きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.8.28 松島




2008.9.11(木)


 7回目の9・11。世界が大きく変わった日を記念したわけではありませんけど、日本詩人クラブの冊子『世界の詩を愉しむ夕べ』を東大駒場宛に150冊ほど発送しました。13日の詩人クラブ例会で売ろうというものです。午前中は地元の印刷所に10月例会案内状と封筒を受け取りに行って、結局、日中は詩人クラブの仕事が主でした。
 世界≠語るなら世界の詩を語りたいですね。覇権主義も原理主義もイヤ。しかし、神は自らが経験した苦悩を、人類にあまねく与えているかのようです。



詩マガジンPO130号
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2008.8.20 大阪市北区 竹林館発行 840円

<目次>
特集 夢
一色真理  ネット上の共同夢日記「夢の解放区」の十二年間…9
崎山拓郎  夢に潜む影、共同で夢見ること−ウォルター・ペイターとトーマス・マン−…13
山崎広光  哲学者と「夢」…19
宮内征人  「夢と現実」−島尾敏雄にとっての夢−…23
梶谷忠大  漱石の『夢十夜』美しい愛の詩、「第一夜」の解体…29
川中實人  夢録=
Yumemo…35
蔭山辰子  當麻山口神社にて…40      山本 衞  カキクケコで…42
日野友子  夢…43             藤谷恵一郎 海と薄羽蜉蝣−夢語り−…44
北山りら  ゆめがたり…46         尾崎まこと ミニ詩集★夢…50
中野忠和  夢…56             三方 克  夢に出てくる場所…57
詩作品
鶴若寿夫  傾きかけた夜の草原で…58    すみくらまりこ 砂漠点景…60
春名純子  旅の声…62           青島江里  日の中に立てば…64
宇宿一戌  蜜柑…70            晴  静  面影…72
根本昌幸  嘘と鷽…74           松田理治  おいてけぼり…76
水口洋治  愛/時には僕も…82       中野忠和  蝶々/歩行/三月十日/ゴミ/わたくし…83
与那嶺千枝子 火炎かずら…96        牛島富美二 クリップ−モノものがたり(2)−…98
佐古祐二  メビウスの時間…101       加納由将  廃墟…102
星乃絵里  ぽつんとにきび…114       瑞木よう  山藤…115
清沢桂太郎 初夏/一つの地層の堆積物となって/生命の糸…116
梶谷忠大  ことばの流れのほとり…130    蔭山辰子  夜のエアポートパブ…132
おれんじゆう 穴 思考…133         左子真由美 ここ…134
川中實人  明日へ…136

扉詩 夢 根本昌幸…1
ピロティ アシテジの今と夢 島田静仁…7
舞台・演劇・シアター 観客像の変遷 河内厚郎…66
ギャラリー探訪 堂本印象美術館企画展「印象のこころ−花・鳥・暮らし」 北村こう…68
一冊の詩集 鈴村和成詩集『青い睡り』 瑞木よう…78
一編の小説 『川の光』松浦寿輝著 藤原節子…80
ビデオ・映像・ぶっちぎり 「王妃の紋章」 秋野光子…90
エッセイ 楽しい語らいの中で 神田好能…91
エッセイ どこまで行っても明日がある 川中實人…94
韓国現代詩の今 鄭クッビョル・高斗鉉・愼 穆/韓成禮 訳…104
竹林館ブックス 息遣いの断片を編んだ詩集−尾崎まこと詩集『カメラ・オブスキュラ』 植田 隆…122
この詩大好き 「軽井澤で」芥川龍之介 中野忠和…124
エッセイ 続アメリカ黒人詩の流れ28 堀 諭…126
エッセイ 雑感――誰のために詩うのだろう 門脇吉隆…128
エッセイ 佐古祐二君への手紙−PO読後− 上野亮介…137
詩誌寸感 独創的関西熱気詩群 堀 諭…144
◎お侘びと訂正…146  ◎受領誌一覧…148
◎執筆者住所一覧…149 ◎編集後記…150
◎お知らせ
 会員・誌友・定期購読者募集/投稿案内/ホームページ/「PO」例会/広告掲載案内/「PO」育成基金…151
 詩を朗読する詩人の会「風」例会…152
編集長 佐古祐二
編集部 左子真由美・寺沢京子・中野忠和・藤谷恵一郎・藤原節子・水口洋治



 夢/日野友子

ニンゲンになりたかった
強いニンゲンになりたかった
賢いニンゲンになりたかった
優しいニンゲンになりたかった
それが 私の夢

オンナは って言われた
オンナのくせに って言われた
オンナだから って言われた
それが 大嫌いだった

ジリツしたい と思った
自力でクイブチを稼ごう と思った
努力すれば 勉強すれば
きっと ココから出られる と

けれど 思ったより賢くないことに気づいた
思ったより逞しくないことが わかった
思ったよりズルイやつだってこともわかった
ヒワヒワと挫ける しばしば挫ける
ヒヨヒヨと泣く しばしば泣く
――夢? 寝言を言うな
(うつつ)のセケンが冷然とつきつけてくる毎日
セケンをイチニンマエに渡りたいと思った
テイサイを整え ケッコンもした コも産んだ
時間に追われ テイサイに追われ デキナイこともやり セノビをし ムリをし
セケン並みにとコにもムリを強いた マットウにとコをカタにはめようともした
キシみながら ホコロビながら 日に追われ
年をとった 病気になった
そして 今 五十になった

