きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.7.11 玉原高原 |
2008.8.20(水)
夕方から日本ペンクラブの拡大執行部会が開かれて、出席してきました。規約に執行部会というものはなく、通常は総会、理事会、委員会などですが、今回は会長以下、理事、各委員会委員長・副委員長まで広げた会議をやるから、電子文藝館副委員長のお前も出てこい、というものでした。ペンクラブ会館の大会議室に30名ほどが集まりました。
で、何を話し合ったかというと、2010年に開催される国際ペン東京大会についてでした。国際ペン大会は毎年、各国持ち回りでやっていて、日本では1957年と1984年に開催されていますから、今度は四半世紀ぶりの3回目ということになります。
日時は2010年9月26(日)〜30日(木)、本会議場の場所は新宿駅近くのホテル、その他都内各地、ということになりそうです。
国際ペン大会の内容の半分は各国の代表者会議、いわゆる総会と決まっていて、それ以外にフォーラムがあって、これが開催地各国の腕の見せ所ということになりましょうか。さて、日本ペンは…。通常のイベントの他に、と云いますか、リンクした
形で、面白い出版を考えているようです。まだ本決まりではありませんから公表を避けますが、日本で、いや、世界で誰もやったことのない出版形態です。今年中には公表できるかもしれませんから、お楽しみに!
終わって、竹橋の如水会館で懇親会が持たれました。屋上のビアガーデンなんですが、さすがは東京、まわりは何も見えません(^^;
3階という低層階のビアガーデンですから、まわりは高層ビルばっかりで、空がチョロッと見えるだけ。智恵子抄ではありませんけど、東京にはほんとうの空がありませんなぁ。
でも、私の周囲は恵まれていました。前に阿刀田高さん、隣の隣に浅田次郎さん、近くに吉岡忍さんもいらっしゃって、いろいろお話しができました。特にフォーラム実行委員長格の吉岡さんには、あることを強く頼んでおきました。
2月の「災害と文化」フォーラムで、俳句や短歌における災害作品を紹介するというトークがあったのですが、詩は含まれていませんでした。このことに関して、私はいろいろな詩人たちから責められました。私がそのときの実行委員会に加わっていなかったから知りようもなかった、という言い逃れはできますけど、毎月のように事務局と接していますから、そうも言えないんですね。
今日はいい機会なので、そのことを吉岡さんに問いましたら、詩はいちおう頭にあったそうです。でも、どうやってやればいいか迷った挙句に割愛、だって! 私に相談してくれれば良かったのに!と伝えました。余談ですが、阪神淡路大震災のときは、関西詩人協会が3回もアンソロジーを出しているのです。その中には杉山平一さんの「(大被害を受けた)神戸は、神の戸」という名詩も含まれています。吉岡さんは知らなくても私なら把握していると自負しています。
ま、そんなわけで東京大会の詩の分野は、吉岡さんの補助をやることになりそうです。まだ本決まりではありませんけど、今からどんなことを、どんな風にやるか考えておこうと思っています。詩人の皆さまのご協力を多々仰ぐことになると思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
○佐久文学『火映』2号 |
2007.7.26 長野県佐久市 佐久文学火映社・酒井力氏発行 300円 |
<目次> 題字/春日愚良子 板画/森貘郎
宇津木村廃村(俳句)/春日愚良子 3 色定まれる(俳句)/野中 威 4
老医師(詩)/奥 重機 6 キツネの葬式(詩)/森 貘郎 6
五月の木 雨のち雨(俳詩)/森 貘郎 7 詩の宇宙 中原忍冬の世界U/酒井 力 8
ふるさとは緑色(詩)/地 隆 20 愛する子供たちへ(詩)/藤原文子 22
秀才と鈍才(詩)/依田すろうりぃ 24 八千穂高原にて(詩)/池田正史 26
散歩(詩)/小林広志 27 歩く人(詩)/作田教子 28
虹(詩)/酒井 力 30 判るという事(随筆)/野中 威 32
周辺覚書(2)/酒井 力 34 点景 文学賞の窓(コラム)/酒井 力 36
深謝寄贈詩誌・詩集等 37 火映の意味・執筆者住所 39
