きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.9.27 栃木・和紙の里




2008.10.11(土)


 日本詩人クラブの10月例会が東京大学駒場Tキャンパスのファカルティハウス・セミナールームで開かれました。会員による小スピーチと朗読は、新会員の中田紀子さんと名誉会員の寺田弘さんのお二人。寺田さんは「戦後の朗読運動のことなど」と題して、貴重な資料を提示しながらのお話しでした。
 講演は伊藤桂一さんによる「現代詩を書きつづけて」。文字通り現代詩とともに歩んで来られた深い経験から、現代詩の歴史、またその意義・展望について、多くの詩人たちと交わられた逸話をも含めてお話しくださいました。

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 写真は会場風景です。演者は伊藤先生。駒場の森に降り注ぐ秋の陽のもと、85名ほどの人が95歳の寺田弘さん、91歳の伊藤桂一さん、中田紀子さんのお話に耳を傾けました。



詩誌『パレット倶楽部』6号
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2008.10.10 埼玉県三郷市   非売品
植村秋江氏方連絡先・パレット倶楽部発行

<目次>
熊沢加代子…木にも母性が…/四川大地震に寄せて…2
藤本敦子……夕日/写真の町…6
笠間由紀子…四半世紀ポタージュ/ナマモノ…10
植村秋江……ホウセンカ/空を見ていると…14
重永雅子……応用問題/何とかなって…18
植村秋江……藤本敦子詩集『風のなかをひとり』に寄せて…22
<スケッチノート>…24
あとがき



 何とかなって/重永雅子

食器を洗っていたら
手順が悪かったのか
スープ椀の中に小皿が入ってしまい
外そうとしたら
反対に はまってしまった
ピタッとくっついて
叩いても温めても
離れない

食器が二個使えなくなって
こちらは困るのだが
小皿のほうからすれば
「はめられてしまった」と
いうことかもしれない
わたしが そうしようとしたのではなく
そのようになってしまった

どうやったら外せるんだろうか?
こんなふうに
どうにもならないことが
日々の中で何度もあった気がする
もっと大事なことで…

それでも何とかなって 今がある
年をとるのはいいことだ
忘れやすくなって
困ったこと 辛かったことも
ハッキリ思い出せない

 最終連が佳いですね。私も常々〈年をとるのは〉悪いことばかりではないと思っているのですが、その中には当然〈困ったこと 辛かったことも/ハッキリ思い出せない〉状態が含まれます。そうやって〈何とかなって〉今まで誤魔化して生きてきたように思います。そして、フッと〈もっと大事なこと〉があったような気がしてあせります。この第3連も上手いと思います。いわゆる台所詩になるのでしょうが、第3連から最終連へのつながりの見事さを見ると、そんなヘンな呼称は意味がないと感じました。



季刊・詩と童謡『ぎんなん』66号
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2008.10.1 大阪府豊中市
ぎんなんの会・島田陽子氏発行 400円

<目次>
おむかえタイム 池田直恵 1        まちどおしいキンモクセイ/切ないキンモクセイ いたいせいいち 2
さんかく/たったひとつ 井上良子 3    ひみつだよ/はじめての一人旅 井村育子 4
朝が/たまご/いつもの庭で 柿本香苗 5  はじめ/すいはんき かわぞええいいち 6
ひとりはひとり/恋 小林育子 7      なかま 島田陽子 8
ありときりん/ほは ふふ はは ほっ! すぎもとれいこ 9
せいきゅうしょ/秋の色 滝澤えつこ 10   百五十六本のバラ/ガジュマル 冨岡みち 11
旧閑谷学校/妹 富田栄子 12        たまねぎさん/スーピーマンとスーパーニンジャ 中島和子 11
こっか/秒読み 中野たき子 14       鯉爺さん/山に帰れない狐 名古きよえ 15
おばちゃん/にてへん 畑中圭一 16     もう秋/バナナ/よいしょよいしょ 藤本美智子 17
だれにも渡さない/ケッコーケッコー コケコッコー 前山敬子 18
白いおさら/きらっきらっ 松本純子 19   ハンカチ/もう三さい むらせともこ 20
生駒の狐の子守唄に寄せて もり・けん 21  ごめんなさいありがとう/脛かじり 森山久美子 22
夏だ ゆうきあい 23
本の散歩道 畑中圭一・島田陽子 24
かふぇてらす 中島和子 名古きよえ いたいせいいち 27
INFORMATION 28
あとがき 29                表紙デザイン 卯月まお



