きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.9.27 栃木・和紙の里 |
2008.10.29(水)
特に外出予定のない日でした。終日、いただいた本を拝読していました。
○文芸誌『獣神』32号 |
2008.10.25 埼玉県所沢市 伊藤雄一郎氏編集責任 1000円 |
<目次>
エッセイ
津軽の旅/野田悦基 4 カレンダーガールズ/ページ・剛子 12
流れ去る世界/阿部克則 20 銀次郎の日記/青江由紀夫 26
詩
四行詩/大童徳洋 39 年取った虫が歩いている・ほか/根本昌幸 40
予告 ほか/栗和 実 42 地獄谷/卜部昭二 44
小説
花の香り/澤田よし子 46 二人三脚のシュート/伊藤雄一郎 61
後書き 78
表紙●油彩画『夢のふち』より 大重徳洋 カット●白石陽子
虫供養塔/根本昌幸
なむあみだぶつ
天国に行げや。
おらだち人間も
生きねばなんね。
虫どもに稲食われれば
おら困る。
虫どもに菜っぱ食われれば
おら困る。
殺したくなくとも
殺さねばなんね。
どっちもどっち
一生一度。
生きねばなんね
生きねばなんね
世の中だ。
なむあみだぶつ
なむあみだぶつ
天国に行ってけろや。
向こうの国で
しあわせになってけろや。
ああ なむあみだぶつで
ごぜいますだ。
〈後書き〉によると作者は福島詩人会代表だそうですから、遣われている言葉は福島弁なのでしょう。味のある言い回しに好感を持ちました。作品の中身も〈殺したくなくとも/殺さねばなんね。〉と生物の宿業をうたっていて考えさせられます。それと同時に〈天国に行ってけろや。/向こうの国で/しあわせになってけろや。〉という思想には驚かされました。止むに止まれず〈殺さねばなんね〉〈虫ども〉であるからこそ成仏を願うのでしょう。日本の農民の心底からの優しさを見た思いです。
○詩誌『さよん・V』4号 |
2008.10.20 神奈川県高座郡寒川町 冨田氏方・さよんの会発行 500円 |
<目次>
ゲストのページ 帰郷 財部鳥子…4
詩
全美恵 黙秘権…6 交通事故…8 殺人罪…11
富田民人 黒羽大雄寺…14 那珂川の幻鳥…16 驟雨のあと…18
風間妙子 ヒロシ…20 カットハウス…24 ゲリラ豪雨…26
私の一篇 崔華国「娘に」 全美恵…28
エッセイ 映画「靖国」vs「スカイ・クロラ」vs「ダークナイト」 風間妙子…30
近況・雑記…32
表紙写真・風間妙子
黙秘権/全美恵
私の権利は黙っている
たとえ不平があったとしても黙っている
クレーム用の葉書は破り捨てた、その代わりに
こんな店、二度と来るもんか
と胸の内だけで叫び切り捨てて
今後絶対に来店することはない
昨日よりもトイレットペーパーが
短くなっていても私は黙っている
先週よりもカルボナーラの量が
少なくなっていても黙っている
先月よりもチョコレートの箱が
小さくなっていても黙っている
去年よりもドーナツの穴が
でかくなっていても黙っている
数日前にガソリンが一七〇円台に
突入したと聞いても黙っている
この国では、声を荒げて
怒鳴り散らすことは下品な行為
だから、みなさん黙っている
隣の国のように、ろうそくを手にして
座り込むことも無く黙っている
どんなに気分がむかついても
どんなに怒りが込み上げてきたとしても
品格を保つために黙っているのか
後ろを見たり、左はおろか右を見ることも
足元を見ることも、上を向き青空を見ることすらも
許されません。
だから、前だけを見ます。
お行儀よく大人らしく
(もう子供じゃないから)
黙って慎重に振舞います。
すべての権利が奪われた今
あとに残された「黙っている」という権利
義務ではない権利だから
この黙秘権を有効に行使しましょう。
日本人の〈品格を保つために黙っている〉という国民性を痛烈に批判した作品と云えましょう。私にも〈たとえ不平があったとしても黙ってい〉て、〈こんな店、二度と来るもんか/と胸の内だけで叫び切り捨てて/今後絶対に来店することはない〉店が何軒かあります。本当は〈声を荒げて/怒鳴り散ら〉したいのですが、それは〈下品な行為〉だと思うからです。
それはそれで美徳なのかもしれませんけど、その結果として〈すべての権利が奪われ〉る危険性はたしかにあります。そのときには〈あとに残された「黙っている」という権利〉しかないことを肝に銘ずるべきでしょう。考えさせられた作品です。
