きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.7.11 玉原高原




2008.8.18(月)


 午後から湯河原の「グリーン・ステージ」に行って、<櫻井千恵 朗読の集い> に参加してきました。前回から、櫻井さんの朗読教室で勉強している人も短い朗読をやることになって、今日は西さがみ文芸愛好会でご一緒しているKさん。朗読は庄野潤三の「インド綿の服」。これはこの秋に西さがみ文芸愛好会で出版することになっている『文芸作品に描かれた西さがみ』にも収録する作品で、私にとっては拾い物でした。拙宅のある南足柄市が出てくる随筆ですけど、私はまだ読んでいませんでした。必死に聴いて、もう読み終わった気になっています(^^;

 櫻井さんの朗読は小林久三の「胡桃の夏」。小林久三はまったく読んでいませんでしたが、足尾鉱山の鉱毒事件を扱った「暗黒告知」で直木賞候補になり、江戸川乱歩賞を受賞しているそうです。

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 「胡桃の夏」は、高校3年の男子生徒が、アパートの隣に住む57歳の独身女性を陸橋から突き落とした、というもの。その女性がいつも持っていた手製の小さな赤い袋の中には胡桃の実が…。アパートの隣同士で挨拶をする程度と思われていた男子生徒が、なぜ殺人を…。生命保険会社のタイピストだったという女性は、意外にもシナリオ教室に通っていて、ある賞に応募していた…。
 謎が謎を呼ぶ顛末は、意外な結果になり、おもしろく拝聴しました。45分ほどだったでしょうか、アッという間に終わってしまった感じです。原作を読んでみたくなるような朗読でした。ありがとうございました!



詩と批評POETICA56号
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2008.7.20 東京都豊島区 中島登氏発行 500円

<目次>
おうい いもり よ/よしかわつねこ 682
離婚(4) −連作(1)〜(4)のうち−/よしかわつねこ 684
チェロ/清水恵子 686
こどもの情景/村山精二 688
「道」が「みち」であるために/田中眞由美 690
やまぼうしの花が ゆれて/田中眞由美 692
多くの若者への親しみをこめたアドバイス/チャールズ・ブコウスキー 中島登訳
□恵贈御礼
□「名残酒なり」(筧槇二氏追悼)



 多くの若者への
  親しみをこめたアドバイス/チャールズ・ブコウスキー 中島 登・訳

チベットヘ行け
駱駝に乗ってみろ
聖書を読め
おまえの靴をブルーに染めろ
顎髯を生やせ
紙のカヌーに乗って世界を回れ
サタデーイヴニングポストを予約購読しろ
おまえの口の左側だけで噛め
一本脚の女性を妻として迎えよ
西洋剃刀で髯を剃れ
おまえの名前を彼女の腕に彫り刻め

ガソリンで歯を磨け
昼間はぐっすり眠り 夜になったら木に登れ
僧侶になれ そして鹿弾とビールを飲め
頭を水につけてヴァイオリンを弾け
ピンクの蝋燭の前でべリーダンスを踊れ
おまえの犬を殺せ
樽のなかで生活しろ
鉈で自分の頭をうち砕くのだ
雨の中でチューリップを植えろ

だが詩なんか書くんじゃないよ

 最終連で思わず笑ってしまいました。出来そうもないことやハチャメチャなことをやっても構わないけど、〈だが詩なんか書くんじゃないよ〉。これが一番無茶なことだからね、ということでしょう。説得力があります(^^;
 浅学で、〈鹿弾〉が判りませんでした。ネットで調べると
鹿弾(シカダマ)と呼ばれる中・小型獣狩猟用の弾丸≠ニ出ていました。 本号では拙作も載せていただきました。御礼申し上げます。



文芸誌『びらん樹』10号
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2008.8.1 神奈川県小田原市   非売品
下田勝也氏方連絡先・びらん樹の会発行

