きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.5.3 前橋文学館




2008.7.10(木)


 新幹線で通るたびに一度は行ってみたいと思っていた掛川城を見てきました。山内一豊の居城として有名な城で、「東海の名城」と謳われていたそうですが、1854年の安政の東海大地震で倒壊、明治維新を迎えた1869年には再建されることなく廃城となったそうです。現在は美しい天守閣が復元されています。復元されてまだ14年ほどですから、外も内もとても綺麗でした。

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 で、天守閣の写真。どこにポイントがあるのか判らない、中途半端な写真を載せるのはなぜ? 実は一眼レフデジカメの調子が悪かったのです。下半分がマトモに写っていなかったので、思い切ってチョン切ってしまいました。それを言わなければ意味シンな写真と採ってもらえたかもしれませんね(^^;
 ちなみに調子が悪かったのはカメラでなくコンパクトフラッシュ(CF)でした。CFを取り替えたら直りました。もう5年ぐらい使っているCFですけど、イカレるとは思いもしませんでした。デジカメの調子がおかしいなと思ったら、CFやミニディスクなどの記憶媒体を疑った方がよいかもしれませんよ。



おしだとしこ氏詩集『流れのきりぎしで』
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2007.8.20 東京都東村山市 書肆青樹社刊 2400円+税

<目次>
 T
象 10        塔 14        ラン・アウェイ 18
魚だった 22     チュベローズ 26   器 30
()りかかる 34   幼年の祈り 38    満月の浜辺で 42
そのときまで 46   闇にさす 50     後始末 54
 U
十文字の意志 60   看取る 64      花がら 68
ほろほろと縵
(かげ)が 72 でこぼこ道を 76   視野のなか 80
変容 84       石を抱く 88     流れのきりぎしで 92
夜ごとの夢で聞く あの声は 96       トルソの声 100
つづら折りで 104   空で 108
あとがき 112                装画・装幀 丸地 守



 流れのきりぎしで

とおい 遠い悲惨をこごめた現実は
もう ファンタジーであるかのように
陽が原初のかがやきで降り注ぐなかを
歓声をほとばしらせて
物見遊山の一行がゆく

かつての戦場は観光の地に変貌して
おそれつつ訪ねた ひめゆりの洞窟は
意外にもひろかった
戦火を逃れた たくさんのひとが
最期を遂げた無念の場所へと
一歩 踏み入った足元に
霊気が足早に寄り添ってきた
忘れてしまいたい あのなまなましい惨状と
繁栄にうかれる現在
(いま)との
時間と空間をリアルタイムで行き来する
意識の混沌を掃うように
 なぜ ここにいるのか と
自問をすれば
 あのときから ずーっとここに佇んでいた
のだと 応える声の所在に心耳をかたむけた

いのちの重さを量れないまま
少年のひたむきさで
初めて手にした銃の重さは
まだ その手にあるのだろうか

頬を染めながら成熟していく性を
封印した少女たちの
流れのきりぎしで佇む セーラー服が
いま ひかりのなかにあらわれる

 4年ぶりの第6詩集です。Tは日常の中から立ち現れてくるものたちへの想い、Uは肉親への追慕を中心とした人間への視線の詩群と謂ってよいかと思います。ここではUからタイトルポエムでもある「流れのきりぎしで」を紹介してみましたが、この詩集の中では「夜ごとの夢で聞く あの声は」とともに異質な部類に属します。太平洋戦争をモチーフとした作品は多く描かれていますけれど、この詩のように〈かつての戦場〉が〈観光の地に変貌して〉いる姿を捉えているものは少ないように思います。〈いのちの重さを量れないまま/少年のひたむきさで/初めて手にした銃の重さ〉と〈頬を染めながら成熟していく性を/封印した少女たち〉の対比が見事な作品と云えましょう。



おしだとしこ氏著『ことばの森のなかへ』
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2006.10.28 名古屋市緑区 「翔」の会刊 非売品

<目次>
序章 5
第一章「中部日本詩人連盟」による「中部日本詩賞」
中野嘉一詩集『春の病歴』 6        長尾和男詩集『地球脱出』 10
岩瀬正雄詩集『炎天の楽器』 14       小出ふみ子詩集『花詩集』 18
河合俊郎詩集『漁火』 24          倉地宏光詩集『君の国』 28
伊藤正斎詩集『粘土』 33
第二章「中部日本詩人連盟」は解散「中部日本詩人会」と改組、「中部日本詩賞」と改称
後藤一夫詩集『終章』 37          錦米次郎詩集『百姓の死』 43
杉浦盛雄詩集『白い耕地』 50        中江俊夫詩集『20の詩と鎮魂歌』 54
御沢昌弘詩集『カバラ氏の首と愛と』 63
第三章「中日詩人会」改名、「中日詩賞」と改称
殿岡辰雄詩集『重い虹』 71         小池亮夫詩集『小池亮夫詩集』 80
板倉鞆音訳『リンゲルナッツ詩集』 86    南信雄詩集『長靴の音』 93
黛元男詩集『ぼくらの地方』 98       平光善久詩集『骨の遺書』 103
永島卓詩集『暴徒甘受』 108         柏木よしお詩集『相聞』 115
伊藤勝行詩集『未完の領分』 121       吉富宜康詩集『の村』 125
吉田欣一詩集『わが射程』 130        黒部節子詩集『いまは誰もいません』 137
梅田卓夫詩集『額縁』 144          岡崎純詩集『極楽石』 152
冨長覚梁詩集『記憶』 159          横井新八詩集『物活説』 165
水野隆詩集『水野隆詩集』 169        沢田敏子詩集『未了』 174
浅井薫詩集『殺』 178            谷澤辿詩集『時の栞』 183
日原正彦詩集『それぞれの雲』『ゆれる葉』187 佐合五十鈴詩集『繭』 193
宮田澄子詩集『籾の話』 196         埋田昇二詩集『富嶽百景』 200
村瀬和子詩集『氷見のように』 205
受賞詩集一覧 209              参考資料 213
あとがきにかえて 214            装丁 著者



