きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.8.28 松島 |
2008.9.27(土)
栃木県詩人協会主催の「とちぎ鮎ツアー」に参加してきました。栃木県側からの参加者は9名、埼玉・神奈川からの参加者4名、計13名と参加者は少なめでしたが、その分バスはゆったり(25人乗り?)、見学・集合もスムーズで盛沢山の見所を愉しみました。行程は宇都宮駅東口→龍門の瀧→和紙の里→那珂川やな(昼食)→馬頭広重美術館→和気記念館→宇都宮駅東口というものでした。
写真は那珂川やなでの昼食後のものです。暑いほどの陽射しがお分かりいただけると思います。実は私、晴れ男ということで呼ばれたのですが、その面目を保ててホッとしています。1週間前の天気予報は雨でしたからね。
龍門の瀧、和紙の里、馬頭広重美術館と、それぞれに佳い所でしたが、なかでも気に入ったのは最後に訪れた和気美術館でした。日本詩人クラブ会員のWさんが館長をしている美術館で、幽玄の画家・和気史郎の作品のみを展示しています。すでに和気史郎の作品も観ていますし、美術館の存在も知っていたのですが、今回初めて訪れて圧倒されました。能舞台を題材に採った作品が多いことは想像していた通りですけど、習作・抽象画が良かったのです。色の深み、構図とも私好み、見惚れてしまいましたね。
和気史郎は一応、日本画家として通用していると思いますが、ほとんどが油絵で、洋画・日本画を超えた力勁さを感じさせます。大谷石の蔵を改造した美術館は、その建物にも惹かれると思いますので、ぜひ訪れてみてください。住所は、栃木県塩谷郡塩谷町玉生648です。
和気美術館の余韻に浸りながら、二次会はいつものスナック。Aさんに連れられて3〜4度行っているでしょうか。ママさんは私をちゃんと覚えていてくれて、そこでも気持ちよく過ごすことができました。カラオケ三昧、お酒三昧の宇都宮の夜を楽しませてもらいました。
バスツアーを企画してくれた栃木県詩人協会の皆さん(特にKさん)、最後までおつき合いくださったAさん、本当にありがとうございました! また何かありましたら飛んで行きますよ。
○南川隆雄氏随筆集『他感作用』 |
2008.9.30 東京都千代田区 花神社刊 2000円+税 |
<目次>
T 他感作用――9
詩作りの準備運動 11 成長と生長 16
他感作用 21 花をめでる? 25
「はい」と「いいえ」だけ? 32. 黒板と白墨の半世紀 39
誤字当て字お互いさま 45 夜な夜な論語 49
「昆虫こわい」の落とし穴 52. 一昔前のエルサレム 61
九・二七並立写真、または加齢ということ 66 英治記念館の庭で 71
町内にいた作家と馬賊の話 80
U おもいで機会詩――87
おもいで機会詩 89 文学概論というのもあったね 93
くわがた虫との一夜 97 伯母の心残り 101
三度目の下宿 104. 二度目の平泉 108
牛のいる暮らし 114. きのこ採り 123
たけのこ 128. さつま芋とじゃが芋 132
こんな野菜も食べた 138. 終戦前後の農家の暮らし 142
U 小篇集――161
擬声・擬態語.163 春困.164 漢字の効用.166 詩と散文.168 色の呼び方.170 アリストテレス小品集.172 謫仙人.174 旧作を愛読する.176 植物状態.178 他生物の意志.179 本作りを垣間見る.181 英語のものは食わん.182 錯覚図形.183 〇七問題.185 冬来たりなば.186 早紀江さんの証言.187 李承Yと白鵬.188 むずかしい言葉づかい.190 定年退職.191 女性専用車.193 犬の病.194 『ガリヴァー旅行記』をもう一度.196 戦後還暦の年.198 小日に原爆を.198 右顧左眄するな.199 マンボウの回遊.200 商店街をつくる.201 戦後レジーム.202 地球の入り.203 片仮名外来語.204 けちなんです、私.205
W いまどき言葉――207