後記 40
虹/酒井 力
ある朝
おまえは激しい怒りとなって
ひとしきり
地面に身を叩きつけ
静閑の彼方へ消えていった
溜息に似た足音を
かすかに残して
虚脱のあとの
七月の形相のはざまから
刻々と変わる時代の流れを遡り
鳥の声が聴こえる
チッチ チッチと
いにしえの時代から
ずっとそこにいたかのように
新鮮な明るさをもって
だが鳥はすでに鳥でもなく
二度と同じ流れを生きはしないのだから
ずっとそのまま
そこに存在し続けるおまえが
気まぐれに贈ってよこした言葉
雨上がり
おまえは大きな虹の橋を架け
いつもの日常を
何気ない顔でわたっていく
一瞬にしてよみがえる光に
自分を映すこともないが
それでも おまえは
いつになくご機嫌な様子で
とんとんと
夢のはしらを越えていった
七色の架け橋は
いくぶん色褪せてはいたが
今までにない
巨大なかがやきは
周囲をすっぽりとのみこんでしまった
はしらの先はどうやら
川向こうの稲荷神社あたり
白い狐も
何を思ってか
轟々と流れくだる水の瀬に
一声 二声
遠い記憶から呼び覚ます
原始のデスマスクに
すべてが目覚め
動き出すと
それを察したように
いつも決まって押し黙るのは
永遠に老いることのない
おまえが
消えては現われ
現われては消える
時の連鎖があるからだ
〈おまえ〉が誰であるか断定するのは難しいのですが、天≠竍雲=A大気∞水分≠ネどが当てはまりそうです。最終連の〈消えては現われ/現われては消える〉からは雲≠ェ一番近いようにも思いますし、虹≠サのものと採ってもよさそうです。私は雲≠ニして読んでみました。〈鳥の声〉は〈そこに存在し続けるおまえが/気まぐれに贈ってよこした言葉〉、〈いつも決まって押し黙るのは〉〈時の連鎖があるからだ〉などのつながりが面白いと思いました。〈激しい怒り〉のあとの〈雨上がり〉に出来た〈七色の架け橋〉。そのわずかな時間に絞って詠まれている詩ですが、内包する時間と空間の大きさに魅了された作品です。
○一人誌『粋青』54号 |
2008.8 大阪府岸和田市 粋青舎・後山光行氏発行 非売品 |
<目次>
詩
○あむ(9) ○家族(10)
○夕暮れ(12) ○漂流する朝・11(14)
スケッチ(8)(17)
エッセイ
●中正敏詩論 孤高に自由を編み込む詩人2(4)●絵筆の洗い水【30】(16)
●思うこと 少々(18) ●舞台になった石見【44】杉内いち著「荷馬車輓の娘の手記」(20)
あとがき
表紙絵:05年7月 台北にて「茘枝と連霧」
家族
今 過去から続いて
生きている自分がここにいることを
不思議に思え
どこかの僧侶に教わった話であるが
確かに現存している事実がある
江戸末期から続いた農家の
たしか次男だった父親が鬼籍に入って久しい
別に格別評判もあったわけではないが
平成二十年に生誕百年になる
兄弟には兄や姉がいて
私も還暦を迎えた
確かにいのちは続けられていて
私も小さな建売住宅で暮らしている
そして 子供がおり
さらに十歳の孫へと家族は続いている
けっして豊かな生活を送っているわけではない
せめて家族は心豊かに過ごしたいと
いのちが続くことへの喜びがあり
不思議がある
生存の重みを感じながら
誰も思い出さなくなった父親の
生誕百年を考えてみる
百年前も
今と同じ風が吹いていたのだろうか
と 考えてみる
家族をないがしろにしている私が言うのも可笑しいのですが、〈確かにいのちは続けられていて〉〈家族は続いている〉のは実感します。〈不思議に思え/どこかの僧侶に教わった話〉も納得できますね。〈過去から続いて/生きている自分がここにいる〉。誰一人欠けても存在し得ない〈いのちが続くことへの喜び〉と〈生存の重みを感じ〉させる作品です。
○詩・小説・エッセー『青い花』60号 |
2008.8.10
埼玉県所沢市 青い花社・丸地守氏発行 500円 |
<目次> 60号記念小特集 私のいる場所
巻頭言 青い花 第一次〜第四次 丸地 守 表2
詩
譚詩 化石 比留間一成 4 盛夏 伊勢山峻 6
花びら 柏木勇一 10 北杜夫の釦 北川朱実 12
花 高山利三郎 15 夕陽 野仲美弥子 18
桃と少年 吉田幸子 21 ユメヌマ 菊池柚二 24
樹木人 溝口 章 26 木について 本郷武夫 28
言葉 草間真一 30 「よくぞ生きてきた」 武田弘子 32
