きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.5.3 前橋文学館




2008.7.17(木)


 午後から小田原市施設の会議室で、地元の西さがみ文芸愛好会が発行する冊子『文芸作品に描かれた西さがみ』の編集会議が開かれました。いちおう作品が出揃って、第1回目の校正です。45編もの作品数ですから当初予定の13時から17時では終わらず、近くの喫茶店でさらに1時間ほど検討するという事態になりました。正直なところ長時間の会議でかなり疲れましたけど、まあ、一定の決着はついたかなと思っています。

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 写真は会議の様子です。一つ一つの作品について、誤字・脱字、てにをはに至るまでかなり徹底した検証になりました。そして大きな問題は、手書きの原稿を誰が電子化するか、ということでした。全原稿の半分ほどはワープロやパソコンで電子化されています。しかし残りの半数は手書きで、印刷所には電子化渡しの約束になっていますから、わが会でそれをやらなければなりません。
 このことは最初から予想されていたことですので、私は電子化できる編集委員の増強を上奏しておきました。幸いそれが認められ、2名の若手に入ってもらい、今日はそのうちのお一人がお見えになりました。さっそくほとんどの手書き原稿を電子化してくれることになり、精神的にもずいぶんと楽になりました。ありがたいことです。

 雑誌の編集としてはようやく緒についたというところでしょう。これから電子化された全作品についての再校があり、3校があり、写真の選択や撮影が待っています。著作権もすべてがクリアーされているわけではなく、かなりの数の許諾を得なければなりません。この秋に本当に出版できるのかという不安もありますが、まあ、やるっきゃないでしょうね。
 私の心構えとしては、とにかく楽しむことだと思っています。出来上がった姿を想像して、それが書店に並んだ様子を思い浮かべて、制作の一員になったことを楽しみます。でも、意外と書店に並んでから誤字・脱字を発見して泣くもんなんですよね。その悔いを無くすためには、今が踏ん張りどころだとも思います。



会報『木ごころ』11号
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2008.7.14 神奈川県南足柄市 非売品
鈴木章好氏発行責任・木ごころの会発行

<目次>
とびら…鈴木章好 1            酒井恒先生のこと(その三)−「柳の下に泥鰻はいなかった」−…竹内 清 4
私のゴールデンウイーク…平野博子 8
身近な自然観察(一)狸の最期        (二)カタツムリと遊ぶ…相原宗由 10
西伊豆風景〜つかの間のロマンス〜…小山寛子 13
【短歌】−古調五首−座臥…湯山 厚 16   ぶらり訪ね歩き−三島市−…村山精二 17
蛇は本当に鉄が嫌いか…木口まり子 18    アオキの実を味わう…長田雅彦 22
「ルーシーときどき日記」より…読み人知らず24 京・奈良…鈴木章好 27
【俳句】桜賛歌…石田晴生 30        【短歌】青い手帖…川口克子 32
【短歌】「地下鉄電車の中」…越坂部貞子 33  季節の人…内藤房江 34
奈良漬…尾崎絹代 36            寄席…丸山鮎子 38
かま石再訪…一寸木肇 43          編集後記…木ごころ編集委員 44



 桜賛歌/石田晴生

世の中は桜吹雪に新入生

駆けゆけるランドセルにも桜かな

憎らしき女の背にも桜かな

語り合う親たちに散る桜かな

花冷えに人影絶えし桜かな

折りたたむ傘にまつわる桜かな

湧きあがる喚声遠く桜かな

暮れなずむ空に妖
(あや)しき桜かな

見はるかす眼路を溢
(あふ)るる桜かな

さくらさくら命の限り
風となりて果てしなく
旅行く心抱
(いだ)きしめ
碧空
(あおぞら)に咲くさくらかな
       (二〇〇八・四・二〇)

 今号では俳句を紹介してみました。全くの門外漢ですから紹介の任ではありませんけど、〈憎らしき女の背にも桜かな〉はよく分かりますね。一枚の可憐な花びらが、なんてことだろう、あの憎らしい女の背にも! という作者の気持ちが伝わってきます。〈折りたたむ傘にまつわる桜かな〉もよく理解できます。この場合の傘は日除けではなく雨傘と採ってよいでしょう。濡れた傘にまとわりつく桜の花びら、そのうっとうしさに着目しているのでしょう。最後の4行は俳句の世界ではどう呼ぶのか知りませんが、この構成もなかなか面白いと思いました。
 今号では拙HPで書いた〈ぶらり訪ね歩き−三島市−〉を転載していただきました。御礼申し上げます。



隔月刊詩誌RIVIERE99号
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2008.7.15 堺市南区 横田英子氏発行 500円

