きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.5.3 前橋文学館




2008.7.12(土)


 日本詩人クラブの7月例会が東大駒場のファカルティハウス・セミナールームで開かれました。今回は名誉会員になったお二人の紹介が第一部、第二部は
山内昌之東大教授の講演「歴史の詩学」でした。山内教授は中東の歴史や日本の近代史がご専門だそうで、特に明治維新前後の話はおもしろかったです。歴史家らしく、現在の日本の体制が明治期から引き摺っているものであること、維新で負けた側の江戸幕府の位置づけにもちゃんと触れてくれました。負けた側の會津藩支藩の末裔である私としては、正当な評価をしてくれたものと感じています。

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 写真は会場風景です。いつもは椅子席だけですが、今日はテーブルを入れてもらいました。やっぱりテーブルがあった方が聴きやすいですね。しかしテーブル席は50人分ほど。60人ぐらいしか来ないだろうと踏んで、あとの10人は椅子席で我慢してもらおうと思っていたのですが、なんと80名を超える人がおいでくださりました。30人もの人が椅子席となってしまい、申し訳なかったです。でも、この会場に常備されているテーブルはこれだけですから、どうしてもテーブル席が良いという人は、今後は早めに来てくださいね。

 18号館に移動しての懇親会も40人ほどと見込んでいましたけど、こちらも50人を超えてしまいました。立食ですから何とかなりましたが、出欠を採らない人数の把握は、やはり難しいものです。
 二次会は最近お馴染みの渋谷「天空の月」。20人で予約して、結局16人。ま、四捨五入すれば20人。これも良しとしました。遅くまでお付き合いいただいた皆さん、ありがとうございました!



中正敏氏詩集『いのちの籠・2』
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2008.8.15 東京都豊島区 詩人会議出版刊 2100円

<目次>

*T
切り岸 10      他者の手 14     芒の原 18
視野 20       彼
()わたれどき 22
**U
白鼠 26       鼠の引っ越し 28   春の柩 30
漁火 32       単語ではない 34   粛々と 36
死刑執行人 38    死の象徴 40
       いのちの法(のり) 42
牛を飼う 44     土煙り 46
***V
蔑み 50       東慶寺ヨコスカ 52  偏頗なお話 53
思いやり 54     やらせ 56      霊遊び 58
物まねでは済まされない 62         オスロ・プロセス 64
いのちの籠 66
****W
「山宣」の無念 70   長いものには巻かれるな 72
拉致された労働 75  警鐘に耳を 80    九条の会・詩人の輪 82
三S作戦は麻薬 84  こぼれ噺 87     ひと言 90
ポツダム宣言と受諾97 詩人の輪・よびかけ人からのメッセージ 106
個と組織 108
あとがき 110



 牛を飼う

十五年戦争の末ごろ
伊豆の土肥温泉の近く
S社の宇久須鉱山で
ウランの原石を採掘していた

R社と研究を積み重ねて
原子爆弾をつくる企みがあった
敗戦とともに鉱山長は社命とはいえ
殺傷の兵器に関係したのは戦争犯罪だと退社した

牛を飼うのだと未来の椅子を捨て
故郷へ帰っていった
ヒロシマ・ナガサキの悲惨を知って

核保有国が核を廃絶せずに
他国に核を持つなと迫るのは我まま
チェルノブイリの被爆の瘤が訴える

 自分のことに引き寄せて恐縮ですが、〈宇久須〉は夏も冬も過ごしやすい所で、数知れず訪れています。その近くで〈ウランの原石を採掘していた〉とは驚きです。これもまた自分のことになりますけど、5年ほど前には仕事で〈伊豆の土肥温泉の近く〉の鉱山に出張したことがあり、伊豆は鉱山のヤマでもあることを改めて感じます。
 その〈鉱山長〉の〈退社〉は人間として立派です。それに対して〈核保有国が核を廃絶せずに/他国に核を持つなと迫る〉〈我まま〉はとうてい許されるものではありません。〈牛を飼うのだと未来の椅子を捨て〉た個人と、大国との対比が鮮やかな作品だと思いました。



詩誌『詩風』17号
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2008.6.30 栃木県宇都宮市
詩風社・仲代宗生氏発行 300円

<目次>
果てしなく襤褸の日々と/金敷善由 2    ほんに昔の昔のことよ/金子いさお 4
マリンブルー/綾部健二 8         西風の罷り通る平野で/和田恒男 10
詩論 現代詩共同幻想論の亡霊/和田恒男 12
春の生きもの図鑑/あらかみさんぞう 16
詩論 俳句と現代詩のこと「春の生きもの図鑑」について/あらかみさんぞう 30
公園のひと/仲代宗生 40          ことのはあわれと/仲代宗生 43
編集後記



 マリンブルー/綾部健二

男は海の色に染められた軽乗用車を操っている
一九七〇年代に最初の車を入手して以来、多彩な
タイプを乗り継いできた 現在の車は十二台目
排気量は六五六cc 燃料タンクには三〇リットル
のガソリンが入る けれどもこの燃料を満たすと
いうことが 決して簡単なことではないのだ

男の知的作業の辿り着く先は海底油田 掘削のた
めの巨大なプラットフォーム 高さは優に二〇〇
メートルを超える 海面上にその四分の一 大掛
かりな掘削装置 貯蔵タンク 強力なポンプ 作
業者の居住区 ヘリポート 管制室 船着き場
発電所 油井やぐらなど 海面下ではジャケット
と呼ばれる鋼鉄の構造が全体を支えている

砂の中から黄金の粒を探し出すかのように ドリ
ルの先端が海底の岩盤をつらぬく 石油が掘り当
てられるとそれが油井になる 一基のプラットフ
ォームの油井は三〇前後 その中には予告なしの
青い稲妻や 蛇が尻尾を呑み込む夢など この惑
星のあらゆる幻想を噴出する油井もあるのだ

男の想像力は単にイメージを意識に昇らせること
だけではない それだけならありきたりの心象あ
るいは幻覚 新しい観念や洞察というエネルギー
を生み出すことはできないのだ 海図のない海
マリンブルーのひかり やわらかい空想の海 そ
して混沌 男も海の色に染められている

 たかが〈排気量は六五六cc〉の〈軽乗用車〉ですが、〈けれどもこの燃料を満たすと/いうことが 決して簡単なことではないのだ〉と作品は続きます。〈ガソリン〉を生み出す〈海底油田〉の〈高さは優に二〇〇/メートルを超える〉だけでなく、〈予告なしの/青い稲妻や 蛇が尻尾を呑み込む夢など この惑/星のあらゆる幻想を噴出する油井もある〉という代物。それを使っているのだという〈男の想像力〉が〈単にイメージを意識に昇らせること/だけではない〉というのがこの詩の眼目でしょう。〈男も海の色に染められている〉、その〈混沌〉が現代のクルマ社会だと言っている作品だと思いました。



   
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