きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.9.27 栃木・和紙の里




2008.10.12(日)


 午後から横浜ブリーズベイホテルで横浜詩人会主催「横浜の詩祭2008」が開かれました。今年は創立50周年ということで、T部として9月28日から10月4日まで詩書展が開催され、今日はU部の記念講演と第40回横浜詩人会賞授賞式となっていました。会場には物故詩人の資料や写真も展示され、懐かしい先輩詩人の姿を久しぶりに拝見しました。
 第40回横浜詩人会賞は柴田千晶氏の『セラフィタ氏』。派遣OLの哀歓を描いた良い詩集です。おめでとうございます。私も昨年受賞していますので、敬意を表して出席させていただきました。

 記念講演は元M新聞学芸部専門編集委員・文芸ジャーナリストだというS氏の「いま詩を書くということ」でした。こちらは正直、あまりおもしろくなかったです。40年ほど現代詩歌の取材・執筆を続けたそうですが、はっきり言えば紋切り型で総花的。新聞という性格上やむを得ないのかもしれませんけど、新しい話は何も聞けませんでした。例として挙がる詩人や詩集も、某大手詩書出版社に偏っていて、日本の詩壇の全体像を見ているとはとても思えませんでした。以前、日本のジャーナリストは、現代詩というと某大手詩書出版社発行の月刊誌しか見ていないと聞いたことがありますが、それを思い出しました。取材する側としては1社に絞って、そこに関係する詩人だけを対象にして書けば楽なのかもしれませんけど、日本では詩書関係で中小の良心的な出版社が多くあります。そこに眼を向けてこそ公平なジャーナリストと言えるのではないでしょうか。少々憤慨しながら平均的なお話しを拝聴しました。

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 写真は講演のあとのライヴです。詩の朗読&ジャズライヴ「世界を滑走する 詩人!」と銘打たれたもので、こちらはとても良かったです。特に右の女性はサックス奏者で、女性では珍しいのですが、パワフルで感動しました。近藤東さん、山田今次さんの物故先達詩人の作品を民藝所属という左のお二人が朗読して、BGM・間奏のサックスが何とも良い味を出していました。なぜかヨコハマの詩にはサックスが似合うようです。

 参加者は85名ほど。懇親会も60名ほどで盛大でした。年に1度とは言え、130人あまりの横浜詩人会が、900人を超える日本詩人クラブの例会に匹敵するほどの人数を集めたのですから驚きです。
 懇親会はもちろん愉しませていただきました。山田今次さんの奥様とも10年ぶりぐらいでお話しできて良かったです。ありがとうございました。



アンソロジー『未来への航跡』
創立50周年記念
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2008.10.25 横浜市西区 横浜詩人会刊 2000円

