きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.9.27 栃木・和紙の里




2008.10.22(水)


 夕方からお通夜に行ってきました。隣家のおじいさんで、もう90歳を超えていましたから、ご家族も納得しているように見えました。私は現在の拙宅に越して来て16年ほどになりますけど、そのおじいさんと会った記憶がありません。長い入院生活だったのかもしれませんね。
 謂わば義理で行ったお通夜でしたが、地域の多くの人と話しが出来たことは収穫でした。PTAも、順番の組長を除けば自治会の役員も終えて、そういう面では地域の人と触れ合う時間が極端に少なくなっています。おじいさんのお陰と言ったらヘンですけど、これも縁かなと思います。ご冥福をお祈りいたします。




肱岡晢子氏詩集『蒼い宇宙(そら)
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2008.10.21 東京都板橋区 統洋社刊 2000円+税

<目次>
街角 4         どこまで 6       雨音 8
五月 10         残照 12         なんの歌 14
もつれ 16        あたふたと 18      誰れも知らない 20
木の悲しみ 22      うそうそうそのウソばかり 24
秋の海 26        風の中を 28       葬列 30
幻想 32         まちがい探し 34     きりん 36
ひよどり 38       旅の終わりに 40     明ける海 42
運河 44         遠くない世紀に 46    ナガタ蝶 48
桜花通り 50       魔法の杖 52       雪の日 54
風が 56         ひとつ ひと とび 58  森の風 60
雪花 62         ビバ、オキナワ 64    残雪 66
きるきるきるきるるん 68 人ひとり 70       そして いま 72
海へ 74         蒼い宇宙
(そら) 76
あとがき 78       表紙さし絵:肱岡真理子




   
そ ら
 蒼い宇宙

暗雲を一挙に
払拭して
蒼いあおい宇宙が現われる
この宇宙は限りなく拡い
このそらの中に
たしかにあなたは居る
そう信じて
くまなく探しているのですが
今だに探し出せません
地上は今
錦秋の美に差しかかる
それを天空は一層ひきたてている

ある宇宙飛行士は
言っていたが
宇宙は「ふるさと」のようなものと
なぜかと言うと
宇宙は人間と同じに酸素やチッ素が必要で
わずかな鉱物から出来ていると云う
それならあなたも宇宙で暮らせるからとの
理由です
だから親近感が抱けるのだと納得し
晴天の天空の片隅から少しずつ触るようにしている
日課のようにいつかきっとの合い言葉で探す作業をする

 13年ぶりの第5詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈あなた〉はおもしろい存在だと思います。〈宇宙は人間と同じに酸素やチッ素が必要で/わずかな鉱物から出来てい〉て、〈それならあなたも宇宙で暮らせる〉というのですから、人間でも神でもありません。霊魂なり精神なり、あるいは詩を指しているのかもしれません。
 本詩集中の
「きりん」はすでに拙HPで紹介しています。初出から一部改訂されていますがハイパーリンクを張っておきました。合わせて肱岡晢子詩の世界をご鑑賞ください。




詩誌26号
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2008.10.15 埼玉県所沢市
書肆芳芬舎・中原道夫氏発行 700円

<目次>
詩作品
白内障 ……………………… 王  秀英 6  砂時計 ……………………… 築山 多門 8
螢を追って ………………… 青野 三男 10  西日と窓 …………………… 江口あけみ 12
水について ………………… 平野 秀哉 14  ある家族 …………………… 門林 岩雄 16
高原の撫子 ………………… 忍城 春宣 18  ペットショップ …………… 中原 道夫 20
ヌシ ………………………… 向井千代子 24  縄文のビーナス …………… 河野 昌子 26
なまけもののコーヒーゼリー 肌勢とみ子 28  霖雨 ………………………… 香野 広一 30
撫子 ………………………… みせ けい 32  逝夏・満月に愛でる ……… 浅井たけの 34
大日如来座像 ……………… 菅野 眞砂 36  生きること ………………… 二瓶  徹 38
カシミヤのショール ……… 圓航 瑠眞 40  やぶ ………………………… 後藤基宗子 42
椅子 ………………………… 長谷川昭子 44  迷い犬たちの航海 ………… 浅野  浩 46
まぼろし …………………… 竹下 義雄 48  避暑地の風物詩 …………… 吉見 みち 50
西瓜の浅漬け ……………… 月谷小夜子 52  脳が消える ………………… 小野 正和 54
生きものだから …………… 北村 朱美 56

エッセー
山独活の味(料理人土井義晴と詩人
.山尾三省) …………………………………… 中原 道夫 1
「龍」に象徴された「人」の詩集
.――築山多門詩集『龍の末裔』を読んで …… 相馬  大 22

