きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.8.28 松島




2008.9.13(土)


 日本詩人クラブの9月例会が東大駒場で開かれました。今回は小講演として石原武氏による
「筧槇二氏の生涯と作品」、講演は御庄博実氏の「被爆63年・原爆と詩と」でした。筧さんは元会長ということもあり、御庄さんは詩人・広島原爆病院名誉院長としても著名な方ですので、関西方面からも多くの人が訪れてくれ、99名という参加者でした。
 石原さんの講演では、筧さんの遺影を前に『山脈』の同人たちが筧作品を次々と朗読、筧夫人の謝辞もあって、ひとつの区切りとして良かったのではないかと思います。

 御庄さんの講演で私は東大備品のプロジェクターの操作を命じられましたけど、これが絶不調。事前の試写ではまったく問題なかったのに、講演の直前になって画像が乱れるという不具合が発生。垂直同期がおかしいので、取説を読んだり、トラブルシューティングの載っているCDを見たりしたのですが、該当なし。やむなく皆さんには遠くからパソコンの画像を見てもらうことにしました。

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 画像で見てもらいたかったのは、この2月にNHKで放送された録画DVDで、御庄さんと韓国人被爆者との交流を描いたものです。音声だけはパソコンに外部スピーカーをつないで何とかなりましたけど、内容が良かっただけに残念です。
 撤収時にもう一度点検しましたら、パソコンとプロジェクターをつなぐケーブルがおかしいのではないかと思いました。端子のカバーが簡単に外れてしまうのです。端子の接触部分には目視で異常が見つけられませんでしたけど、そもそもカバーが簡単に外れるということ事態がおかしいと思います。信号が出ていないわけではなく、垂直同期がおかしいだけですから、端子の接触不良なら起こり得る現象でしょう。予備のケーブルがあったらなあ、と思ったのは後の祭り。次回の参考とします。

 そんなわけで御庄さんには申し訳ないことをしましたが、懇親会にも二次会にもおいで下さり、ホッとしました。わざわざ広島から足を運んでくださった上に、ご自身で50分の放送内容を30分にコンパクトにまとめられたほどの熱の入れようでしたから、頭から叱られてもしょうがないところ。寛容さに感謝しています。
 二次会はいろいろ悩んだ末に、やはりいつもの渋谷「天空の月」。御庄さんの他に石川さんという原爆詩を紹介し続けている詩人もご一緒でしたから、なるべく落ち着いて静かにと思って、店には「静かな部屋」をとお願いしました。総勢13名。結果的には私たちが一番うるさい客だったかもしれません(^^; いろいろ失敗はあったものの、大好きな獺祭を呑んで、気をとり直した渋谷の夜でした。



崎岡恵子氏詩集『ばぶれ豆腐屋』
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2008.9.13 川崎市麻生区 てらいんく刊 1600円+税

<目次>
T ルミナよ
ルミナよ 6                紅い葉を飲む女 10
キセルと金柑 14              信州に消える 18
早春 22                  季節の片想い 24
水芭蕉の嫁入り 28             門番 52
出戻りあんちゃん 36
U ばぶれ豆腐屋
雲になったおっちゃん 42          ばぶれ豆腐屋 44
居留守 48                 ふんどし 50
幼馴染み 52                どっこいしょ 56
休符の街 58                けいさん と たぁさん 60
V ブリスベンの別れ
蒸れたみかん 66              ひじき 68
ごますり 70                パンは厚切り 72
松葉杖のひとりごと 74           詩ってなあに 76
ことば遊び  あ か さ 78        ことば遊び  いらいら 80
迫る眼 82                 ブリスベンの別れ 86

土佐弁の魅力と諧謔性――遅れてきた土佐の文学少女 掘口精一郎 90
あとがき 98



 ばぶれ豆腐屋

子供の頃近所に
毎日喧嘩している豆腐屋が住んでいた
だいたい豆腐屋の亭主というのは
小太りか ほっそりしているか
小男のイメージがあるが
その豆腐屋は背が高くて痩せぎすで
ふっくらと肉付きのよい女将さんがいた
仕込み作業は朝早い
大豆をこねる機械の音だけが
夜明け前のまだ暗い空に
静かに響いていた

私の部屋からは道を隔てて
斜め東に豆腐屋があって
旦那が味噌漉しを干している姿が見えた
午後になると
息子と親父さんの怒鳴りあいが始まって
耳を塞ぎたくなる様な怒声が聞こえる
何しょらあ! 早ぅせんかぁ!

あれ程気性が荒いと
豆腐がごつごつしてるのではないかと思うが
普通の木綿も絹ごしも有った
家業を手伝わない息子らしく
雨の日も風の日も怒鳴り合っていた
時々女将さんが仲介している様だが
喧しい!黙っちょれ! と
言うたち てこにあわん
のである

また豆腐屋がばぶれ
いう
耳つんぼにしちょきなさい
その内 ガチャン がたがた バンバン
何かが壊れる音がして
私の心臓もちゃがまる
のだ

  てこにあわん=手に負えない
  ばぶれ=暴れる、やんちゃを言う
  ちゃがまる=壊れる、停止する

 第1詩集です。ご出版おめでとうございます。ここではタイトルポエムを紹介してみました。出でくる方言は土佐弁だそうです。〈ばぶれ〉とは面白い言葉で、何かなと思いましたが、〈
暴れる、やんちゃを言う〉という意味だったのですね。そうすると暴れ豆腐屋≠ニいうことになりそうですが、ここはやはり「ばぶれ豆腐屋」の方が面白いです。土佐弁の妙を見事に詩化した作品だと思いました。今後のご活躍を祈念しています。



