きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2008.9.27 栃木・和紙の里




2008.10.28(火)


 奈良の旅、2日目最終日。秋篠寺、法隆寺と回り、ついでに奈良奥山ドライブウェイ、信貴生駒スカイラインをドライブして帰途につきました。法隆寺は10年以上行ってなかったと思いますけど、あまりにも有名なのでここでは割愛。秋篠寺の写真を載せましょう。

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 写真に撮れるのは本堂外観や境内ぐらいですので、ここでは境内を載せてみました。左のちょっと高くなった林には苔が密生していて、見事です。本堂にも仏像にも魅了されるのですが、実は私、こういう光景が大好きなんです。自然のありのままではなく、ヒトの手が入った林や整備された歩道。そこに木漏れ日なんかあるとたまらないのですが、写真がちょうどその状態でした。この下手な写真のどこがいいんだ!と言われると返す言葉もありませんけど、かたくなに寺の領域を管理しているという姿勢が見えて、いいなあと思うのです。大自然には大自然の良さがもちろんあります。それを否定する気はまったくありません。人間が管理していると思うだけで和むのは、私の弱さであり限界なのでしょう。それもまた良しとしています。

 というわけで、秋篠寺の本堂写真などを期待した人には申し訳ないことでした。でも、あの騒がしい村山が、この道を静かに歩いていると想像してみてください。求道者のように見えませんか? 見えるわけないですよね(^^;




弓田弓子氏詩集『灰色の犬』
第6次ネプチューンシリーズ]Y
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2008.10.12 横浜市西区
油本氏方・横浜詩人会刊 1200円

<目次>
横浜着 6                 S駅 8
ジャックとベティ 12            サヨウナラカイヌシサン 14
二〇〇一年九月十一日のメモ 16       ひとりぼっち 18
四角い箱 22                夏の仕事 26
ヒト語の本 30               雑草 32
影 34                   悪戯 38
逃げる道 40                幸福へ 42
だいこんおろし 46             知らない人が増えていく 50
まったく、土足なんだから 52        水溜まり 56
野毛山動物園へ 60             三階の夕陽 62
ボール投げ 64               かいだん 66
人形のとき 68               日が沈みかけている 72
ストッキングも足にきちんとはめられない 76 灰色の犬 80
後記 86




 灰色の犬

室内の植物が枯れる
同時に私も枯れる
水をやらない私のために
植物は
枯れていく
私は
私に水をやらないから
枯れていくのではない
私は
いくら水を飲んでも
枯れる

白髪の人が通る
犬を連れている
たびたび見かける

犬は
赤い服を着せられている
白髪の人と犬は
ゆっくり
前進していく
人の持ち物は
ビニール袋とシャベル
四歩ごとに
人がよろける
犬が待つ

地面に
散らばっている
てのひら
鮮やかな色彩
意味ありげな虫食い
箒で
掃き捨てるには
惜しい
それ
でも
集めて
捨てる

町の奥で
人の悲鳴
なだめる人の繰り返す声
子供が
リモートコントロールで
救急車を
町内の細い通路に走らせる
世界のどこかで
戦争が始まると
姿のない人が
リモートコントロールで
この町の上空に
戦闘機を
飛ばす


町は目覚め
人々を
別の町へ
走らせる
枯れていく植物や
犬に曳かれる白髪の人や
枯れ葉や
水ばかり飲んでいる
私を残して

 昨年の『ベケットが少し動いた』に続く詩集ですが、もう第10詩集ぐらいになるのかもしれません。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈枯れていく植物や/犬に曳かれる白髪の人や/枯れ葉や/水ばかり飲んでいる/私〉は、現代そのものの喩のように感じられます。特に第1連の〈私は/いくら水を飲んでも/枯れる〉というフレーズからは現代の渇きを連想しました。そして〈水ばかり飲んでいる/私を残して〉行くものは何か、残された〈私〉とは何かを考えさせられます。簡単に結論は出ませんし出せませんけど、それこそが弓田弓子詩の世界なのかもしれません。




詩誌『ERA』第二次1号
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2008.10.30 東京都目黒区       500円
東京大学大学院総合文化研究科川中子研究室発行

<目次>
詩1
佐々木朝子 夏の蝶 4           北岡淳子  林檎 6
清岳こう  旧どろぼう市場で/他 8    日原正彦  黒と黒 12
川中子義勝 婚約者 15           竹内美智代 鰯雲 18
田村雅之  息長 20            中村不二夫 魚類の祈り 23
小島きみ子 屋上の
Lucifer 26.       畑田恵利子 らいふ 28
瀬崎 祐  羽化・水陰の暗いところ 30
特集「現代詩論」1
斎藤文子  回転する塵のタワ――オクタビオ・パスと記号論―― 32
中村文昭  二十一世紀の浮舟――「荒地」の鮎川信夫と吉本隆明、今は… 38
中村不二夫 詩人の社会性と詩的言語――「列島ノート」より 45
一色真理  世界を総体として捉える詩 53
小川聖子  T・S・エリオット「詩の社会的機能」論と現代日本詩の潮流 58
坂本正博  個人の実体を問う詩――金子光時の詩「寂しき歌」とニーチェをめぐって 65
神谷光信  鷲巣繁男の詩論 69
川中子義勝 藤井貞和頌 73
コラム
瀬崎 祐  表紙の言葉 77
詩2
中村洋子  窓 78             吉野令子  憂慮 80
橋浦洋志  虹の地殻 82          藤井雅人  プロメテウス 84
小川聖子  リルケの陥穿 88        大森隆夫  夕陽 90
田中眞由美 定年退職の日 92        大瀬孝和  秋の祭り 95
岡野絵里子 呼ぶ声 98
特集「現代詩論」2
関口裕昭  円環としての言葉の道筋――ツェランの詩論「子午線」 100
吉田義昭  「物の味方」についての科学的な考察 105
連載
橋浦洋志  詩と小説 110
編集後記