<目次>
浅野 章子…………鶴の骨笛・貨物車・港………………………………………………8
油本 達夫…………「白い一日」を聞きながら・夢の中の奇妙な逃走の話……………10
新井 知次…………廊下トンビ・根菜譜・壺男…………………………………………12
石川 敦……………ピーターパンへ・構成………………………………………………14
いだ・むつつぎ……誕生・黒いとんぼ……………………………………………………16
今泉 協子…………午下りの紅茶・食卓・夜更けのピアノ……………………………18
今鹿 仙……………水に気をつけてあるいてはいけない………………………………20
いわた としこ……皿 皿 皿……………………………………………………………22
植木 肖太郎………子達よ跳べ・神曲「現代の」………………………………………24
上田 康子…………おやじぎゃる…………………………………………………………26
うめだ けんさく…ヨコハマの空に・波止場……………………………………………28
江田 節子…………投網・鈴蘭……………………………………………………………30
大石 規子…………水町通り・豊穣の女神………………………………………………32
大鹿 理恵…………シーソー・それは献花ではなく……………………………………34
奥津 さちよ………窓の外を・背後に・駅・セーター…………………………………36
長田 典子…………テキサス………………………………………………………………38
小沢 千恵…………苔売り男………………………………………………………………40
織田 美沙子………大事なこと・どうにもならないもの………………………………42
加瀬 昭……………森のやすらぎ・蝉の怨念……………………………………………44
方喰 あい子………アルバムより・カシマナダ・帰省・春の嵐………………………46
金井 雄二…………五月・今、ぼくが死んだら・きみの場所だよね…………………48
禿 慶子……………はなあかり・はなびら………………………………………………50
川又 侑子…………一月・代官所跡地・ピアノ線………………………………………52
絹川 早苗…………さよなら・金色の鮎・白木蓮………………………………………54
木村 和世…………少年・煎餅……………………………………………………………56
小西 郁子…………光・母…………………………………………………………………58
小林 妙子…………ひろげた掌・手繰る・トマト………………………………………60
坂井 信夫…………貝・くらげ・魚………………………………………………………62
坂多 瑩子…………悪意・はるかな食卓・へや…………………………………………64
相良 蒼生夫………挽歌・暖冬……………………………………………………………66
佐川 亜紀…………湖の底で・押し花……………………………………………………68
桜井 さざえ………名付けられた石・はらから…………………………………………70
佐藤 裕……………きずあと・一九九九年 秋・天空の街……………………………72
志崎 純……………春秋四編 雨・雲・月・雪…………………………………………74
篠原 あや…………ヨコハマ・さくら三態………………………………………………76
菅野 真砂…………百年・ティータイム…………………………………………………78
すみ さちこ………その閾…………………………………………………………………80
たけやま 渓子……なまずに似た魚・大岡川……………………………………………82
田村 くみこ………解体……………………………………………………………………84
椿原頌子……………悲しみの歌・夢 譚歌・明け方の空………………………………86
徳弘 康代…………観覧車…………………………………………………………………88
富永 たか子………満月と河童千匹・煙草のけむり……………………………………90
中山 直子…………港のキリン・横浜海岸教会の鐘……………………………………92
西村 富枝…………ピエロ・断章・消える………………………………………………94
西村 義博…………赤いカエデの葉舞散る丘・雲………………………………………96
野島 茂……………天の一隅・新幸福論…………………………………………………98
馬場 晴世…………桜貝・壺………………………………………………………………100
林 柚維……………翔春・訪春・照輝・初日……………………………………………102
はんだ ゆきこ……ゲーム・ビーチグラス・金沢八景…………………………………104
疋田 澄……………土に・源流へ・母の蛇………………………………………………106
平田 好輝…………朝のちいさな光景・あのとき 食堂にて…………………………108
平林 敏彦…………また来るからね・発光………………………………………………110
広瀬 弓……………水の便り・木を眠らせる歌…………………………………………112
福井 すみ代………漢字とわたし・そよ風………………………………………………114
福原 恒雄…………たとえばほとんどしかく・しかくいむすめに……………………116
細井 章三…………神奈川県立図書館・鉛筆……………………………………………118
細野 豊……………母よ ふるさとへ帰ろう……………………………………………120
保高一夫……………ゴミ戦争………………………………………………………………122
堀井 勉……………マイナスイオン・点景・鉛筆・消しゴム・一抜ける・裏切り…124
松浦 成友…………蛇口の戒め・聖なる部屋……………………………………………126
三浦 志郎…………初夏・「中原」歴詩篇………………………………………………128
瑞生 千枝…………黄色い自転車・雪・客人……………………………………………130
光冨 いくや………火………………………………………………………………………132
水野 るり子………氾濫する馬・メアリーポピンズの傘………………………………134
南川 隆雄…………幻影林・るりしじみ…………………………………………………136
宗田 とも子………歌ってよ、くじら達・公園…………………………………………138
村上 亨子…………辻堂海岸・六月・辻堂海岸・昔……………………………………140
村野 美優…………イカ・死んでしまった歯・イス……………………………………142
森口 祥子…………優しげなふりをして…………………………………………………144
森下 久枝…………一日になんども………………………………………………………146
山崎 森……………白のマドモアゼル・風の素描………………………………………148
山本 聖子…………矩形・脈………………………………………………………………150
弓田 弓子…………からんからん・飼い猫が死んだ次の日……………………………152
横倉 れい…………透明な道・革袋………………………………………………………154
林 文博……………僕のY市・残影・つまみ食い………………………………………156
渡辺 みえこ………名・洲崎久右衛門町の事……………………………………………158
年表……………………………………………………………………………………………160