<目次>
JR御殿場線の旅          奥 津 尚 男 1
戦後の少女時代 ―疎開より帰って― 風 間 笙 子 8
夏の訪れ              鈴 木 宣 子 14
夢 ―二題―            角 田 幸 子 18
心の詩               藤 澤 慶 子 22
毒ギョーザ事件           鈴 木 英 之 25
生きる ―遠い日に―        鈴 木 加代子 28
短歌と私              河 原 瑤 子 32
光山樹太郎先生を囲む勉強会
 ―『樹林』に集う小鳥になって―  小 澤 敬 子 41
犬一匹と猫三匹(三)        いのうえくにこ 48
アルビノーニが聞こえますか     高 橋 フミ子 53
木曾川三川の話(二)        下 田 勝 也 58
風呂敷               小 田   淳 72
表紙・杉山七重



光山樹太郎先生を囲む勉強会
 ―『樹林』に集う小鳥になって― 小澤敬子

「歳月」と刻まれた墓標に手を合わせながら、此処には居ない…千の風になって―、と歌われた歌詞が過った。
 海を臨む霊園に友人二人と共に参ったのは、桜紅葉も終りを告げる時季であった。ひとりは「樹林」という小さな手づくりの同人誌の誌友。ひとりは詩誌「小田原詩人」で光山先生と活動を共にされていたという、「樹林」終刊ののちに知り合い、親しくさせていただくことになった友人である。
「光山先生は驚いていらっしゃるわね、この顔ぶれに。何だ、知り合いだったのか?ってね。」
 雨上がりで貼り付いた辺りの落葉を掻き分けながら、三人であの頃の先生の言葉などを探った。
「定年後の旦那は、濡れ落葉なんて呼ばれたりしてね。」
先生の言葉に、何のことか解らずにきょとんとしていると、
「どこにでもついて行くと言い、払ってもなかなか離れない…って」
 月に一度の講座では、女性を楽しませる話題に事欠かない。女々しいテーマも多かったが、笑いも絶えることはなかった。

 あれは、わたしの居住する市の広報に「ことばのセンスアップ」というふうなタイトルで五回ほどの講座の呼びかけがあり、その中に光山先生のお名前が二日間入っていたのでした。それ以前から、子どもの通う学校や、地域の公民館で講演をされる―と聞くと、出掛けて行っては、光山先生の言葉に耳を傾け、こころに潤いを覚えたものでした。今回の講座でも受講者はかなり多かったのですが、わたしは知り合いもなく、後ろの方の席でひとり、聞き入っていました。
 初回の講座の終りに近づいた頃、突然「自分の名前の頭文字を使い、五七五の歌を詠む」という題が出されました。短い時間でしたので、わたしは全くことばが浮かばず、
    お  おい母さん
    ざ  (使ってない)
    わ  わたしはあなたの母ですか
 などといたずらにつまらないことばを書いて、先生の目に触れないことを祈っていました。他の受講者は、すばらしい句を何句も作って発表したり、先生が回ってきて読み上げられたりしていました。先生がわたしの席の背後に立たれたとき、もじもじと
「…できませんでした。すみません。」
と言うと、目でさらりと読まれ、すっと去って行かれました。ホッ!
 ところが帰宅後、予期しない出来事が―、何と先生から電話があったのです。
「あの句を思い出したら可笑しくて、おかしくて…。」
と。ビックリ!さらにビックリしたのは、二日目の講座の最後に
「みなさんで、この勉強会を続けませんか?まとめ役はこの人がやりますから」と、突然のご指名を受けてしまったのです。
 当初、先生の声掛けに賛同し、集まった仲間と立ち上げた会は「光山樹太郎先生を囲む勉強会―詩歌に親しむ会―」と云うものでした。が、やはり会の名前があった方がよいとのことで、十数名の会員から募りました。これ!といった名はなかなか浮かばず、やはり先生につけていただくしかありません、と
「先生、会の名前ですが、サザエとかアワビは止めてくださいね」
 とわたしが言うと、
「それもいいんじゃない…」
 などと真面目な声で言いながら、つづけて電話の向こうから
「『樹林』を考えているよ。」
 と言われました。
「ジュリン?」
 一瞬、ずいぶん難しくて堅苦しい名前だな、と思ったものです。が、これが続けて行くにしたがって、本当に味わい深い、お洒落な名前に思えてきたのです。(以下略)

