きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.7.11 玉原高原




2008.8.24(日)


 今夜から東北地方をドライブ旅行することになって、準備も整ったからそろそろ出掛けるか、と思っていた矢先に、愛犬百個(ももこ)が死んでしまいました。まるで私の出発に間に合わせるように…。午後8時、15歳と1ヵ月19日の命でした。人間で謂うと77歳になります。
 生まれつきの心臓病があって、獣医からは再三手術を勧められていたのですが、頑固に断り続けました。手術を信用していないのです。本当に駄目なものなら、与えられた命を全うしてくれればいいと思っていました。小型犬のシーズー・ミックスが15年を生きたのです。発作が起きたときは収まるまで抱きしめる、そんな対応だけでしたが、結果としては私の判断が正しかったと思っています。

 14歳を過ぎたころから痴呆症の症状が出て、最後は全身不随でしたから、いつ逝ってもおかしくなかったのですが、よくこの1年をがんばったと思います。「何がなんでも15歳まで生きて、獣医を見返してやれ!」と言い続けた私としては、がんばったね、と言葉をかけてやりました。
 生まれて初めてお金を払った犬、生まれて初めて部屋の中で飼った犬、生まれて初めてドックフードを食べさせた犬、と初めて尽くしの百個でしたけど、この15年、私たち家族に与えてくれた恩恵は計り知れません。私は詩にも書いてエッセイにも書いて、精神的に支えられた面があったことも否めません。ほとんど散歩にも連れて行かず、広くもない家の中を駆けずり回るだけだった彼女の一生は、良かったのか悪かったのかは分かりませんけど、賢くおとなしい犬でしたので、まさに家族の一員として扱ったことだけは自信があります。クルマでのキャンプにも常に連れて行きました。今はやすらかに眠ってほしいと願うだけです。
 そして、最後にこの言葉を贈ります。ありがとう!



月刊詩誌『柵』261号
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2008.8.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 戦後的遺産の継承と発展 中正敏『いのちの籠・2』から…中村不二夫 78
沖縄文学ノート(10) 北緯二十七度線…森 徳治 82
流動する今日の世界の中で日本の詩とは(44) 日本の詩人・イタリアの詩人によるミャンマーの詩…水埼野里子 86
風見鶏 高橋馨 おしだとしこ 畑中圭一 福田操恵 村松真澄 90
現代情況論ノート(20) 世界は変わるか…石原 武 92
詩作品□
柳原 省三 美しい人よ 4         秋本カズ子 白寿のつぼ 6
北野 明治 老婆と指輪 8         山南 律子 二匹の蝉 10
中原 道夫 蛇 12             小沢 千恵 にげ水 14
進  一男 見る 16            織田美沙子 カードゲーム 18
小野  肇 森林公園 20          名古きよえ 泣いての後に 22
小城江壮智 『施食会』の疑問 24      北村 愛子 援農 26
佐藤 勝太 句読点のたばこ 28       松田 悦子 病室 30
南  邦和 シロクマ異聞 32        忍城 春宣 山開き 1 35
肌勢とみ子 別れ 38            山崎  森 通り魔 A 40
江良亜来子 晩夏 44            三木 英治 散歩路 46
今泉 協子 小さな石仏 48         平野 秀哉 戦争絶滅受合法案 50
黒田 えみ 樹幹から 52          門林 岩雄 詩 定年後 54
月谷小夜子 雨の季節に 56         鈴木 一成 都々逸もどき 8 58
西森美智子 朝 60             宇井  一 夕日 62
安森ソノ子 公演後の家族 64        八幡 堅造 二つの愉しみ 66
野老比左子 私の日本史 68         若狭 雅裕 秋の空 70
水崎野里子 ヒロシマ連歌 4 72      前田 孝一 踊る木の葉 74
徐 柄 鎮 春雨 76
世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(27) 文学的自我のゆくえ−『猿蓑』を中心に…小川聖子 94
世界の裏窓から −カリブ編(12) 汎カリブ海 詩の祭典・カリフェスタ…谷口ちかえ 98
コクトオ覚書236 コクトオの「詩想」(断章/風聞)16…三木英治 102
『戦後詩誌の系譜』 落穂拾い2…志賀英夫 104
谷口ちかえ訳/D・ウォルコット『オデッセイ』カリブ海文学の呪力…石原 武 108
竹内正企詩画集『薔薇の妖精』 多才な近江の文人…鈴木一成 110
心に残った五冊の詩集…中原道夫 112
 大橋政人『歯をみがく人たち』 曽我部昭美『記憶の砂粒』 築山多門『龍の末裔』 谷口謙『惨禍』 すみくらまりこ『心薫る女』
受贈図書 120  受贈詩誌 117  柵通信 118  身辺雑記 121
表紙絵・申錫弼/扉絵 中島由夫/カット 野口晋・申錫弼・中島由夫



     
うけあい
 戦争絶滅受合法案/平野秀哉

まずは国家元首
次に国家元首の十六歳以上の男性親族
三番目は総理大臣 国務大臣 次官といった政府のトップ
四番目に国民によって選出された国会議員
――ただし戦争に反対した投票を為したる者は之を除く
五番目にキリスト教又は他の寺院の牧師・僧正・管長等
――公然と戦争に反対せざりし者
六番目に軍需産業の経営者
七番目に ‥‥