<目次>
過ぎゆくもの…山下俊子(4)        引き出し…泉本真里(6)
蹴っぱれ、イッちゃん(4)…清水一郎(8)   鳥の生命…後 恵子(10)
わたしの未来…松本 映(12)        ここで給油しよう…永井ますみ(14)
やさしい切り紙…嵯峨京子(16)       夜空の呟き…蘆野つづみ(18)
リスパダール…石村勇二(20)
RIVIERE/せせらぎ 石村勇二/河井 洋/永井ますみ/横田英子 (22)〜(25)
愛と希望の国『僕たちの三日間戦争(1)まえがき』…河井 洋(26)
流氷の旅…平野裕子(28)          蛍火…戸田和樹(30)
真晝の湖水…釣部与志(32)         桜…藤本 肇(34)
町のかたち…内藤文雄(36)         遊びの庭…ますおかやよい(38)
風に/雨の歌…横田英子(40)
受贈詩誌一覧(42)             同人住所録(43)
編集ノート 横田英子            表紙写真・詩/釣部与志



 過ぎゆくもの/山下俊子

雪のふる日
自営業の忙しい仕事のすきまをみつけ
花をかかえて誕生の祝福にやってきた
はじめての自分の子に会うために
新司という名前を携えて
彼はいそいそとやってきたのだ

那岐山から吹きおろす疾風をうけて育った彼は
ちいさな息子に津山魂を仕込むという
泣き虫の長男はビービー泣いて反抗したが
妹がうまれ優しさいっぱいの男の子になった

三人のこどもに恵まれ
順風満帆のみちを賑やかに歩んでいたのに
十五歳で長男は不意にこの世をさった

彼はこどもたちに未来を語らなくなり
かなしみをせなかいっぱいにただよわせ
よる遅くまで仕事にうちこんだ

十歳で父親をなくした彼は
酒をのみながら息子とふるさとを語りたいと
いつのまにか成長した次男も家をでて
テレビを見ながらひとり酒をのむ

新聞でみつけた津山市の記事をよみながら
那岐山から吹きつける雪のかけらをおもい
鶴山城をおおいつくす桜のかおりに酔い
散り敷くもみじをぬらす
しめやかな秋雨のなか
駆けぬける時がそでふるのをみている

 今号の巻頭作品です。〈十歳で父親をなくした彼〉という人間像がよく描けていると思います。〈よる遅くまで仕事にうちこ〉むしかなかったことも、意に反して〈テレビを見ながらひとり酒をのむ〉ことになったこともよく判る作品です。ふるさと〈津山〉に関することなら眼を通すという〈新聞でみつけた津山市の記事をよみながら〉のフレーズも良いと思います。タイトルの〈過ぎゆくもの〉とは、最終連で〈駆けぬける時〉のことであることが判り、それを〈そでふる〉として、この作品をきれいにまとめたと云えましょう。一人の男の半生を考えさせられました。



詩誌『鳥』14号
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2008.7.20 さいたま市大宮区
力丸瑞穂氏方発行所 500円

<目次>

遠来の客・プラハの町…倉科絢子 2     立春・奥歯…力丸瑞穂 4
神田川11・神田川12…金井節子 6      古い手紙・柳の芽…森川柳子 8
ほっペ・杖・杉…田嶋純子 10        再会・夏のお土産…八隅早苗 12
まんぼう・極意・目と耳…菊田 守 14
評論
杉山平一の詩…菊田 守 16         この一篇(6)−村野四郎…菊田 守 18
小鳥の小径…20
□八隅早苗 □田嶋純子 □森川柳子 □倉科絢子 □力丸瑞穂 □金井節子
編集後記…23
表紙…西村道子



 奥歯/力丸瑞穂

歯医者は私の歯を見た後
「いつも奥歯を強く噛み締めていますね」
思いもかけない言葉
白いマスクの上の目が笑っていた

あれは五、六歳の頃だった
町から巡回して来た歯医者が
農家の土間の片隅で
無理やり私の歯を
糸で引張って抜いた
小学三年生の時 ケンカ両成敗と
雪の吹き込む廊下に立たされ
悔しさと寒さに歯を食い縛ったこともある

嫁いで姑に仕え
強く口を結んで暮した長い歳月

夜中にふと目覚めると
今でも奥歯をぎゅっと噛み締めている

みんな遠い日の夢となったのに
今さら何を食い縛って
生きようというのだ
口元をぽっと緩め
ゆったりとした笑みを浮かべて
日日暮らしてゆきたいと思っているのに

 〈いつも奥歯を強く噛み締めて〉生きてきたことがよく分かる作品です。〈小学三年生の時〉や〈嫁いで〉からも〈歯を食い縛〉り〈強く口を結んで暮〉らさざるを得なかった日々。それらは〈みんな遠い日の夢となったのに〉、その癖は容易に直らないものなのでしょう。対語として、最終連の〈口元をぽっと緩め/ゆったりとした笑みを浮かべて〉というフレーズが印象深く映った作品です。



   
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