きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.7.11 玉原高原 |
2008.8.28(木)
東北の旅、最終日。定番の松島を観光船で遊覧し、私にとっては今回の最大の目的地、福島県いわき市立「草野心平記念文学館」に向かいました。以前から行きたい、行きたいと思っていましたから、それだけでも感激だったのですが、常設展示室の内部はさらに驚かされました。全体に薄暗く、展示室のド真ん中には大きな木製のドーム。ドームの内部も外も凝った展示で、こんな文学館初めて!という印象でした。
心平さん自身の朗読が聞けるコーナーもありますが、私が一番感激したのは居酒屋「火の車」の復元家屋です。椅子が10脚ほどの狭い居酒屋で、今でも全国各地で見られるスタイル。居酒屋「火の車」をやっていたのは知っていましたから、ああ、こんな感じだったのかと納得して、外へ出て、ふと上を見ると…。なんと、そこには「バァ 学校」の看板が!
急に記憶が蘇りました。20年近く前、新宿ゴールデン街のバー「学校」には何度か足を運んでいました。そこも10人も入ればいっぱいという小さな店で、むかし心平さんがやっていた店だよと聞かされていたのです。「学校」の看板は文学館のものとは違っていたように記憶していますが、内部は「火の車」そっくり。なぜ心平さんの文学館にこだわっていたのかが、我ながらとつぜん理解したように思いました。バー「学校」で刷り込まれていたんですね(^^;
というわけで、呑み屋さんの記憶はオソロシイということで、写真は文学館の入り口です。これだけでも何かを期待させるのではないかと思います。左上にうっすらと青空が覗いていますが、天気は一日中こんな感じでした。
さて、帰ろうと駐車場に戻ると、見たことのある人がご自分のクルマに向かって来ました。お互いに顔を見合わせて会釈…。私はすぐに誰か分かりましたが、相手は怪訝な顔をして「どちらさまでしたっけ?」。その男性は4月に高村光太郎・連翹忌で紹介された、文学館の学芸員だったのです。今回の見学の前に事務所に寄って、その男性に挨拶しておこうとも考えましたが、仕事の邪魔になるかもしれないなと躊躇していました。うまい具合に再会できて、相手も思い出してくれて、あす開催されるという『暦程』のゼミナール用の資料もいただいて、ラッキー!、、、、うっ、『暦程』ゼミに私も誘われていたんだっけ(^^;
そんなわけで『暦程』の皆さん、ごめんなさい、1日違いで帰ってしまいます。それにしても、あの常設展示室で朗読もやるのでしょうから、雰囲気は抜群でしょうね。全国の皆さんも一度でいいから「草野心平記念文学館」を訪れてみてください。数ある文学館の中でもお薦めです。
○小野山紀代子氏詩集『望遠鏡を見る人』 |
2008.9.1 福岡市博多区 梓書院刊 1905円+税 |
<目次>
T
白い道 6 清沢の森 10 微笑 14
望遠鏡を見る人 20 オーム貝 24 マンタ 26
水の構図 30 モンスーンの岸に 36 鳥の目 40
U
傷ついた光の中を 48 絶滅危惧種 52 橋の上 56
いのち 62 繭 66 聞こえる 70
ニュース・0(ゼロ) 74 これっくらい 78 ツシタラの海 82
チャンピオンの涙 86
V
ロザリオ礼拝堂 92 彗星 96 ロンサムジョージ 100
忘れかけた子守歌 106 星の降る庭 110
草の種子 114
光の旅 118 群青世界 122
あとがき 126
初出一覧 127 装幀 いのうえしんぢ
望遠鏡を見る人
ハワイ島マウナケア山頂の国立天文台の
すばる望遠鏡は 直径8・2メートル
世界一の一枚レンズの望遠鏡
空気の薄い真っ暗な山頂で
膨張する宇宙の遠い過去を見ようと
ドームを開く人がいる
顕微鏡を見ている人もいる
私とは何か?
地球の生い立ちは?
細胞やDNAにメスを入れ
隕石を削って
遠い過去 遠い未来を再現する
ガリレオの望遠鏡を逆さに覗いて
暗室の現像液の中に
ゆれながら引き寄せられた
青い点滅をかき混ぜて
虫めがねと磁石で金を探す人もいる
油、銃、核、情報
水も魚も米も何でも金になる
CO2さえ取引されるご時世
遠い宇宙の青い炎から
ダイヤモンドを作っている人もいる
そのダイヤモンドは誰のもの?