戦争が起こったら一兵卒として最前線に赴く順序である
二十世紀初頭にデンマークの陸軍大将だった
フリッツ・ホルムがヨーロッパの各国議会に送りつけた文章

小泉元総理大臣
 遺骨は還らなくてもヤスクニ神社に祀られる

安倍元総理大臣
 「美しい国へ」「戦後レジュウムからの脱却」実現ですね

福田現総理大臣
 新テロ特措法 自爆テロで散華なさるとは

 その通りだ!と思わず手を打ってしまいました。〈まずは国家元首〉から〈一兵卒として最前線に赴〉けば、戦争をしたいなどという輩は出てこないでしょうね。自分は戦場に行かないことが判っているから、日本を戦争が出来る国に、など簡単に言えるのです。歴代の日本の〈総理大臣〉も、自分が言った通りのことを、自分でやってみればいいわけですね。〈国民によって選出された国会議員〉も〈――ただし戦争に反対した投票を為したる者は之を除く〉となれば、誰が賛成票を投じるものですか!
 それにしても〈デンマークの陸軍大将だった/フリッツ・ホルム〉はエライ!と思いました。



文芸誌『兆』139号
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2008.8.10 高知県高知市
林嗣夫氏方・兆同人発行 非売品

<目次>
道照上人(落穂伝・6)……………石川逸子 1  菜の花畑……………………………石川逸子 18
冷ややっこを食べながら(ほか)…林 嗣夫 20  汽車…………………………………増田耕三 27
J……………………………………山本泰生 28  しり…………………………………小松弘愛 30
カラー………………………………大ア千明 34  歩き遍路を少し−後記にかえて…大ア千明 36
        <表紙題字> 小野美和



 菜の花畑/石川逸子

いつもどおりに排水場の裏を通る近道へ向ったつもりが
見知らぬさみしい街道へ出た
しばらく行くと 片側から山がせまってきて
街道に沿ったつましい家々の向こうは一面の菜の花畑だ

切り株に腰かけ 歌っている老女がいて
「K駅はどう行ったらいいですか」
尋ねると だまって首を振り
「どうした!」
家々から人が飛び出してきて かしましい

「K駅なんぞ知らんなあ
駅などだれも行ったことなどないで」
口々に言い 一様にうなずく
「ここで生まれ ここで育ったで」
赤ん坊をゆすりながら 目の大きな女性が老女に話している

「では とにかく先へ行ってみます」
やむなく やみくもに歩きだす
ふと振りかえると
「気いつけて行きないやあ」
豆粒の大きさで だれもかれも手を振っている

菜の花畑に夕日が照って ふるるる とおどっているようだ
駅はあるのだろうか

 日常のすぐ隣にある異界を感じさせる作品です。そして異界は〈家々から人が飛び出してきて かしましい〉ながらも〈豆粒の大きさ〉になるまで〈だれもかれも手を振って〉くれる優しさを持っている人たちばかりなのです。そこから再び現実に戻るための〈駅はあるのだろうか〉との心配はありますけど、おそらくその距離は紙一重なのでしょうね。幻想的な〈菜の花畑〉が効果を上げている作品だと思いました。



月刊詩誌『歴程』553号
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2008.8.31 静岡県熱海市
歴程社・新藤涼子氏発行 476円+税

<目次>

剥製/渡辺みえこ 2            夢の人/川上明日夫 4
啓示/三角みづ紀 6            春/伊武トーマ 10
精霊の朝/黒岩 隆 12           あの道はみじかい距離/三井葉子 16
舟守/粕谷栄市 18
絵 岩佐なを



 剥製/渡辺みえこ

暗い奥座敷に
いつもそれはいた
今飛び立とうとする姿のまま
広げた黒い羽根は、
座敷いっぱいに広がっていた
かたわらの銃は小さく見えた

雪の朝だった
羽ばたきの音と銃声
鋭い眼と嘴
母鷹だったかもしれない
父の銃口のほうが勝
(まさ)っていた

今も鷹の首には
弾丸が埋め込まれているのだろう
鷹は羽根を広げ
目を開き続け
力いっぱいの野生の姿を
奥座敷に広げている

父の誇りのその座敷には
ほとんど誰も入ることはなかった
そこではたぶん
鷹のあの瞬間が
今も生き続けている

雪の朝には
ゆるやかな羽ばたきが
聞こえたような気がする
黒い山に帰るための
静かな羽ばたきが

 〈雪の朝〉に〈父の銃口〉から〈弾丸が埋め込まれ〉た〈母鷹〉の〈剥製〉が置かれた〈暗い奥座敷〉。その奥座敷は〈父の誇り〉でありながら、あるいはそれだからこそ〈ほとんど誰も入ることはなかった〉というところに、〈父〉の存在と人間性を感じることができます。いまは剥製となった鷹も、まるで生きているかのように伝わってきました。最終連を再び〈雪の朝〉で締めたところも見事だと思った作品です。



   
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