 いつもの庭で/柿本香苗

真夏の朝
ねぐるしくて汗だくで
ふと目がさめたら
耳にそそぐよ音のシャワー
ワシャワシャワシャワシャせみの声
うるさくってねられない
咲いたんだから と朝顔の声
しらないうちに いつもの庭で
朝はすっかりはじまっている
夏のおひさま こげつく光
昼と肩くんでギラギラわらう
かんべんしてよ
夏の朝

 〈真夏の朝〉の〈ねぐるし〉い様子がよく出ていると思います。〈せみの声〉を〈ワシャワシャワシャワシャ〉としたオノマトペーもおもしろく、〈夏のおひさま〉が〈昼と肩くんでギラギラわらう〉という設定も佳いですね。なにより〈かんべんしてよ〉というフレーズがよく効いていると思いました。



詩誌『宇宙詩人』9号
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2008.10.15 愛知県高浜市
鈴木孝氏代表・宇宙詩人社発行 1000円

<目次>
・詩
・紫 圭子…はちかずき、と、かげ、のすきまに緑萌え…4
・高谷和幸…そのことについてなにも知らない…6
・今井好子…沼に降る雨…8
・名村和実…夜の図書館裏…10
・評論・中村 誠…「コピーライター」金子光晴の仕事…12
・宮田澄子…願望…18
・森 和枝…癖の七曲がり…19
・村田しのぶ…記録 ガスに捧げる…20
・太田千尋/藤原 佯…夜想曲…22
・山崎 啓…視漢…26
・遠藤昭己…亀虫…28
・現代詩鑑賞・阿部堅磐…わが愛する詩〈吉原幸子の詩〉…30
・いいださちこ…リヒカ異聞…35
・小林陽子…しゃぼん玉通り…38
・林口香代子…祝電…40
・尾崎淑久…蛍の光…42
・丹羽康行…月面のうた その(3)…44
・角谷義子…宵の口のあぶらむし…46
・評論・駒瀬銑吾…詩的認識と散文的認識(5)…48
・野根 裕…どこか ここ…50
・阿部堅磐…白菊の龍神さま…52
・村井一朗…二重奏…54
・曽谷道子…永遠の徒弟であれ・野の珠玉…56
・人見邦子…交差する時間…58
・報告・紫 圭子:詩誌《宇宙詩人》第八回懇親朗読会「宇宙の波動、声の森へ」…60
・佐山広平…青い青いそよぎに・風が冷ややかに吹く時に・不安な愛のように…67
・八重田和久…「歌」寸感…76
・八重田和久…六月…78
・大西 豊…暗闘…80
・エッセイ・澁谷 義…夢か現(うつつ)か…82
・フランス現代詩・ドニーズ ジャイエ・フランソワーズ ラバディ・ジョエル コント・ジャン=ジャック ケルネ・フィリップ バルビエ…83
・尾関忠雄…パリの新緑狂い…88
・報告・尾関忠雄…墓巡り記 ベケット・サルトル・ボードレール・ランボーそしてパリ・そしてフランス…91
・高井 泉…稲夫む…96
・清水弘子…実えんどう月…98
・みずしなさえこ…母の戒名…100
・漆畑結音…そしてわたしは風知草…102
・久野 治…荒神町の「宇平商店」−多治見の町シリーズ−…104
・評論・久野 治…黎明期の中部地方詩人(7)…106
・甲斐久子…花ぞ この世の絆なりける…110
・長澤奏子…市民たれ…112
・報告・「ランボー・ロッシュのメンバー」クリストフ・オーブリー夫妻来名・山崎+鈴木…114
・近岡 礼…立秋…116
・土屋純二…狂え…118
・砂村 洋…夢管 あるいは照葉樹林に消えるもうひとりのイヴ・タンギー氏…120
・鈴木 孝…あなたとぼくの死体を眺めるのは美しい…124
・後記・鈴木 孝…「共存と自我と・9」…126



