きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.7.11 玉原高原




2008.8.11(月)


 今日も終日、西さがみ文芸愛好会で刊行する『文芸作品に描かれた西さがみ』の原稿執筆に追われていました。いただいた本をほとんど読めませんでしたが、モノ書きの端くれとしては、やはり書いているときが楽しいですね。でも、それと結果とは別。皆さんがお金を出して読んでくれる文章になっているかどうか…。それは出来上がってから判断するしかありません。お買い求めになった方は、どうぞ忌憚のないご意見をお寄せください。この秋、発売です。



季刊詩誌『詩と創造』64号
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2008.7.20 埼玉県所沢市
書肆青樹社・丸地守氏発行 750円

<目次>
巻頭言 詩と道化−(承前)ハムレットとアメリカインディアン…石原 武 4
詩篇
おでん哀歌…嶋岡 晨 6          地霊頌
(ゲニウス・ロキしょう)mantra…内海康也 8
ここでは雨が…清水 茂 10         それは 本当か…原子 修 14
釘をうつ音/ぶらんこ…山本沖子 17     柳絮…石原 武 20
背後の空から降ってくる…松岡政則 22    トマト…なんば・みちこ 24
レモン…橋本征子 27            花びら…橋爪さち子 30
海の声…宮沢 肇 33            ひとひらの雲…崔龍源 36
短詩抄…丸地 守 39            影の眼…岡山晴彦 42
五月の風…長瀬一夫 44           窓辺には誰もいなかったと…白井知子 46
チガヤのキツネ…清水弘子 49        秋茜…砂川公子 52
目…高山利三郎 55             報告…古賀博文 58
移ろい 黒羽英二一61
エッセイ
詩人という看板のことなど…嶋岡 晨 64
感想的エセー「海の風景−南島の地 沖縄へ」X-(2)…岡本勝人 67
屹立する精神 シェイマス・ヒーニーの詩(15)…水崎野里子 72
魚が陸にいられないのと同じように−往生際の時間(一)…北川朱実 76
美術館の椅子 エミリー・ウングワレー展…牧田久未 82
プロムナード
闘う女…こたきこなみ 86
「老人は死んでください国のため」…黒羽英二 87
現代詩時評 かつて自分たちが招いた結末を現代に生かすために…古賀博文 88
海外の詩
現代アイルランドの詩 イーヴァン・ボーランド…水崎野里子訳 94
雪という名をもつ画家 イヴ・ボヌフォワ 清水茂訳 96
詩集『サルドニア』(一九六七)より ペドロ・シモセ 細野豊訳 99
幻想痛/トジャンコル村の詩篇他 キム・シンヨン(金信龍)韓成禮訳 104
うず高く積もり/立てられた人他 イ・ジンミョン(李珍明)
女王象の力/引き潮に他 チョ・ミョン(趙明)
新鋭推薦作品 「詩と創造」2007新鋭推薦作品 115
眼を洗う 万亀佳子/かなしみの周縁 宮尾壽里子/路地 弘津 亨
研究会作品 118
あの八月の記憶 松本ミチ子/水溜まりで 司由衣/火山がある風景 松本定雄/雨と少女 佐藤史子/白木蓮 吉永正/あいまいな種別 金屋敷文代/ぼくたち 葛原りょう/ある朝鮮の缶詰を開けて 高橋玖未子/蟄籠 K・汪然/髭 鮮一孝/ルンバ 太田美智代/風光る 池上耶素子/四角い雨 山田篤朗/マジック 宇宿一成/火の直線 一瀉千里/変様する…… 伊藤静/喪失、或は 水戸奈緒美
選・評 丸地 守・山田隆昭
全国同人詩誌評 評 古賀博文 136
書肆青樹社の本 140
秋山千恵子詩集『桜パヴァーヌ』/山本沖子詩集『鬼灯・りんご・さくら』/なんば・みちこ詩集『下弦の月』
書評 評 こたきこなみ



 おでん哀歌/嶋岡 晨

心臓の中心を 鋭い竹串に刺された
軟体動物 こんにゃくよ
角ばってるくせに つかめない思想

永遠の偽のわたり鳥 夜空の下着を
カギ裂きにする がんもどきよ 運命よ

だれの脳味噌より 頼りなく無力なゆめ
白じらしく存在の優しさを示す はんペんよ

妖しい帯状の口惜しさをもって
みずから知の暗さを抱きしめる 昆布よ

厚ぼったい生の輪切りの名月
三文役者の名台詞 おお 大根よ

つるりと顔を撫で 汚職し転落する
たましいの一塊 いとしい卵よ

筒状の年月のなかに 棲息するため息――
へんに美しい猥褻物 ちくわよ 竹輪

過去の涙の結晶 ぎんなん……
焦げやすい愛の 焼き豆腐に妬かれ
生きた死体にからむ寝巻き キャベツ巻き

おお 鍋風呂の混浴の 交響楽団よ
これがわたしたちの正体なのだ
そして溶き辛子という必要悪に 熱燗だ。

 〈おでん〉の具でこれだけの詩が出来るというは驚きです。恐れ入りました、ですね。それぞれの具の形象はそれぞれに見事で、ここで繰り返すことはしませんが、やはり最終連がよく出来ているなと思います。〈鍋風呂の混浴の 交響楽団〉もおもしろいですし、〈溶き辛子という必要悪〉は納得。そして〈熱燗だ。〉が傑作でした。ナマの作者が見えて、思わず拍手してしまいました。日常の素材でもちゃんと見ると、これだけの詩が書けるんだぞと教わった思いです。



詩と訳詩のざっし『火片』168号
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2008.8.1 岡山県総社市 井奥行彦氏方 火片発行所
500円