すり鉢の底の舞台から
声が立ち昇って
男や女が争っている
会社を
学校を
夫婦を
やめたい人たちがいて
初めがあって終りがあって
羅針盤の円形劇場のお芝居もおしまい
眼の中の血管の中の赤血球の中
なんてことない馬鹿さかげんで
青いダイヤモンドは落ちてくる
第1詩集のようです。ご出版おめでとうございます。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈膨張する宇宙の遠い過去を見ようと/ドームを開く人〉、〈遠い過去 遠い未来を再現する〉〈顕微鏡を見ている人〉、〈虫めがねと磁石で金を探す人〉とともに〈会社を/学校を/夫婦を/やめたい人〉が並列・同等に置かれていて、著者の人間を見る眼の正確さを感じます。最終連の〈なんてことない馬鹿さかげんで/青いダイヤモンドは落ちてくる〉というフレーズも見事です。今後のご活躍を祈念しています。
○詩誌『息のダンス』8号 |
2008.9.1
滋賀県大津市 山本純子氏発行 非売品 |
<目次>
■詩
すいか 2 川向こうから 6
月 10 三人で 12
■歌詞
どこへ行こうか 16 風に乗ってやってきた −杭州日本人学校校歌− 18
■エッセイ
詩の朗読の最初の部分について 22 作詞と作句の共通点 28
あとがき 34
すいか
あれっ
この人の名前
何だっけ
と
にこっとしてくる人に
にこっとしながら
すいか売り場の前で
立ち話すると
思い出すことは
いろいろあるのに
名前だけがどうしても
と
にこにこしている人に
にこにこしながら
相手の人も
どうも
わたしの名前を言わないので
夏になると
薄着になるから
みんな
人の名前も
ビー玉も
ころっと
落としてしまうのかなあ
と
そのあたりの
すいかを一つ二つ
たたいてみる
こちらは〈この人の名前/何だっけ〉と思い、〈相手の人も/どうも/わたしの名前を言わないので〉同じ思いなんだと気づいて、内心でホッとしながら〈にこにこしている〉、ということは誰もが経験していることでしょう。その機微を上手く捉えた作品だと思いました。しかも、そればかりではなく最終連。〈すいか〉が佳いですね。その場では自分の頭を叩けないから、代わりに〈そのあたりの/すいかを一つ二つ/たたいてみ〉たのでしょう。思わず笑ってしまいました。作者は若い女性ですが、忍び寄る健忘症を爽やかに描いた佳品だと思いました。
○『白鳥省吾研究会会報』6号 |
2008.8.27 宮城県栗原市 白鳥省吾研究会事務局・佐藤吉人氏発行 非売品 |
<目次>
宮城県内 白鳥省吾文学碑の紹介 1
白鳥省吾の詩紹介 3
詩の紹介 4
寄贈図書の紹介 5
第五回「白鳥省吾賞」最優秀賞受賞作品 安原輝彦「午後の客」誕生記 6
『地上楽園』バックナンバー その三 7
『日本詩人』と白鳥省吾 その四 8
あとがき
終戦記念日/白鳥省吾
けう十七回の終戦記念日
空飽くまで青く青く
眩しくも静かな日
汗は滴り落つ。
草庵にありて
けうも蝉の声を夢現に聴き
終戦を迎えたるあの日のあの時を
思う。
静かに汗は滴り落ち
空飽くまで青く青く
日ざかりなり。
日暮れて
今宵の月圓かに
なんぞ玲瓏と澄めるや
一天雲なく
月も空も
磨きに磨けるごとく
しかも、暫し満天に星あるを忘る。
ああ世の不信は限りなく
吾れ廃園より胡瓜をもぎて
味噌をつけて喰らい
せめて盃をあげて
酔うことの真実を知る。
紹介した詩は「白鳥省吾の詩紹介」に載せられていました。1961年より会長を務めた日本農民文学会の会誌『農民文学』30号(1962年12月1日発行)に掲載した4編の詩、「ガガーリン少佐に寄す」「終戦記念日」「よごれたる北京」「ガン・ブーム」の中の1編だそうです。〈けう十七回の終戦記念日〉とありますから、1962年8月15日に作られたものでしょう。その当時、私はまだ中学1年生でしたから、あまり記憶にありませんが〈空飽くまで青く青く〉輝いていたのかもしれません。通常はそこで終わる詩が多いなかで、省吾は〈今宵の月〉をうたっています。この詩人の視点の自在さを見る思いです。最終連の〈せめて盃をあげて/酔うことの真実を知る。〉というフレーズに、戦争を生きた詩人の真実≠熬mらされたように感じました。
← 前の頁 次の頁 →
(8月の部屋へ戻る)