揺れる手 布川 鴇 39 修道院 宮尾壽里子 42
反歌 行く河の流れは 埋田昇二 44 カタルシス 内藤紀久枝 46
青い花(ブラウエ・ブルーメ)(三十一) 山本龍生 48
小説 しづの浜辺で 森田 薫 50
特集・私のいる場所 60
伊勢山峻/おしだとしこ/菊池柚二/木津川昭夫/古賀博文/坂本登美/さとうますみ/高橋玖未子/高山利三郎/寺内忠夫/内藤紀久枝/西岡光秋/比留間一成/本郷武夫/真崎希代
ショート・エッセイ 76
西岡光秋「詩魂断章」・野仲美弥子「手紙」・宮尾壽里子「ハプスブルク家ゆかりの古都を訪ねて」・山本倫子「彩のある場所」・武田弘子「山菜を楽しむ」・坂本登美「追憶にひそむ味覚」(十五)・相良蒼生夫「現代の姨捨て 後期高齢者医療制度」
詩画 眩暈 丸地守/大嶋彰 84
詩
予兆 木津川昭夫 86 終わりのない出会い 橋爪さち子 88
バスの中で 平田好輝 92 人体として さとうますみ 95
ラブソング こもた小夜子 98 触れる 奥村 泉 100
かなしみの書簡 相良蒼生夫 102
疾走 河上 鴨 105
西日のトラック 鈴木哲雄 108
森をわたる 真崎希代 111
水難 古賀博文 114
鞭うたれて おしだとしこ 117
紐にまつわる 山本倫子 120
バラスト水 高橋玖未子 122
行列 北松淳子 125
きつねの嫁入り 坂本登美128
お多福豆が煮えて 悠紀あきこ 130
放奏のための二段詩 二題 寺内忠夫 132
蟷螂/短詩抄 丸地 守 138
詩集評
嶋岡晨詩集『影踏み』 中島登詩集『遥かなる王国へ』 谷口謙詩集『惨禍』 坂井一則詩集『坂の道』 埋田昇二 142
相良蒼生夫詩集『禁猟区』 吹野幸子詩集『パラレル』 岡隆夫詩集『二億年のイネ』 中尾彰秀詩集『龍の風』 高山利三郎 144
後記…西岡・木津川・比留間・丸地 146
表紙デザイン・カット 大嶋 彰
かなしみの書簡/相良蒼生夫
拝、秋寂(さぶ)し 芒の穂群 背高い草の騒ぐ
原に隠れ 伊都子は死んでいました
荒涼 風の刺す野に倒れ二、三日も
脳塞栓 遠のく意識に花園を見たでしょうか
そのむかし 華やかな美貌の彼女を
儂は牡丹と 君はダリアと花に譬えて
憧憬は淡く 東京に移る彼女を見送ったね
君は後退いのごと東京に 儂は羨ましかったぞ
伊都子は唇に紅を引いていたと その朱が
覚悟の訣れに思えて 積む齢の寂れを埋む
精いっぱいの化粧か 儂は慟哭したぞ
儂もガンも患い 日々転移再発のうれいに
人生もガンも末期として もうええわ
故里はすさびきっている 年寄ばかりが
帰らない息子を待って つらいためいき
高速道は若者も地方の財も 都市へ攫っていった
復、虎落笛が聞える さみしい参道を
女人は裾を乱され いたずらな風の寒さに
何の願かけ ひょうと鳴るは喉を裂いたか
笹のこすれあい 伊都子がすがる思いの丈(たけ)
あのときはほど程にしか受けてやれなかった
不明のかなしさ かえらない時のうらみに
友は多く冥府に移り 時雨れて冷たい独り酒を
高速道で ひとは都市に集えどしょせんは
旅の仮泊 ここより先へ向かう思案の
善良なひとに都市の光輪は まばゆく虚しい
繁華と己の差にふるえて 望郷の想いも
寺院の鐘の消えさるままに 老いの苦しさ
病む友は身も心もボロ切れて 寝ているだけの痛苦と
重い生温かい漏れの覚え 遠慮と羞恥に黙している
痩せさらばえ もうええは間際にきて もうええは
呻吟 人間意識あるうちの逃れようもないつらさ
誰か 辛苦の友の身体をさすれ
風になった 伊都子は近寄るな
こころの責具を そよとあててはならぬ
俺も いづれその後を追うというのに
〈病む友〉との往復書簡の形を借りた、人生の振り返りと採ってよいでしょう。共通の想い人であった〈伊都子〉が彩を添えていますが、その〈華やかな美貌の彼女〉もすでに亡く、〈友は多く冥府に移〉っています。〈老いの苦しさ〉の一つが〈高速道は若者も地方の財も 都市へ攫っていった〉ことだとしているようで、この慧眼には感服します。あえて古風な文体をとりながらも〈もうええわ〉〈もうええ〉という俗語が読者の親近感を誘っている作品だと思いました。
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