きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.8.28 松島




2008.9.3(水)


 西さがみ文芸愛好会の代表者宅でデジタル写真撮影を行いました。西さがみ文芸愛好会では、この秋に『文芸作品に描かれた西さがみ』という本を出そうとしています。文字通り文芸作品の中で描かれている西さがみ地方を44編も抽出して、そのあらすじや解説を加えて、この地を訪れた文芸好きな人や、文学散歩などに供しようというものです。小田原の書店でも販売してくれるそうですから、文字ばかりではなく写真もふんだんに使った本にしよう、ということで今日の撮影になったものです。

 一眼レンズのマクロも持っていますし、捨てないでおいた接写スタンドも初めて役に立って、私としてはご満悦でした。しかし、帰宅して調べたら、僅かなピンボケってあるもんなんですね。まあ、撮り直しが利きますから何とかなりますけど…。本当はTVにつないで画面を拡大しながら撮ればいいんですけど、そこまでは凝りませんでした。
 元になった写真は素人がアナログで撮ったものが多くて、もともとピンボケだったものが多くありますが、それはそれで味わい深いものになるのではないかと思います。圧巻は地元の写真館から提供していただいた明治末期や大正初期の写真です。二度と撮れない写真かと思うと、ちょっと手が震えた、というと大げさになりますけど、時を経た写真の重みを実感しましたね。

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 そんな写真のうちのひとつが上記のものです。実際には白黒で掲載されますけど、キャプションは「富士山の右の矢倉岳」。こんな写真を使いながら作品の背景なども理解してもらおうと思っています。B6版200頁を超える体裁でこの秋発売! 1600円はちょっと高めかもしれませんが、文学好きが足柄・小田原・二宮・真鶴・湯河原、そして箱根を訪ねるには必携の本! と今から宣伝しておきましょう(^^;



アンソロジー『四土詩集』3集
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2008.7.31 岡山県岡山市   2000円+税
現代詩研究会・四土の会編集 和光出版刊

<目次>
熟れた日々は愛おしく…瀬崎 祐 1
 1.塊 2.野 3.土 4.志
見取り図にない部屋…田中澄子 9
 船 秋の葉っぱ ○に喜
(よし) 見取り図にない部屋 春の帽子
かるでや文庫…河邉由紀恵 23
 マミーカー ペダル かるでや文庫
回想 関西的うっちゃん共存生活…へたのゆう 31
 回想・関西的うっちゃん共存生活 夫はうつ病です ネタ・タネ・ネタ 崖っ淵 うっちゃんへ 自(持)力
かげろうの羽根になった(ふ)号風船爆弾…川内久栄 45
 古書棚のいちじつ 戦後62年目川之江のいちじつ バルーンフェスティバル二〇〇七のいちじつ
6人姉妹…苅田日出美 55
 6人柿妹 回廊 サン・シュルピス教会 伽藍 姉妹写真 夜になると 世界の起源 ゾンネンシュターンとギュスターヴ・クールベ 川猫
北西の窓…古井一実 77
 いつかの秋 北西の窓
待ちくたびれた鬼…一瀉千里 85
 待ちくたびれた鬼 願い星 咲く ありきたりは似合わない ふくやま慕情・月ものがたり  ま が悪い
下弦の月…蒼わたる 99
 下弦の月 雲1 雲2 ペット 願いをこめて
対枕…秋山基夫 117
 対枕 薔薇 自死
陽と陰…松本 勲 123
 柚子 雨の日 陽と陰
…坂本法子 131
 どんどん川 旅 たんぽぽの交信 アレクサンドロフスキー 公園 カレル橋 トルハルバン 森が消えた
風の通り道で…沖長ルミ子 147
 通り風 呼ぶ 異変 朝の歩道 木の葉の行方 風の手 風の鬼ごっこ 風の中で 遠くの街で生まれた男の子のために 吹き上げ坂を上ると 曲げる
幼年期…山田輝久子 169
 モーツァルトな夜 ひと 幼年期 盆景 ゆめみロード
エッセイ…185
 北園克衛 美しさの果ての孤独・瀬崎祐
 犬たちは何処
(いずこ)へ・田中澄子
 妖気とオノマトペー 草野心平の「せむしもいる風景」・河邉由紀恵
 黒田三郎『流血』について・川内久栄
 立原道造の周辺をうろつく・一瀉千里
 『詩と詩論』と丸山薫の詩・蒼わたる
 伊東静雄の「春の雪」と三島由起夫・松本 勲
 詩と詩論 佐藤春夫・坂本法子
 小野十三郎詩集「大海辺」を読む・坂本法子
 中原中也が愛されるわけ・山田輝久子
三沢浩二研究資料(一)…編集 秋山基夫 207
 初期詩篇一覧〈十七〜二十九歳まで〉・森本弘子編
 初期詩篇抜粋〈十七〜二十九歳まで〉・森本弘子編
 サンキュロットクラブ時代の回顧 −三沢浩二初期詩篇の背景−・秋山基夫
 三沢浩二年譜追補・森本弘子編
執筆者紹介…304
「現代詩研究会・四土の会」記録…306
あとがき…308



