きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.7.11 玉原高原




2008.8.4(月)


 久しぶりに小田原市立図書館へ行ってきました。この秋、地元の西さがみ文芸愛好会で『文芸作品に描かれた西さがみ』という本を出すことになっています。その中で北原白秋の「お花畑の春雨」について書くことが私の分担なのですが、原本がなかなか見つかりませんでした。小田原市立図書館に問い合わせて、所蔵していることがやっと判って、借りることになったものです。
 ネットで検索して、文庫や単行本にはないことが判っていましたから、全集だろうと思っていましたら、やはりそうでした。1985年刊の岩波書店版の16集に入っていました。初めて読みましたがなかなか佳い文章です。一部を紹介して解説を書きます。出版されたらどうぞお読みください。



季刊詩誌『現代詩図鑑』第6巻2号
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2008.7.1 東京都大田区 ダニエル社発行 600円

<目次> 表紙画…来原貴美『無題』
眞神 博 後れ…2             新延 拳 夕刊の頃…4
荻 悦子 洋梨…7             原利代子 かまきりの…11
高澤靜香 春分…14             高木 護 杖…18
海埜今日子 架空に月…21          坂多瑩子 夜…25
倉田良成 水をさがして…28         嵯峨恵子 塔の見える風景…32
山之内まつ子 再びについて…36      森川雅美 (今日は何の日だったかねえ)…40
岡島弘子 帰る…46             大木重雄 感じる…50
枝川里恵 沈丁花/雨…53          高橋渉二 放蕩亀虫 昆虫の書一九…57
岩本 勇 雨の二月、茨木さん逝く…63    佐藤真里子 寄り道…65
松越文雄 東京の入道雲…69         小野耕一郎 思考する石…73
北川朱実 虹のはなし…76          阿賀 猥 KID A・爆発…81
広瀬大志 舟は川岸に繋がれ…86



 夕刊の頃/新延 拳(にいのべ けん)

あの人のあれをこれして
そうそう
それそれ
固有名詞が出てこない会話

夕刊が配達される頃は
みなやさしい声を出すね

みどりのサラダに塩をふる
淋しさをふる
胡椒をふる
せつなさをふる
ゆで卵の殻がひとつつるんと剥けたくらいで
消えてしまうほどの鬱かな
夜は一気には来ない

雨がふっている
窓の隅の蜘蛛の巣がかすかに揺れていて
こういうのを淋しいというのだろうね



 〈夕刊が配達される頃〉の〈固有名詞が出てこない会話〉。その頃には〈みなやさしい声を出す〉という視点が新鮮です。夕食も始まろうという頃ですから、まだ〈夜は一気には来ない〉時刻で、家族の和やかな時間が過ぎていきます。しかし、その一方で〈こういうのを淋しいというのだろうね〉と感じもするのです。人間の生存の悲しさとでも謂うのでしょうか、逢魔が刻だからなのでしょうか、平和な時間の裏をも暗示する作品のように思いました。



個人誌『せおん』8号
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2008.8.15 愛媛県今治市 柳原省三氏発行
非売品

<目次>
十一月三日の平和公園            蛙男と長老
臓器移植とミミズ              すずらん
あとがき
表紙写真:豪州のヨットハーバー



 十一月三日の平和公園

しまなみ海道の橋げたの島に住むぼくは
広島の交通事情に疎かったので
安全取ったら二時間も前に着いていた
今日は日本現代詩人会の西日本ゼミだ
時間を持て余し平和公園を散歩する

原爆ドームから橋を渡った辺りで
女子学生風の活動家が素早く近寄り
核廃絶運動支援の署名を求めてきた
覗いた署名欄の最後は
詩人麻生直子さんであり
寸志一千円也

ぼくは何だか楽しくなった
秋晴れの平和公園である
麻生さんの横に署名して
寸志五百円也と書く
募金活動には詐欺があると
先日聞いたばかりであるが
女学生風の平和公園である

公園正面の道路上で
カラスが二羽騒いでいる
見ると車道中央に子猫がうずくまっている
車に轢かれ
ぺっちゃんこになるのを待っているのだ
カラスの経験なのであろう

驚いたことに信号待ちのトラックから
いかつい兄ちゃんが顔を出し
大声で子猫を促し始めた
信号が青に変わってからも
後続の巨大クレーン車も協力した
子猫はのろのろ危険を脱し木陰に入る
ああ今日は本当に良い天気である

 広島〈平和公園〉での〈女子学生風の活動家〉の〈核廃絶運動支援の署名〉と、〈車道中央に子猫がうずくまっている〉話し、どちらも心が洗われるような光景ですね。作者の〈ぼくは何だか楽しくなっ〉て、〈ああ今日は本当に良い天気である〉という気持ちが素直に伝わってきます。その反面、〈募金活動には詐欺がある〉というのも事実のようで、これはこれで考えさせられます。〈トラック〉の無謀運転も日々眼にしていることですから、逆にこの作品のような情景に出会うとホッとしますね。〈広島の交通事情に疎かったので/安全取ったら二時間も前に着いていた〉というフレーズにも、作者の誠実さが現れている作品だと思いました。



詩と評論『操車場』15号
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2008.9.1 川崎市川崎区 田川紀久雄氏発行 500円

<目次>
■詩作品
渇きと眠り ――2/坂井信夫 1      櫻 櫻/野間明子 2
不忍池/長谷川 忍 3           風のダンス/鈴木良一 4
生かされて/田川紀久雄 28
■エッセイ
新・裏町文庫閑話/井原 修 6       潮の香り磯の香り/坂井のぶこ 8
アフォーダンスについて/高橋 馨 10    詩人の聲/田川紀久雄 12
 ――つれづれベルクソン草(5)――     末期癌日記・七月/田川紀久雄 13
■俳句 俳句習作二十五句/井原 修 27
■後記・住所録 29



 不忍池/長谷川 忍

風がすこし
強くなってきた。

提灯の
ほのかな光
水面のあわいで
揺れている。

夜祭りだという。

視線を戻すと
盛りを過ぎてしまった紫陽花が
それでも
まわりに光沢を放とうとしている。

七夕は
いくつもの苦味をまとい
巡って来る。

私の生まれた日で
あなたの命日でもあって。

散り落ちた紫の花びらを
丹念に拾い集める。
水面のさざなみに浮かべてみた。

子供たちの
陽気な声
屋台から立ち上がってくる匂い。

今年もまたひとつ
あなたに近づく。

 詩作品ですから事実と採る必要はありませんけれど、〈私の生まれた日で/あなたの命日でもあって。〉というフレーズから、作中人物の誕生直後に母上が亡くなったと思ってよいでしょう。詩人には詩人になるべき条件があると私は思っているのですが、作者の条件≠ェ判ったようにも感じています。最終連も見事です。年齢を止めたしまった人に〈近づく〉誕生日。本来なら祝うべき誕生日であっても、そのような人もいるのだと考えさせられました。蛇足ながら愚妹の一人も同じ境遇です。



   
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