きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.7.11 玉原高原




2008.8.14(木)


 知人の朗読会があったのですが、サボりました。ここのところ出歩く機会が多く、HPの更新が遅れています。終日いただいた本を読んで、HPを更新して過ごしました。



絹川早苗氏詩集『林の中のメジロ籠』
第6次ネプチューンシリーズ\
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2008.8.1 横浜市西区 油本氏方・横浜詩人会刊 1200円

<目次>
雛あられ 8                翔ぶ木馬 12
子盗り 16                 象の家族 20
細々とした一すじの道 24          落ちる子ども 28
 *
白い馬 32                 海へ 34
さよなら 37                金色の鮎 39
白木蓮 42                 堕天使 44
 *
釣りと詩 48                釣りと女 50
海釣りと山釣り 53             剥製の家 55
ワカサギ釣りに連れていってもらった 58   鱒と鮎 61
 *
ブナの樹 64                雑木林 66
おとない 68                林の中のメジロ籠 70
 *
坂道 74                  バスタオル考 77
異説今昔物語・蔓 80
ミミいろいろ――あとがきに代えて 83



 林の中のメジロ籠
        ――林住期の中に在って

林間に吊された メジロ籠 小さな我が家は夏になると
緑に包まれる 崖上にあれば 空も近く 飛びうつる枝
も ほれ そこにあって……

先住の鳥たち ウグイス シジュウカラなどは 朝夕か
ならずやって来て 高々と名乗っては 縄張りを主張す
る 渡来のリスもこの家の屋根がグラウンド

籠に出入り自由な虫たち 長虫たち ムカデが天井から
落ちてくるかと思えば トカゲが戸袋から跳び出し 朽
葉の中からは子蛇が這いだし舌ひらめかす

同類の人間たちも時々寄っては来るけれど トリモチ
付けた枝など設らえてはいないのでちょっと様子をう
かがっただけで すぐ飛び去ってしまう
つが
番いで花の蜜を吸いに来るメジロ ふっくらと身を寄せ
あって眠るメジロも 今日はただ一羽 うすいグラスの
縁にふれるようなほそく澄みきった声で鳴きながら
枝から枝へ行ったり来たりするばかり

わたしもまた小さな窓から世の浮沈と騒動を 時たま覗
き見しながら 狭い部屋をただあちこちし 籠の中の束
の間の命を ひとり無為に暮らしている それほどには
屈託もせずに……

風と時間は籠を素通りし 空にはゆったりと雲が流れて
いく

  *林の中に囮籠を吊してメジロを捕らえる方法が、昔にはあった。

 8年ぶりの第8詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈林住期〉を想定した作品ですが、〈林間に吊された メジロ籠〉との相似がおもしろいと思いました。第4連の〈トリモチ/付けた枝など設らえてはいないので〉という言い回しも成功していますね。第6連の〈籠の中の束/の間の命を ひとり無為に暮らしている〉けど〈それほどには/屈託もせずに……〉というのは実感なのでしょう。おだやかな〈林住期〉らしい作品だと思いました。



詩誌『火皿』116号
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2008.8.15 広島市安佐南区
福谷昭二氏方・火皿詩話会発行 500円

<目次>
■詩作品
・一本の樹に…………御庄 博実 2     ・時間が………………………長津功三良 4
・その日の空…………上田由美子 6     ・百歳の恐竜…………………松本賀久子 8
・星空の下……………福島 美香 12     ・甲神部隊……………………福谷 昭二 14
・一片の月……………津田てるお 16     ・残照…………………………大原 勝人 20
・G……………………大山真善美 22     ・牧場…ロバート・フロスト 大山真善美訳23
・旅路…………………大石 良江 24     ・金をかえせ…………………的場いく子 26
・馬……………………川本 洋子 28     ・螢……………………………川本 洋子 29
・住人…………………山本しのぶ 30     ・一本の綱……………………北村  均 32
・夏蜜柑………………松井 博文 34     ・夏の館………………………松井 博文 35
・靴下…………………沢見 礼子 36
■特集 浜田知章さん追悼
・「広島へ行くべきだ」と浜田知章さんは語った…鈴木比佐雄 38
・ひろしまから平和の哲学を発信せよ−浜田知章は叫んだ−…長津功三良 39
■高校文化祭スピーチ 『私と詩』−『原爆詩一八一人集』にちなんで−…上田由美子 43
■編集後記…49
■表紙画−「寂岩(U)」 作者=神尾達夫



 その日の空/上田由美子

少年が見上げている空は
雲一つないコバルトブルー

六十二年前に
少年が見上げた空も
コバルトブルー

灼熱の赤い闇の扉が開かれる五秒前に
無辺の空のどこからともなく
銀色の物体が登場する

次の瞬間閃光がはしり
見上げていた少年の顔から
凸凹が消え
空を掴むように
大きく手を広げて止まった
少年は人間の石型に
四千度以上の熱線が
舌なめずりをしながら消えた
悪魔でもたじろぐ技