○詩誌『詩遊』20号 |
2008.10.31 大阪市都島区 詩遊社・冨上芳秀氏発行 1000円 |
<目次>
芙蓉の舌(楡久子)P.1上 ストラップ(中村瑞奈)P.2上
集団登校(坂本久刀)P.3上 ツイードの服(井宮陽子)P.4上
まどろみ(仲村渠芳江)P.5上 引きとめる(林美佐子)P.7上
分解(松山由美子)P.8上 又、一人になって(福山てるよ)P.9上
チャレンジ(辻井啓文)P.12上 からかさ松(ほしのしほ)P.13上
梅花祭にて(吉岡尚美)P.14上 真言の座敷(冨上芳秀)P.15上
鳥獣戯画(冨上芳秀)P.18上 茉莉花(仲村渠芳江)P.1下
新聞配達(坂本久刀)P.2下 夏祭り(福山てるよ)P.2下
商人の町(ほしのしほ)P.4下 倹約(中村国男)P.5下
お祭り(辻井啓文)P.5下 陸橋(茶木敏行)P.6下
砂の島(森田靖子)P.7下 ゴミ(中村瑞奈)P.8下
向日葵(小坂美緒)P.8下 初夏(ささき颯)P.9下
ヂ(吉岡尚美)P.10下 ソル(井宮陽子)P.10下
夫(立花咲也)P.11下 欅(森砂 雫)P.12下
ムスコ鳥の出奔(楡久子)P.13下 茅の輪(宮沢さえ)P.13下
イガグリ(林美佐子)P.15下 ひとり(松山由美子)P.16下
ポルトガル紀行W(冨上芳秀)P.17下 喫茶室 P.21〜P.22
表紙ザイン・上田寛子
鳥獣戯画/冨上芳秀
深夜になると漆黒の湖に
舟を漕ぎ出して網を投げ入れる
鯉が一匹、鯰が一匹、亀が一匹、蝦が一匹
蛇が一匹が網の中で動いている
蛇を捨てると
五位鷺がばさっと羽ばたいて食べた
漁から帰ると私は仏様に獲物をお供えして
仏様がバリバリとお食べになる激しい音を聞きながら
ゆっくりと安らかに眠る
夢の中で仏様は柔らかい白い乳房で
私をやさしく包んで抱いてくれる
さらさらと冷たい毒のある
蛇が私の枕元を這い回っている側で
羽の折れた五位鷺が死んでいた
夜の外灯の上方の壁面に
燕が泥の巣を拵えて雛を育てている
赤い喉に尖った細い羽で
燕は闇の中に潜って虫を獲って来た
こんな夜でも燕はわずかな光に集まってくる
蛾やカブトムシを捕らえて雛に与えているのだ
その家の主人が明かりを消すと
雛たちはやかましく餌をねだるのを止め
ひっそりと羽毛を立てて
互いを温めあいながら眠っていた
その時、闇の中を
するりとすべる冷たく長いものがあった
雛を狙っていたヘビが
巣の中の温かい空気を切って通り過ぎたのである
朝になると雛の数が減っていた
そうして一羽づつ雛は姿を消した
雛の姿が完全に消えた頃
親の姿も消えてしまった
残ったのは半分に切られた
土器の壷のような燕の巣であった
外灯に照らし出された
がらんと空虚に包まれた燕の巣は
闇の中で生きるものもなく静かであった
風神は大きな風袋の口を開けて
男の身体に吹き付けた
雷神はゴロゴロと太鼓を鳴らし
巨大な目玉を剥いて稲妻を飛ばせた。
男は苦痛に耐えながら
千年の壁を作って風を防いだ
壁の上には避雷針をつけ
て雷のエネルギーを地面に逃がした
ネズミが来て壁に穴を開けた
穴には風が逆巻いて吹き込み
壁を倒した
雨に濡れながら
男は再び少しずつ土をこね始めた
雷神は雷鳴を轟かせ
閃光を発して男を震え上がらせた
それでも男は
新たな壁を築き上げる以外に生きる道はなかった
ネズミを食べた蛇が
黒い筋のように男の側を滑っていった
何も変らないように見えながら
状況は少しずつ動いている
男は何が起こっても
黙々と自分の仕事を続けていた
拙HPでは初めて紹介する詩誌です。メンバーには比較的若い人が多いようです。ここでは編集発行人の冨上芳秀氏の作品を紹介してみました。タイトルが「鳥獣戯画」ですから、その通りに読めばよいと思いますけど、なかなか辛辣です。〈仏様〉はもちろん奥様でしょう。〈五位鷺がばさっと羽ばたいて食べた〉〈蛇〉が、今度は逆に〈羽の折れた五位鷺が死んでいた〉ことに関与しているわけで、人間社会の闘争を連想させます。そして私は何より〈それでも男は/新たな壁を築き上げる以外に生きる道はなかった〉というフレーズに惹かれました。〈何が起こっても/黙々と自分の仕事を続けてい〉くしかなかったサラリーマン時代を思い出しています。現代の「鳥獣戯画」には考えさせられることが多々ありました。
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