなたも一緒に救われてほしいのだという
続いて 尾をぱんぱんとはねていく
きっと
生きている間じゅうこんなことをしてしまう
刃先で臓物をとりだす
ビニール袋に顔と尾と臓物を入れる
口をきつくしばって
ゴミストッカーに放る
なぜ救われると思えるのか
流水で胴体を丁寧に洗う
手についた血や油を
完璧に洗い流すことは きっとできない
三枚におろして 皮を剥いでいく
今夜は なめろう と あらの野菜汁
ぷりりとした身の小骨をとって細切りにする
ネギと生姜と大葉を刻んで薬味にする
丼に入れて 味噌を混ぜあわせる
獲れたて
新鮮
美味しい と言って
家族みんなで 大喜びでたいらげた
生きている間じゅうこんなことをしてしまう

 2002年の第1集から始まって、3年おきだというアンソロジーも第3集を迎えることができました。中四国という広い地域をカバーしながら、息の長い活動を続けれる皆さまに敬意を表します。
 紹介した作品は日常そのももの不条理≠表出させていて見事です。繰り返される「生きている間じゅうこんなことをしてしまう」というフレーズに生物としての人間の性(さが)を感じますね。「手についた血や油を/完璧に洗い流すことは きっとできない」のは、詩人としての精神でしょう。挿入された「熱心に信心をすすめる友人の顔が浮かぶ/あなたも一緒に救われてほしいのだという」、「なぜ救われると思えるのか」という対のフレーズも奏功している作品だと思いました。



記録としての詩誌『つむぐ』4号
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2008.5.20 東京都新宿区 集プレス発行 1300円

<目次>
渡辺みえこ…10
 詩 出生 10  洲崎久右衛門町の事 10  青い風の半島 11  古代の竪琴のように 12  姫辛夷
(こぶし) 12
 エッセイ・声
(ロゴス)と文字(エクリチュール) 13
山下 桂…14
 詩 よかったのこころ 14  おしゃべり 14  いたいのいたいの 15  追伸 15  赤空 16
 エッセイ・裸という名前の服 17
安川登紀子…18
 詩 鳩のいる風景 18  蛇の窒息 19  空 19  運命 20  片恋 20
 エッセイ・お言葉 21
向井千代子…22
 詩 こころを聞く−木島始を偲んで− 22  草苺 22  白い夜明け 23  わたしの中の子ども 24  ひとりでいても 24
 エッセイ・れんげ畑 25
瑞生千枝…26
 詩 黒部川の水 26  卵 27  南京はぜ 28  客人 28
 エッセイ・冬の点描 29
水川まき…30
 詩 「大地母神」 30  夕暮れの葦 31  ハナ豆 32
 エッセイ・美は醜を学ぶことである 33
平木たんま…34
 詩 年の初めに 34  小鳥 34  桑の葉 35  夏 35  からだ 36  「時」が顔をだしたら 36
 エッセイ・映画館で見る映画 37
原田克子…38
 詩 夢屋敷 38  懐かしい街 39
 エッセイ・浮遊する 41
とよだ さなえ…42
 詩 地図を買いに 42  ガマ蛙 44
 エッセイ・アルゼンチンで遇った沖縄 45
田中眞由美…46
 詩 脱皮 46  追跡者 46  あかい星 47  海を 越えて 48
 エッセイ・作品に立ち現れる時代 49
関 佳辰…52
 詩 にがり 52  十三夜 52  小骨 53  鍋 54  扉 54
 エッセイ・珈琲の香りに包まれて 55
しま・ようこ…56
 詩 ――ここは どこですか 56  アラビアンナイトのガラス玉 57  演算 57  虫 58  一票 58
 エッセイ・街の灯−借景の変化− 59
さとうますみ…60
 詩 鳥を待つ 60  遠い夏の声 61  イワナガヒメ 61
 エッセイ・聖母のミサ 63
佐川亜紀…64
 詩 押し花 64  ヒロシマの眼 64  豆腐往来 65  記憶の根 66
 エッセイ・朴裕河の仕事 67
大磯瑞已…68
 詩 蚕蛾 68  砂 69  夕焼けの道 69  夏の終わり 70
 エッセイ・真夜中、一本の針で 71
市川 愛…72
 詩 それぞれの午後 72  時が今−時が今啄みしごと黄菊散る 72  「私、まちがってませんよね。」 73  誰だっけ 74
 エッセイ・過ぎ去りし日々 75
石川逸子…76
 詩 小さなタブの木に 76  ママン 76  白梅 77  マリー・スミスさん 78   一枚の… 78
 エッセイ・千鳥ケ淵墓苑で… 79
石井真也子…80
 詩 笹の葉祭り 80  その 少年のために(私の少年) 80  風 生きて 82
 エッセイ・海に出る船 83
青山晴江…84
 詩 どこにいるの 84  猫が耳をそばだてるとき 84  写真 85  ろうそくの方程式 86  公園 86
 エッセイ・彷徨 87
・コラム…50
・執筆者名簿…89
・『つむぐ』へのおさそい…90
・後記…92
題字 向井二郎
表紙写真・作品(百人地蔵
(ジェネズ)) 針谷仁巳
表紙デザイン 並木有里