詩とエッセイ『杭』50号
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2008.9.10 さいたま市大宮区
廣瀧光氏代表・杭詩文会発行 500円

<目次>
■詩■
荒の川原で         槇  晧志 2   銘酒            尾崎 花苑 4
「困惑する遺失物」      斎藤 充江 7   おいてきぼり        巴  希多 10
言の葉脈 五葉       大谷 佳子 14   ああ 地球         池上眞由美 16
大寒(大霜の夢)      比企  渉 18   血液型B          白瀬のぶお 20
バロックな真珠       山丘 桂子 22   断想            平野 成信 24
運を天に任せて       長谷川清一郎38   闇に狂う          二瓶  徹 40
海鳥になりたい       廣瀧  光 42   矢車草 悼 山口格郎兄   伊早坂 一 44
■エッセイ■
与野・本町東七丁目     笠井 光子 29   枯葉剤被害とベトナムの怒り 平松 伴子 32
母(四)          郡司 乃梨 46   秩父事件と朝鮮農民戦争   河田  宏 48
想う(新生の道)      遠藤 冨子 53   『杭』50号に思う       三浦 由喜 56
■書評■
河田宏著『朝鮮全土を歩いた日本人』に感激
            ふくもりいくこ 52   遠藤冨子童句集『ポピーの夢』廣瀧  光 54
■杭の紀■ 槇晧志先生と『杭』     56
 題字・槇 晧志



 断想/平野成信

 一つの不必要なものを

 一つの不必要なものを抉り出そうとすると、ほかのどうでもよいと思われるものまで
がいっぱい絡まりついてくる。どうでもよいのだからそのままからげてポイすればいい
ようなものだが、なんとなく気になってくる。
 一つ一つ解き離し選別していると、最後には何が失われるべきか、何をとどめておく
べきかが分からなくなってくる。
 そして結局こう思う。取り出してどこかに捨てにゆくよりも、ぼくがそのままこの塵
埃のようなものの中に沈み込んでしまえばよいのだと。
 しばらくは乞食のような解決でガラガラと道を行く。

 「断想」という総題のもとに「一つの不必要なものを」、「無意識」、「意識」、「イメージが」という4ツの作品が収められています。ここでは冒頭の「一つの不必要なものを」を紹介してみましたが、これはよくあることかもしれませんね。〈最後には何が失われるべきか、何をとどめておく/べきかが分からなくなってくる〉という経験は私にもあります。最終行の〈しばらくは乞食のような解決でガラガラと道を行く。〉というフレーズも決まった作品だと思いました。



『千葉県詩人クラブ会報』203号
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2008.9.15 千葉県茂原市 斎藤正敏氏発行 非売品

<目次>
第30回'08ちば秋の詩祭 1
秋は文学散歩に 3
第2回千葉県詩集朗読会 3
会報を待ち遠しいものに/前担当 前原 武 3
新会員紹介 4
会員の詩集から 4
「笑い」の精神 上山ひろし詩集『見立ての千葉今昔物語』/根本 明 5
会員の作品 5
会員活動 受贈御礼 編集後記 6



 千葉・稲毛人工海岸/上山ひろし

京葉道路わきのビルの林を抜けて
ノレンをくぐると そこはもう海だった
コンクリートに囲まれた砂浜
何故かぬるまっこい海水
ここは貝たちの保養所といったところだ

砂の運搬納品書をくわえたアサリ
市長選挙演説ビラをばらまいて歩くタツノオトシゴ
そんな砂浜に音楽が流れ
舞踊会がはじまった
赤いカニと踊っているのは潮吹きだ
住宅難を知らないヤドカリが首を出す
突然バカ貝の合唱がひびきわたり
いそぎんちゃくがいそいで口を閉ざす

 「なんて平和なんだ
 これはなにかの罠にちがいない」
すると 貝の知恵者ハマグリが考えた
その証拠に
浜辺には貝たちの道はなく
人間のための道だけが出来ている

つぎの日
ノレンをくぐって
人間たちは浜辺にやって来た
あわてた貝たちが砂にもぐろうとして
二日酔いで足音とられて動けない
 「裏切り者は酒を持って来た奴だ
 貝の王様ミル貝は叫んだ

 「熊手は使用しないでください」
 親切ぶった拡声器がやかましい

そんな声におされて津波のような人間の群れが
貝の保養所を押しつぶし
破壊してゆく

ノレンをくぐって
帰って行く人たちは
湯あがりのように 上機嫌だというけれど

 「会員の詩集から」に載せられていた作品で、原著は『見立ての千葉今昔物語』という詩集のようです。〈千葉・稲毛人工海岸〉には行ったことがありませんけど、日本の多くの都市部の砂浜のように〈コンクリートに囲まれた砂浜〉なのでしょう。そこでの潮干狩りを題材にしていて、〈砂の運搬納品書をくわえたアサリ〉は砂を吐くアサリの性質を表現し、〈市長選挙演説ビラをばらまいて歩くタツノオトシゴ〉はタツノオトシゴの姿を上手く描写しています。〈貝の保養所を押しつぶし/破壊して〉、〈湯あがりのように 上機嫌〉な人間を貝の側から描いた佳品だと思いました。



   
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