きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.8.28 松島 |
2008.9.2(火)
特に予定のない日。終日いただいた本を拝読して過ごしました。
○詩誌『北の詩人』67号 |
2008.9.5 札幌市豊平区 100円 日下新介氏方事務局・北の詩人会議発行 |
<目次>
紫陽花 写真・詩/佐藤 武 1 秋に/内山秋香 2
時計台/内山秋香 2 ラベンダー/八木由美 3
むくげ/八木由美 4 終戦記念日に/佐藤 武 4
コスモス/佐藤 武 5
8・15 今年も「平和詩集」配る(再録) 6
短詩 敗戦後六三年・被爆者・抑留者・餓死者六割・開拓団・BC級戦犯・弱い者いじめ・日本の食糧/大竹秀子 8
乳の魂/倉田ヒロ 10 峠を里人が通る/たかはたしげる 11
在るのはジャガイモ畑だけ/たかはたしげる 27 有限と安心/仲筋義晃 12
非情…年金天引き撤廃せよ/たかはしちさと 13 俊の音楽会へ/たかはしちさと 14
ひま人のしごと(4)/かながせ弥生 15 ひま人のしごと(5)/かながせ弥生 16
短歌 風を待ちゐて/幸坂美代子 18 原爆法廷/日下新介 19
エッセイ あの賢婦人への憎しみと愛と/日沖 晃 20
エッセイ 思いつくままに−「詩人会議」拡大のこと/日下新介 25
茂子 26/阿部星道 28 自分史のはじめに/もりたとしはる 29
村山精二ブログ−より 佐藤武の作品 17
消息の途絶えている方へ 27 受贈詩誌寸感 日下新介 30
もくじ 32 あとがき 32
在るのはジャガイモ畑だけ/たかはたしげる
ここに在るのはジャガイモ畑
となりはトウキビ 向こうはカボチャ
ミサイル、ファントムあるわけ無い
ここに在るのはラベンダー
となりはヒマワリ 向こうはチューリップ
クラスター爆弾 劣化ウラン弾あるわけ無い
ここに在るのはサクランボ
となりはリンゴ 向こうはブドウ
地雷 ガス弾あるわけ無い
ここに在るのは“おぼろずき”
となりは“ななつぼし” 向こうは“北の香り”
イージス艦 原爆あるわけ無い
ここは非戦闘地域 平和の郷
非常に明快な作品で、胸の痞えが取れるような思いをしました。沖縄が戦場となったとき、あるいは日本各地が爆撃を受けたとき、当時の人たちは、なぜ此処が?という感覚に捉われたのかもしれません。その都度、広島には軍港があったから、長崎には造船所があったからと説明がつけられたのでしょう。しかし、現実には〈ジャガイモ畑〉も爆撃や原爆の犠牲になったのです。〈ミサイル、ファントムあるわけ無い〉のに…。
作品は過去の戦争ではなく、将来、起きたら、という設定になっていますが、〈非戦闘地域 平和の郷〉の宣言の重要さを教えてくれています。非戦闘地域を攻撃することは国際法でも違反です。そのことを利用して、軍事施設が無いことを宣言する都市が、世界でも日本でも増えてきています。なぜ〈ラベンダー〉を攻撃するんだ? なぜ〈サクランボ〉が撃たれなきゃいけないんだ? という論法ですね。単純明快さの持つ力勁さを感じました。
○個人詩誌『ぽとり』11号 |
2008.8.31 和歌山県岩出市 自転社・武西良和氏発行 300円 |
<目次>
特集=口=について 1
詩作品
絵画展 2 戸のなか 3 耳 4
吠える犬 5 お釣り 6 食事 7
井戸 8 音楽会 9 後片づけ 10
高野山展 11 焼き物 12 壺 13
ポトリの本棚・ベンヤミンを読む(2) 14
受贈詩集・詩誌等 15
お釣り
自動食券
販売機でお金を入れて
希望の
食券のボタンを押す
内部で
お金を勘定する
音がしたかと思ったら
食券が出てきて次に
お釣りが出る
硬貨で
硬貨の音の粗雑さ
食券になれなかった腹いせか
