きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.7.11 玉原高原




2008.8.26(火)


 東北の旅2日目。今日は陸中海岸を久慈から南下しながら岩泉の龍泉洞に寄りました。ときおり小雨がパラつく程度で、お天気もまあまあ。晴れ男の面目躍如とまではいきませんでしたけど、大雨洪水警報が各地で出ている中での曇り空主体ですから、不満は言えません。

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 写真は龍泉洞入り口にあった佐藤佐太郎の歌碑です。「地底湖にしたゝる滴かすかにて一瞬の音一劫の音」と彫られています。1960年10月に訪れた際に創った歌だそうです。「一瞬の音」が「一劫の音」と同格であるところにこの歌人の優れた感性を見る思いです。
 龍泉洞内部の写真は観光案内書にもよく出ていますので、ここでは割愛します。内部は写真撮影可でしたので、私も撮ったのですが、思った以上に暗くて、写真はいずれも失敗。とてもここに載せられない、というのが実情です(^^;



詩誌『方』137号
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2008.8.20 仙台市若林区
今入惇氏方・「方」の会発行 500円

<目次>
時評 みちのく賛歌……笹子喜美江…表紙裏

刻印……………………………柏木 勇一…2  わたくし……………佐々木洋一…4
おのれ/底冷え………………高澤 喜一…6  同化…………………大手礼二郎…8
誰が吹いたかシャボン玉……北松 淳子…10  廊下/砂……………高木  肇…12
花変幻…………………………笹子喜美江…14  みどり………………大沼安希子…16
天空の手毬……………………砂東英美子…18  ヴア、ナンダベ……日野  修…20
禁断/栄養……………………木村 圭子…22  八犬伝断抄…………神尾 敏之…24
夢の架け橋……………………今入  惇…26
エッセー
『歌のわかれ』と中野重治…木村 圭子…28  筍によせて…………大沼安希子…29
あとがき………………………………………30  住所録…………………………裏表紙



 わたくし/佐々木洋一

山野さん
山ぶどうのしるが零れてくる
そんなふうに元気だ
房はからからに乾いてくる
そんなふうに寂しい
分け入ると
獣の声
そんなふうに元気ではない
獣の骨
そんなふうに寂しくはない
神妙だ
わたくしは神妙だ
山を祈り山に入り山から出る
出ると
山野さんが来る
山羊の乳がしろく伝わってくる
そんなふうに神妙だ
乳には血が少しにじんでいる
そんなふうに怪しい
わたくしはますます神妙になる

 意図的に遣われた〈そんなふうに〉が面白い作品です。比喩のオンパレードというところですが、最大の比喩は〈わたくし〉だろうと思います。〈山野さん〉は別の人でしょうが、実は〈わたくし〉ではないか、とも思いました。〈わたくし〉を別の人格として語らせていると採ったのです。そして、この詩は〈わたくしはますます神妙になる〉を言いたかったのではないかと思いました。



季刊詩誌GAIA25号
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2008.8.25 大阪府豊中市
上杉輝子氏方・ガイア発行所 500円

<目次>
追悼 高橋 徹作品集
 拒絶 4       潮汐運動 5     かまきり 5     淡雪 6
 曲芸師 6      おかしなやつ 7   阪神大震災 7    指一本ほどの深さに 8
 イタチ 8      くらげ(2) 9    骨−ゴビで 9
高橋 徹氏に捧ぐ   水谷なりこ 10    赤い藻の海      水谷なりこ 12
高橋 徹氏を偲ぶ   上杉 輝子 14    雨          上杉 輝子 15
高橋 徹先生     猫西 一也 16    扉を開いてくれた人  猫西 一也 17
丹波の黒豆の甘納豆  小沼さよ子 18    ウルフとオーロラと  小沼さよ子 19
四半世紀       竹添 敦子 20    追悼         中西  衛 22
小さな発見      中西  衛 23    高橋 徹氏を偲んで  春名 純子 24
高橋 徹氏を偲ぶ   横田 英子 26    やまもも 西瓜 桃他 横田 英子 27
薄明         海野請司郎 28    花火         国広 博子 30
ガード下で      熊畑  学 32    柔軟剤        熊畑  学 33
瞬間         立川喜美子 34    私のエコライフ    平野 裕子 36
トンデモ騒動記    前田かつみ 38    四十年前のかいもの  前田かつみ 39
同人住所録            40
後記         横田 英子