 熟れた日々は愛おしく/瀬崎 祐

  4.志

どよーんとした納会会場の扉
よんねり かんねり と
夜更けの街を巡視する
   *
過去のかたちに服を着せる
挑発に影響されすぎた司令官
あまりにも細かな輪留めを取りのぞく
   *
ききと
指先から剥がしていくうすっペらな品質保証書
大伏在静脈の流れが速い
   *
そやん
酒場の近くのチュニジア人がよく見える場所
しばしば幻覚剤
   *
冷蔵庫の中を整理して
色彩のなくなった肉片を放り投げる
きれい好きな令嬢は道化者をいらだたせる
   *
来月の遺物
誕生日を言い間違えているこどもたち
明日からの航海に耐える

 作品「熟れた日々は愛おしく」という総題のもとに4編の詩が収められています。このタイトルにふさわしい作品は見当たりません。〈熟れた〉という言葉に関連させて、強いて挙げれば「2.野」が該当するかもしれませんが、あまり意味がないように思います。作品全体を象徴するタイトルとして読むのが一般的ですが、それも違うのかもしれません。タイトルはタイトルで独立した詩語と考えた方が良いように私は思います。

 1〜4の関連性もよく判りません。順を追って関連があるとも読めますし、それぞれ独立した作品としても読めます。通常は導入部の1を紹介して、2以降は原本を読んでもらうという紹介の仕方をするのですけど、ここでは単独作品と考えて4を紹介してみました。
 この4の中もご覧のように関連があるのか、単独なのかということが不明瞭です。おそらく薄いつながりがあると考えた方が良いでしょうね。私は個々の詩語に惹かれました。〈よんねり かんねり〉という擬態語(?)、〈過去のかたちに服を着せる〉などのフレーズからは想像の域を広げさせられました。
 〈ききと/指先から剥がしていくうすっペらな品質保証書〉というフレーズには、個人的な思い入れがあります。作者はお医者さんですから様々な薬品や医療器具を使います。そこに貼られている〈品質保証書〉にはたいてい三文判が押してあります。製品の最終責任者の印です。現職時代、私も医療関係の製品の最終責任者で、その印を押していました。押すときの怖さを今でも覚えています。

 とりとめのない文章になりましたが、そんなことを考えながら拝読しました。なお、本アンソロジー中の河邉由紀恵氏の
「ペダル」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、こちらも合わせてご鑑賞いただければと思います。



詩と散文RAVINE167号
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2008.9.1 京都市左京区
薬師川虹一氏方・
RAVINE社発行 750円