 魚類の祈り/中村不二夫

「今日も一日の糧をいただきます」
食卓に一つの新しい生命が差し出される
この夜の主莱はいなだと呼ばれる出世魚だ
青い鱗は神秘なまでに透き通り
人の気配に寸分もたじろぐことはない
海底を行くとき 彼らは一瞬牙をむき
黒潮に抗い 必死に荒波を乗り越えた
一体だれのための戦いであったのか
今は そこにいて静かにその時を待つ

狙板の上 彼らの横腹に鋭く包丁が入る
少し皮膚に血がにじむ 表情は何も変わらず
ドロドロした内臓が掻き出されると
傷口に塩がふられ 冷水で洗い流される
この世に生きてきたことの意味は問うまい
その硬直した肉体はますます光輝さを増す
(人に食べられることが幸せであるかのように)
これが最後の儀式であるとばかり
彼らは丸ごとグリルの中に入れられる
数分後 程好くこんがりと焼かれて出てきた
「一日の糧に感謝します 主の平和を」
彼らは骨と皮を残し 御膳から姿を消した

まるで彼らは 人にされるがままであった
しかし 皿の上には死の匂いはなかった
彼らは当たり前のように生まれ
当たり前のようにその生涯を終えていった
彼らは人に数えられることを知らない
彼らもまた 人を数えたことはない
(英語の名詞fishに複数形はない)
「お前たちは多くいても一つの生命である」
彼らはその教えを無上の喜びに変えた
「世界がいつまでも満たされていますように」
この宇宙は魚類の祈りに支えられている
ぼくはその自然の摂理の前に打ちのめされる
夢の中 無数の魚がぼくに微笑み返すのをみた

 生き物を食べなければならない生物、特に人間の宿業を感じさせられる作品です。〈(英語の名詞fishに複数形はない)〉というフレーズには〈彼らは人に数えられることを知らない〉の具体があるように思います。〈「お前たちは多くいても一つの生命である」〉という言葉は人間の傲慢なのかもしれませんけれど、〈自然の摂理の前に打ちのめされる〉のは〈ぼく〉ばかりではないでしょう。生きる上での基本、食べるということを改めて考えさせられました。




詩誌『水流』創刊号
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2008.11.1 埼玉県北本市
林哲也氏代表  非売品

<目次>

<寄稿> 伏流  飯島正治 2
本棚      あさい裕子 4       コルクの栓    あさい裕子 6
井戸の水    植原まつみ 8       後悔       植原まつみ 10
熱い手      林 哲也 12       街道        林 哲也 14
手     ふくもりいくこ 16       竹の子を洗う ふくもりいくこ 18
水辺
心に響く歌 ふくもりいくこ 20       黄砂       あさい裕子 21
妹       植原まつみ 22       消えた訛り     林 哲也 23
あとがき          24
同人名簿                 (表紙・あさい裕子)




 街道/林 哲也

どこかで出合った気がする
いつか歩いた道のようだ
わが道を探しあぐねて歩く

鎌倉街道は八百年の歳月にやつれ
静かに息づいている
傍らを
遥かな時にうねりを変えた荒川が
自ら決めた道をゆったり流れている

北本の深い緑に入ると
霧がつもった時を溶かしていく
木立ちに眠る石戸城
(いしとじょう)
白い翳が浮かび上がった
いきなり 鴉が雄叫びをあげる
きらりと刃が木漏れ日を走った

いつか出合った気がする
眼を閉じると
遠い血の名残りが私に呼びかけている
地に埋もれた命の精気が
足元から熱く這い上がってくる
道を拓くときは
いつの世も戦場のさ中なのだ

ふりかえると遥かな道
その先端を歩いている
街道は幾多の足跡をひそめて
私に問いつづけている

  ※ 石戸城−北本市石戸の荒川沿いの大宮台地にあった岩槻と東松山を結ぶ鎌倉街道の砦

 飯島正治さんを講師とする詩の勉強会「水流」の、新しい詩誌『水流』創刊号です。ご創刊おめでとうございます。ここでは代表者・林哲也さんの作品を紹介してみました。〈道を拓くときは/いつの世も戦場のさ中なのだ〉というフレーズに〈街道〉の成り立ちを考えさせられ、ハッとしました。それはそのまま〈わが道〉でもあるわけなんですね。そして、これからの『水流』の道とも採れるでしょう。〈いきなり 鴉が雄叫びをあげる/きらりと刃が木漏れ日を走った〉という遣い方も上手いと思いました。今後のご発展を祈念しています。



   
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