失くしもの ………………… 北村 朱美 24  お茶の時間 ………………… 後藤基宗子 26
鼻濁音 ……………………… 小野 正和 28  ぴんぴんころり体操 ……… 月谷小夜子 30
日帰り軽井沢 ……………… 吉見 みち 32  ありがとう ………………… 竹下 義雄 34
宮城まり子さんの講演を聴く 浅野  浩 36  夏逝く ……………………… 長谷川昭子 38
ゆく夏 ……………………… 菅野 眞砂 40  ジュセリーノの預言集U … 二瓶  徹 42
ちょっと待って …………… 河野 昌子 44  衣食住足りて ……………… 肌勢とみ子 46
円空の仏像 ………………… 香野 広一 48  朗読の力 …………………… 圓航 瑠眞 50
聖なる野菜 ………………… 向井千代子 52  神戸にて …………………… みせ けい 54
脱皮のとき ………………… 浅井たけの 56
猗の本棚(書評)…………… 平野 秀哉 58
技巧を感じさせない巧みな詩(詩誌評)     猗の窓 ……………………………………… 62
            … 香野 広一 60  題字・表紙目次装画 ……… 中原 道夫




 縄文のビーナス/河野昌子

突然 五千年の眠りを覚まされた
ワタシを土の中から掘り出した人たちは
完全な姿のままだと大変な喜びよう

それ以来ずっと大事にされ
縄文のビーナス
という名前までもらった
ワタシはこの透き通った箱の中に
いつ迄こうしているのだろう

若い女がひとり
真っ直ぐに近づいて来て目の前に立った
お腹がふっくらと丸みをおびている
顔を輝かせてワタシを見た
遥か昔 安産を切実に祈った女たちと同じ瞳
すうっと手を伸ばしてくる

――さわっていいのよ

ワタシは叫んだ
手は箱を通り抜けて ワタシのお腹に触れた
女はその手で自分のお腹をさすり
肩でほっと息をつき微笑んだ

夕暮れの気配が漂いはじめ
女は建物から消えていった
それにしても ずっと長い間
ワタシはお腹に子を宿したまま

今夜あたり この子を産もうかしら

  *全高二十七センチ デフォルメされた妊娠女性の土偶
   長野県茅野市 尖石縄文考古館蔵 国宝

 〈縄文のビーナスという名前までもらった/ワタシ〉という視点が成功している作品だと思います。幻想的な〈手は箱を通り抜けて ワタシのお腹に触れた〉というシーンも良いですね。そしてなにより最終連が素晴らしいと思いました。考えてみれば〈ワタシ〉は〈五千年〉も〈お腹に子を宿したまま〉です。〈今夜あたり この子を産もうかしら〉と思っても不思議ではありません。女性ならではの発想と云えましょう。佳い作品を拝読できました。




詩誌『ネビューラ』3号
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2008.10.15 岡山県岡山市 壷阪輝代氏代表
非売品

<目次>
砂………………………………… 武田 理恵 2  かえり咲く……………………… 谷口よしと 3
猫が片目で……………………… 中尾 一郎 4  月と鯨と私と…………………… 下田チマリ 5
コスモス咲いて………………… 田尻 文子 6  放物線…………………………… 武田 章利 7
蜻蛉……………………………… 香西美恵子 8  入道雲…………………………… 田原 伴江 9

吉備野讃歌『吉備野の花詞』評 西岡 光秋 10  詩集『探り箸』に寄せて
                         −静観的で情緒の限りなさ− 冨長 覚梁 11

(ふ)号風船の成り立ち………… 川内 久栄 12  野分の頃に……………………… 広畑ちかこ 13
うしろ歩き…………………… 岩アゆきひろ 14  羽音……………………………… エイタロー 15
吉備野の花詞([)…………… 中川 貴夫 16  つばめ…………………………… 西崎 綾美 17
予感……………………………… 荒木 忠男 18  時を染める −クサギの実−… 今井 文世 19
秋の舟…………………………… 日笠芙美子 20  にぎり箸………………………… 壷阪 輝代 21
同人・会員近況………………………………… 22  装幀・尾崎博志




 砂/武田理恵

小さな苗だった稲が
穂をつけ頭を垂れている
彼岸花は彼岸を忘れず
夕陽のように燃えながら
凛と立ち現れてくる

体が成熟し
子どもと呼ばれなくなった今
私が持っているものは
働き続ける時計だけだ
大地に息づくこよみは
雑草のように踏みつけられ
むしり取られている

砂遊びをしていた娘が
立ち上がり駆け寄ってくる
私の手を握り
自分の手を見つめ
「おっきい手
 ちっちゃい手」
と笑う
同じ言葉を私も返し
夕支度のにおいのする道を帰る
つないだ手と手の間にある砂を
払えないまま

 今号の巻頭作品です。最終連の〈つないだ手と手の間にある砂を/払えないまま〉がとても佳いと思いました。手を離したくても〈娘〉の気持ちを考えると離せない母親がよく出ています。
 それだけでも詩になるのですが、この作品では第1連、第2連も効いていると云えるでしょう。象徴的に〈小さな苗だった稲〉を出し、現実の〈私が持っているものは/働き続ける時計だけだ〉というフレーズを加えることで、いわゆる少年少女詩(私はそれを決して否定するものではありませんが)に流れることを防いだと思います。構想も構造も巧みな作品だと思いました。



   
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