あまりにもそっけない音
粗雑さに
気づいて音は
もと来た穴の方へ
帰っていった
今号の特集は「口」で、紹介した作品は〈穴〉によって整合性を持たせていると思います。特集は特集として、この作品は〈自動食券/販売機〉をよく見ているなぁ!と思いました。たしかに〈硬貨の音の粗雑さ〉を感じますね。その理由は〈食券になれなかった腹いせ〉なんだろうとしたところも面白く、最終連の、〈音〉が消えるさまを〈もと来た穴の方へ/帰っていった〉としたフレーズは見事です。何気なく日常で使っている〈自動食券/販売機〉にも詩があることを教えられました。
○詩誌『ネビューラ』2号 |
2008.8.15
岡山県岡山市 壷阪輝代氏代表 非売品 |
<目次>
時を染める−オオマツヨイグサ…今井 文世 2 盛夏…………………………………日笠芙美子 3
白蝶草………………………………田尻 文子 4 あまたかえし………………………谷口よしと 5
川……………………………………武田 理恵 6 整備場の亡霊………………………エイタロー 7
宇宙にかかる木…………………岩崎ゆきひろ 8 森の朝………………………………香西美恵子 9
田尻文子詩集・『「あ」から始まって』−老いを追い 夢に挑む−…………………………大波 一郎 10
かじる………………………………広畑ちかこ 12 枝豆コロッケ………………………田原 伴江 13
蜘蛛…………………………………三村 洋子 14 ヘンリー・マチスの指先…………白川比呂志 15
タイムスリップ……………………西ア 綾美 16 灰になる……………………………武田 章利 17
方向転換したマスコット…………川内 久栄 18 言霊…………………………………石原 美光 19
吉備野の花詞(Z)…………………中川 貴夫 20 猫が横切る…………………………中尾 一郎 21
虚空…………………………………下田チマリ 22 刺し箸………………………………壷阪 輝代 23
装幀・尾崎博志
宇宙にかかる木/岩アゆきひろ
ジャックと豆の木じゃないけれど
この宇宙には何本かの巨大な木が生えていて
地底から空に向かって日々少しずつ伸びている
それは富士よりもエベレストよりも高く
時に飛行機がかかって墜落したり
人工衛星が行方不明になったりする
それらの木には過去の人たちのベッドがついていて
亡くなった順番に眠っている
中学二年の時高圧線から落ちて死んだ彼は
まだ七階建てのビルの高さで
顔の傷はそのときのままだ
妻も子も捨て北海道まで逃避行して
心中した彼は
女と同じベッドに眠っている
苦しそうな
見方によっては嬉しそうな顔にも見える
肝臓ガンで
手遅れだけど又帰ってくると言って
帰ってこなかった彼は
泣きながらうつぶせに眠っているようだ
喧嘩の絶えなかった
あの夫婦は
二階と四階の高さから
今も大声で罵り合っている
みんなひっそりと眠っているというのに
〈この宇宙には何本かの巨大な木が生えていて〉、そのために〈時に飛行機がかかって墜落したり/人工衛星が行方不明になったりする〉のだという発想がおもしろい詩です。しかも〈それらの木には過去の人たちのベッドがついていて/亡くなった順番に眠っている〉というのですから、作者の柔軟な思考に脱帽ました。そのベッドには〈中学二年の時高圧線から落ちて死んだ彼〉や〈心中した彼〉、〈又帰ってくると言って/帰ってこなかった彼〉がいるわけですけど、圧巻は〈喧嘩の絶えなかった/あの夫婦〉ですね。死してなお〈二階と四階の高さから/今も大声で罵り合っている〉夫婦は、男と女の溝の深さを謂っているようでもあり、それだけ人間のおもしろさを謂っているようにも感じました。
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