 誰だっけ/市川 愛

エレベーターから
ロビーに飛び出した出会い頭
要介護四の夫に
「誰だっけ?」と言われてしまった

――えっ! そこまで進んでしまったの認知障害
「私よ 私!」青くなって叫んでしまった

申しわけなさそうな表情が緩んで
ニコニコ笑っている
ああ良かった 解ったらしい

でも 私って誰なんだろう
「アイ子」という固有名詞が通じないとすれば
どう説明できるのだろう
まだ言葉がかなり通じていた頃
「今日って何」
と怒った口調で詰問された時も
お手上げだったけれど――

それ以来だろうか
「今日」が宙に浮いてしまったような
私の日々
そして今度は
「私」も形を無くしてしまいそう

重心が定まらない私が
後ろばかり振り返っているから
宙に浮いてしまう「今日」
漂ってばかりいる「今日」だから
はっきりしない「私」の形       (二〇〇七年)

 「認知障害」で「要介護四の夫」との日々を綴った作品が2編載っていましたが、そのうちの1編を紹介してみました。「今日って何」という言葉が強烈な印象を与えます。1日は24時間で、今日は昨日と明日の間の日で、と説明しても何の役にも立たないことに私たちはすぐ気づきます。そんな便宜的なものではない「今日」というもの…。「認知障害」者の疑問に正しく答えられる人はいないでしょうね。まさしく「宙に浮いてしまう『今日』」です。考えさせられました。




個人誌『ポリフォニー』13号
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2008.7.1 東京都豊島区 熊沢加代子氏発行 非売品

<目次>    詩/四行詩を展開させて   2
          愛・命・恋・罪・虹・光・闇・幸福・大地・空
コンサート・ホール/ブランデンブルグ協奏曲 12
アド・リビテユウム/わたしいまめまいしたわ 14
       後記/



 四行詩を展開させて

  愛
 スタンダールでなくとも
 愛について語ることはできる
 愛とは四角い箱の四隅を
 そっと丸く削るようなもの

恋愛論に書かれている愛はむずかしいが
私のいう愛はもっとやさしい
それは
痩せた人の愛は
砂時計のくびれのように痛々しいが
太った人の愛は
大河の流れのように大らか
子供の愛は
ノートの落書きのように無邪気だが
大人の愛は
綴れ織りのように複雑で
人間の愛は
死がある限り永遠ではないが
神さまの愛は
その一人の死ゆえにこそ永遠だ


  命
 捨て犬の生まれたての命の温もり
 日ごと命は生まれている
 かけがえないなんてものじゃない
 それでなくては何も始まらない

まだ温かく湯気さえ立てていそうな
赤ん坊の命の始まり
両の手をしっかり閉じて
生まれてきた自分の命に
畏れおののくかのように泣き叫ぶ
だが赤ん坊の手は時がくればゆっくり開かれる
そうやって時と場所を与えられ
息づく命の連鎖


  恋
 まなかいに時を置かず
 燃え上がる一瞬
 そしてほほ笑み交わしながら
 はじめましての挨拶をする

そんな突然な恋もある
だがもっと
麺麭種をふくらませるようにゆっくりと時間を置いて
いつの間にか同じ道を歩いている
いつの間にか同じ深いところで同じ夢を見ている
そんな回り道をする恋もある
だがどんな恋も
予め約束された
神さまの計らいにはちがいない


  罪
 法廷に引き出されなくとも
 私たちの心は痛む
 そんなことを繰り返しながら
 いつのまにか許されている

罪なんか犯していないわ
と言い切る罪
アダムとイブの罪業を
ランドセルを背負うように負いながら
生きている だが
人には裁けぬその罪を
許すという真の権威がある

 「四行詩を展開させて」という総題のもとに10の4行詩と、それを展開させた作品が載せられていました。おもしろい試みだと思います。ここでは最初の4編を紹介してみましたが、4行詩という定型が効果を出していると云えるでしょう。「愛」の「神さまの愛は/その一人の死ゆえにこそ永遠だ」、「恋」の「だがどんな恋も/予め約束された/神さまの計らいにはちがいない」などのフレーズにも魅了されました。



   
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