きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.7.11 玉原高原 |
2008.8.9(土)
午前11時に日本詩人クラブの事務所に5人が集まって、9月例会・研究会の案内状発送作業を行いました。お弁当を取り寄せた30分ほどの昼食を挟んで、5時まで掛かってしまいました。5人×6時間=30時間。現職時代に労務管理もやっていましたが、これを人工(にんく)と呼んでいました。4人で丸一日掛かるという計算になりますから、関連企業に作業を依頼したら8万円+必要経費等で10万円。技術者に仕事を頼むと16万円+必要経費等で20万円ほどになりましょうか。もちろん交通費は含まれていません。
お金に換算すると、そういう作業になります。それを全くのボランティア、せいぜいお弁当代の800円ほどで済ませてしまうのですから、申し訳ない気持ちにもなりますね。詩人クラブは利益を追求する団体ではありませんので、そんな計算をする人はいませんけど、組織を預かる側はちょっと頭の隅に入れておいても良いかもしれません。
ともあれ、今月も皆さんのご協力で無事に発送できました。ありがとうございました!
○詩誌『撃竹』68号 |
2008.7.20 岐阜県養老郡養老町 冨長覚梁氏方発行所 非売品 |
<目次>
痂…齋藤岳城 2
あてのない手紙…石井真也子 4 夜に群れる馬−<中心の空無>の時代から…前原正治 6
不登校…若原 清 10 因果な病歴…若原 清 12
携帯電話…斎藤 央 14 25時…堀 昌義 16
鶏…北畑光男 18 無明…頼圭二郎 20
猫を抱く女(ひと)…中谷順子 22 鬼…中谷順子 24
小さな鼓動…冨長覚梁 26
戦後六十余の地に立って 掘 昌義詩集「コップの時代」評
−社会への視線と時間感覚…森 米二 30
−憲法第九条のように…浅井 薫 31
−孤独の魂…冨長覚梁 32
撃竹春秋…33
あてのない手紙/石井真也子
遠く遠くへ手紙を出した
長い長い歳月を掛けてかけて届くように
海へと川が注ぎ込む場所へ
海辺の街らしい名で呼ばれている地名を書いて
緑深い風を思わせる色薄い封筒で
鉛筆で走り書きした何枚もの
笹舟色した便箋で
のぞみはあおられ、風に運ばれ
昔の懐かしい
幼い顔を残した土地っ子や
友人 老婆 老父 の頭上を
通り抜け
千切れて落ち朽ち果てて
いくことである
誰かがいずれその紙の破片に気付き
読み捨てるだろう
風と海と川にあてたかのような手紙
「みなやさしかった」
と
あらゆる
こころをもらって
朽ち果てゆくのだから
〈あてのない手紙〉ですぐに思いつくのは壜に入れて漂流させる手紙のことですが、ここではそれさえも越えているように思います。〈風と海と川にあてたかのような手紙〉の行き着く〈のぞみ〉は、〈千切れて落ち朽ち果てて/いくことである〉と読み取れますから、届かないことを願っているのでしょう。仮に〈誰かがいずれその紙の破片に気付〉いたとしても〈読み捨てるだろう〉と思っていますから、この手紙の散文的な意図は難しいですね。しかし、「みなやさしかった」という〈あらゆる/こころをもらって/朽ち果てゆく〉と締められた最終連から、この手紙の詩的な意図は受け止められます。おそらく、〈手紙を出〉すという行為そのものに作者の意図があるように思いました。
○インスタレーションポエトリーマガジン 『鶴亀』2号 |
2008.7 神戸市東灘区 鶴亀ギャラリー・武内健二郎氏発行 800円 |
<目次>
「小さな人たち」/高谷和幸 03 ピーターパン/中堂けいこ 04
子供を受け止めたのは/武内健二郎 06 くさふみ ふむ/中堂けいこ 08
停電/中堂けいこ 10 デンシャ!/武内健二郎 16
待ってるよ/水田恭平 18 待つひと/武内健二郎 22
編集後記 24
