きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.9.27 栃木・和紙の里




2008.10.21(火)


 午後から日本詩人クラブの事務所に行って、11月例会・研究会の案内状発送作業をやりました。今回は5人も集まってくれて大助かりでした。それでも4時間以上かかってしまいましたから、毎度のことながら900人を超える会員数というのは大変なことなんだなと思います。単純に人件費として計算すると、最低でも合計2万円ぐらいでしょうか。それを無償のボランティアでやってくれた理事仲間の皆さまには、本当に頭が下がります。ありがとうございました!



櫻井順子氏詩集『吾亦紅の叢のかげに』
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2008.4.20 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
T章
情景 8        溺れる 10       くねる 12
柘榴 14        落日 16        九月 18
四月一日 20      蓮巻き 22       観客 26
ブランコ 28      少年A 30       学習T 32
学習U 34       冬の日に 38      雨・ちんどんや 40
去来 44
U章
赭い切り通し 48    夕ぐれの情景(映像より) 50
六月の雨 52      運ばれる 54      まつり囃子 58
かたち 62       草を刈る 64      不在 66
自由 68        冬の日 70       夏至 72
結審する円 76     風の俯瞰図 78     しあわせな葬列 80
吾亦紅の叢のかげに 82
あとがき 84      装幀 著者



 吾亦紅の叢のかげに

墓碑はいらない

吾亦紅の血こごりが黒く固まり
むらがりゆれるしげみの陰に
ゆきだおれ
人に知られず朽ちてゆけばいい

在ることの 哀傷から解き放たれて
盲目の窓をみひらき
終わりのない弛緩にゆだねたまま廃れ
野の土に染み果てる

  屍がはげしく嘔吐する
  頭部の洞に折り畳まれた記録を捲り めくり
  木枯しの叫びつづける
  終夜があり

くり返す氷結と腐敗に晒され
なお 溶けきれぬ
灰白色の無機質を
野草の繊い根が包みこんでゆくだろう

  残照の届かない山裾の闇に
  夕餉支度する湿った靄がかがよい
  身近な人に ふとやさしさを
  手渡しておきたい夕暮れである

 23年ぶりの第2詩集です。この間、油絵をおやりになっていたようで、詩集の冒頭には「櫻井順子画集」として3枚の絵が飾られていました。いずれも黒を基調とした半具象で、F50号の現物を見たいなと思わせる絵でした。
 ここではタイトルポエムを紹介してみましたが〈墓碑はいらない〉という第1連1行に、思いのほとんどが集約された作品だと感じました。この詩語が上述の絵にも表れているのかもしれません。勁い意思を感じさせる言葉ですが、最終連〈身近な人に ふとやさしさを/手渡しておきたい夕暮れである〉というフレーズには、その底にある優しさが表出しているようです。硬質な佳品が揃った詩集だと思いました。




季刊『詩とファンタジー』5号
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2008.12.1 神奈川県鎌倉市 かまくら春秋社発行
 1000円+税

<目次> ●表紙絵・やなせたかし
やなせたかしの詩と絵 アッケラカン―2 中也と折檻―4
詩とイラストレーション
月のにおい 杉山磨哉 絵・雨宮尚子―6   手 御彌澤 洋 絵・ささめやゆき―8
つきなみ 夜神楽 絵・黒井 健―10     スキップ おびきみつこ 絵・下谷二助―12
空はキャンバス、私は画家―夕羽 絵・ヴィーヴィ・ケンパイネン―14
いつも アベナギサ 絵・北見 隆 ―16   よかごと たなかひとみ 絵・高橋幸子―18
虹 星 梨津子 絵・さいとうじゅん―20   秋の日 中島真悠子 絵・内田新哉―22
いさぎよく 梅野みやこ 絵・山口マオ―24  ランチタイム みやもとおとめ 絵・飯野和好―26
みんなと同じでいるために  典子 絵・味戸ケイコ―28
ハラヘリ ひの 絵・スズキコージ―44    全力 笹原 愁 絵・木内達朗―46
フラダンス 土岐 薫 絵・山口はるみ―48  家族だんらん 流川透明 絵・松永禎郎―50
涙のビン 聖天三月 絵・あずみ虫―52    家来 谷 流水 絵・網中いづる―54
想い 金子しずか 絵・小谷智子―56     流れ星 京ひな 絵・柳澤紀子――58
咲き匂う言葉 福本畷夫 絵・中島梨絵―60
特集・思春期 ぽろんぽろん/雨/行ってきまーす/センス/誕生日/ぱっつん 平岡あみ 絵・宇野亜喜良―76
ファンタジー
南海小夜曲 西江雅之 絵・梶野沙羅―30   猫のワルツ 高橋順子 絵・瓜南直子―62
長崎の魚石 山宗東 絵・吉野晃希男―80
特集・島崎藤村の青春と抒情
詩・島崎藤村 解説・井上明久 絵・安藤早紀
(1)初恋―34     (2)潮音―37     (3)高楼―39
(4)春やいづこに―41 (5)かりがね―43   (6)小諸なる古城のほとり―70
(7)椰子の実―73   (8)千曲川旅情のうた―74
歯とファンタジー
太平洋の入れ歯 やなせたかし―66      老師の義歯 絵と文・南 伸坊―68
エッセイ
「風の又三郎」の謎はいよいよ深い 天沢退二郎 絵・矢吹申彦―84
シリーズ
少女だったとき 立葵の花 池田香代子 絵・大友ヨーコ―86
少年だったとき 神隠しの時間 絵と文・篠原勝之―88
●イラストレーション募集開始!/宇野亜喜良さんに聞く―72
●月のかけら 作品集 絵・磯貝裕美―90
●特別寄稿 第4号特集「野口雨情の詩と人生」をめぐって 青い眼の人形 永井路子―93
●お便りのコーナー/執筆者・画家プロフィール―94
●表詩記/編集後詩 やなせたかし―96