追悼 高橋 徹作品集
 <「素描−スモッグの底で−」>より 昭和四十年十月十五日発行

 拒絶

見わたす限り河はチョコレート色。
それでもこどもらは網を入れる。

「ここにはもうメダカはいないんだよ」
といってもきかない。
ふき出す汗がしずくとなり

こどもたちの姿が
神秘な発光体のようにきらめくころ
河はことさら
黒々と静まりかえる。

あ すなどりの
千万年の性さえ拒絶する
死の流れ。

その淀みには
新しい生命が生れつつあるのか。
想像を絶した恐怖の生命体が――。

 今号は、昨年末に82歳で亡くなった高橋徹氏の追悼号になっていました。高橋徹氏は日本詩人クラブの永年会員としても顕彰された詩人で、私も何度か遠くからお姿を拝見しています。
 ここでは1965年刊行の、おそらく第1詩集の『素描−スモッグの底で−』から「拒絶」を紹介してみました。1960年代の高度成長期初期の公害を告発しています。最終連の〈想像を絶した恐怖の生命体〉という感覚はこの詩人ならではのものでありましょう。改めてご冥福をお祈りいたします。



季刊『樂市』63号
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2008.8.1 大阪府八尾市
楽市社編集・創元社発行 952円+税

<目次>
●詩
オープンリール 小野原教子…4       ナザールボンジュウ 福井千壽子…6
黐ツツジの山 小西照美…8         等高線 永井章子…10
樟若葉 斎藤京子…12            糸車 中神英子…14
千年も万年も 谷口 謙…17         はな 渡部兼直…20
水天宮 加藤雅子…22            白い花プルメリア 松井喜久子…24
夏の空 太田和子…26            揺れる 川見嘉代子…28
葡萄 内田るみ…30             鶯 二題 司 茜…33
北京 三井葉子…38
●楽市楽座談会 樹下座談・…40
 小野原教子 木内 孝 萩原 隆 真継伸彦 三井葉子 渡部謙直
●随筆
賀茂祭の時代 山田英子…53         町の片隅から 玉井敬之…58
幻のイスラエル紀行 萩原 隆…64
●楽市楽座 断想(25)木内 孝…70
●掌編 詐欺師 望月廣次郎…78
●編集後記…88



 鶯 二題/司 茜

大和郡山城下町の外れの外れ
山裾に住みついて
三十年が疾うに過ぎた

日和見主義の汚名を着せられた
筒井順慶が城にはいって四百二十八年

大和百万石
豊臣秀長から四百二十三年

柳沢十五万石 甲府から
柳沢吉里がはいって百八十四年

六代続いて明治

明治三十八年
二歳の小野十三郎
が芸者の母のもとを離れ大阪から
この町の本家の母の親戚K家に預けられて百三年

十年を過ごしたK家は
城の近く 町の目抜き通り
矢田筋にある天ぷらや「やぶ」を
南にはいってすぐのところ台所町に
今もある

 ガラガラと音をさせて国鉄郡山駅から人力車に乗って
 巴堂のもなかを持って三ケ月一度やってきた母を待つ十三郎

 義母とも知らず
 「おかあさんがもってきました 食べて下さい」
 近所にもなかを配る
 六歳の頃の十三郎の下駄の音
 カタカタカタ

芸者の子 妾の子に生まれたことを恥じてはいないが
母のような生き方ををせざるを得ない女は一人もいな
くなって欲しいと願った小野十三郎が逝って十二年

しじみもいた「外川のほとり」から
生駒山を爆破させ
第二阪奈道路が通り
大阪まで三十分 八百円

この町の
山裾で
茶をすする

母に捨てられたか
鴬が啼きじゃくり
子を捨てた母が
女になって傘もささないで
駆けていく

  *参考 『小野十三郎全詩集』『奇妙な本棚』他に地誌『外川のほとり』『こおりやま史』等

 「鶯 二題」の総題のもとに、他に「鶯三月」が載せられていましたが、ここでは最初の方を紹介してみました。〈大和郡山城下町の外れの外れ/山裾に住みついて/三十年が疾うに過ぎた〉という作者の、居住地への愛着が感じられる作品です。〈二歳の小野十三郎〉が〈十年を過ごしたK家〉が〈今もある〉地のようです。〈筒井順慶が城にはいって四百二十八年〉から始まり、〈第二阪奈道路が通り/大阪まで三十分 八百円〉の現在までが手に取るように描かれていて、最終連の〈鴬〉の扱いも見事だと思いました。



   
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