きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.7.11 玉原高原




2008.8.25(月)


 今年の私の夏休みは、昔の会社の仲間との東北旅行。東北自動車道で仮眠していたときの雨もすっかり上がって、陽は差さないものの雨もないというマアマアの天気でした。昨日死んだ愛犬をときどき想い出しながら、旅の初日が始まりました。
 今日は十和田湖に行ってみました。ここは30年ほど前にジープで来たことがありますけど、ほとんど通りすがりという感じでしたので、今回はまじめに高村光太郎の「乙女の像」を見ることにしました。

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 光太郎研究らしきものをここ1年近くやってきた身としては感慨深い像です。湖を背景とした写真は多くありますが、あいにく逆光だったので林を背景としました。智恵子に似せたという顔つきには気品を感じましたね。
 意外に思ったのは、この像を見にくる人が多かったことです。雨もよいの平日にも関わらず、30人ほどが来ていました。光太郎人気は相変わらずなのかもしれませんし、十和田湖は遊覧船を除いてほかに見るところがない、という事情なのかもしれません。いずれにしろ、そんな切っ掛けでも構いませんから光太郎文学にも触れてほしいものだと思いましたね。



詩誌『左庭』11号
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2008.7.30 京都市右京区
山口賀代子氏発行 500円

<目次> 表紙画:森田道子「花束」
【俳句】清水邦夫を読みさして眺める春 江里昭彦…2
【詩】
紫の袋/岬多可子…4            体育/岬多可子…6
夏至/岬多可子…8             月の夜に/山口賀代子…10
桐の花/山口賀代子…12
【さていのうと】
・霧の風景/山口賀代子…14         ・かめさん/岬多可子…15
・魂にリストカットを/堀江沙オリ…16
【散文】父の死/江里昭彦…18
【小論】舟知恵の短歌を読む(その一)/岬多可子…23
つれづれ…28



 月の夜に/山口賀代子

月の夜に
父と母が空をみあげている
風呂上りの父はパンツ一枚で
母はベージュのエプロン姿のまま
「ほら月がきれい」と父が言い
「ほんに見事な」と母がこたえている
カーテンの隙間からふたりを覗き見している娘のことなど
どこふく風で

母はいつも素直で正直
(なぜ私は母に似なかったのか)
短気 負けず嫌い 素直でない
あれもこれも父譲り
だから母は娘の気持ちをすぐに読みとってしまう
偏屈な夫の気持ちを理解したように

父が元気だったころそんなこともあったとしみじみ思っていると
庭先からおいおいと呼ぶ声がした
何事かとサンダルをひっかけ外にでると
弟がたっていて
「月がきれいだぞ」と指差すので
ならんで月をみた

時代を超えても
月はかわりなく
月だった

 「父と母」の微笑ましい情景を思い出したという作品ですが、第2連があることによって詩としての膨らみが出たように思います。第1連の〈カーテンの隙間からふたりを覗き見している娘〉というフレーズからは〈私〉のどこか屈折した気持ちが読み取れて、それが第2連へうまくつながって行ったと云えましょう。第3連に〈弟〉が出てきますので、場面は〈私〉の帰省時なのかもしれません。〈月〉が時空を越えて家族を結んでいるように感じた作品です。



詩誌『樹氷』157号
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2008.8.1 長野県長野市   非売品
中村信顕氏方・樹氷社 有賀勇氏発行

<目次>
扉詩 ボレロ/岸ミチコ 1
作品
ありのままに…/山浦正嗣 4        うわみず桜/藍沢えみ 6
ため息の理由/山岸敬於 8
エッセイ H
2O/宮崎 亨 10        新会員の作品と紹介 孫に/小林広志 14
昭和・ふるさと百景(3)/清水義博 17
作品
独白/松田富子 18             母の日に寄せて・インド人のシェフ/安藤桃貴子フリーマン 20
二胡の心音/青木善保 22          回帰/清水義博 24
エッセイ 直ぐ『漢字三音考』を読みたい/青木善保 26
作品
日詩/西沢泰子 28             桜の樹/松岡道代 30
旅(一)(二)/岸ミチコ 33          平和な会話/細野 麗 34
消えていく友人を見送りながら・五月の風/松村好助 36
櫻井順子持集『吾亦紅の叢のかげに』をめぐって/有賀 勇 40
作品
白樺湖畔の六月/有賀 勇 42        し/宮崎 亨 44
歳月/中村信顕 46             猫を抱く訪問者/平野光子 48
樹氷の雫(「石榴」と「たからもの」)/櫻井順子 51
受贈深謝 53                あとがき 54
同人名簿                  表紙 清水義博



 ボレロ/岸 ミチコ

あっけらかんと笑っていたが
あと二 三頁しか私には残っていないと分り
最後の頁 どのように始末しようか
時折ちらちらと考えてしまう

かすかだが遠くからドラムの音が聞こえ
だんだん近づいて あのリズムさりげなく
終いには激しく強く鳴り響き 昔なら
立ち上ってくるくると踊るのだが
今では無理な話 赤い靴を脱ぎ
感謝の気持一杯で「ありがとう」と
手を振りながら爪先立ちでもう一度笑い
例の楽屋に消えるとしよう

