きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
080828.JPG
2008.8.28 松島




2008.9.1(月)


 午後から日本ペンクラブの電子文藝館委員会が開かれました。冒頭、この2ヶ月で20編ほどの作品がアップされ、現在761編であることが報告されました。一応、2010年9月の創立75周年には1000編になることを目標にしていまして、このペースで行けばなんとか達成できそうです。しかし、残り240編ほどを2年でクリアーするとなると、月10編の割合になります。これは3日に一度のアップですから、正直なところかなりシンドイ話です。ほとんど毎日のように作品の入手、校正、アップを繰り返すことになります。でもまあ、やってやれない数字ではありませんから、がんばっていこうと思っています。もちろん私ひとりががんばってもしょうがなく、校正をやってくださる委員の皆さま、何より作品を提供してくださる会員の皆さまのご協力を仰がねばなりません。よろしくお願いいたします。

 委員の皆さまにお知らせすることは2つです。第1は、校正に上げる前の準備を若干変更します。委員の皆さまに直接負担になることは何もなく、今まで通りですが、一度、私の方でテキスト化することにしましたのでご承知おきください。
 入稿していただく作品は様々です。ワードで入れていただいていますが、行送りや文字の大きさ、禁則処理の有無など多様で、従来はそのまま校正していただいていましたが、特に禁則処理ではかなりの負担を与えてしまうことが分かりました。
 それを解決する手段として、私にいただいたワード文書を一度、テキスト化します。その後、一定のルールに基づいて私が再度ワード化して、校正にまわすということにしました。こうすれば校正の際に余分な負担をかけなくても済むことになります。

 もう一点は「校正室」の導入です。以前、加藤委員がこういう方法でどうか≠ニMLで提案してくれましたが、それを採用することにしました。具体的にはもう少しあとになりますけど、校正をする際の手順が従来と若干違ってきます。分かり難くはないと思いますし、校正担当者のお名前や校正済か未校正かが一目で判るというメリットがあります。

 今回から新たに3名の委員が任命され、そのうちのお一人が出席なさいました。委員会のあとの懇親会も和やかに済んで、充実した月曜日だったなと思います。次回は11月11日の予定。それまでに20編はアップしたいですね。ご協力、よろしくお願いいたします。



新延拳氏詩集『永遠の蛇口』
eien no jyaguchi.JPG
2008.9.20 東京都豊島区 書肆山田刊 2500円+税

<目次>
 *
ずいぶん遠くまで 10            青葉の風と一緒に 16
荒れ野の枕木 20              永遠の蛇口 24
詩の途中 28                点滅する時間 32
D51の汽笛 36               名づけえぬものゆえ 42
耳を当てて 44
 *
この指とまれ 48              聞こえますか 52
見たな 58                 絆創膏の中の指 62
地球から地球
(テラ)へ 66           やめられない 70
 *
補助輪を外したよ 76            たった今がなつかしい 80
欠伸から海月が 84             たくさんの私 86
夕刊の頃 90                そっと外す眼鏡 94
くたびれた背広 96             遺失物としての自分 100
対話 104                  廃王のごとく 108
あとがき 110



 永遠の蛇口

明け方の優しい夢の覚め際
遠い日に壊した家
残った蛇口に当たっている朝日
あのころの鏡に映っていたものと
外とが入れ替わっている

夢の覚め際に現れた人
誰だろう
沈黙のまま
グラニュー糖をとかすように

朝の鏡には昨日の顔
夢の道連れにした青蜥蜴も
取り返しがつかないことばかり

木犀の香りがする朝
パン屑を運ぶ蟻の列を見ている小犬を見ている自分
宙には黒い日の丸
腕時計はどうせ遅れている

人の声をふんづけてゆくと
はぎすすきがゆれている
さまざまな記憶の断片がひかっていて
そのなかを浮遊する
じ・ぶ・ん
残った蛇口は永遠の蛇口

 3年ぶりの第7詩集です。改めて<目次>を見ると、個々の詩のタイトルを並べるだけで詩になっているような思いに捉われました。ここではタイトルポエムを紹介してみましたが、〈遠い日に壊した家〉の〈残った蛇口に当たっている朝日〉がイメージ豊かに膨らんできます。〈朝の鏡には昨日の顔〉が写っているという描写も、〈人の声をふんづけてゆく〉というフレーズも、著者の並外れた感覚を感じさせます。
 本詩集中の
「点滅する時間」「聞こえますか」「絆創膏の中の指」「夕刊の頃」はすでに拙HPで紹介しています。一部改訂箇所もありますが、ハイパーリンクを張っておきました。合わせて新延拳詩の世界をお楽しみください。