 序章

 現在の「中日詩人会」の祖は昭和二六年五月五日、浜松市に於いて「中部日本詩人連盟」として、委員長丸山薫、副委員長山中散生、殿岡辰雄、事務局長菅沼五十一、常任委員橋本理起雄、望月光(詩民族)、江頭彦造(日時計)、後藤一夫、浦和淳(詩火)、山形幹雄(青い花)、山森三平、平光善久(詩宴)、中野嘉一(三重詩人)、岡本広司(浜工詩人)など名を連ね、百二四名の会員で中部地方において初めての詩人集団の結成で、委員の殆どが詩誌を発行していることから、多くの詩人が戦前から詩活動を続けてきた形跡が窺えます。
 大正末期頃から起こった新芸術運動、アバンギャルド的文学運動と共に、「リトル・マガジン」と呼ばれた詩誌が多く発行された時期でもありました。「中部日本詩人連盟」の副委員長山中散生、春山行夫、近藤東、佐藤一英等が名古屋詩話会から出していた「青騎士」は、日本詩壇の先駆的存在でしたので、詩人たちが垣根を越えて「中部日本詩人連盟」の結成された意図や経緯が自ずと理解されます。
 戦後の瓦解した国土で荒廃した精神を生気ある詩活動での救済を希求し、混乱を極めた国土でいかに生きるか、詩を通して模索する場として誕生した「中部日本詩人連盟」だったと考えますが、昭和三五年に解散の憂き目に合い「中部日本詩人賞」も昭和三五年の第八回で終わっています。
 解散後も存続を希望した多くの詩人の声に押されて、昭和三五年十月五日に「中日詩人会」世話人代表、中日新聞社文化部榎本喬の名前で「十年の歴史をほこった中部詩人連盟も種々の事情からさきにご通知申し上げましたように解散いたしました」の文章で始まる「中部日本詩人会」発足の案内が出され、第一回発起人会が中部日本新聞社に於いてもたれ、「中部日本詩人会」と改組、再度、会長に丸山薫氏を推挙して再出発したのでありました。その時、賞の名称も「中部日本詩賞」に改められ、さらに、昭和四十年の第五回詩賞から現在の「中日詩賞」と改称して今日に至っています。
 「中日詩人会」は紆余曲折しながらも中日新聞社の後ろ盾を得ながら、半世紀余を越えて今日に至っているのも、初期から会長を務め、逝去されるまで陰日向なく尽力された丸山薫氏の人徳と現代詩への並々ならぬ熱意によるものであることは、多くの詩人の認めるところであります。

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 〈試論 詩論 私論〉、〈中日詩人会の歩みに見る詩の変遷(昭和篇)〉と副題のある詩論集で、個人誌『翔』に発表された論文を収録したもののようです。ここでは〈序章〉を紹介してみましたが、〈昭和二六年五月五日〉以来、現在までの〈中日詩人会〉の概要が端的に述べられていると思います。これ以降は、目次でも判りますように、昭和27年の第1回から昭和63年の通算第36回までの受賞詩集すべてについて論評しており、現在の中日詩賞を知る上では画期的な評論集と云えましょう。
 日本各地には地域を限定した多くの詩賞が存在します。しかし、これほど綿密に地域の賞について言及した論文は少ないのではないでしょうか。おそらく全国的にも初めての試みのように思います。中部日本の現代詩を知る上では画期的というだけでなく、ここから日本の戦後詩が透けて見えてくるように感じました。

 なお、〈序章〉の原文は22字改行となっていますが、パソコンのあらゆる画面状態でも見やすいようにベタとしてあります。ご了承ください。



個人誌『休憩時間』3号
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2008.7.5 千葉県八千代市 星清彦氏発行
非売品

<目次>
野の花 2      ひまわり 3     ありきたりの自販機 4
走れ 5       県大会制覇 6    とびっきりの夏の風景 7
編集後記 8



 ありきたりの自販機

通勤の行き帰りに ほっと一息
朝は元気を一緒に飲み 夕方は今日のご褒美だ
そんな日々をこの自動販売機で
私は14年間も過ごしてきた
この春 予期せぬ土地への異動となり
もうあの道は通らなくなった
長い間 ありがとう

 〈写真と詩の個人誌〉と副題にありますように、1葉の写真に1編の詩が添えられた詩誌です。ここでは「ありきたりの自販機」を紹介してみましたが、〈朝は元気を一緒に飲み 夕方は今日のご褒美だ〉というフレーズに作者の日常の姿が見られ、〈長い間 ありがとう〉には、どこにでもある〈ありきたりの自販機〉にさえ礼を言う優しい性格が出ているように思います。〈予期せぬ土地への異動〉後も、また新しい自販機に〈ほっと一息〉する作者をも想い描いてしまいました。



   
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