 今号の「扉詩」です。〈例の楽屋〉とはあの世のことと採ってよいでしょう。〈あと二 三頁しか私には残っていない〉というのは残された生命でしょうが、〈最後の頁 どのように始末しようか〉というフレーズからは作者の敬虔な気持ちをくみ取ることができます。それにしても〈ボレロ〉のリズムと旋律が死出の伴奏とは思いもしませんでした。意表を突かれましたがよくまとまった佳品だと思いました。



詩歌文藝誌GANYMEDE43号
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2008.8.1 東京都練馬区 銅林社発行 2100円

<目次>
巻頭翻訳 たがいにわれわれは(抄) アレクサンドル・ウラノフ たなかあきみつ訳 4
翻訳詩 連作「鴉」より テッド・ヒューズ 福井久子訳 17
翻訳連載詩 庭師と天文学者たち JMとオードリィ・コーエンヘ イーディス・シイットウェル 藤本真理子訳 30
小句集第三回 九州前衛歌『詩経国風』に寄せて 高山れおな 詠下し一〇〇句 38
エッセイT 法橋 登 ネット上の素領域 他一篇 52
エッセイU 小笠原鳥類 動物、博物誌、詩−薄井灌『干/潟へ』、鶺鴒の愉快な冒険 58
詩作品T
松下のりを 闇男 65             岩成達也  (われに触れよ) 68
山本美代子 指 70              渡辺めぐみ ホスピス in Fukuoka――故山本哲也氏に 72
天沢退二郎 八角水門のオード  74      篠崎勝己  余白に V 78
相良蒼生夫 自由を得て(一) 82       吉田博哉  夜の日時計 86
中原宏子  果樹園の蚯蚓 90         平野光子  有為 94
片野晃司  浸礼 98             浜江順子  細菌のごとく 102
吉野令子  豚を連れたひとの思い出とともに 105
小林弘明  旅の絵 108           小笠原鳥類 彫刻がある古い建物と、とても静かな絵 111
久保寺亨  「白状/断片」Y 116       丸山勝久  蜃気楼 122
原田勇男  言葉の火種を 128        佐伯多美子 無残にも花の残骸は逆さ吊りにされてあった 136
短歌作品
鳴海 宥  Λ 144             小塩卓哉  仮初人 148
和泉てる子 「心深かり」 152         川田 茂  未来都市ドバイ遠望 158
田中浩一  百物語(其の二) 164       沼谷香澄  クラスター・コンチネント 168
詩作品U
野村喜和夫 ルリ大街道 172         岡野絵里子 SHADOWS 6 180
平塚景堂  つれづれ詩篇 186        山岸哲夫  鵲 他四編 192
くらもちさぶろう ほんだな そのほか 202  中神英子  赤色 212
仲嶺眞武  四行連詩「宇宙は神を造らなかった」222
松本一哉  放生記 他一篇(東南アジア記(4)(5)) 236
岡本勝人  歴史は夜のない星にやってくる 242
鈴木 孝  単細胞が蠢く街はある・2 255  山田隆昭  以心電信の夜 260
藤本真理子 マルクスのくすり箱 265     望月遊馬  「寄り切り」他二篇 270
森 和枝  山盛りサラダ 275        進 一男  かつて光があった 2 280
里中智沙  二〇〇八・春・はな二篇 291   梢るり子  壁を作る 他一篇 298
海埜今日子 蛋白石 305
歌壇時評  小塩卓哉 歌のメチエ 310
詩壇時評  片野晃司 「パンダ来るな」 318  編輯後記  324



 
う い
 有為/平野光子

きょうも陸と巨きな船の
あいだを艀
(はしけ)
進んでゆく。

  いろはにほへと
  ちりぬるを

雨に煙
(けぶ)る海原。
はるか遠くの
その先の遠い国。
無常の風に
誘われて消えてしまった
ふるさと。

  わがよたれそ
  つねならむ

消えてゆく
ふるさとのひとびと。
あとかたもなく
流れてしまったひとびと。
そしてどこにも
逝くことのできずに
ここに在って
ひとり。

  うゐのおくやま
  けふこえて

あした。
天と地が轟
(とどろ)くことがあっても
私は十kgほどの
辣韭の皮を
むきつづけるのだろうか。

  あさきゆめみし
  よひもせず

むきつづけるだろうか。
艀がゆるゆると
陸と船のあいだを進むように
ゆっくりと
休まず

むきつづけるだろうか。
なにもかも
失うまで
辣韭の皮。

 〈いろはにほへと〉と〈辣韭〉(らっきょう)の組み合わせがなんとも面白い作品です。内容からすると面白い≠ニいうのは語弊がありますけど、おそらく、この組み合わせは恣意的ではなく、自然に出てきたように思います。〈十kgほどの/辣韭の皮〉という具体的な数字がそれを感じさせます。それに対して〈陸と船のあいだ〉の〈艀〉は意識的なものでしょう。その二重構造を持ったところに魅力を感じます。タイトルの「有為」とは、辞書に依れば因縁によって生じた生滅無常なもの、万有、万物とのこと。それを二重構造によって表現した、見事な作品だと思いました。



   
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