きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.5.3 前橋文学館 |
2008.7.23(水)
お昼ごはんを食べながらTVを見ていたら「緊急地震速報」というものが流れてきました。それから30秒ほど経ってからでしょうか、グラグラと来て、本当に驚きましたね。多くの人も体験したでしょうが、生れて初めてのことで、ちょっと感激しました。震源は岩手で大きな被害がなかったようで何よりです。
この件は後日いろいろ取り沙汰されましたけど、私個人に限って言えば、科学もここまで進歩したかと感無量でした。気象庁の技術者の苦労が報われたなと思います。おそらく何十年もの努力の結果でしょう。この技術がさらに進化して地震予知にまで繋げられればいいなと思っています。
○原田暎子氏詩集『月子』 |
2008.7.7 福岡市中央区石風社刊 1800円+税 |
<目次>
*
それはいかがなものかと思う。7 猫笑い 9
やれうつな、11 じょもじょもぼちぼち 14
月夜 16 というような訳で、19
陽ざしあふれ 23 ただそれだけの一日 25
**
手紙 31 蹴つまずく 33
桜 36 漕いで漕いで 38
白く真っ白く 41 鶴 43
脱色 46 おかあたん、と 48
傾斜 51 ただ 54
***
第三の目玉と八代湾の落陽 59 満月 63
木 65 目をとじて 67
月子 69 トンネル 71
もう忘れたの 73 とおい。76
嵌めこまれていく 79 ふうーと息を吐く 82
寒干し 85 桜舞う 87
買い物袋をさげて自動ドアの前に立つと、90 輪郭 92
ひぃいふぅうみぃいよぅう 95
装画 くすもとかず子
月子
生きた書いた死んだ
詩に出会えて愉快な人生だった
はっ はっ はっ
と 三回笑って
わたしは死ぬのよ、と
嘯いてみせる
つ。き。こ。今宵のように雲も無い楕円の空に
どうおさまろうぞ、満ちても欠けても
おなじ方向からおなじ方向へ
たかだかそれっきりの道のり で
天に向かってくねくね登ってくる山芋の蔓のことを考える
つかのまの 月明かり あびて
しゅんかん
生まれ しゅんかん毀れ しゅんかん
すきとおる血管の尾鰭でおよぐ魚を
さびしい卵の陰ばかりの町の物語に
注ぎ込んでいる
出口なんかない そうかしら
雲無く身かくせぬ夜は ことば攫いの目くばせさえも
発色されて
一途に 登ってくるのだ
第4詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈今宵のように雲も無い楕円の空に〉〈一途に 登ってくる〉月を擬人化した作品で、〈出口なんかない〉詩人の一生を描いていると思います。〈生きた書いた死んだ/詩に出会えて愉快な人生だった〉と言えるなら、それこそが詩人の本望でしょうね。短い作品に、詩に魅せられた人間を凝縮させた佳品と思いました。
○斎藤央氏詩集『町の名』 |
2008.8.15
神奈川県小田原市 すもも舎刊 1500円 |
<目次>
町の名 9 大工町 12 仙了橋 14
抹香町 16 数 18 八幡山 20
新屋 22 城山 24 筋違橋 26
風祭 28 飯田岡 30 運河 34
風景 37 オータム イン
トクシマ 39
眉山 41 マグサイサイパーク 45 サマールアイランド 50
フライアウェイ 53 息子に寄せて 55 水 58
桜 61 桜 64 群青 69
片割れ月 74 菜の花 79 冬の薔薇 82
夏の終わりに 84 風を着る人 86 背くらべ 89
あとがき 92
町の名
古風という言葉は死んだ
大和撫子は
帰化植物に追いやられた
変わってほしくないと願いながら
江戸の名残の街を歩く
桜並木の向こう
武家屋敷の途切れるあたりに
時間の罠が仕掛けてある
西海子小路 諸白小路 筋達橋町
昔の通りの名が
南町と改まっても
この街は
昔のままの面影を保っているはずだったが
大通りに出て
信号を渡り
駅へ向かえば
古い商店は取り壊され
新しいビルが立ち並ぶ繁華街から
突如現れるのは
茶髪にミニスカートの
現代の姫たち
携帯電話で話す言葉は
文法構造を破壊し
日本語は
不似合いなリップグロスの上でもだえている
それに混じって
異国の若い娘たちの
聞きなれない言葉も飛び交う