 構成/石川 敦

一時間枠の
夜のニュースを見る

大地震の速報
被災者達の辛そうな表情
新たに発見された土砂ダムの現状
義援金や支援物資など

次に通り魔事件の特集
遺族の方の悲しみに満ちたコメント
犯人の生い立ち
そして 現代の社会が生んだ
派遣社員達の
どうすることもできない悲惨な生活状況
未来に希望を持てないまま
社会から孤立する若者達など

CMを挟み
原油高騰によって
生活が苦しくなった人々について
漁に行けない漁師達
印刷ができない印刷業者
工夫で乗り切ろうという民衆の姿
しかし 食品も高騰するという
追い打ちの知らせ

やれやれと思う矢先
消費税を15%引き上げる
案が報じられた
能天気な首相のアップを見た時
拳を強く握りしめた

実に美事な構成だった

 上述、横浜詩人会創立50周年に合わせた記念アンソロジーです。横浜詩人会では、過去に横浜市教育委員会発行(1979年、横浜詩人会編集)の横浜詩人会史と2回のアンソロジーを出していますから、会としてまとまった出版はこれで4回目ということになるようです。今回のアンソロジーに私は出稿していません。特に意図したわけではなく、なんとなく出しそびれたようです。失敗したなと思います。私も会員として加わっていますから、自賛めいてしまいますが、佳い本です。

 紹介した作品は、揚げ足を取るつもりではなく〈実に美事な構成〉だと思います。私もたまに〈一時間枠の/夜のニュースを見る〉ことがありますけど、こういう視点は欠けていました。世の中への不満や危惧を作品化したものは多くあります。しかし、このような形で書かれたものは稀有でしょう。社会問題を扱うときの新しい見本となるような詩だと思いました。



詩誌『視力』6号
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2008.10.10 宮崎県宮崎市
亀澤克憲氏発行 500円

<目次>
外村京子――此の君 2  見知らぬ駅 4  
Halloween 6  魚眼(エッセー)8
亀澤克憲――信号 10  ラリー 12  蝉の殻 14  魚眼(エッセー)16
本多 寿――幻
記 18  幻獏記 21  夏の旅 22  魚眼(エッセー)25
表紙絵*ほんだひさし



 〈指呼〉という美しい言葉がある。〈指呼の間〉といえば、指差して呼べば応えてくれるほど近い距離のことだが、声を出して呼ぶには憚られるような場合に、指で「ちょっと、こっちへ来てくれる」という合図ができるくらい親しい間柄の所作であろう。
 この場合、人差し指は下に向いていなければならない。そして二、三度ほど小さく招くように小刻みに動かす。まかり間違っても、指を立て自分の方に向けて大きく曲げれば、「ちょっと来い」と威圧的な感じになる。
 それはさておき、私は〈指呼〉という言葉を目にすると、津村信夫という詩人の美しい詩を思い出す。今は亡き金丸桝一さんが教えてくれた、たった三行の詩だ。

   小扇
     嘗てミルキィ・ウェイと呼ばれし少女に
                      津村信夫(一九〇七〜一九四四)
  指呼すれば、國境はひとすじの白い流れ。

