きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.8.28 松島 |
2008.9.28(日)
宇都宮の2日目。午前中、宇都宮在住のA氏にご足労願って、宇都宮美術館を再訪しました。前回はもう3年ほど前になるでしょうか、何度訪れても木立の中の気持ち良い美術館です。
今回の企画展は「没後40年 レオナール・フジタ展」でしたが、思っていた以上に良かったです。なかでも圧巻は3m×3mの大作が4点並んだ1928年の連作でした。「ライオンのいる構図」、「犬のいる構図」、「争闘T」、「争闘U」と名づけられたそれらは、フジタの特色である乳白色の人肌がふんだんに使われて、私には現実と夢のあわいを感じさせました。フジタは1886年生まれですから、この4点は42歳という油の乗り切った時期のもので、女性の美、男性の肉体美の中にある獣性をも感じさせてくれました。
この連作は長らく行方がわからず「幻の作品」となっていたそうです。1992年、パリ郊外の倉庫で発見、現在はフランス・エソンヌ県議会所蔵のようですから、11月9日の会期末後は帰国すると思います。日本にあるうちにぜひ観てほしい一品ですね。
宇都宮美術館の魅力は、今回のような企画展もさることながら常設展も見逃せません。もちろん今回もじっくりと見て回りました。お気に入りのルネ・マグリット「夢」は女性美の極致でしょう。いや、女性の影として描かれた部分もその極致なのかもしれず、マグリットはそれを描きたかったのではないかと思います。
昨夜に引き続き、美術館までご一緒いただいたAさん、本当にありがとうございました。ちょっと不健康な宇都宮の夜も、健康的な芸術を堪能できる昼間の宇都宮も、Aさんのお陰で愉しむことができました。また伺います!
○名古屋哲夫氏詩集『身の闇』 |
2008.9.20 大阪市北区 竹林館刊 3000円+税 |
<目次>
T 触
一言主 14. 閏秀 16. 爪印 20
内懐に 22. かねての 24. 末法の世歓迎 26
へんねし 30. 掌上の0遊行 36. 故郷へ 44
迫る煙霞 46. 虎の穴 48. 醒酔頌 50
閑でない話 54. 観音さん 58. ささやき 62
U 浪
事実と幻実 68. 幻実について 72. その音 76
北斎 80. 今なら 82. 血 84
佇む 86. ある日 88. なつかしさ 90
連鎖の底 92. 渡る 96. 六月 98
掘出手茶入 100 ヤマイダレ 104 ゴンという名の 106
イフということ 114 鯨面土偶 118 なぜ 124
おもいで 126 黒い節 128 迎える朝 130
V 渦
きんせいとうちゃく 136 あの「土の子」 140. 50億歳の含み資産 142
歯ブラシの男 144 同行 146 はまる 148
還り道 150 釣掘 152 噫、関行男大尉 154
他者 158 つり 160 実は 162
それなり 164 紡ぐ 166 街宣について 170
北斎の 174 雲海 176 解読 178
W 他
めい 184 その し 186 天使の時 188
偶然 190 大麻ビール 192 墓掘の唄 194
怨み節 196 お近く 200 ある 202
閉ざす 204
V 転
詠歎 208 火焔太鼓 210 歔欷(きよき) 212
隠形 214 亀裂 216 道 218
踊り狂って 220
童謡
イルカ讃歌 224 わすれもの 226 ぎんが 228
宇宙列車 230 むかしのうた 234 だるまさん 238
ざっそうペンペンぐさ.240.雨あがりの妖精 244
エッセイ
「身の闇」について.250 現代詩について 254 日本近代について 258
神道と童謡 266 りんねてんせい 270 私の囲碁 272
葦の髄から天覗く 276
あとがき 287 装幀 川中實人
掌上の0遊行
あの声で、
とかげ食うかや
ほととぎす
という川柳があったけれども
掌上に
孫悟空を遊ばせて
釈迦の気分になることも
満更でもないような
大きい方へ
1の下に0を
1つつけただけのメートルで
たいがいの家は収まってしまう
2つつければ
たいがいのビルが入り
3つつけて
キロをつけてやると
日本列島
それを10倍の0を7つで
地球の直径
地球の10倍で木星
また10倍で太陽
これを100倍すると地球と太陽の距離で
0は11
読者の中に