「進化」209 「教官」210 「共生」211 動物の「結婚」213 「ただ」214 「食べ合わせ」216 「共有する」217 「ありえない」219 「サポーターさん」220 「ケースの場合」221 「検証」223 「あげる」224 「すごい」226 「不具合」227 「進化」をもう一度 229 「共有」活用例 230 「けれども」232 「教鞭をとる」233 「五感と五官」235 「優性・劣性」235
あとがき 238
初出一覧 240
他感作用
二、三年前にアロエ酒の味を覚えたので、今年も忘れず春先にアロエの世話をした。大きくなり過ぎた古株を引っこ抜き、土を入れ換えて、古株の根元に付いていたごく小さな子株を三つ選んで、大きめの鉢に程よく間を置いて植えておいた。
そのうち陽気がよくなるにつれて三つの子株からそろって新芽が出てきて、緑色が濃くなってきた。毎朝起きがけに育ち具合を眺めて楽しんでいるうちに、ふと気づいた。三つの株の成長に差ができてきたのである。その差は日を追うごとに目立ってきた。成長の最もはやい株からは次々と新しい葉が出てきて、丈も伸びてきた。これに比べると二番目の株は成長を続けるものの、その度合いがとてもゆっくりしている。三番目は緑色の芽を出したあと成長が止まり、とうとう力なく折れ曲がってしまった。これはしばしば屋外の植物に起こる他感作用の結果に違いない。自分が鉢植えにした身近なアロエにこの現象が起きたのを見て私はおどろいた。
植物はふつう動物のように活発に動かないし、声も出さない。しかし植物は周りのほかの植物と互いに交流し合っている。もちろん、そのために捉らえどころのない「気」のようなものを発しているわけではない。実体のあるもので交信し合っている。その一つが他感作用である。
他感作用というのは、植物が土のなかの根から特有の物質を分泌して周りの他の植物になんらかの影響を及ぼすことである。物質を根から出すだけではなく、場合によっては落ち葉や緑葉から物質を雨水に溶かして土に染み込ませたり、揮発性の物質を大気中に放ったりする。そのような物質を出して仲間などと交信する植物や物質の種類は結構たくさん知られている。植物がつくる特有の物質は、近ごろはやりのフラボノイド、クロロゲン酸のようなポリフェノール類、芳香があって私たちにも快い精油の成分であるテルペノイド、それにニコチン、カフェインのようなアルカロイドが主なものだろう。揮発性の植物ホルモンで果実の成熟などにかかわるエチレンもこれに含まれる。
香りのあるテルペン類が樹木から発散していれば私たちもそれを感知できるが、他感作用の多くは効率よく根から分泌される物質を通じて行われるので、私たちが気づくのはアロエの場合のように、その結果だけである。
他感作用が及ぶのは同じ仲間の植物のこともあれば、異なる種類の植物のこともある。また、その作用は周りの植物にとって有益な場合もあるが、不利益な例のほうが明らかに多い。特有の物質を分泌する植物体にとっては、周辺の植物の成長を助けるよりは阻害するほうが有利だからである。農業ではむかし厭地(いやち)(忌地)といい、いまは連作障害という現象が知られている。これは畑地の作物や果樹を連作すると生育や収穫が減退することで、マメ、ナス、ウリ類によくみられる。この連作障害も時間差をもたせた他感作用といえる。
ある植物体が特有の物質を分泌して周りの異種の植物を駆逐するのは、異種間の競合の結果であり、これはよく理解できる。一方、植物体が他感作用によって同種の植物の生育を阻害するのは、同じ地域に同種が密集し過ぎて栄養分や太陽光が不足し、共倒れになるのを防ぐためで、自主的に間引きするのである。
先に私は三つのアロエの子株を一個の鉢に植えた。三つの子株に分かることは一個の鉢の中の世界だけである。鉢の外の世界で自分たちと同種の植物がどのような営みをしているかは関知することではない。いまはとにかくこの鉢植えの中の世界でアロエという種を維持し、精一杯繁殖させることだ。しかし、どうやらこの鉢に三株では密集し過ぎで、いずれ共倒れになりそうだ(これには念を入れて三株も植え込んだ私に責任がある)。そこである程度成長したところで、三株は成長の阻害物質を根から分泌して互いの優劣を探り合ってみる。優劣を探るといっても、互いの生き残りを賭けて競うわけではない。どうすればアロエという種にとって有利になるかを決めるのである。いうなれば他感作用を通じての話し合いである。