<目次>
パウル・クレーの絵と谷川俊太郎の詩〈解説〉鈴木 俊 1
【詩篇】
天空の縄ぶらんこ/片山福子 18       花/妹尾礼子 19
右手に 外/佐藤祝子 20          ジレンマ/赤羽 学 21
老千行/皆木信昭 21            三月五日シュレッダーの前で立ち止まる/石原富貴子 23
迷い道/なんば・みちこ 24         風と 雪と/辰巳信子 25
【記録】母永瀬清子の思い出/井上奈緒 13
【詩篇】
その刻 外/中桐美和子 26         渦潮 外/竹内千恵子 27
子鴨 外/岩崎政弘 29           まひる/斎藤恵子 31
忍者ごっこ 外/藤原由紀子 32
【詩手紙】死の国の姉へ/井奥行彦 5
【詩篇】
風のモノローグ/神崎良造 33        秘密/白神直生子 35
人生/しおたとしこ 36           ひかりに歩む/川田圭子 37
ひとり遊び君/岸本史子 38         まぶしい光/則武一女 39
いぬのふぐり/山下幹男 40         渦/中田文子 41
声/重光はるみ 42             つり橋の上で/木村雅子 43
【記録】道すがらの記5
尋常小学校から国民学校へ/なんば・みちこ 15
【詩篇】
青い太陽/柏原康弘 44           解き放つ/石川早苗 44
【読者のページから】担当 山下静男 46
笑顔で・やまだじゅんこ           夜明けの足音が聞こえる 外・小林幸子
編集のあとに・井奥



 天空の縄ぶらんこ/片山福子

どこかに行くつもりだったかもしれない
駅の待合で待っていたのだから
簡素な硬い椅子に座り
寒々とした裸電球を見ていた
先に順番を待っていた人びとは
なぜか自分の番がくると
おびえてゆがんだ顔で 後の人に
順番をゆずるので
私の番は思ったより早くきた
 −さあ、あなたの番ですよ−
逃げを打った前の人に
身をかわして押し出されると
私は天空にかかるぶらんこに座っていた
宙から下がった ぶらんこの縄は
あまりにも長く 何百メートルもあり
揺れはじめると 巨大な弧を描いて
放り上げ 落下し よじれ 振り回され
まるで巨大なジェットコースター
巻き起こる暴風
誰一人つかまっていられっこない
むちゃくちゃ恐い 天空のぶらんこ
とうとう どこへ落ちるかもわからず
振り落とされて
泣きながら
生まれてきた

 最後の1行ですべてが判るという、素晴らしい作品です。私たちはそうやって〈生まれてきた〉のかもしれませんね。〈駅の待合〉、〈簡素な硬い椅子〉、〈寒々とした裸電球〉などからは、生まれた時代まで想像することが出来ます。〈おびえてゆがんだ顔で 後の人に/順番をゆずる〉というのも、予定日を過ぎてもなかなか産まれてこない赤ん坊を暗示していて、見事です。



詩誌『詩区 かつしか』108号
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2008.8.20 東京都葛飾区 池澤秀和氏連絡先 非売品

<目次>
半夏生/みゆき杏子             後期高齢者/工藤憲治
長崎カステーラ/工藤憲治          いくつになっても/内藤セツコ
K君(ヒロシマ連祷46)/石川逸子       ちぎれ雲/池沢京子
入れかわる/田中眞由美           実の果てに・・/池澤秀和
からっぽの水槽/堀越睦子          なつ−貨物線・蓮・花火−/青山晴江
人間112 ケロイド(8)/まつだ ひでお     人間113 老人と銃/まつだ ひでお
静かな時間/小川哲史            雨のファンクラブ/小林徳明
ほたる/小林徳明              球体なのに/朝吹まりも
その 一冊/しま・ようこ



 実の果てに・・/池澤秀和

道端の わずかな隙間に
ゆれている数本の ポピー

いつの間にか
蓮の実を 小さくしたような
小指の 爪ほどの実をつけている

五、六個ちぎってポケットに
帰宅後 爪先で開いてみる
ゴマ粒より もっと小さな
黒ずんだものが 紙の上に 点々とある

こんな小さな 粒子でも
いや 小さな粒子だから
みどりの ゆめの
すみかを 探って風に乗るのか

小さな実も 大地でばらけ 種子となり
アスファルトの先へと別れていく
花が ゆるやかに 揺れていたのは
風の果てを 聞いていたのに ちがいない

ちいさな ちいさな粒子は
小鳥の食欲や 体にも実を寄せ
遠くへ さらに遠くを目指し 運ばれていく

 〃どこか遠くへ 行きたい〃と言う歌があったが
 「そんな世界はないよ」
 「居る場所だって ないよ」と
 かぜの隙間から 誰かの声

上から降りて来る言葉は 空疎で嘘ばかり
こころの闇の 惨状も 伝えられ
つぎつぎと覆う重圧に 苦い味を刷り込みながら
ポピーの柔軟な繁殖力に
辞書で「ポピー」をひらけば ケシ・特にヒナゲシ とある

 そうか やさしくゆれる 気安さは
 毒を持たないケシの種類だったからか・・・

 〈花が ゆるやかに 揺れていたのは/風の果てを 聞いていたのに ちがいない〉というフレーズがやさしく美しい作品です。人の世の〈上から降りて来る言葉は 空疎で嘘ばかり〉ですが、〈遠くへ さらに遠くを目指し 運ばれていく〉「ポピー」には、そんな視線はありません。作者は〈そうか やさしくゆれる 気安さは/ 毒を持たないケシの種類だったからか・・・〉と締め括りますが、同じケシでも毒を持たないものがあるのだと教えられました。毒をどう使うかは人間次第。仮に「ポピー」にあったとしても、それは花のせいではないとも感じました。



   
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