駅に向かう私の足取りは次第に重く
揚土 日向屋敷 新蔵屋敷とめぐって
キオスクの陰で
若い男女が
濃厚なキスを交わすのを見れば
見慣れた街は歪み
幻想のなかに
古い家並みは消えて
駅舎へ上がるエスカレーターは
大勢の人の群れとともに 私を
いつのまにか
時代の闇へと引き込んでいく
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※紹介したのは巻頭に置かれたタイトルポエムですが、この詩集については著者の属する同人詩誌から書評を求められました。ここにその全文を記載して紹介とさせていただきます。
町の名に秘められた詩人の業
――斎藤央詩集『町の名』 村山精二
斎藤央の新詩集『町の名』は第八詩集になり、すべて手作り、発行部数も数十部だそうだ。内容はTからWの章立てで、Tはタイトルポエムともなっている「町の名」から始まり、私にも馴染み深い小田原の地名が数多く出てくる。しかし、それは情緒的な地名にまつわる詩ばかりではない。〈頑固に自分の生き方を貫いてきた〉〈男〉が〈自分を置き忘れて〉しまい(「仙了橋」)、〈茶髪にルーズソックスの少女が一人 制服には似合わない派手な化粧の匂いをさせて〉〈狭い路地へと消えてい〉き〈かつて川崎長太郎が小説の題材にした町〉(「抹香町」)であったり、フィリピン女性との再婚後〈口論の果てに 妻は異国に戻り〉(「新屋」)、〈永遠に縮まらない妻との年齢差〉(「風祭」)に悩み、先妻の娘からは〈家を出て行った父親は もう父親ではない 私たちは捨てられたのだ〉(「飯田岡」)と携帯電話で怒られる町なのである。
Uでは日本全国に旅した折の地名が遣われているが、この旅も単なる物見遊山ではない。〈それぞれの別れの軌跡/愛が憎しみにかわるとき/鎮めていた想い〉が〈心のどこかで氾濫する」(「風景」)町があり、〈中年の私は若い恋人と二人 チョコレートパフェを食べ〉ながら〈あなたは離婚歴のある僕を かじられた林檎に例えて笑って〉〈本当は切ないのに僕も思わず笑ってしまう〉(「オータム イン トクシマ」)町なのだ。
Vは再婚したフィリピン女性の母国がモチーフとなっている。この旅も安泰というわけではない。〈ミンダナオ島 ダバオ市 マグサイサイパーク〉の〈この風はかつて彼女を孕ませた風〉であり、〈娘の後をこっそりつけてきた母親の 安堵の顔〉(「マグサイサ イパーク」)があるものの、〈かたわらの妻になる約束のひとは/女の性を押し殺しながら〉も〈寄り添うだけで/男を刺激する/ココナッツの体臭>(「サマールアイランド」)に酔い、〈日本で産めばよかった 後悔が日々の暮らしを トライシケルの排気ガスのように汚している 帰れるはずの国で 夫もまた妻と暮らせないことに苦しんでいる〉国への旅なのである。やがて生まれてきた息子にも〈おまえはどこにいるだろう 父の国日本か それとも母の住むフィリピンか 離れて住むことへの懐疑〉を思いながらも〈父は飛び立〉(「息子に寄りて」)たざるをえない旅なのだ。
離れて暮らすこの夫婦にとって、桜は思い入れの強い花のようだ。「桜」と題された作品は同名で二編続けて収録されているが、最初の「桜」では〈妻は/フィリピンのカラオケの映像で桜の花を見たと/興奮して電話をかけてき〉て微笑ましい。しかし後の「桜」では〈桜の見頃には間に合わなかったが/遠い国から/あなたはもうすぐ帰ってくる〉のを待ち焦がれながらも、日本の親類である〈祖父も祖母も二人の姉たちも/おまえには会いたくないのだと言う〉言葉に打ちのめされてしまう。さらに「堕胎」では、二人目の子のことだろうが〈夫を恨み/夫の家族を恨み/ジーザス・クライストの教えに反した罪〉に怯えながら〈家を飛び出し〉〈風呂のない 六畳一間のアパート〉で〈精神を侵された〉姿が描かれていて悲惨だ。
Wは〈私〉の勤務する学校の生徒や先妻の娘との交流、幼いときの思い出などが描かれていて、心温まる場面もあるが、総じて現代の病む人物に視線が向けられている。
詩作品を集めた詩集だから、登場人物や出来事がすべて実在の人物や事実であると考える必要はないが、斎藤央という詩人の、一面の実像に迫ることができる詩集と言えよう。
○月刊詩誌『柵』260号 |
2008.7.20 大阪府箕面市 詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税 |