 ハラヘリ/ひの 絵・スズキコージ

やりたいことなど何もない。
やりたかったことの
 食べかけなら
いくらでもころがっている。

こたつの上で
りんごがころり。
ハリとツヤで満ちていた
 はずなのに
かじったところは褐色だ。

こたつの上で
みかんがころり。
みずみずしかった
 はずなのに
むいたところはひからびた。

ころがっている。
いくらでも。
食べかけなら。
やりたいことの。
何もない。
やりたいことなど。

ハラヘリ
ヘリハラ。
また別のものに
かじりつく。

 やなせたかしさん責任編集の『詩とファンタジー』も無事に1年を過ぎました。経営的には大変でしょうが、この先も続けて行ってほしいと思います。
 今号で紹介したひのさんは、執筆者・画家プロフィールによると広島県在住で1978年生まれ。ちょうど30歳のようですが、この詩は30歳でなければ書けないように思いました。20歳では〈やりたいこと〉が山のようにあるでしょうし、40歳では〈また別のものに/かじりつく〉気力も薄れてくるような気がします。そういう面ではおもしろい年代で、「ハラヘリ」というタイトルもうまく調和していると言えるでしょうね。〈ハラヘリ/ヘリハラ〉、これも呪文のようで成功していると思います。




詩画集『詩とメルヘン・花』
詩とメルヘン絵本館 開館10周年特別企画
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2008.7 高知県香美市    1400円+税
アンパンマンミュージアム振興財団発行