夢はニンゲンになること
それは 近代が庶民のオンナノコにもくれた夢
モノゴコロついたあのころから時代は少しは
変わったのか?
二十一世紀になりはしたが

ニンゲンになりたい
それが 私の夢 今でも私の夢

ニンゲン 強くて賢くて優しい
もしかしたら それは ヒトの夢?
ヒトビトの共同の夢?
それに支えられ今日も生きよう 私を

 特集「夢」の中の1編です。多くの人は寝ているときに見る夢を題材にしていますが、この方は願望という意味での夢を描きました。〈夢はニンゲンになること〉というフレーズに、女性の置かれている立場を考えてしまいます。〈近代が庶民のオンナノコにもくれた夢〉は、その多くが達成されたと思ってきましたけど、女性の側からすればまだまだのようです。〈ニンゲン 強くて賢くて優しい〉のは、男も女も〈ヒトの夢〉、〈共同の夢〉なのかもしれません。

 今号のエッセイでは上野亮介氏の「佐古祐二君への手紙−PO読後−」が大変参考になりました。上野氏は詩を書かない方のようですが、その詩論・詩人論は的を射ており、いちいち納得しながら読み進めました。詩を書かない人の方がより深く詩を理解しているのかもしれません。機会のある方はぜひお読みください。



詩誌『砧』38号
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2008.8.20 東京都武蔵村山市
山本みち子氏他・砧の会発行 500円

<目次>
詩作品
  ほたるぶくろ 水野 浩子 4       夏の日 芳田 玲子 6
   ふとん今昔 小林 俊子 8      古い写真 来楢美津子 10
      寒夜 加々谷喜美子12     地球の上で 倉田 史子 14
      背中 大城 友子 16    夕日とラッパ 松崎 縁  18
   ちいちゃん 牧 陽子  20 梅に寄せる俳句
(うた) ねもとよりこ22
歌舞く者にて侯う 小町よしこ 24     牛を引いて 村尾イミ子 26
      露草 斉藤 利江 28        ゆず 山本みち子 30
エッセイ
揺籃
(ゆりかご)のうた 斉藤 利江 32   良寛和尚と佐渡 倉田 史子 33
  青春の北海道 加々谷喜美子34
         編集後記  35           同人住所録 36
    表紙題字 松井さかゑ



 背中/大城友子

お母ちゃん お背中流してあげる……
お母ちゃん お背中大きいね……

昼下がりの銭湯の
大きな鏡にうつる母
着るものすべてを脱ぎすてた白い肌
正面から見るのは何故か恥ずかしく
うしろからそっと
首を伸ばしてのぞいてみる

半ば目を閉じて
幼い娘に背中を任せている母の顔
うつむき加減の襟足から
肩へと流れるやわらかな線
白いタイルの床に
片膝立てたうしろ姿

ベッドに上半身をおこした
母の体を拭いている
昼下がりの明るさの中
小さくなったその背中を

 〈幼い娘〉時代に〈昼下がりの銭湯〉で見た〈お母ちゃん〉の大きな〈背中〉。〈うつむき加減の襟足から/肩へと流れるやわらかな線〉とともに逞しさも優しさも感じたのでしょう。背中は人を語るようですが、母の慈愛が背中に表出し、さらに母と娘の強い絆をも読み取ることができます。それが今では〈小さくなったその背中を〉〈拭いている〉。それは娘の成長であり、母の衰退でもあるわけで、時間の無常を考えないわけにはいきません。最終連が見事に決まった佳品だと思いました。



個人詩誌『魚信旗』51号
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2008.9.15 埼玉県入間市 平野敏氏発行 非売品

<目次>
家族 1       後ろ姿 4      街 5
新茶清談 6     百メートルの長い人生 8
後書きエッセー 10



 

往く人や帰る人がいて
さ迷う人や居場所を探している人もいて
みんな仲よく交錯しているようで
なかにはせわしない別れもあり
一つの星の上の蟻地獄が
真夏の陽を浴びて耀いている

日本人が自己流に歩いて
黙して行き先など告白する必要のない街のなか
想像だにしなかった平和のど真ん中にあって
砂ひかりから打たれたボールが
一つの星の上の蟻地獄に落ちた快感に浸っている

平和とは転がってくるものではないのに
なぜか打ったボールが紆余曲折して
バンカーショットからまぐれでよみがえったようなもの
大切に育てなければならない幼
(おさな)いのちの平和を
いっときの蟻地獄から守らねばならない

人を惑わすウスバカゲロウの幻影で
街が再び朽ちて
往来の人人が狂いだして
BARBERの鏡も乱れ
剃刀で血を噴かす軍師が現れないともかぎらない
凶星一つに戻さないためにか

街の夏祭り
思いがけない平和の神輿を異邦人も担いでいる

 最初に、HTMLではうまく表現できないところを説明しておきます。原文では第3連の〈大切に育てなければならない幼
(おさな)いのちの平和を〉ののち≠ノは傍点が振られています。きれいに表現できないので割愛してありますこと、ご承知おきください。強引に書くと大切に育てなければならない幼(おさな)い後の平和を≠ニなるかと思います。

 作品は〈平和〉についての見方がおもしろいと思いました。現在の平和は〈バンカーショットからまぐれでよみがえったようなもの〉だと謂います。バンカーで2打、3打と打って、打ちひしがれているのが本来の姿なのに、一発でクリアしているのが現在。場合によってはそのままホールインしている状態かもしれませんね。そして〈想像だにしなかった平和のど真ん中〉に居るのは〈蟻地獄に落ちた快感〉かもしれないと続きます。こんな比喩は見たことがありません、脱帽です。戦争を体験した先輩の、貴重な箴言と受け止めました。



   
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