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 〈光山樹太郎先生〉は、小田原市内の中学校などに壁一面の自作詩書を寄贈したりするなどして、有名な詩人でした。その光山さんとの交流を描いたエッセイの前半部分を紹介してみました。私は光山さんとは直接お話しする機会がなく、遠くからお姿を拝見するだけでしたが、残念ながら数年前に亡くなっています。〈濡れ落葉〉など面白い発想をする詩人だったのですね。作者の〈おい母さん〉のくだりも、たしかに〈可笑しくて、おかしくて〉です。私ならおい母さん 残念ながら 私はあなたの母じゃない≠ニするところですけど、冷笑ものですね。



会誌『りんどう』33号
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2008.7.7 東京都渋谷区
実践国文科会発行 非売品

<目次>
〈挨拶〉未来を見据えて…(会長)加瀬和子…2
〈総会報告〉…原田琴代…3
〈総会講演〉「言海」のネコ ―辞書史における近世と近代― …(学長)湯浅茂雄…4
 万葉集 大伴家持の「春愁」…池田三枝子…12
 源氏物語をどう読むか…平井仁子…22
〈学園からのお知らせ〉実践 源氏千年紀の催し…28
〈追悼〉三谷榮一先生…30
 野田清一・佐藤 悟・横井 孝・湯原美陽子・大井三代子・平井仁子・案田順子・上野英子
〈現代俳句鑑賞(4)〉…甲斐由起子…40
〈寄稿〉オリンピックつれづれ…羽佐間正雄…52
〈エッセイ〉作家・森敦のこと ―電話― …森 富子…58
〈香を楽しむ〉そのT 香道に育まれ 香と共に…大谷香代子…66
       御家流香道について…71
       そのU 実践女子大学と香道…小畑洋子…72
〈ふるさと紀行〉多摩の横山の道…原田琴代…78
〈研究〉福島県の「奥の細道」考W…田口恵子…80
〈紹介〉浮世草紙「伊達髪五人男」を読む…倉島須美子…84
〈ふるさと紀行〉ふるさとは遠くにありて…余地つる子…90
〈職場の現場より〉その1 水は方円の器に従う…石垣敦子…98
         その2 高校の現場から…奥村久美代…102
〈評伝〉原民喜評伝・花の幻X…小野恵美子…110
〈この人紹介〉一期(碁)一会…川村麻紗子…118
〈報告〉出雲旅行記…倉島須美子…122
〈国文科会からのお誘い〉尾張歴史探訪の旅(57) 絵手紙教室(64) 古典を読む会(77)
〈短歌〉吉岡美水(18) 加瀬和子(20) 七瀬琴江(38) 小野光恵(48) 小崎靖子(50)
〈俳句〉定松靜子(88) 川合万里子(94)
〈詩〉丸山乃里子(96) たてのたかこ(106) 標野ゆき(108)
平成19年度決算報告・平成20年度予算案…鈴木美知子…126
・総務部のお知らせ…部谷紀久子…128
・事業部のお知らせ…加瀬和子…129
・財務部のお知らせ…鈴木美知子…132
・国文科会委員名簿…133
・編集後記…原 康代ほか…134
◎「りんどう」への原稿募集・編集部員募集(121)
〈表紙〉望月春江
(しゅんこう) 〈題字〉於保みを