子供を受け止めたのは/武内健二郎
幻覚をみるひとから手紙を受け取りました
『あれはあなただったのですね。火事になったビルの三階から投げ落とされた子供を
受け止めたのは。あなたはひとを救われたのですね。』
時々電話もかかります
『手を骨折されたそうですが大丈夫ですか』
『父上がお亡くなりになったそうで』
『FMでいま歌っておられますね』
手は折れていません 大丈夫です
父はなんとか生きています
いま歌っているのは平井堅です
手紙の返事を書こうとしました
それは僕ではありません 僕ではありません ありませんありえません
続けるうちに言ってしまいそうになるのです
もしかしたらそれは僕かもしれません
子供を受け止めたのは僕だったような気がします
そうです 僕です
僕は子供を受け止めたのです
返事が書けません
文章の削除されたパソコン画面が僕に迫ってきます
投げ落とされた子供はあなただったのですね
〈幻覚をみるひとから〉の〈手紙〉に反論しているうちに、〈もしかしたらそれは僕かもしれません〉と変化するのは、人間の弱い心理を突いているように思います。犯罪捜査でよく聞く話のように…。それだけならばよく聞く話≠ナ終わるのですが、この詩は最終連が見事です。最終連は2通り採れて、話しているのが〈幻覚をみるひと〉でも〈僕〉でも可能です。この場合は〈僕〉が話しているとした方が素直なのでしょうが、〈幻覚をみるひと〉と採ってもおもしろいなと思いました。
○個人詩誌『縞猫』18号 |
2008 兵庫県西宮市 中堂けいこ氏発行 非売品 |
<目次>
うる 守宮 いぬ
与儀公園にて
帆船
帆船
あなたは無口だから
リエさんと同じ席につくのですよ
産休明けの先生は甘い匂いでしめす
椅子引き リエのなつくしぐさで ことさら明るく窓ぎわの席
リエは字が読めないからわたしの名 指で見えない文字を机に
書いてみる 教室を隅々まで明るく照らす声色 ここにいてよ
わたしたち二の腕をきれいに並べ ここにいてよ 二人を囲む
小さな砦の中 ほほっほほほっほ歌うの リエの書けない文字
重ねて 一文字一文字なだらかな裏山すべり降りては 声かけ
夏のカーテンの振れるあいまから 湾処の練習帆船を見つける
海と空にくっきり白い帆が並び 総帆展帆という 練習生ら帆
に腕さしあげ 届くよう水兵服の襟立てひるがえり 幾枚もの
ひかる布膨らんで さわれば柔らかいと 古城山にも届くよう
横帆ひろげ覆い被す 水兵の練習生が招きいれるよ キミたち
小さいヒトは綱を渡らせ メインポストの梯子から風が止まり
リエの足裏追い わたしからはなれないで 金色の女神真似て
腕さしあげ ほらあの教室まで 古城山こえていつか風になる
ジョバンニの無口がすきだ 窓からの白い景色も ココヘカケ
テモヨウゴザイマスカ 鳥刺しの声色で一音一音たどる仕掛け
この話の終わりから もう河が流れ始め ホシと読みギンガと
読み 鳥刺しの行方にリエの字も書かれて いつもジョバンニ
は無口で 哀しいカンパネルラもやっと仲良くなる リエの背
笑い 指でジをさわるバもさわる 切れ切れに口からやさしく
こぼれては机にころがす 二人の窓の外を練習船が去っていく
(スサキサスU)
※宮沢賢治「銀河鉄道の夜」から幾つかお借りしました
〈リエ〉は発達障害の子という設定でしょうか。〈リエ〉と空想の世界に遊びますが、実はそれは宮沢賢治の世界と同じなのだと教えられたように思います。〈練習帆船〉が出てきたところで「銀河鉄道の夜」との違いがありますけど、この〈白い帆〉、〈水兵服の襟〉は印象的で、「銀河鉄道の夜」に埋没しなかったと云えるでしょう。有名な作品を詩に採り入れるのはかなり難しい技なのですが、この詩は成功していますね。〈リエ〉と〈わたし〉の世界を愉しませてもらった作品です。
← 前の頁 次の頁 →
(8月の部屋へ戻る)