詩誌『馴鹿』49号
tonakai 49.JPG
2008.8.29 栃木県宇都宮市
tonakai・我妻洋氏発行 500円

<目次>
*作品
遮断機が上がるまで…矢口志津江1      喪失のカンタータ …和氣康之 3
海辺の夏/短歌九首…大野敏  9      梱包       …斎藤新一 12
枯れる      …青柳晶子 17      八月       …和気勇雄 19
淡嶋さま     …入田一慧 21      農民は      …村上周司 25
蝶よ花よ     …我妻洋  33
*橇−同人のエッセイ欄−
春よ来い     …青柳晶子 15      結界       …和氣康之 16
*和気康之詩集「よぶり火」評…各氏 25
*ルポルタージュ 野の川を辿る(16)…我妻洋 27
後記                    表紙 青山幸夫



 遮断機が上がるまで/矢口志津江

遠くで雷の音がする

夕暮れの踏み切り
上りの長い貨物列車の通過を待つ
高架を突っ走る新幹線が
働き盛りの壮年なら
貨物列車は私のような速度
箱型 タンク型のコンテナに
書かれた社名もいちいち読めてしまう
空車の荷台にホイと私を投げてやれば
時はUターンし過去に運んでくれる

りんご箱 柳行李 布団袋 チッキ
忘れかけていた言葉が蘇える
家にはウォシュレットもクーラーもなく
五人家族は同じ部屋で
一緒にテレビなどみていた
運転室を覗いてみれば
孤独顔がしっかりと前方を見据えている
貨物輸送の未来は明るいね

大きな雨粒の輪がレンズのように
フロントガラスに拡がりワイパーで拭う
遮断機が上がった
さあ 二人ぶんの食材を
買って帰ろう

 タイトル通りに〈遮断機が上がるまで〉の僅かな時間に去来した思いを作品化してものですが、〈高架を突っ走る新幹線が/働き盛りの壮年なら/貨物列車は私のような速度〉と比べているのが佳いですね。その速度も〈書かれた社名もいちいち読めてしまう〉と具体的で、イメージがつかみ易いです。第1連のたった1行の置き方、最終連の〈さあ 二人ぶんの食材を/買って帰ろう〉と現実に戻るところも鮮やかな作品だと思いました。



隔月刊詩誌
『サロン・デ・ポエート』275号
salon des poetes 275.JPG
2008.8.25 名古屋市名東区
中部詩人サロン編集・伊藤康子氏発行 300円

<目次>
作品
ターニングポイント……小林  聖…4    橋…………………………足立すみ子…5
自戒………………………阿部 堅磐…6    ニャン子ちゃん…………阿部 竪磐…7
愛子は二才………………高橋 芳美…7    記憶の果てにあるもの…横井 光枝…9
八十歳の誕生祝いは……荒井 幸子…10    北冥へ(三)…………みくちけんすけ…11
おどる十五夜お月さん…野老比左子…12    ぶらんこ揺れて…………伊藤 康子…13
コーヒーと揺らぐ煙……及川  純…14    前略 宮澤賢治様……浜野よしはる…15
邂逅………………………黒神 真司…16
散文
「コップの時代」を読む…阿部 堅磐…17    詩集「白い記憶」を読む…阿部 堅磐…18
同人閑話…………………諸   家…19    詩話会レポート…………………………21
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記      表紙・目次カット………高橋 芳美



 ターニングポイント/小林 聖

角屋がカドヤなら
還暦はターニングポイント

二十才の 三倍速で時が流れ
自然治療力は三分の一

赤いベストを着け
同い年どうし 収まろう

身罷った友らも
ちょこなんと一角を占め
記念写真だ

糖尿を起こす 親譲りの
遺伝子も そろそろ発病
保証人を置き去りに
雲隠れするような悪友だが
つき合っていこう

デイゴの花が落ちたあたり
累累と 緋色の蝶の亡き骸

  
ぱられるはんがあ
青い平行懸垂器具 を支える柱に
セミの脱け殻が 後ろあし中あし
右の前あし 食い込み

緑 滴る
還暦

 私もそろそろ〈還暦〉なので実感があるのですが、〈二十才の 三倍速で時が流れ/自然治療力は三分の一〉というのはその通りだと思います。〈保証人を置き去りに/雲隠れするような悪友〉という表現はおもしろいのですけど、つきまとわれるのは嫌ですね。〈ターニングポイント〉の具体例として〈緋色の蝶の亡き骸〉、〈セミの脱け殻〉を挙げているのでしょう。前者は死、後者は再生と採れ、最終連の〈緑 滴る〉と合わせて考えると、〈ターニングポイント〉とは必ずしもマイナスイメージばかりではないと教わりました。



   
前の頁  次の頁

   back(9月の部屋へ戻る)

   
home