 白菊の龍神さま/阿部堅磐

 むかし、ある村に白菊の社と呼ばれている社がありました。なぜ
白菊の社と呼ばれているのかと申しますと、秋になると、境内の草
地に一面の白菊が咲き乱れ、それはそれは見事でした。その時季に
なると社では菊祭りという神事も行われました。そんなわけで、そ
の社のことを誰言うとなく白菊の社と呼ぶようになりました。
 タケルはその社の宮司さまの一人息子で、今ちょうど二十歳に
なったばかりの清らかな若者です。父上の宮司様はもう六十歳近い
年齢で、跡取りのタケルは村人から白菊のタケル若≠ニ呼ばれて
いました。毎夕、父上と母上とタケル若の三人で、神にご奉仕して
おりますことは言うまでもありません。
 ある朝、タケル若が庭を掃いておりますと庭を流れる小川のほと
りの草群の中で、二尺ほどの白いヘビが横たわっておりました。首
のところに矢が突き刺さっており、血を流しておりました。狩の流
れ矢にでも当たったのでしょう。タケル若はかわいそうに思って、
すぐさま矢を抜いて母上から薬を貰い受け、傷の手当てをしてやり
ました。しばらくの間ヘビはグッタリしておりましたが、一刻ほど
するとタケル若の方へ頭を上下して礼をいうかのようにして、草群
の奥へと消えて行きました。
 その夜のことです。タケル若は不思議な夢を見ました。腰から上
は人で下は蛇体の端正な少女がタケル若に話しかけるのでした。「私
は今朝方、あなたに命を助けられた白ヘビです。今日は本当に有難
うございました。あなたに御恩返しをするために、こうしてあなた
の夢に現れました。目が覚めて明日になったら、社殿の階(きざはし)の下の橘
の木の根元を掘ってごらんなさい。この社の財宝が眠っております。」
そう言い残すとその少女は薄明の中へ姿を消して行きました。
 朝、タケル若は昨夜見た不思議な夢のことを、父上と母上に話し
ました。父上は「それこそ大神(おおがみ)さまのお告げじゃ。タケル若、橘の
木の根元を掘ってみなさい。」そう命じました。タケル若は橘の木
の根元を掘り続けました。すると土の中から一式の長櫃が出て来ま
した。蓋を開けると、中には、金銀宝玉といった宝物がギッシリ詰
まっていました。タケル若は思わず喚声をあげました。
 タケル若は父上や母上と相談して、その宝物で霜雪に破れ果てて
いる現在の社殿を改築し、残りの金銀財宝はすべて、貧しい村人た
ちに分け与えました。そして富を与えてくれた白ヘビを祭る小さな
社白菊の龍神さま≠建てました。それから村人たちは社へお参
りすることは勿論のこと、白菊の龍神さま≠お参りする人が多
勢いたということです。
 その後、タケル若は縁あって名主さまの美しい娘さんを妻に迎え
たということです。

 作品はたぶん創作だろうと思いますが、〈白ヘビ〉は各地で神の使いとされているようです。私も一度だけ檻に飼われている白ヘビを見たことがありますが、いかにも神の使いという雰囲気でした。作品はその〈白ヘビ〉を素材に、〈宮司さま〉一家の敬虔な暮らしを伝えていると思いました。



   
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