原爆投下の数日前
「新型爆弾を投下しますから逃げて下さい」
「この度は本当に新型爆弾を落としますから
逃げて下さい」

もしも
飛行機からそのようなビラを散らしていたら
何千枚ものビラを散らしていたら
少年は今 父になって 祖父になって

今もなお
指先からしたたりはじめた止まらぬ血で
悪夢の扉に落書きを続ける
「地球よ最終章へ」と

勝ち負けなど空はしらない
ただうなだれながら黒い雨を
地の奥深くまで しのび込むように降りそそぐ

 第5連の発想には驚きますが、沖縄では現実に投降を呼びかけたり、本土でもビラが撒かれたそうですから、あながち非現実とは言えないかもしれません。国際法規では非戦闘員への無差別爆撃は禁止されていますので、そのような〈ビラを散ら〉すことも選択肢としあってしかるべきだったと言えるでしょう。広島への原爆投下の名目は軍事都市の軍需工場破壊だったわけで、市民を巻き込む必要は無かったはずです。重慶への無差別爆撃をやった国としては、その非難を口に出来る立場ではないかもしれませんけど、一市民としては言うべきだとも思います。改めて考えさせられました。



会誌『雲雀』8号
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2008.7.31 広島市佐伯区  500円
安藤欣賢氏代表・広島花幻忌の会発行

<目次>
【特集 原民喜資料の新たな展開】
自筆草稿「雲の裂け目」・習作「鎮魂歌」(各1枚目のみ)
解読・草稿の数々(「雲の裂け目」「鎮魂歌」「火の子供」習作ほか) 1
解説2題
「伊作」そしてイニシャルK…海老根勲 29
〈父の臨終〉にみる原民喜の原点…竹原陽子 35

「西陣」からHiroshimaヘ−宮岡秀行・野木京子往復書簡…40
師・深川宗俊の思い出…相原由美 50
原民喜作品紹介・不思議…53



 伊作そしてイニシャルK−「鎮魂歌」の周縁など/海老根 勲

 広島市中央図書館にある原民喜資料に含まれていた草稿類の検証作業は、なんとも衝撃的な体験であった。同図書館が作成した「原民喜資料目録」には、幾つかの草稿に「表」「裏」という表示がある。例えば資料番号914は「(表)あの男もこの頃になって、僕のこと頻りに憶ひ出したりなんか・No20〜24(裏)私の父は大正十六年二月二十日夜半に死んだ。両面使用」といった記述がしてある。No20という数字は四百字詰め原稿用紙の二十枚目から二十四枚目の意味。いったい、これらは何を意味するのか、以前から疑問に思っていたのだが、つい、見過ごしてきてしまった。〇八年早春のある日、資料の山に分け入った会員の竹原陽子さんが、その裏面の草稿が「雲の裂け目」の主要な一部分であることに気づいて私に連絡して来た。(表)とあるのは「雲雀」7号に転載した「玻璃」(「三田文学」昭和十三年三月号初出)の自筆原稿の一部だった。それがことの始まりだった。改めて逐一点検してみたのである。

 驚いた。「不思議」一枚の裏側にはエッセイ「死と愛と孤独」の下書きがあった。まさに、壮絶なまでのなぐり書きである。同図書館の資料には小説「永遠のみどり」や翻訳「ガリバー旅行記」全文の自筆原稿などがあるが、どれも、彼の透明感のある文体をそのまま反映させたような端正な書体である。今回、新たに確認した「玻璃」「不思議」「暗室」など、昭和十年代に発表された作品の原稿もそうである。原民喜という詩人・作家は、言葉が、わきいずる泉のように紡がれると、その書体から勝手に思い込んでいた。わずか千字に満たないエッセイに、かくも激しい推敲を加えていたことを知って、一つの文章に賭ける彼の、おのれ自身に向う厳しさを見る思いがして、胸が熱くなったのである。そして、さらに資料に分け入っていくと、未発表、未完成と思われる創作が二つ、「忘れがたみ」や「小さな庭」「吾亦紅」につながるような短章三編などが見つかった。イニシャルKにまつわる話以外は総て、若いころの自筆原稿の裏側に書かれていた。どの草稿にも、何度も推敲を重ねた跡が生々しく残っている。

 劣化防止用の封筒に入れられた資料は、その一つひとつに通し番号がつけられ、資料カードも入っている。おそらく、佐々木基一氏の遺族から寄贈を受けた後、当時の広島文学資料保全の会で目録作成に当っていた尾津訓三氏が作ったのだろう。しかし、なぜか資料の内部にまでは分け入ることなく、今日まで半ば忘れ去られていた、というのが真相らしい。(以下略)

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 今号は目次でも判りますように【特集 原民喜資料の新たな展開】が組まれていました。著作権や著作隣接権の問題もありますので、その具体的な内容にはふれませんが、発見の経緯の冒頭部分のみを紹介します。〈わずか千字に満たないエッセイに、かくも激しい推敲を加えていた〉ことを発見されて、原民喜も本望でしょうね。
 原民喜研究には重要な発見のようです。関係者のご努力に敬意を表します。



   
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