きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.5.3 前橋文学館 |
2008.7.16(水)
夏恒例のヨシズ張りをやりました。拙宅にはエアコンがありません。代わりに平屋の家屋南面に幅12mほど×奥行き1.8mほど×高さ2.4mほどの屋根の傾斜に合わせたテラスを設置し、夏はそこにヨシズを張って日陰を作ります。ヨシズは3.6m×1.8mのものを3本と1.8m×1.8mのものが1本。屋根から流れるようにヨシズが横一列に並んで、景観としても好ましいと自我自賛しています。風さえ出てくれれば、室内天井の大型扇風機と合わせて、それで充分なんですが、夕刻はピタリと風が止みます。それが辛い…。何よりエアコンの数倍という初期投資と、2年に一度のヨシズ買い替え費用が結構な負担で、皆さまにはお薦めできませんけどね(^^;
午前中、1時間ほど汗ダクになって張って、そのまま最近市内にできた温泉に出掛けました。<美肌の湯 あしがらの温泉おんりーゆー(榲里湯)>という名前で、1〜2年前に開業したものです。箱根外輪山東麓では唯一の温泉でしょう。初めて行きましたが低層の建物が洒落ていて設備も充実していました。もちろん露天風呂もあり、狩川支流の上総川を眺めながら、瀬音を聞きながらの入浴はなかなか乙なものでした。小田原から箱根登山鉄道大雄山線で終点の大雄山駅下車、タクシーで5分ほどの森林地帯です。よろしかったら一度おいで下さい。私の時間が空いていればお供しましょう。特に女性には(^^;
○山口賀代子氏詩集『離世』 |
1991.10.10
東京都千代田区 砂子屋書房刊 2913円+税 |
<目次>
花曝し 9 耳朶 13 面 17
花を摘む 21 指 25 夢 29
刻印 35 食虫植物 37 蔵のなか 41
花氷 45
小詩四篇
傷 50 花火 51 恋 52
盗人(ぬすっと) 53
春 55 ふたり 59 予感 63
儀式 67 夢の裡(うち) 71 境界 75
顔 79 遊具(ぶらんこ) 83 離世(はなれよ) 87
沼 91 菖蒲池 95 吸血鬼伝説 99
情死 103 植物祭 107
やま・ださん 113
あとがき 118
初出誌一覧 120
装画・森田道子 装本・倉本 修
小詩四篇
傷
忘れられなかった名前を
ふいに宴席の噂話の
なかできいた
飲むほどに
その名前が
牙をむきはじめる
花火
空が
赤い炎になって
おちる
青い滝
黄色い花が
炸裂する
凪の船底で
抱きあっている
頭上に
恋
いまなら
ひきかえせるかもしれない
と思ったのが
はじまりだった
盗人(ぬすっと)
春雷のなかを
たずねてきた
男のせびろの
かたさきに
はなびらが
いちまい
はりついている
ゆびではぎとり
トイレにうかべて
ながす
あぅーんと
ひとなき
うすもも色の天女が
すいこまれて
きえる
このひとだけは
はなびらにも
盗ませない
無理を言って著者の第1詩集と第2詩集を送っていただきました。改めて御礼申し上げます。
第1詩集からは「小詩四篇」を紹介してみましたが、この著者の傾向が端的に示されている佳品だと思います。「傷」は誰にでもあることで、ハッとしながら読みました。〈牙をむきはじめる〉という造形が〈宴席〉での心理をよく表しています。「花火」は〈船底〉という意外性に惹かれました。「恋」は言うこと無しです。これで皆な後悔したんでしょうね。かく言う私も(^^; 「盗人」は、この4編の中では最も深いものを感じさせます。〈はなびら〉さえも〈盗人〉と呼ぶ情念には降参です。
○山口賀代子氏詩集『おいしい水』 |
1996.10.31 東京都新宿区 思潮社刊 2330円+税 |
<目次>
赤い花 10 彼岸花 12 おいしい水 16
香草 20 春 24 青い薔薇 26
散歩者 30 乾燥花 34 庭園 36
梔子(くちなし)伝説 40 閻魔堂 44 月光 48
蛇谷 50 火 54 月島 58
島 62 挽歌 66 異邦人 68
唄 72 綱わたり 76
おいしい水