<目次>
ごあいさつ        やなせたかし 3
一部
シロツメグサ       詩・田口栄一/絵・黒井健 18
さくらのはな       詩・堀美果/絵・染野千鶴 10
さくらひとひら      詩・木村智子/絵・目黒直子 12
マーガレット       詩・みやもとおとめ/絵・田沢春美 14
花            詩・加古川航太/絵・深野天 16
チューリップ       詩・長南美穂/絵・大浜かこ 18
かあさんと花       詩・石井かおり/絵・内田新哉 20
手折った花を       詩・森由右子/絵・金沢まりこ 22
ゆうぐれの花びら     詩・くもいはるか/絵・蓮田千尋 24
先生の花         詩・豊永春海/絵・北沢優子 26
百日草の贈り物      詩・まる/絵・早川司寿乃 28
菊の先生         詩・くらぼん/絵・橋賢亀 30
誕生日の日        詩・あお/絵・松永禎郎 32
花とおばあちゃん     詩・戸谷悦子/絵・しみずやすこ 34
ツメクサの花       詩・岡崎美奈/絵・あわたえりこ 36
つらい夏があっても    詩・月うさぎ/絵・樋上公実子 38
応援花          詩・中願寺香織/絵・エムナマエ 40
かれてはいないけれど   詩・星十四郎/絵・はせがわゆうじ 42
花うらない        詩・田中聡美/絵・樋口裕子 44
初恋の花束        詩・さのゆみこ/絵・堀江祐理子 46
HANAのおまじない   詩・筋野鉄子/絵・後藤貴志 48
珈琲店にて        詩・野口恒生/絵・永倉万里江 50
ふたりの花瓶       詩・夜神楽/絵・おおくらひとみ(上岡睛) 52
指先の花         詩・松木裕人/絵・なみきたけあき 54
エプロンの花       詩・菊池葉/絵・はせがわゆうじ 56
君と白いバラ       詩・真田漠/絵・隅川直美 58
母            詩・石川妙美/絵・菅間圭子 60
きみの香りで僕は     詩・春日麻里/絵・甘夏幸枝 62
私            詩・宮地由美/絵・渡辺藤一 64
かびん          詩・福田ゆかり/絵・秋吉由紀子 66
おんな          詩・みゆき/絵・羽多野典子 68
ふゆの花         詩・小勝萌/絵・小口郁子 70
アネモネ         詩・佐々林/絵・宇野亜喜良 72
黄色の春         詩・やまねひろこ/絵・石井麻由美 74
牡丹の愁い        詩・下光哲二/絵・中村豪志 76
あじさいのひとりごと   詩・永良伊都子/絵・弥雲智 78
アーティチョーク     詩・おびきみつこ/絵・宮崎照代 80
百合           詩・綾部健二/絵・愛織 82
デイジー         詩・佳慧/絵・noa 84
ひまわりのあなた     詩・美月陸/絵・内藤靖子 86
ヒマワリのうた      詩・平井辰夫/絵・さいとうじゅん 88
ちくん          詩・こぬれ梢/絵・藤本旬 90
飛行場のあとのコスモス畑 詩・野上卓/絵・松本忠 92
老人と菊         詩・谷流水/絵・三宅震 94
小学生からの贈りもの   詩・高山惠美子/絵・広野多珂子 96
花の言葉         詩・井村浩司/絵・牧野鈴子 98
けんかの後に       詩・ゆき/絵・岩崎千夏 100
花束           詩・北森みお/絵・待井健一 102
花のとなり        詩・水無月ようこ/絵・磯貝裕美 104
たおやか         詩・はこたに史代/絵・梅川紀美子 106
二部
花三題より        詩・谷川俊太郎/絵・おぐらひろかず 110
無題           句・黛まどか/絵・浅野勝美 112
雨上がり         詩・平岡淳子(わすれなぐさ)/絵・雨宮尚子 114
かえりみち        詩・たか・みち/絵・大西秀美 116
花            詩・瑞枝/絵・小谷智子 118
よろこび         詩・平岡あみ/絵・永田萠 120
チューリップ       詩・きのゆり/絵・斉藤きよみ 122
花            詩・まっしろ(内城文惠)/絵・畑典子 124
薔薇           詩・覚和歌子/絵・東逸子 126
ヤグルマギク       詩・井野口慧子/絵・高田美苗 128
誓            詩・ひびきゆう/絵・葉祥明 130
問いかけ         詩・たけだあきこ/絵・味戸ケイコ 132
花のくちぐせ       詩・寺田嘉代(ドリーミング)/絵・遠藤あんり 134
花も人も         詩・早坂由他/絵・やまうちけい 136
ビリの花         詩・金色冬生/絵・くぼた啓 138
はなのたね        詩・東君平/絵・藤田夏代子 140
花のように        詩・寺田千代(ドリーミング)/絵・田崎トシ子 142
いつか どこかで     詩・詩村あかね/絵・あんね・さんじゃがーな 144
春に           詩・早坂類/絵・金井千絵 146
花            詩/絵・やなせたかし 148
メッセージ        俳人詩人・イラストレーター 150




 花のとなり 詩・水無月ようこ / 絵・磯貝裕美

カメラを向けると
手を横に振る
()られるのを好まない
昔育ちの人でした

「花と並んでみて」

うながせば
花の真似して深呼吸
ゆったりと 風に
心を ほどくのでした

母は あの日
ひまわりのとなり、
トリミングされた
花のとなり、
笑顔の遺影写真
(いえいじゃしん)です

 副題には「〜“花”で出会った70点の詩とイラスト〜」とあり、さらに「香美市立やなせたかし記念館・詩とメルヘン絵本館開館10周年特別企画」の文字も添えられています。ここでは残念ながらイラストは紹介できませんが、水無月ようこさんの「花のとなり」を紹介してみました。副題の〈“花”で出会った70点〉の中では異色の作品と云えましょう。〈母〉の人間性がよく出ています。特に〈「花と並んでみて」〉と〈うなが〉されて〈花の真似して深呼吸〉する姿に、〈母〉の〈心を ほどく〉様子が絵のように浮かんできます。最終連の〈遺影写真〉が重くならなくて、技術的にも素晴らしいと思いました。



   
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