きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.8.28 松島




2008.9.30(火)


 入院している父親を見舞ってきました。思った以上に元気で何より。それどころか相変わらずのせっかちで、少し話しをしただけで「もう帰れ」。その間、わずか3分。慣れていますから早々に退散してきましたが、何なんでしょうね。
 妹が毎日のように見舞っていますけど、そのときは長い時間いるようです。せっかち、ということもありますが、きっと私が煙たいんでしょう。親類縁者の中では一番煙たい存在のようです。父親とは言え、あるいは父親だからこそ、言葉もきつくなっていると自覚していますから。まあ、「もう帰れ」と言えるうちが花。メソメソされるようになったらオシマイと思うことにしました。



詩誌『驅動』55号
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2008.9.30 東京都大田区
驅動社・飯島幸子氏発行 450円

<目次>
小川アンナ詩集『うすむらさきの陰影
(かげ)』を読んで/南雲和代 24
書評 内藤喜美子詩集『落葉のとき』
 詩 耳を澄ませば/森 常治 18
 独特の表現で/飯島幸子 20
現代詩と「笑い」(十)/周田幹雄 27

沈下橋/ささおかみねお 1         藤村忌/長島三芳 2
遺骨/長島三芳 4             畑毛山/忍城春宣 6
禿鷹たち/内藤喜美子 8          益子焼の店/飯島幸子 10
六十九歳の出発/小山田弘子 14       仏舎利/星 肇 16
バンコク通信 命の値段/石川文絵 30     バンコク通信 サイクロンから一か月/石川文絵 32
待つ/周田幹雄 32             鬘
(かつら)/周田幹雄 34
断片・七時雨山/飯坂慶一 37        家族/金井光子 40
昭和時代の商店街で/池端一江 42      現代姥捨山考/中込英次 44
同人住所・氏名 46
寄贈詩集・詩誌 46
編集後記                  表紙絵 伊藤邦英



 
バンコク通信
 命の値段/石川文絵

いつもの通り検査を終えて会計へ
「三千二百バーツです」
聞き間違いと思い 再度聞く 答えは同じ
「安すぎます 薬が六か月分あるはずですが……」
「薬はもうありませんよ」とにっこり
一瞬信じられない思いの後 喜びが体を突き抜けた

乳がんで右の乳房を除去した
外科の治療が終わった日
医師は「転移なし」という病理報告を読みつつ
合格発表を見た学生のように喜んだ
病院を出てバス停に向かう途中
わたしは初めて足が震えた 心臓がどきどきし 背中に悪寒が走った
ガンは手遅れになる寸前だったのか?
内科の治療って何?
逃げ延びたはずのガンの恐怖がわしづかみ

内科の医師は
「五年生存率は八〇パーセント 薬を飲めば九〇パーセント
それでも再発する可能性は一〇パーセント残るが それはあなたの運次第」
と告げた
一日一回 薬を飲むとき
「再発しませんように」と祈りを込めた
それにしても一錠九〇バーツなんて高い タイでは一日分の食費に相当する
一〇パーセントの命の値段と思うしかない
そんな思いの三年半

抗がん剤の標準治療期間五年を待たずに 薬は不要に
「お祝いしなきゃ」と夫
「何買おうか」
「ガラスのふた付きのフライパン−テフロン加工」
「ゴミ袋が使い捨ての掃除機」
明日は フライパンと掃除機を買いに行く
日本では消耗品だがタイでは多分高級品

 詩作品ですから現実のこととして捉える必要はないと思いますが、それでも〈喜びが体を突き抜けた〉という思いは伝わってきました。癌患者の〈逃げ延びたはずのガンの恐怖がわしづかみ〉という恐怖も想像することができます。作品はその喜びと戦慄に終始するだけではなく、〈一錠九〇バーツ〉が〈タイでは一日分の食費に相当する〉ことや〈ガラスのふた付きのフライパン−テフロン加工〉品・〈ゴミ袋が使い捨ての掃除機〉が〈日本では消耗品だがタイでは多分高級品〉と言及していて見事です。この姿勢が癌をも克服したのかなと感じました。



詩誌『嶺』29号
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2008.9.20 東京都東村山市   300円
柴崎氏方事務局・日本キリスト教詩人会発行

<目次>
□詩篇
ダミアンの涙 東延江 2          幻視 岡田恵美子 3
瀬戸内海 森田進 4            一枚のビニール袋 福井すみ代 5
法螺貝と男 笠井剛 6           法螺貝ほか二編 大瀬孝和 7
主よはやく来ませ 中山直子 8       あこがれ 喜春子 9
渇きと眠り 坂井信夫 10          もしあのとき 池上耶素子 11
立葵・他 古田嘉彦 12           従軍慰安婦のために 水崎野里子 14
生きること 紫野京子 15          未来がなつかしい 新延拳 16
□評論
葡萄の盆栽 川田靖子 18          悲劇の哲学 柴崎聰 21
□追悼 斎藤和明 森田進 22        高橋喜久晴 池上耶素子 23
□近況――会員による 25          題字/高橋喜久晴



 幻視/岡田恵美子

――水が足りなければ
  枯れてしまうし
  遣り過ぎれば根腐れを起します
  愛情も同じです――

過剰な根を持つ
水栽培のヒヤシンスのように
少年も又痛みすぎる
過剰な心を持っていた
自傷行為を繰り返すのは
その過剰な心を
切り捨てる為だったのか

黄昏の御聖堂に
一人祈る少年の細い項
(うなじ)
誰が笞を打ちおろせよう
ひたすら祈るその姿に

そして或る朝
ミサの侍者を勤める
白衣の少年たちの中に
彼の姿を認めた時
おお!大天使ガブリエル
あなたの大きな翼が
彼の肩を抱くのを
確に幻視しました

 日本キリスト教詩人会というグループがあることは以前から知っていましたが、今回はじめてその詩誌を拝読する機会に恵まれました。一読して敬虔なクリスチャンらしい誠実な詩篇があふれていて敬服しました。紹介したのはそのような詩の中の1編です。ここにも〈過剰な心を持っていた〉〈少年〉への慈愛の心を読み取ることができます。〈幻視〉というのは教義の中でどういう位置づけなのか分かりませんけれど、信仰が篤くなれば得られるものなのかもしれませんね。私は幻視を書いた作品を初めて見たように思います。不信心者ですが、その信仰心には敬意を表します。



   
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