おいしい水をあげる
と言うと少年はついてきた
水筒は とたずねると
ここ と胸のあたりを指す
たしかにすこし膨らんでいる
すこし歩くけれどいい と言うと
こっくりうなずきついてくる
少年は白いセーターを着ている
少年には白いセーターとはだれが決めたのだろう
中学時代 白いセーターの似合う少年がいた
(かれは不良で美しかった)
少年がそばをとおるときわたしは
指を机からかすかにはみださせ
少年の指がわたしの指に偶然触れてとおりすぎるのをまった
指は触れることもなくすぎたが
あの少年はどこへいったのだろう
進学した高校に少年の姿はなかった
あのころはそんな美しい不良少年や不良少女が
クラスに一人か二人はいて
美しくもなく不良にもなれない中途半端な優等生は
かれらにひそかに羨望をいだきながら
勉学に励むしかなかった
少年は無垢な目をしてわたしのあとについてくる
おいしい水だけをもとめてあるいている
わたしも私自身のために
おいしい水をのみたいとおもう
不良にもなれず優等生にもなれなかったかわりに
こちらは第2詩集で、タイトルポエムを紹介してみました。たしかに〈あのころはそんな美しい不良少年や不良少女が/クラスに一人か二人はい〉たものです。その〈中学時代〉の〈少年〉と、今〈わたしのあとについてくる〉〈少年〉とがオーバーラップして不思議な時空を形成しています。この過去と現実がオーバーラップするというのがこの詩集の特徴でもあるように思います。
さて、〈不良にもなれず優等生にもなれなかったかわりに〉〈私自身のために〉も〈おいしい水をのみたいとおもう〉二人は何処へ向かったのでしょうか。私には過去と現在の僅かなあわいに向かっているように思えてなりません。
○大倉元氏詩集『石を蹴る』 |
2008.6.29 大阪市中央区 澪標刊 1600円+税 |
<目次>
T 石を蹴る
父やんの小便 8 怪物 12 駄菓子屋 18
麦飯 22 祖谷のこんにゃく 26
夕焼け 30
おつる 34 吉野川 40 狐が憑く 46
牛の覚悟 52 大歩危行き下さい 58
祖谷の霧 62
石を蹴る 66
U ゆたんぽ美人
あかさたな 72 ブランコ 74 不安 76
一過 78 母 80 世相 82
俺 84 聞かザル 88 表札さん 92
妻の顔 96 風車 100
蟻地獄 104
生きる 106 ゆたんぽ美人 110
詩と私 116
装丁 倉本 修 装画 藤原和子
石を蹴る
祖谷の郷は山また山の中
三椏蒸しは在所の人々の共同作業
大勢の家族が集まるので
僕等子供たちには楽しい日だった
三椏は和紙の原料として売れるので
貧しい祖谷の人々の貴重な収入源だ
こんな田舎の上空にも
敵の飛行機が飛んできた
急いで三椏蒸しの釜に水をかけて
火を消した
そんなある日
長兄の戦死の報せが届き
母さんが倒れた
僕は夢中で石を蹴った
夕暮れの祖谷の細い道
三椏を蒸す桶も釜も目に入らず
鳥の羽音も聞こえず
憑かれたように夢中で蹴った
草履の先は破れて
見るみるうちに石は真っ赤になった
足の痛みは感じない
見えなくなると必死に探し
敵の飛行機を蹴るように
また蹴った
あれから
六十数年がたった祖谷の郷
細い道は舗装され
かずら橋行きの
観光バスがひっきりなしに
通り過ぎて行く
三椏(みつまた)=枝が三つに分かれている
滋賀県芸術文化祭(二〇〇七年度)芸術文化祭賞受賞
第1詩集です。ご出版おめでとうございます。ここではタイトルポエムを紹介してみましたが、〈敵の飛行機が飛んできた〉〈六十数年〉前の著者は5〜6歳だったようです。〈長兄の戦死の報せ〉にただ〈夢中で石を蹴〉るしかなかった〈僕〉の無念がよく出ている作品だと思います。10年ほど前に〈観光バス〉ならぬキャンピングカーで〈かずら橋〉に行ったことがありますけど、〈山また山の中〉の〈祖谷の郷〉の情景を思い浮かべながら拝読した作品・詩集です。今後のご活躍を祈念しています。
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