  高原を走る夏期電車の窓で、

  貴女は小さな扇をひらいた。

 この詩は津村の第一詩集『愛する神の歌』(一九三五年・自費出版)に収録された一篇である。
 この詩の情景を思い描いてみると、夏の間だけ運行する高原電車の座席に向かい合って座る男女が現われる。
 若い男が、窓外に国境
(くにざかい)を流れる川に気づいて、向かい合っている女に指で、その川の存在を知らせると、女は指差された川を窓越しに見て小さな扇をひらいたというのである。
 ただそれだけのショットだが、私には、描かれていない情景が見える。
 暑い夏のさなか、いまどきの電車のように冷房が効いているわけではないので、窓をあけて風を入れながら走っているにもかかわらず暑いのだろう。女は、男が指差した川、真夏の強い日差しを受けてキラキラ輝いている川を眩しそうに目を細めて見やり、小さな扇を使ったのである。それだけのことである。
 しかし、詞書に「嘗てミルキィ・ウェイと呼ばれし少女に」とあるから、男は、女に対して、「ほら、ミルキィ・ウェイのようじゃないか」という無言の指示をしたのだろう。その仕草に対して女の内に一瞬、「ミルキィ・ウェイ」と呼ばれた少女所時代が甦ったのだ。いささかの含羞とともに。
 それで、自らの内に湧き起こった含羞に照れ、その照れくささを打ち消そうと扇をひらいたのではないだろうか。男が指差し、女が遠い眼差しを彼方に送った様子まで見えるようだ。
 そういうふうに想像をふくらませてみて、〈指呼〉という言葉に還ってみると、この〈指呼〉という言葉が、単に、指差して呼べば応えてくれるほど近い距離にある女の関心を引こうとして〈指呼〉しているのではないということが判る。
 つまり男は、いまはもう失われてこの世のどこにもないもの、記憶の中にしか存在しない遠い日を〈指呼〉しているのだ。自分の前に座っている女にも、川を〈指呼〉することで、呼び覚まされる共通の思い出の日があるのだ。
 人を呼ぶのではなく、幻のような幼年期を、ミルキィ・ウェイのような川を指差すことで呼び起こしたのである。
 なんという、美しい〈指呼〉だろう。
 ちなみに、津村信夫は、この詩集を出した翌年の一九三六年に相愛の少女と結婚している。その事実を踏まえると、電車の座席で向かい合っているのは、少年少女時代から好き合って一緒になった夫婦である。  (本多)

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 今号では詩ではなくエッセイを紹介してみました。「魚眼」という共通タイトルの、本多寿さんのエッセイです。「小扇」という詩もたしかに佳いのですが、本多さんの読み方が素晴らしいと思いました。ここまで読み込まれた〈津村信夫〉さんも草葉の陰で喜んでいることと思います。それと同時にこのエッセイは、私たちに詩の読み方を教えてくれていると云えましょう。特に〈川を《指呼》することで、呼び覚まされる共通の思い出の日があるのだ〉、〈幻のような幼年期を、ミルキィ・ウェイのような川を指差すことで呼び起こした〉と〈想像〉したところは、詩の実作の賜物かもしれません。凡庸に読んではいけない、作品の背景まで、作品に沿って想像力を働かせなくてはいけないと教えられました。

 なお目次の〈
〉は、魚偏に覃でエイ≠ナす。私のパソコンの文字パレットからは表現できないので、苦肉の策で入力しました。ご了承ください。



個人詩誌『魚信旗』52号
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2008.10.15 埼玉県入間市 平野敏氏発行 非売品

<目次>
花火 1       明暗 4       秋場所 6
秋日 8       茶と茶色 9     後書きエッセー 10



 茶と茶色

ちゃかすと茶の色は茶色でなくなる
れっきとした緑色になる
煎茶・抹茶は緑のたぐい
茶色の茶はどこかの国の異邦人
それじゃ人種差別だと訴えられるから
茶種差別と引き下がる

駄洒落のような茶茶をいれても
茶の色は茶色ではない
絶対に茶の色ではない
緑の茶も紅の茶もあるというものだ
「茶」と「色」の間の「の」という格助詞は
指定を意味していても断定は含まない

空の色は空色であるが
千変万化する空の色は一色の空色ではない
まして空色とはどんな色かと
スカイブルーかと空青色とかと
わかるようでわからなく色めきだってくる
茶や空にもいろいろな色があっていいじゃないか

茶の色を茶色と決めた言葉の概念をいたぶる
茶の色はほんとうはどこまでも緑であってほしく
緑なす故郷の色も香りも味も
飲んでいるお茶と同系色に染まって
この大地の恵みにふるえるのだ

 たしかに〈茶の色〉は〈絶対に茶の色ではない〉ですね。〈緑の茶も紅の茶もあるという〉は周知の事実です。それを気づかさせてくれたばかりではなく、〈「茶」と「色」の間の「の」という格助詞は/指定を意味していても断定は含まない〉のだということも教わりました。〈言葉の概念をいたぶる/茶の色はほんとうはどこまでも緑であってほし〉いという思いは、〈緑なす故郷の色〉から来ているのだと納得しました。着眼点のおもしろい詩だと思いました。



   
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