もしアロエに言葉があれば最初に倒れてしまった株は思っただろう。「自分が最も弱そうだ。抵抗力のあるほかの二株に任せておけば安心だ。ではお先にさようなら」と。二番目に成長の遅くなった株も思ったことだろう。「自分はかなり丈夫だ。だけど、もう一つのほうがさらに丈夫そうだ。自分は成長を控えて見守っていよう。もし事故でもう一つが途中でだめになることがあれば、代わりが務まるように準備だけはしておこう」と。最も勢いのある株も思った。「どうやら自分が一番丈夫そうだ。この先がんばって鉢の中の栄養分や水分を無駄なく使い切って大きく成長し、たくさんの次世代を残そう」と。
くどいようだが繰り返せば、アロエが他感作用を発揮して右のような結果をもたらしたのは、それぞれの個体の生き残りを賭けた競い合いによるのではなく、あくまでも鉢の中での「種」の維持と繁殖を有利に導くためだった。しかし秋になれば、鉢の中の株がどのような成長を遂げようとお構いなく、葉はすべて切り取られて焼酎漬けになる運命にある。そこまではアロエが予測できるわけではないので、結果に対応して改めてどう再生するかを算段しなければならない。人間(ここでは私のことだが)というのはやはり困った存在である。
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この5年ほどで詩誌などに書いた随筆をまとめたものだそうです。著者は東京都立大学名誉教授で植物生化学専攻。詩人でもある著者の本随筆集に詩論はあえて載せなかったそうですが、随筆の端々に詩人らしい言葉へのこだわりがあって面白く、どれを紹介しようか迷いました。ここではやはり表題の「他感作用」を紹介してみました。植物学への私の知識は半世紀前の中学生レベルを出ないのですが、この随筆からも植物学の発展を窺い知ることができます。〈他感作用〉そのものも初めて知った言葉です。作物の〈連作障害〉は、狭い畑で百姓の真似事をしている私でも知っていますけれど、それが明快に〈時間差をもたせた他感作用といえる〉と説明されて納得しました。
それにしても〈三つの株の成長に差ができてきた〉話は面白いですね。特に〈自分は成長を控えて見守っていよう。もし事故でもう一つが途中でだめになることがあれば、代わりが務まるように準備だけはしておこう〉という〈二番目の株〉には驚かされます。〈互いの生き残りを賭けて競う〉だけの、〈困った存在である〉人間はアロエの足元にも及ばないのだなと感じさせられました。植物学から見た人間社会、お薦めの1冊です。
○季刊『新現代詩』5号 |
2008.9.15 神奈川県相模原市 中川敏氏代表・新現代詩の会編集 東京都千代田区 龍書房発行 900円+税 |
<目次> 表紙・中央アルプス 唐木孝治撮影
デザイン・佐藤俊男
特集・抒情/うた
抒情/現代詩ノート抄…川原よしひさ…6 抒情は洞窟に住むか?−抒情論拾い読み−…中川 敏 11
個別性から普遍性への舞い 二十一世紀の抒情…三田 洋…18
小野十三郎と「短歌的抒情」…村上久雄…23 童謡は広く読まれる現代の詩…島田陽子…26
詩
工藤富貴子 真夜中の雨…35 藤 寿々夢 仙遊館抒情…36
鏡 たね 姫川曼陀羅…38 水崎野里子 ぬばたま…40
小林小夜子 口の口・唇は…41 降旗りの さかさのバケツ…42
平本 閣 ここガイタイ…44 働 淳 肉体の劇場…46
新井翠翹 梨の木地蔵…48 紀ノ国屋 千 菜園譚…50
丸本明子 滑空…52 おだじろう 金星…53
川原よしひさ 小さな古時計…54 相良蒼生夫 こころの燠火…55
川端律子 手づくり梅ジュース…56 大谷敏江 羽ばたき…58
大谷敏江 埋めつくす香り…59 金野清人 青色の時…60
直原弘道 終末の日々…61 松本恭輔 端午の節句に…62
松本恭輔 中国の友へ…63 高橋サブロー 飛騨の匠…64