<目次>
詩■『天野大虹作品集 画と詩』より 葡萄 1
 ※
木村 彌一 便箋の裏側に書かれた手紙 2  荒賀 憲雄 長い坂 5
成川ムツミ 揺れ 8            山本由美子 沈黙 10
古家  晶 ちょっとの間 12        村田 辰夫 ルート2の春 他 14
谷村ヨネ子 器 他 17           木村三千子 家族葬 22
乾   宏 終戦日前後 25         薬師川虹一 老やくざ 28
薬師川虹一 リジア・シムクーテ詩集『輝く風』の内「太陽にきらめくドア」より 30
白川  淑 ご近所さん(ろ) 32       藤井 雅人 火祭り 34
中井不二男 睡蓮 40            名古きよえ 詩の国 韓国にて 43
並河 文子 その時 46           ヤエ・チャクラワルティ スリー リトル オールドウーメン イン ザ セメトリー 48
中島 敦子 遅めの食卓 52         堤  愛子 いとなみ 54
早川 玲子 個性 56            苗村 和正 6月の唄 60
牧田 久未 夕日の結末 62         石内 秀典 闇・菜の花 64
詩集評■
森  哲弥 清澄の位相・抒情の凍結 石内秀典詩集「背中」評 51
同人語■
山本由美子 消えるものと残るもの 20    村田 辰夫 もみじマーク 21
エッセイほか■
薬師川虹一 第十回ヨーロッパ諸言語による国際作家会議に参加して(5) 36
村田 辰夫 T・Sエリオット詩句・賛(35) 66
ラビーン同人会 20.6.22 68
<表紙>『天野大虹作品集 画と詩』より「白い船」(1933)



 葡萄/天野大虹

網膜が剥離して
テレヴィはさざ波をたてた
早速眼帯は私の光をうばい
首は化石し脊髄はしびれた

ある日新鮮な葡萄が届いた
皮を剥いで口に入れてもらった
ぬるりとして口中を流れたので
歯は急いでそれに噛みついた

私は自分の眼玉を噛んだのだろうか
すっぱい涙がにあふれた

 毎号、巻頭には天野大虹氏の作品が載せられています。表紙の絵は同氏の「白い船」が遣われていて、この詩誌における氏の位置が分かります。今号では、その巻頭詩を紹介してみました。1992年刊行の『画と詩』に収められている詩のようです。第1連の〈網膜が剥離して/テレヴィはさざ波をたてた〉というフレーズから見事な作品で、網膜剥離をやったことがない私でも症状が想像できました。最終連の〈私は自分の眼玉を噛んだのだろうか〉という表現にも驚かされます。かつて〈葡萄〉をそのように表現した詩人はいなかったと思います。病気は病気として、詩人の面目躍如たる作品だと思いました。



個人詩誌if20号
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2008.8.3 1広島県呉市   非売品
ちょびっと倶楽部出版・大澤都氏発行

<目次>
夢を書くひと 木川陽子(四) 第一詩集『眠りのなかまで』書肆季節社一九八七年出版より 1
大澤都/犯人の不在 5  定まらない我が家 7  短い詩をいくつか 10 緊急検査 12
ちょびつれづれ 14
ifつれづれ



 犯人の不在/大澤都

睡魔に襲われ気を失う 夢の層に囚われ目を覚ますこ
とができない

実家から学校や仕事に通うのに便利な 都会に近い山
村でのことだった 同じ年齢の子どもが十数名行方不
明になったらしい

私は青黒い顔をした男が犯人だと考えた 男に会った
ことも写真を見たこともない 脅迫文を読んで柏手の
顔が見えたのだ

私は時々 見知らぬ人の話を聞いただけで その人の
顔やその人の個人情報のイメージが浮かび当たってい
ることがある

民家の錆びてしまったポストに脅迫文が入るというこ
とは 付近に男がいるのだろう だが なぜ男が見つ
からないのか 黒呪術を感じる

絵馬がぶら下げてあると思ったら その年々に死んだ
人の名前が書いてあった 奇妙な慣習のある集落だ
一枚に写真付きで二三歳の女性ばかり数名死亡してい
た これが事件と関係があるのではないか

この土地には墓や石碑が多く血塗られたものもあり
さらに超自然的な悪意がある

一つ上の夢の層に上がったと思ったら 寝汗が冷えて
目が覚めた

 〈夢〉の話ですからどのようなことが起きてもおかしくはないのですが、第3連の〈脅迫文を読んで柏手の/顔が見えた〉や、第4連の〈私は時々 見知らぬ人の話を聞いただけで その人の/顔やその人の個人情報のイメージが浮かび当たってい/ることがある〉というのは、意外と作者の現実なのかもしれませんね。〈黒呪術〉や〈超自然的な悪意〉というのは、私には分からない世界なのですが、それも夢の範疇なのかもしれません。第1連の〈夢の層〉、最終連の〈一つ上の夢の層に上が〉るという発想はおもしろいと思いました。ユングの深層心理学に想を採っているのかもしれないと感じた作品です。



   
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