<目次>
現代詩展望 詩人の属性としての社会 −吉野弘「夕焼け」の背景…中村不二夫 82
沖縄文学ノート(9) 統合と反芻…森 徳治 86
流動する今日の世界の中で日本の詩とは(43) イタリアからの平和の詩3 自由の歩み…水崎野里子 90
風見鶏 田村のり子 中村なづな 高木 白 今村有成 西岡光秋 94
現代情況論ノート(27) 聖火リレーとヒットラー −メキシコ、モスクワ、そして北京…石原 武 96
詩作品□
小野 肇 祖父の家 4 名古きよえ 闇の動き 6
柳原 省三 追悼詩集 8 山南 律子 二匹の蝉 10
進 一男 まだ現われない像 12 水野ひかる その声 14
中原 道夫 白内障手術 16 肌勢とみ子 好物 18
佐藤 勝太 荒地に佇って 20 松田 悦子 かたつむり 22
忍城 春宣 富士が見ている 24 松井 郁子 桜の墓標 26
平野 秀哉 べっぴん 28 秋本カズ子 流星 30
北野 明治 採血 32 北村 愛子 これから先どうなる 34
織田美沙子 枕は右ですか左ですか? 36 小沢 千恵 都江堰の町を想う 39
小城江壮智 蛸八の唄 42 山崎 森 投降者の墨守 45
三木 英治 パリの風景 48 水崎野里子 ヒロシマ恋歌3 50
宇井 一 火の車 52 西森真智子 太陽とプール 54
八幡 堅造 視点を変える 56 月谷小夜子 車椅子とベビーカー 58
門林 岩雄 う われら 朝 60 江良亜来子 地面 62
鈴木 一成 わが近況便り 64 安森ソノ子 公演の後は 66
若狭 雅裕 蘇った記憶 68 川端 律子 人物写生絵画展を見て 70
南 邦和 誤植 72 今泉 協子 歌声よ 74
前田 考一 花筏 76 野老比左子 つくもなす 78
徐 柄 鎮 傘寿 80
世界文学の詩的悦楽−デイレッタント的随想(26) ニュージランド詩選集より…小川聖子 98
世界の裏窓から−カリブ編(11) 脱植民地主義 あれこれ…谷口ちかえ 102
コクトオ覚書235 コクトオの詩想(断章/風聞)15…三木英治 106
浜田知章さんを偲んで 嗄れ声と、帽子、その縁…原田道子 112
東日本・三冊の詩集 山本萠『遠いものの音』 水木萌子『滑走路』 中島登『遥かな王国へ』…中原道夫 108
受贈図書 116 受贈詩誌 113 柵通信 114 身辺雑記 117
表紙絵 中島由夫/扉絵 申錫弼/カット 野口晋・中島由夫・申錫弼
誤植/南 邦和
昔 役所にいたころ
総務課から回わってきた身上調書の
「扶養家族」の欄が「不要家族」になっていて
同僚たちと大笑いしたことがある
謹厳居士の上司は 悪びれもせず
母親と妻の名前を書き込んでいたが‥‥
ワープロ幕開け時代の長閑なエピソード
活版時代の誤植の話なら
「天皇陛下」が「天皇階下」と印刷され
不敬罪に問われたという有名な話がある
クラーク博士の「少年よ大志を抱け」が
「少年よ大女を抱け」になった詰も聞いた
家康を怒らせたという「国家安康」の鐘名も
「国家安泰」の誤植だったのかも‥‥
転換ミスは いまや日常茶飯時
「文学全集」が「文学全州」に
「人事院勧告」が「人事院韓国」に
こんなミスは ご愛嫡というものだが
日本政府は 大真面目で
高齢者を前期・後期に分けて
「不用家族」にしようとしている
アメリカ帝国主義の 覇権(派遣)会社が
傭兵という名の派遣社員をイラクに送り
「不正(聖)なる戦い」を続けている
Bush は Push の誤植か
中国「四川大地震」の記事を見ていると
「死線大地震」に見えてくるぼくの眼は
「詩屋狂作症(視野狭窄症)」かもしれない
〈誤植〉にまつわる話はそれこそ〈日常茶飯時〉ですが、現在の〈日本政府は 大真面目で/高齢者を前期・後期に分けて/「不用家族」にしようとしている〉と看破している点や〈アメリカ帝国主義の 覇権(派遣)会社が/傭兵という名の派遣社員をイラクに送り/「不正(聖)なる戦い」を続けている〉と論じている点は見事です。そして最終連の〈詩屋狂作症(視野狭窄症)〉も詩人ならではの言葉でしょう。笑いの中にも現実をきちんと批判している作品だと思いました。
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