高橋サブロー 戻ってきたカメラ…67
エッセイ
四川省の地震 矢口以文…68 なつメロ私考 相良蒼生夫…70
すてきな童謡 宗 美津子…73 「四季」の周辺をたずねて 富永たか子…74
陥穽から生還するために 若松丈太郎…77 中島みゆきの歌と不惑のころ 工藤富貴子…80
倭歌(やまとうた)の初発(はじめ)のとき−古代史手帖4 篠塚達徳…81
我が『エーゲ海旅みやげ』の「詩論」(後編) 高橋サブロー…84
詩
渡辺宗子 城影…88 三宅遠子 草むしる…89
結城 文 花神…90 みやざきことよ 駄菓子好きの恋…92
松井裕香 門…94 藤川元昭 懐かしい奴…96
斐青映士 卒業…98 濱本久子 親父の煮豆…102
野口忠男 一枚の絵…104. 中川 敏 エムベドクレス、エトナ山を降りる(三)…105
永井ますみ どこへ行く…108. 富永たか子 真夜中の人…109
土屋一彦 矜持/鮫にあっては…110. 津金 充 魚たち…112
千葉 龍 ぼくはまだ、死者であるそのひとに逢っていない 114
武西良和 根来山門116 大門117 瓦118 土壁の家119
竹中 寛 進化なき変貌…120. 富田不二雄 余波はわが胸に…122
宗 美津子 追憶…123. 砂村 洋 鬱血は青銅器の文様のように…124
下前幸一 雨の朝…126. 坂田真希子 盲導犬の生活…128
斉藤宣廣 SLS…130. 斎藤彰吾 遭遇…131
草倉哲夫 バルラーム修道院のイコンに似た柘植君に棒ぐ…132
鬼頭和美 狂気134 犯罪135 ナナちゃん人形136
神田さよ 水族館…138. 市川つた 花がすみ…139
川本信太郎 僕達は消えた140 道141 水子の詩(うた)142 法界の旅143
榎田弘二 カメラ…144. 長尾暢子 次元…148
■詩集紹介
水崎野里子『多元文化の実践詩考』 中川 敏…150
鏡 たね『薄暮の道』 松本恭輔…151
結城 文・英訳『竹山広歌集 とこしへの川 百首抄』 川原よしひさ…152
永井ますみ『弥生の昔の物語』 松本恭輔…154
現代の名待 中原かな…149
●『新現代詩』第4号合評会報告 155
●編集後記 156 カット・森口賢一
こころの燠火/相良蒼生夫
日の暮れを惜しむ
うす紫の気のながれ
たヾよう座敷に 灯りともす
間のこころづかい
かすかに刻がうつる掛軸の
石榴 割れた紅い粒々を
尋ねる指先 甘酸い果汁のつたわり
実(さね)の白さ固さを 夕べの気配がなでる
テーブルのサンダーソニア
一輪にオレンジ色 いくつもの
ほの紅く ぼんぼりのともるさま
卓をはさんで 伸縮自在の距離の遠さに
狐火 古びたランプの芯のかげり
明滅を憂れう こころをともに
途切れた会話の後にこそ ふたたび
捩(ねじ)り花のからみゆく つらさを知る
高層に築山の 低木に苔石のみち
水の音さえする障子を隔てた向こう
常夜燈がともる 風の静けさ琴がわたる
少しの言い残しはないか かなしくも
ゆらぐ影に隠して 立つ香りの
ながれ一方にかたむく ほむらの熱さ
時の架ける橋をわたり いまだ行くか
達せられないこころのこり その残欠に
植物には疎くて〈サンダーソニア〉が分かりませんでした。ネットで調べてみますと、1851年に南アフリカで初めて発見された花だそうで、発見者のサンダーソンにちなんだ名とのことでした。原産地の南アフリカではこの花はクリスマス(12月)頃に咲くことから別名クリスマス・ベルと言ったり、その形からチャイニーズ・ランターンとも言うようです。花言葉は愛嬌。写真で見ると黄色のものもありますが〈オレンジ色〉のものもあり、それはまさに〈ほの紅く ぼんぼりのともるさま〉でした。
作品は〈石榴 割れた紅い粒々〉〈一輪にオレンジ色〉など色彩豊かですが、基調はタイトルの〈燠火〉同様〈狐火 古びたランプ〉の色、〈常夜燈がともる〉色でしょうか。老境に近づくにつれて増す〈日の暮れを惜しむ〉気持ちがよく出ている佳品だと思いました。
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