余り安直に言うなと言われる方が
あるとすれば
広告の裏の白地に
鉛筆を使って
光の秒速は30万Km
秒の上の単位
分・時・日・年と辿って
1光年に0が幾つつくか
読者はご自分で
やってみられてはいかが
自分に問うて
自分に答えて
15でした
もっとも
ハッブル宇宙望遠鏡は
130億年前まで見通して
6億年ぐらい先の銀河は
ごく近しい
親類らしいのですが
小さい方へ
私たちの体を1メートルの1とします
10分の1で鉛筆
その10分の1で小さなハエ
次の10分の1でガラスのコップの厚さ
一足とびに
細胞1箇の大きさが10万分の1メートル
原子の大きさが
人間の100億分の1で
0が10
原子の中の陽子は
原子の10万分の1ぐらい
これで陽子の大きさは
人間のマイナス15乗
10の肩に-15と書けば掌の上に載る
宇宙科学者の扱っているのは
10のプラス62乗倍
と
10のマイナス62乗倍の間で
夫々の階層に応じて
夫々独自の構造が存在しているという
だが
ビッグバンというような
途方もない時空では
10のマイナス35乗メートルという
小さなもののなかに
10のプラス27乗の宇宙≠ェすべて
押し込められていた
という
アイデアがある
ここに登場するのは限りなく短い瞬間を想起させるが、それはもはや
時間ではない、なにものか、らしい。
宇宙の
正体というか何というか
ここまで、来れば
自殺なんて
やーめた
19年ぶりの第6詩集のようです。名古屋哲夫という詩人の名は、私が20歳頃の40年近く前から存じ上げていましたから、第6詩集ということで驚きました。多く出せば良いというものではないことは勿論ですが、意外でした。逆に言えば、その19年が濃縮された詩集とも云えましょう。ここでは本詩集中の最も長い部類に属する作品を紹介してみましたが、〈掌上〉で〈遊ばせ〉た詩と云いながら、結局、現在の人類が認知できる範囲を全て言い尽くしてしまいました。もちろんこれよりも〈大きい方〉も〈小さい方〉もあるのでしょう。それを探ることが科学の面白さなんですけど、今後も詩人という人種は数十行、あるいは数行で言ってしまうかもしれませんね。退職まで理科系の仕事をしていた私には、詩人の凄さを見せつけられた思いです。特に最終連の〈ここまで、来れば/自殺なんて/やーめた〉というフレーズには喝采を贈ります。童謡・エッセイも含めてお薦めの1冊です。
○『栃木県現代詩人会会報』57号 |
<目次>
平成20年度定期総会開く 1 和の意味/我妻 洋 1
平成20年度役員 2 平成19年度決算報告書 2
懇親会・出版を讃える会 3 栃木県現代詩人会新人賞 4
新人賞を受賞して/岡田喜代子 4 新人賞選考経過/戸井みちお 4
受賞詩集より 4
出版を讃える 6−9
遠藤さち子/戸井みちお/そのあいか/高田太郎/瀧葉子/和氣康之/石田由美子
会員アンケート 10−11
白沢英子/あらかみさんぞう/山内世紀子/藤庸子/伊藤賢治/斎藤さち子/白井早苗
受贈会報・詩書等 12
編集後記 12
マウイ島/岡田喜代子
「わたしたちは 今
過去を見ている」
満点の星空を見上げて
あの人は言った
暗い水平線の上から それはもう
にぎやかにはじまっている星空
今見ている星の光は
すでに消滅した星の光
星空は一枚の過去。
昼間 海賊のように
裸足で波打ち際を歩いたので
足くびが重い
砂を踏みしめたとたん
足跡は過去となってさらわれる
おびただしい過去
過去と未来のあわいもかまわず
波が頑固に打ち寄せてくるので
巻き貝を散らしたワンピースを
はぎ取り
わたしたちは交わる
心を持たない海と陸のように。
眠りの昏さにまで
波音が浸食してくる深い夜
また 明日には
雲は島から湧いて
海の上に消えてゆくはず
永劫と呼びたい空へ。
本年度の栃木県現代詩人会新人賞に岡田喜代子さんの詩集『午前3時のりんご』が選ばれていました。選考委員全員の推挙だったそうです。おめでとうございました。この詩集は拙HPですでに紹介しています。どんな詩集かはハイパーリンクを張っておきましたので、ご覧になってください。紹介した詩は受賞詩集よりとして載せられていた作品です。〈星空は一枚の過去。〉というフレーズが活きています。それを最終連で〈永劫と呼びたい空へ。〉ときれいに繋げていると思いました。今後のご活躍を祈念しています。
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