 長光太は北海道へ去った。民喜は、友の元妻であった女性とその弟が住む家に取り残された形となった。煙たがられるのは当然である。それでも、そこを引き上げるあてもなく、神経的な持久戦を繰り広げていた。
 四月を待って、民喜は、ようやく慶応に入った甥が借りた中野打越一三のアパートへと逃げて行った。長兄信嗣の長男美樹とその友のいる一室に無理矢理入り込んだのであった。詮なき叔父の身の上である。むろん一時的という条件つきである。昭和二十二年の東京の夏は暑かった。幸いにも、夏休みで甥たちは帰郷した。民喜は空間を一人占めした開放感をバネに、寸暇を惜しんでペンを走らせた。先行きに対する不安はあったものの、久し振りに手足を伸ばして休むこともできた。まだ、毎日のように停電と断水が続き、水も思うように飲めない状況である。いらいらと満たされぬ思いをかこっているのは人間だけのようである。辺りにいる家鴨には何の差し障りもないのか、実に呑気な啼き声が響き渡る。民喜の頬に笑みが浮かぶ。珍しくウイスキーの配給があり、久し振りに酔うこともできた。「不平を言っている場合ではないぞ。勤め(慶応義塾商業学校・工業学校)が休みの間、美樹たちが戻って来ぬ間だ」と、民喜は自分に言い聞かせる。八月いっぱいという約束なので、そろそろ部屋探しも始めなければならなかった。

 九月には、眼と鼻の先の所にある同じ中野区内のアパートに移った。生活の櫓を助力なしに独力で漕いだことはなかった。焼跡で貸し部屋が少ないうえに、世事に疎いことが災いしてとうとう詐欺に合った。梁はむき出しのままの納屋同然の、陽の当たらない陰惨な感じのアパートであった。驚くことに、民喜が借りた一室には、もう一人賃借人がいたのである。荷物は入居する前から置いてあった。民喜は忘れ物だと思い、二、三の荷物なぞ気にも止めなかった。ところが、女が時々帰って来るのだった。女は荷物を背負い出かけて行き、商売をしてはまた帰って来た。言葉を交わすこともないのでつまびらかなことは分からないが、闇商売をしているに違いなかった。訪ねて行った義弟の佐々木基一は、常識では考えられないありさまを目のあたりにして、「原が自分一人で何かをするということはこういうことなのか」と、言葉を失う。しかし、民喜は、佐々木が仰天した状況に甘んじるしか能がなかった。じゅうじゅう承知しているものの、悲惨な環境に止まっていた。北の地に住む友長光太に、「朝、目が覚めると、その日の始まるのが厭になり、睡り込んでゐたい
(1)」と、書き送っている。が、十二月に入っても、適当な部屋は見つからなかった。幟町の義姉すみ江がジャケツを送って来た。民喜は礼状を認めながら、例年になくぽかぽかと暖かい日和が続いていることに感謝した。アパートに来て仰天して帰った佐々木にも、八日付で手紙を出した。貞恵亡き後も変わらず弟分として心配してくれていた。

   私は広島の惨劇を体験し、次いで終戦の日を迎える
  と、その頃から猛然として人間に対する興味と期待が
  湧き上りました。『新しい人間が生まれつつある、そ
  れを見るのはたのしいことだ』東京の友人、長光太か
  らそんな便りをもらうと、矢も盾もたまらず無理矢理
  に私は東京へ出てまいりました。
  『新しい人間』を求めようとする気持ちは今もひきつ
  づいているのですが、それにしても、今ではその気持
  ちが少し複雑になっています。何といっても、敗戦直
  後は人間の悲惨さえ珍しく、それにはそれにつづく漠
  たる期待もありました。三年を経た今日では人間の生
  存し得るぎりぎりの限界にまで私は(生活力のない私
  は)追いつめられています。この手紙を書きながらも、
  ふと空襲警報下にあるような錯覚と気の滅入りを感じ
  るのもそのためなのでしょう。
    ――(中略)――
   あれを読みこれを読み、――近頃は私も雑誌の編集
  をしている関係上、なま原稿だけでも二千枚は読みま
  した――絶ゑず作家や作品名を賑やかにぐるぐる考え
  つづけていると、何だかのぼせ気味になってしまいま
  す。しかし――『たとい、他人がどのように立派なも
  のを書こうと、それが、作家であるお前にとってどう
  したというのだ。他人の作品にばかり見とれてお前の
  書くものはどうなのか。お前はパスカルの葦ではなか
  ったのか。極地に身を置き、山嶺に魂を晒し、さゝや
  かな結晶を遂げようとする作家の祈願は忘れたのか』
  と、こういう風な声はいつも私のなかで唸りつゞけて
  います。できれば私も十年前のようにひとり静かな田
  舎で、好きなものだけを読んだり書いたりして暮して
  いたいのです。だが、現在の私にはそれはとても不可
  能なことです。現に身を休める部屋さえ得られず、雑
  沓のなかで文学のことを考えていると、これも吹き晒
  しの極地にいるおもいです。
(2)

 寛いだり執筆に専念できるほどの部屋が得られない中で、教職を全うし、「三田文学」の編集を兼務する。一人の糊口をしのぐにも、現実は多大の時間の犠牲を払わなければならない。己れの創作はどうなっているのか。民喜は気の置けない佐々木に手紙を認めることで、改めて自分自身のレゾンデートルを確認するのである。被爆後、三年が経った。新しい人間の誕生はあったか。民喜は、再確認しなければいられないのである。
 「三田文学」の編集には、昭和二十一年十月から関わってきた。手を抜くことを知らぬ民喜は、本当に一所懸命で意欲的であった。「神について」・「愛について」・「孤独について」などというエッセイの企画を立て、新しい筆者の開拓にも熱心であった。こまめに手紙を出し、藤枝静男や評論家の中田耕治、谷田昌平、平田次三郎なども巻き込んでいくのである。スターダムにある者だけでなく、新人の発掘にも熱心であった。野田開作は、たしなめられたり、手紙で作品の教示や助言を受けており、民喜の優しさと励ましに力を得た者の一人である。ある日、野田は酒好きの久保田万太郎の目に余る行動を訴えてきた。民喜は、事もなげに、「それは文学とは関係ない問題ですよ。人の酒の飲み方について、ハタからとやかくの非難をすべきでない」と、かわすのである。詩人の新藤千恵も昭和二十一年九月に民喜から手紙をもらい、「ピアノ」という詩作品の掲載の依頼を受けている。その後もエッセイの依頼があった。民喜は、こと作品については手厳しく、若き日の安岡章太郎など小説を突き返されたことがあったという。当時、安岡は、髪がボサボサでポケットに手を突っ込んだままの、一見不遜な態度の青年であった。民喜は若い詩人や小説家に接することを大きな喜びとし、彼らの将来を思う時、戦きさえ覚えたのである。「三田文学」一一号(昭二二・九・一)の編集後記には、花田清輝に注目していることが書かれていて、「イヴンの馬鹿」を読み「やられた」と思ったこと、さらに、分裂症のことが気になって仕方がないことが述べられている。環境の激変にともない、今日は病的な時代であるとも記している。初登場者への気配りやお詫び、編集者の疎漏などを丁寧に記し、民喜は実に生き生きと「三田文学」の編集をこなしている。民喜は優秀な編集者であった。(後略)

  注記(1)(2)『定本原民喜全集 別巻」1979年・青土社

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 前号から引き続きの「原民喜評伝・花の幻X」の紹介ですが、原民喜という人間像が〈「原が自分一人で何かをするということはこういうことなのか」と、言葉を失う〉というところによく出ていると思います。民喜の手紙の中の〈なま原稿だけでも二千枚は読みました〉という件は、期間が分かりませんけど、おそらく数ヶ月の間にということなのでしょう。それでも凄い数字です。
 作者の表現としては〈生活の櫓を助力なしに独力で漕いだことはなかった〉などの言葉が面白く、〈民喜は優秀な編集者であった〉という言葉は、長年、民喜を研究してきた作者の実感なのでしょうね。
 浅学にして〈レゾンデートル〉という言葉を知りませんでした。ネットで調べてみると、フランス語の哲学用語で、存在理由や存在意義という意味だそうです。



   
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